RollBack ~白エルフ達の最後の努力~【完結】   作:ぼっちクリフ

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ファルマリア方面前哨戦

一方のファルマリア南方面。マルリアンは此方では遅滞戦闘すら禁止した。

 

「あそこはアンダリエルの庭だ、可能な限りの物資を引き上げながら撤退させろ」

 

既に最低限の歩哨以外の国境警備隊はファルマリア市かモーリア市へと撤退している。そんな中で物資の引き上げを命じられたのがダークエルフ(デックアールヴ)独立大隊だ。彼女らにとっては故郷であり、住民は自分達を追い出して移住してきた侵略者も同じであり、引き上げはかなり苛烈なモノとなった。ただし時間があまり無かった事、現地住民が完全に彼女らを『敵』と見なして協力しなかった事でかなりの物資を置いて行く事になってしまっている。

 

一方のアンファングリア旅団も快進撃とは行かなかった。街道沿いの村の郊外、森の中でかなりの数の『置き土産』を見つけたからだ。

それはデックアールヴが狩猟に使う罠だった。落とし穴の底に先端が鋭く尖った木の断片を刺しておいたり、糸を切ると矢が発射される機構など、原始的だが殺傷能力の高い罠が多数、森の中で発見された。これらの罠には普通他の狩人や森の近くに住む者たちが罠にかからないように目印をつけるものだが、設置したデックアールヴ独立大隊は当然そんなものを用意してはいない。彼女らにとっては近隣住民もオルクセン軍もひとしく「自分達の住処に不法に侵入してきた者」なのだ。容赦などするはずがなく、狩猟罠は近隣住民の生活圏にも多数設置された。

 

狩猟に優れたデックアールヴであるアンファングリア旅団は問題無かったが、後続部隊が罠にかかる可能性がある。敵と一戦すら交えぬ時に罠で被害が出れば士気に関わると考えたアンファングリア旅団長ディネルース・アンダリエル少将は後続の為に罠を外しながら進軍する事を大本営に報告。これによりデックアールヴ独立大隊は敵の進軍速度をかなり抑える事に成功した。これは総指揮を執るマルリアンにしても予想外の戦果であり、森における狩猟罠は研究すれば遅滞戦闘にかなり使えるのではないかと記録している。

 

後世において、これら戦争で使用される敵を欺き攻撃する為の罠は『ブービートラップ』と呼ばれる事になる。

 

 

一方でベラファラス湾に突入しファルマリア港を攻撃したオルクセン艦隊は顔を青くしていた。ファルマリア港はほとんどもぬけの殻と言うべき状態だったのだ。

在泊エルフィンド艦艇は巡洋艦1、砲艦2、補助艦1。たったの4隻しか居なかった。よりにもよってオルクセン海軍が最大の目的としていたリョースタ型が2隻とも存在していないのだ。海軍参謀たちは蜂の巣をつついたような騒ぎを起こし内港まで含めて港湾内を確認。しかし電光弾(ブリッツ)で燃え盛る艦艇以外の姿は港内には存在しなかった。

 

この事態は予測の一つにはあった。『雨月革命』以降のエルフィンド軍はにわかに活気づいており、ファルマリア港でも艦艇の動きが活発になっていた。オルクセン海軍は危険を承知でリントヴルム岬の監視員の数を倍に増やしていたが、それでもエルフィンド軍の出入港に気付かなかったが、これには理由があった。

 

 

「あれがマルリアンの言っていた魔弾か……」

 

ファルマリア港を一望できる場所でトゥイリン・ファラサール海軍大将は呟いた。双眼鏡で眺めると目に良くないと聞いて肉眼だが、それでもはっきりと巡洋艦が燃え盛るのが見て取れた。あのような業火の中で戦闘を維持できる艦艇などこの世の何処にも存在しないだろう、オルクセン海軍は何というものを発明したのか。

ファラサール大将はマルリアンの立てた作戦が不満だった。エルフィンド海軍はオルクセン海軍に対し艦艇数で勝っているし、リョースタとスヴァルタという切り札もある。不意打ちの奇襲さえ受けずに艦隊決戦に持ち込めばオルクセン海軍には十分勝てる試算があった。ファラサール大将はその為にマルリアンに協力する前から海軍の近代化を進め訓練を重ねていたのだ。

 

だがマルリアンは海軍に艦隊決戦を禁じた。理由はこの『魔弾』だ。如何にリョースタ、スヴァルタの両艦が強力であろうとも装甲を含めた資材に可燃性のある木材を使用し、何より帆装をしている以上この魔弾をくらえばひとたまりもない。海軍にはこの戦役を左右する重要な任務がある、こんな所で両艦を沈めオルクセン海軍に制海権を握らせるわけにはいかない。

魔弾により炎上する港を見たファラサール大将はマルリアンの言の正しさを知り、同時にエルフィンド海軍の手腕に満足そうに頷いた。

 

「しかし見事だなカランシア、あのオルクセンの目を欺くとは」

 

エルフィンド艦隊がファルマリア港を密かに出航出来たのはカランシア中将の名人芸のおかげだった。リンドヴルム岬に監視員が居ると知ったカランシアは霧が出る日を選んだり大型商船出航の日にその陰に隠れながら一隻、また一隻とエルフィンド艦艇にファルマリア港を抜け出させていた。また小型船には偽装煙突をつける事で商船と誤認させるような細かい細工を重ね、ついに秘密裏に艦隊を出航させ各地のフィヨルドに停泊させる事に成功したのだ。ファルマリア港に残っていたのは機関故障でどうしても動かせなかった巡洋艦1隻と老朽化した砲艦、補助艦のみ。マルリアンの入れ知恵があったとはいえ、緒戦はオルクセン海軍を出し抜く事に成功したと言えるだろう。

 

オルクセン海軍はただちにエルフィンド海軍の捜索を開始。特にリョースタ、スヴァルタ両艦の行方を何としても探し出せと厳命を下した。

しかし2隻のうち1隻はすぐに思わぬ所で発見される事になる。

 

 

10月28日、キャメロット連合王国首都ログレス

ログレス港の周囲には多くの見物客が訪れていた。入港してきた艦艇、一等装甲艦『リョースタ』の姿をひと目見ようという人々だ。折しもログレスでは薄い霧が発生しており、霧の中から現れるリョースタの威容は見物客達を喜ばせた。またリョースタは2隻の巡洋艦を従えており、従士を従えた騎士のようだと人々は噂した。

 

この訪問に際してリョースタを指揮していたエルフィンド海軍司令カランシア中将はログレス・タイムの記者(あのマルリアン大将へのインタビューを行った人物)からの取材申し込みに快く応えており、なんと取材場所としてリョースタの甲板の上を指定。記者は喜び勇んでリョースタへ乗り込んで行った。

 

以下、記事に記載された取材の様子一部を掲載する。

 

 

(記者)――本日は取材を受けていただきありがとうございます。

 

(カランシア)「ようこそ『リョースタ』へ」

 

――率直にお聞きしますが、今回のご来航は如何なる目的でありましょうか?

 

「キャメロットからエルフィンドへの商船団を護衛するのが目的です。我が国にとってキャメロットとの交易はなくてはならぬものですから」

 

――なるほど、その為にこの『リョースタ』を率いて来られたと。

 

「里帰りとでも言うのでしょうか、貴国の造船技術には目を見張るものがあります」

 

――ありがとうございます。ですが、貴国の港ではまさにオルクセン海軍との戦闘が発生しているのに、このような場所に来られて大丈夫なのですか?

 

「我が国にはもう1隻、この艦と同じ型の『スヴァルタ』がおります。軍機につき詳しくは明かせませんが、オルクセン海軍の攻撃に対処すべく活動中です」

 

――オルクセン海軍など1隻で十分、と

 

「貴国の技術の結晶である『スヴァルタ』と我が海軍精鋭の力があれば、必ずオルクセン海軍に対抗できるものと考えています」

 

――先日モーリア市が陥落したそうですが、貴国の行方について悲観的な見方も出ているようですがいかがでしょう?

 

「オルクセン軍の勢いには凄まじいものがあるのは否定しません。しかし、我が軍は作戦通り行動しており、これまでの戦争の経過は予測の範疇です」

 

――この戦争の見通しは明るいと?

 

「私は軍人です、楽観的な物の見方はしません。オルクセン軍は精強であり勢いもある、我が軍は死力を尽くし戦い抜く所存です」

 

――最後に一言、読者にお願いします。

 

「我が海軍は未だにオルクセン海軍に対し優勢であり、制海権をオルクセンに渡すつもりはありません。キャメロットの皆様におかれましては、安心してエルフィンドと商売をしていただければと思います。我らが女王陛下に栄光あれ」

 

 

この後エルフィンド海軍は自国籍商船に必ず護送船団に参加するよう重ねて要請、キャメロットとの交易路を何とか維持していく事になる。

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