RollBack ~白エルフ達の最後の努力~【完結】 作:ぼっちクリフ
その日の夜、サエルウェン・クーランディア元帥は意外な訪問客を迎えた。
「マルリアン、急にどうしたんだ」
玄関に立っていたのはダリエンド・マルリアン大将。かのロザリンド会戦で己の右腕となり、先のオーク王を倒した戦友だ。
クーランディアは家令に饗応の準備を命じると、自ら応接室へと彼女を案内した。
「すぐに酒を用意させるよ」
「あぁ、ありがたい」
その日のマルリアンは何か様子がおかしかった。
何処か空虚というか、遠くを見ている。まるで心ここにあらずという戦友を見て、クーランディアは少し心配になる。
(いよいよ決心したのか……)
クーランディアは薄々感づいていた。マルリアンは退役しようとしている。
欺瞞と言葉遊びに満ちた政治に嫌気が差し、その政治に翻弄され将軍たちの椅子取りゲームを繰り広げている軍部にも見切りをつけている。
多分、近いうちに退役をするだろうというのがクーランディアの見立てだった。
今この宿将を失うのには不安があった。軍部は氏族間の権力闘争に翻弄され、ラエリンド・ウィンディミアのような御用将軍が幅を利かせている。
エルフィンド軍を立て直し軍隊として維持する為には、是非ともマルリアンの協力が必要だった。
「なあ……」
供された火酒に軽く口をつけると、マルリアンはポツポツと語り始めた
「元帥は、生まれ変わりというのを信じるか?」
突然マルリアンの口から出て来た言葉にクーランディアはポカンと口を開けた。
その日ゆっくりと目を覚ましたマルリアンは違和感を覚えた。
家具の配置が微妙に違う。新しく揃えた筈のドールハウスの家具が見当たらない。
そもそも寝る前は暖かかった筈なのにやけに肌寒い。これは一体……?
部屋の外に出て家令を見つけ声をかける。
「この季節にしては妙に寒いな」
「11月にしては暖かい方かと存じますが」
「……11月!?」
マルリアンは急いで新聞を持ってこさせて驚いた。
『星暦八七五年十一月』
何が起こっているのか理解しきれなかった。
今日は確かに星暦八八七年六月だった筈だ。シルヴァン運河の開通記念式典に出席したくないとゴネていたのを覚えている。
だが新聞は確かに今が星暦八七五年の11月である事を示していた。
この忠実な家令が自分に悪質な冗談を仕掛けるわけもない。
「どういう事だ……」
伝承にある転生者は『別の世界で人間だったものがエルフとして生まれ変わる』というものだ。
元々エルフだったものが生まれ変わる、ましてや過去に飛ぶなどという事は聞いた事が無い。
だが、厳然たる事実として認めなくてはいけない事がある。
自分はダリエンド・マルリアン。星暦八八七年から星暦八七五年へ、何の因果か12年も過去へ跳んでしまったらしい。
つまり今はあの凄惨なベレリア戦争の直前であり、この国は間もなく戦火に包まれる。
マルリアンは考える。
何故自分が過去へと舞い戻ったのか、自分が今何をすべきなのか、そして今この時に出来る事は……
「――星暦八七五年?」
呟いたマルリアンはすぐに家令に旅装を用意するよう命じる。
急に何処へ、と問う彼女にマルリアンは叫ぶように言った。
「シルヴァン川だ!」