ログ・ホライズン ~高笑いするおーるらうんだーな神祇官~   作:となりのせとろ

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 今日は十九時、二十一時にも投稿しています。見落としのないようどうぞ


第六十話 投影剣宣

 熱と風の暴風が奏と百恵の両方を包み込む。爆風の元は奏の真後ろの地面。仕込まれていたのは〈陰陽札〉。百恵が奏の太刀を避けて跳ぶときにバレないように仕込んだ罠。

 

 特技は使えない。魔法も使えない。

 けれど、魔法の品はどうだろうか?装備の効果が発動できているなら〈陰陽札〉も使えるに決まっているのじゃないか?

 百恵のサブ職業も奏と同職の〈陰陽師〉。そしてレベル90の数少ないプレイヤーの一人。

 賭けは百恵の勝ちだった。

 

 

 奏を倒しきり奏を盾にした状態でギリギリ自分が耐えきる火力の爆発を受けた百恵はゴロゴロと硬い地面を転がった。

 

「ケホッ、ケホッ」

 

 焼けつくような熱量に喉を軽く焼かれながらも上半身だけを起こす百恵。爆発によって生まれた土煙と黒煙が視界を遮り先を見ることは出来ない。火力過多にも思える爆風だったが用心にこしたことはないと百恵は思った。

 

 満身創痍に近い百恵はこれからのことを考える。

 奏とここまでのことをやってしまえばもう奏とも千菜とも仲直りなんてことは出来ないだろう。絶縁する他ないのだ。

寧ろ、自分を二度も殺した上にさらにもう一回殺しかけたのだから許してくれる方がどうかしている。アキバの街にはいられない、かといってミナミに戻ったとしてもやることなどないのだ、情報封鎖を利用するために長く滞在していたが、あそこは百恵にとっても居心地がいいところではなかった。

 百恵がそんなことに思考を巡らしているところで煙の中から影が現れる

 

 一つの影が現れる。

 

 それは奏

 

 刀も持っていない

 服ももう左半身はその細く締まった肉体を露にしてしまっているし袴もボロボロで見る影もないが、立っていた。

 

 目をギラギラと燦然と輝かせてその眼の輝きを一切失うことなく

 

「どうやって・・・!」

 

 煙が晴れる。

 そこには一本杖が地面へと刺さっていた。細く真っ白な長杖その存在感はまるで大樹のものと遜色なくつい錯覚してしまえば動きを止めて見蕩れてしまいそうな神々しい光を放っていた。

〈真光とどき満ちた全式の儀式杖〉からは放たれる光は使用者を包んで守る加護の光

突き立てるだけで効果を発揮し百恵の陰陽札から障壁で守り満身創痍の体を少しずつ回復していく。

 

「やっとわかったよ」

「?」

「むかし、じいさんが言っていた、お前は姉を越えられるってな。

 んなわけねぇだろってその時は思ってた。根拠もへったくれもないじいさんの優しさからくる言葉だと思ってた。

 でも今なら姉ちゃんを越えられそうだ。じいさんの言っていた理由がわかった気がする」

 

「舐めるなよ愚弟が、わたしにはお前じゃ勝てやしない」

 

 百恵のそんな言葉を受けるも聞こえていないかのように奏は目の前に落ちた刀を拾い一瞥するだけに留める。百恵はもう〈神憑き〉は使えない。<神憑き>に弱点をあえてあげるとすれば〈神降ろしの儀〉にはキャストタイムが存在するということだ。僅か数秒とも言える時間とはいえ知っていれば十分に何かしらの手は打てるしあの身体で神格を憑かせるような無理がそうそうきくはずもない。

 

 奏は両手で折れた愛刀をしっかりと握りしめ腰を深く落とす

 

 百恵も無言のままに立ち上がり長い長い太刀を構える

 

 刃の折れた愛刀を握る手に力が籠る。思い起こすのは亡き祖父の立ち振舞い、何度も真似てきた理想の太刀筋

 奏の思惑を察したかのように百恵は苛立ったようにただ一言言い放った。

 

「じいさまの真似事なんてできるわけないだろう」

 

(そうだ――――じいさんといっしょじゃない。そんなものできるわけがない)

 

 奏は奏という一個人でしかないのだから。経験も強さも技術も価値観も考えも思いも何もかも違いすぎる。奏の持っているものは奏自身のものでしかない

 

 力も、想いも、思考も、言葉も、

 斬るという意思だけを残して、全部を愛刀に明け渡せ。斬り伏せるという一動だけを残して

 

「複雑怪奇、重ねて歪むは枯れ木の枝、枝を照らすは月の光」

 

 夜の海は寂しく、僅かな星の光も代わり映えせず、他愛ない。

 されど、黎明は終わり日は昇る。

 群青は紅へ、道は白へ。

 葉は落ちて、新芽は疼いて蕾育む。

 知多少の別れ、涙は渇く。

 響かせよう、そして聞け、

 蒼天揺らす高笑い

 

「たとえ折れて曲がって朽ちようと、

 その()は変わりえない」

 

 奏の詠唱に応えて、否、明け渡された奏の純粋な想いに黒刀は応える。

 

 

『夜の空を照らし続ける月の光と会うことのできない者へと募らせる想いが混じりあい1本の黒刀となった

 想いに比例し刀の力は強く強く純度を増していく』

 

 折れてしまった刀の断面から純度の高い透き通った黒水晶のような半透明の刃が蘇る。

 それと同時にフレーバーテキストは新たな文へと書き変わっていく。

 

『折れようとも曲がろうともその想いに比例し刀の純度は増し何度でも主人の力となるために舞い戻る。淡くとも弱くとも主人の心がある限りその献身が途絶えることは絶対にありえない』

 

 黒刀は主人の言葉に応えて蘇る。

 

「この土壇場で新しい<口伝>まで編み出したか。いいだろう、その儚い(希望)もわたしが全身全霊をもって完膚なきまでにへし折ろう」

 

「それは無理だ。

 この刃は心の具象、俺が諦めない限り折れようと、曲がろうと、朽ちようと、何度だって蘇る。手足を斬り落されようと、心臓を穿たれようと、俺がことごとくをもってして叩き潰そう。

 俺はもう二度と自分の在り方まで迷わない」

 

 返されるのは確かな決意。これ以上の問答は無粋でしかないし意味など一片たりともありはしない。あとは斬った張ったの大立ち回り。互いに剣を交え合わせ勝った方が正しさを貫く権利をえる。もうそれだけ。

 二人の剣士が同時に地を踏み切った。

 黒と白の剣閃は淀みなく流れるように交差し、二人の傷の具合からは考えられないような耳をつんざくような衝突音が響く。

 

(実体はあるのかいや、それよりも厄介なのは…間合いが想像以上に掴みづらい)

 

 半透明の透けた刄は奏が振るう速度の域までいくと視認するのがほぼ不可能な領域まで昇華されていた。元々黒刀というのは光を反射せずに間合いを掴みにくくするのが特性のひとつだ。それはある程度の達人になれば剣を何度か合わせることで間合いを掴むような芸当もできるのだが、あくまでもある程度の憶測がついている状態でのこと。最初から検討もついていない状態から手探りで間合いを測るのは至難の技だった。

 

 奏の刺突が牽制に差し込まれ間合いの測れていない百恵は距離を開けさせられざるおえなくなり後ろへとバックステップでめいっぱいに飛び退く。次の左からの斬り上げを防御しようと太刀を滑り込ませた。しかしその刄を止めることは叶わなかった。

 

 黒刀の半透明の刄が白の刄と交差することはなく、すり抜けたのだ。すんでのところで避けるが完璧に避けることは叶わずに左腕を黒刀が切り裂いた。

 

「っつ!」

(透過までするのか!?)

 

「逃がすかあぁぁあっ!!」

 

 斬られた左腕を庇いながらなけなしのMPを使いきり、緊急遮断呪文〈四方拝〉を張って二太刀目を防いだ。どうやら〈四方拝〉まではすり抜けることは出来ないらしくガラスの割れるような酷い音が響かせるだけで、長い太刀を横凪ぎに払うことで無理矢理間合いをこじ開けた。〈四方拝〉の障壁は二太刀目がどうやらクリティカルだったらしく半壊までさせられていた。ただの通常攻撃なら<四方拝>がクリティカルを出していたところであと一撃でも加われば砕けるような状態まで持ってかれるようなことはなかっただろうから、おそらく奏は自身の攻撃力を八秒間だけ飛躍的に底上げする<討伐の加護>を使っていたのだろう。無理矢理にでも距離をこじ開けられたのは百恵にとって大きかった。

 

(左手の親指の感覚がなくなってる)

 

「ヤバイね、どうも。認めよう。お前は、私より強い」

 

 百恵の体から一気に魔力が滝のように噴き出した。そんな魔力が百恵に本来残っているはずもなくすぐに奏には〈神憑き〉を発動させようとしているのがわかった。

 

「だからこそ負けるのは姉の面子に関わるよ」

 

 ボロボロのからだで〈神憑き〉を使うことがとれだけ危ういか。それでもここまでやらなければやられるというところまで百恵は奏に追い詰められた。

 奏の強さを認めたときと同じ言葉をもう一度告げる。けれど今度は同じ言葉でもまったく意味は異なる。今度の言葉はただの意地だけが籠った言葉だったからだ。だからこそ今更奏もそれに動揺をみせることも百恵の身体を案じることをすることはしない。

 もともと<神憑き>を封じた状態での勝ちを本当の勝ちと捉えていいものかと奏は甘いことが思いつかなかったわけではない。こうなったのなら願ってもない展開でしかなかった。本来望んでいた状態で勝負ができる。きっと一合が顕界だろう、お互いに

 

「すぅ…ふっ」

 

 奏はひとつの呼吸を差し込む。次には<神祇官>(カンナギ)の使える限りの補助魔法をありったけ付与する。お互いにMPはほぼ尽きた。HPも二割をきりお互いそれ以上に数値の上とは別で身体の限界が近かった。

 

 訪れたのは静寂。

 誰もが次の衝突が最後になると固唾を呑み、呼吸を忘れてまでも見守ることしか出来なかった。

 

(刀の透過は見抜かれた。きっともう剣圧だけで防がれるだろう。それ以前に俺と姉ちゃんじゃ間合いが違いすぎる…それでも、姉ちゃんの限界はひと振りだ。確実に決めるにはできるだけ近距離で、躱しようのなく、そして<飛梅の術>で俺が間合いに入りきれない距離8メートル(・・・・・)

 

 間合いに入るまでにかかった歩数は6歩分その間に奏が入れたフェイクはその数12、七歩目で間合いに入った瞬間に全てのフェイクを完璧に見切ってみせた百恵からの斬撃が空気を切り裂きながら飛んでくる。七歩目で踏み込んだ足で全力で横へと跳んだが本来ならそれでも躱せない。白の斬撃はいとも容易く奏の右足を膝から下まで斬りさいた。限界だったのだろう、その一閃は奏が覚悟していたそれよりは威力は低く片足で被害が済む程度に遅かった。それでも、死にはしなかったがこれで勝負はついただろう。

 

 死にはしなかった。ただそれだけ、片足が落とされてしまえば機動力を失うどころかこのまま横っ飛びの体勢から着地もままらないだろう。戦闘続行は不可能だ。

 

 だからまだ終わってはいない

 死ななければ何とでもなる

 

「<飛梅の術>っ!」

 

 ふっ、と奏の宙に浮いていた身体が消えた。否、瞬間移動したのだ、百恵の背後へと飛んだ。

 

「うまい、そして速い…、がそれでも遅い(・・)

 

 そこには奏の攻撃をまるで()()()()()かのように右手で刀を構え居合いの構えをとる百恵がいた

 

(左手を捨てたのかっ…!)

 

 百恵の左手はぐっしゃぐしゃにまるで粉砕骨折でもしたかのようにひしゃげ、そして血を垂れ流すようにして力の篭らない形で放り出されていた。百恵の身体は限界がきていた。大きすぎる力で振るわれた反動に身体が耐え切れなかったのだろう。二本目の刄を振るうのが限界だった。手刀で奏の足を斬るのが限界だったのだ。

 居合いに両手が使われることはない。不完全な居合い。けれどもそれゆえに建を切られて不十分な左手は捨てて最高速度を出せる居合いを百恵は選んだのだ。奏が確実に一撃を凌ぎきると確信して。

 

(届かねぇ…あと一歩(・・)が足りない…)

 

 百恵の白銀の軌跡が肉薄する。やはりとどかなかった。あと一歩踏み込めていれば変わっていた。空中では一歩踏み込むための、ましてや踏み止まるための足場すら存在しない。

 

 「あと一歩がっ、必要なんだ!」

 

 無意識になのか確かな意思を持ってなのか、研鑽の末に自在にどんなタイミングであろうとどんな場所にでも展開できるようになった<禊の障壁>を展開する。ただし、展開したのは刀の軌道を遮るようにではなく、”あと一歩”と切望した足元へと。

 奏はその小さなそれでも確かな手応えを返してくれた足場を全力で踏み抜き跳んだ。

 

 白銀の三日月は軌跡だけを残して空を斬る。その先に広がる地面へと底の見えない深い傷跡を刻みながらも奏の身体を捉えることは叶わなかった。

 

「おぉちぃぃろおおおぉぉぉォォォ!!」

 

 空を爆風に飲まれた木の葉のように舞い、それでも体を目一杯の力で黒刀を持つ左腕を不自然なまでに捻る奏の眼光がほんの一瞬だけ刀を振り切り無防備を晒した百恵と交差して、振り抜かれた黒の新月が神の身体を地へとその身を砕かんばかりに勢いよく落とした。

 

 訪れたのは静寂

 

 勝負が終わったことが誰の目にも明らかになったとしてもそこに音が空気を揺らすことはなかった。

 

 その場にいる二十数名の誰もが停止しその行く末を見守ることだけしかできなかった。千菜もリーゼもアカツキも満身創痍の今ならあの化物を倒せる、なんという思考には至りもできず、ただただ呆然と見守っていた。その中でもクイン一人は違っていた。決着がついたことを悟ったクインはすぐさまに奏の元へと駆け出した。普段なら走ることなんて滅多にすることがない彼女が抉られ凍りつかされたことで荒れに荒れてしまった地面に何度かつまづきながらもそれでも誰よりもはやく駆けた。

 

 それを機にして他の者たちの時も波をうったように動き出す。

 

「兄さんっ!」

「奏さん!」

「奏!」

 

 一斉に千菜たちが倒れた奏の元へと駆け出す。

 

「いっててて…

 悪いヒール頼めるかな…正直、MPも身体も限界だ下手したらこのまま神殿行きになりそうだ。左足の出血でもう意識が飛ぶ」

「ナズナさん!」

「はいよぉわかってるって~」

 

 本当にわかっているのかいないのかリーゼの掛け声に間延びした返事を返すナズナ

 

「奏~アンタあんな土壇場で<天則通>を差し込むなんてわかってんじゃん。よくやったよ」

「<天則通>?なにそれ、俺最後は本能だけで動いてた感じだからいまいちなにしたか覚えてないんですけど」

「そこは、あの時はこれを狙ってましたって言っときゃいいんだよ」

「ナズナさんっやめたげてっ!奏さんゲキヤバですっ!ボロボロだからダメージと回復でパラレルせずに回復に集中してあげてくださいっ!」

 

 グリグリと背中を下駄で踏みながら回復の光を当てるナズナ。

 

 ナズナの手荒いヒールに当てられながらもなんとか身体を起こせる程度に回復した奏は身体を起こしながら隣に倒れる姉に向かって言葉をかけた。

 

「いつまで気絶したふりなんてしてんだよ、最後のは峰打ちだし俺の<全式の儀式杖>()が回復させてんだからとっくに身体くらいなら起こせんだろ」

 

 

 

「……バレてたか」

 

「「「なっ!?」」」

 

「待った待った!みんな武器は収めてくれ、頼む。というかアカツキちゃん、そのクナイの量はシャレにならない。…隣の俺も危ない」

「しかし…」

「もう僕に戦意なんて微塵もないよ、君たちと戦うための力なんて残っちゃいない。むしろ僕は今すぐ君たちに土下座を決めて靴を舐めるくらいのことはしたい気分だ」

 

「「やめろバカ姉」」

 

 ピシャリと声を揃えて姉に冷たい視線を向ける千菜と奏

 

「それよりも、だ。

 俺の勝ちでいいよな?姉ちゃん」

 

 <全式の儀式杖>の効果は味方にしか効果はない。

 その効果の範囲は奏の認識によるさじ加減でしかないのだ。ただ姉に自分の勝利を認めさせるため、ただそれだけであっさりと奏は百恵の傷を癒した。

 その言葉に百恵はきょとんと千菜に似たコバルトの猫目で奏をすこしの間見つめたあと柔らかく微笑んだ。

 

「やっぱり甘っちょろいなぁ…、参った。

 今回は私の負けでいい」

 

 アキバの街を巻き込むほどの大きな姉弟喧嘩。様々な人やものを巻き込みながらも天才の姉を高笑いする弟が十年越しの念願叶って負かすことででここに終幕した。

 

 




 二十四時に奏の新ステータスを更新します。
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