RollBack ~白エルフ達の最後の努力~【完結】   作:ぼっちクリフ

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ノルニル鉄橋攻防戦

星暦八七六年10月26日、エルフィンド王国首都ティリオン。

内閣総理大臣サエルウェン・クーランディア元帥はキャメロット外務省特使サー・マーティン・ジョージ・アストンからオルクセン王国の宣戦布告文書を受け取った。クーランディアはその場でアストン卿の厚意に泥を塗ってしまった事を詫び、マイアール号事件の被害者に対し国際赤星十字社を通じ義援金を送りたい事、戦時中となるゆえその仲介をして貰えればありがたいと願い出た。最初冷淡な態度のアストン卿であったが、そのように頼まれれば嫌な顔をするわけにもいかず出来る限りの事をすると約束した。彼も自分が仲介した事ゆえに心に軽い負い目があった事もある。

こうしてエルフィンドは国際赤星十字社とキャメロットへの仲介ルートを確立、苦しい交渉を始める事になる。その裏ではエルフィンド各地に対し対オルクセン国土防衛戦争計画の開始が告げられていた。

 

 

同日午後18時、エルフィンド南部モーリア市。

轟音とともに市民は飛び起きあたりを見回した。オルクセン軍の火砲が砲撃を始めた合図だった。市民は右往左往しながら助けを求めるが、国境警備隊はやってこなかった。この戦争でエルフィンド国軍総司令官ダリエンド・マルリアン大将は市民を徹底的に戦争に利用した。時にオルクセン軍に対する目くらましとして、時に相手の補給に負担をかける道具として。当時の意識としては当然の事だったが、結果として市民に多数の犠牲が出た事は事実であった。

 

国境警備隊は市街東部、鉄道駅に集合していた。開戦から2時間、市内に散らばっていた警備隊は少ない。彼女達の役目はこのモーリア市鉄道駅の破壊だった。オルクセン軍の補給の根幹を為す鉄道、それをタダでくれてやる道理も無い。マルリアンは国内各所に対し、いざという時には必ず鉄道を破壊する準備をするよう命令していた。地面に埋められた火薬に着火し線路を破壊し、同時に駅の地面をボコボコにする事で修復に時間をかけさせる。とにかく相手に時間をかけて修復させる事に主眼を置いていた。

鉄道駅の破壊を終えた警備隊はそのまま市街北にかかる鉄橋を目指した。

 

モーリア市北、ノルニル鉄橋。幅800mの川に三本の鉄橋がかかるこの場所は開戦時の激戦区となった。東から「ウルズ」、「ヴェルザンディ」、「スクルズ」と名付けられ「ウルズ」が鉄道橋だ。オルクセン軍は何としてもこの三本の鉄橋を確保しようと開戦時奇襲的にモーリア市北部の対岸に兵を送り込んでいた。だが砲撃が聞こえたのと同時にエルフィンド軍は「ヴェルザンディ」、「スクルズ」を爆破してしまった。

 

「砲撃の音が聞こえたら橋を落とせ、たとえ上に人が乗っていても必ずだ」

 

というマルリアン大将直々の厳命を護った結果だった。オルクセン軍は歯噛みしながらも残った最後の一本、「ウルズ」を確保しようと進んで来る。途中「スクルズ」の隣にあった国境警備隊の駐屯所を襲撃したが、そこはもぬけの殻だった。拍子抜けしたオルクセン軍はそれでも鉄道橋を抑えようと必死だったがこの集団の側面からエルフィンド軍は銃撃を浴びせた。

マルリアンは事前にこの橋がオルクセン軍のモーリア市における最重要目標だと知っていた。そこで鉄橋先にある駐屯地や市街地の更に北側の地点に陣地を構築しており、砲撃があれば国境警備隊はこの陣地の中に逃げ込んで遅滞戦闘に移行するよう命じていた。陣地は簡単な塹壕や土嚢を使った堡塁を備えたもので、簡易的ではあるが大鷲の観測でも見つかりにくいように隠されていた。エルフィンド軍はこの陣地を使って鉄橋から撤退してくる市内の国境警備隊員たちを援護。国境警備隊が「ウルズ」を爆破し撤退するまでの時間を稼ぐ事に成功した。

 

だがオルクセン軍が混乱した様子は無い。彼らは待ち伏せも鉄橋の爆破も予測していた。何故なら自分達が攻め込まれたら必ずそうするだろうと考えていたからである。予想外だったのは陣地だった。簡易的とはいえ堡塁と塹壕まで備えた陣地の攻略には火砲がいると考えた彼らは後方に対し連絡を取った。

 

マルリアンは『前回』のモーリア市攻略戦でオルクセン軍が大型の架橋船を使っていない事を知っていた。そこで橋を落とし街の北側に陣を築けばかなりの時間が稼げると踏んでいたが、その期待は裏切られる。オルクセン軍がモーリア市に鉄製の大型架橋船を回していたからだ。

 

マルリアンが国軍総司令官に就任した事を知ったオルクセン第三軍司令官アロイジウス・シュヴェーリン上級大将は奇襲の効果に懐疑的だった。電撃的に進軍し三本の橋を確保する計画を立てた参謀本部に対しこう言い放ったのだ。

 

「相手はあのマルリアンだ、そんな都合の良い考えを基本にするのは危険じゃぞ」

 

彼は第一軍の進軍速度を下げてでも第三軍に大型架橋船を配置し万全の態勢で攻略する事を進言、これが受け入れられ第一軍に全船配備される筈だった架橋船は第三軍にも配備されモーリア市に投入された。

 

後にこの事を知ったマルリアンは誰にともなくボヤいた。

 

「なんて可愛げの無い爺さんだ」

 

結果としてシュヴェーリンの心配は現実のものとなり、大型架橋船は大活躍する事になる。ほぼ抵抗なく市内を制圧したオルクセン軍は大型架橋船を使い火砲をモーリア市北岸に設置、エルフィンド軍陣地に向かい砲撃を始めた。あくまで簡易的な陣地であり本格的な対峙戦などするつもりが無かったエルフィンド軍は砲撃が始まると陣地を捨てて撤退、アルトリア方面へと姿を消した。

これは元からの計画にあった事だった。ダークエルフ(デックアールヴ)の民族浄化とさらにその実行犯を逮捕した事で国境警備隊は定員を大きく割れ充足もままならない状況だった。こんな中でモーリア市を維持できる筈が無い、徹底的に嫌がらせをした後に北部陣地に逃げ込み、その後オルクセン軍が本格的に攻勢をかける兆しを見せたら撤退しろというのがマルリアンの命令だった。

 

10月27日夜、モーリア市は陥落した。エルフィンド軍の被害は少なかったが北側の陣地で3日を稼ぎたかったマルリアンのアテは外れた。報告を受けたマルリアンは一人になった執務室で大きくため息を吐いた。

 

これがオルクセン軍の恐ろしさだ。彼らは失敗しないのではない、失敗する事すら織り込んで作戦を立てる。一つが失敗しても他がそれを補えるように、そして次は必ず失敗しないように修正しながら進んで来る。一つの失敗が次の失敗に連鎖せず、その一つの失敗すら許さないとばかりに万全の態勢を整える。一つ失敗すれば全軍の崩壊を誘発しかねないエルフィンド軍と比べてなんと強靭な事か。『先』を知っているというアドバンテージがあってすらこれだ。

 

だが腐ってばかりもいられない。少なくとも鉄道駅の破壊と鉄橋の爆破は成功したのだ『前回』を思えば雲泥の出来である。こうやって少しずつ時間を稼ぎ外交状況を好転させていくしか道は無いのだ。

実際に今回収穫はあった。タルヴェラに命じてあらかじめ構築してあった塹壕と堡塁は予想以上の効果を上げた。あのオルクセン軍とまともに撃ち合う事が出来たのだから。エルフィンド軍の強みは最初から要所に陣地構築をしておける事だ。敵の進軍路を予想し要地には簡易的な陣を構築しておき撤退する兵を収容する。マルリアンの考案した遅滞戦闘の為の準備は予想通りの効果を発揮してくれた。もっとも本格的な陣地構築をするには時間も人手も足りず、簡易的なものばかりになってしまったが、それでも無いのとあるのとでは大違いだ。

あとはこれにオルクセンがどのように対応してくるか、だ。その点をマルリアンは楽観視していない。彼らはいずれこの遅滞戦闘術に対しても必ず対応策を見つけ出すだろう。それまでに、こちらも打てる手は全て打っておく必要がある。

 

司令部代わりに使う客車の中でマルリアンはファルマリア方面からの状況報告を受けるべく副官を呼んだ。

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