RollBack ~白エルフ達の最後の努力~【完結】   作:ぼっちクリフ

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ファルマリア港襲撃作戦①

アルトリアからの報告にマルリアンは一瞬苦い顔を浮かべ歯噛みした。

要塞都市であるアルトリア市には可能ならば1ヶ月稼いで欲しかった所ではあるが、この戦争で予定通りに行く事の方が少ない。それに今回の敗戦の根本的な原因も分かっている、地図の精度の差だ。エルフィンド軍が持つ自国の軍用地図よりもオルクセン軍が測量し正確に記載した軍用地図の方が圧倒的に精度が良い事は明白。今回敵の第二線陣地を察知できなかったのも戦地における測量の正確さの差が出た故だろう。本来ならばタルヴェラあたりに正確な測量を依頼し地図を更新したい所だが、生憎とそこまで手を回している余裕がどこにも無い。

 

そんな中でマルリアンは指揮官コルトリア中将は負傷しつつもエリクシール剤での治療を終え本営に向かっているとの報告を聞き、部下達に向かい不敵に笑ってみせた。

 

「流石はコルトリアだ、あれほどの敗北でも生きて退却戦をやり抜きオルクセンの情報を持ち帰って来てくれるとは」

 

半分は士気を維持する為の虚勢だが、もう半分は本音だった。

オルクセンの情報と実戦を経験した兵士たち、何よりもエルフィンド軍に決定的に足りていない実戦経験のある高級将校を持ち帰ってきてくれたのだ。アルトリアに篭らず塹壕陣地を利用するよう指示したのは自分だ、オルクセン軍の『進化』の速度を見誤った自分に敗戦の責はある。そんな中で退却戦を指揮し、負傷しながらも完遂したコルトリアには感謝してもし足りない。

 

「カランウェンに連絡だ、アルトカレでゲリラ戦を開始しろ」

 

「はっ」

 

「ネヴラス方面はどうなってる?」

 

「敵前衛がファスリン峠の陣地に対し攻撃を開始したそうです」

 

「敵の誘引と大鷲の空爆に注意しろ。カランシアは?」

 

「予定通り作戦行動を開始するとの事です」

 

参謀たちの報告にマルリアンはゆっくりと頷いた。

西部アルトカレ方面はカランウェンのゲリラ戦で時間を稼ぎ、東部ファルマリア方面で反撃を行う。これは戦前からカランシア中将と綿密に打ち合わせて決めていた策だ。上手く行けばオルクセン軍に対し大きな一撃を与える事が出来る。マルリアンは各所に対し作戦開始を告げた。

 

 

十二月中旬、オルクセン軍第一軍はファスリン峠の塹壕陣地に対し攻撃を開始した。ここまで準備に時間をかけたのは、ひとつは制海権の問題だった。未だリョースタ、スヴァルタの両艦を捕捉出来ていないオルクセン海軍は慎重を期しながら海上輸送を実施、結果としてファルマリア制圧から攻勢再開までの物資備蓄に多少の時間がかかった結果である。万全の態勢を整えたオルクセン軍第一軍はファルマリアを進発、北進を開始した。

エルフィンド軍はスヴァリン地方の山岳とスヴァリン海岸の間、狭隘な地形に陣を構えオルクセン軍の行く手を塞いでおり、これを迂回するのは不可能であると判断したオルクセン軍は塹壕と火力をもってこれを攻略すべく攻撃を加える。エルフィンド軍はよく粘ったが徐々にオルクセン側の火砲、そして大鷲による空爆で被害が広がっていった。

冬至祭を目の前に控えた十二月後半、エルフィンド軍はついに撤退。ファスリン峠はオルクセン軍の手に落ちた。だがその直後にオルクセン軍の後方、ファルマリア市に対してエルフィンド軍の反攻作戦が開始されていた。

 

冬至祭を前にファルマリア市は活気づいていた。エルフィンド軍が物資を引き上げて持って行ってしまったが市街地は戦火に晒されていない。市民は少ない食料でもなんとか冬至祭のお祝いをしようと魔術通信で連絡を取りながら物資を融通しあっていた。占領するオルクセン軍は何と呑気な事だと呆れていたが、占領地の人心が安定している事は喜ばしい。徐々にオルクセン軍票やオルクセン貨幣の流通も浸透してきており、ファルマリア市における占領行政は順調の一言と言えた。

 

冬至祭当日、流石に道に出ての祭りや屋台の出店は認められなかったが市民たちは部屋に明かりを燈し冬至祭の料理(占領下ゆえに普段の料理とそこまで変わったものは出せなかったが)を楽しんだ。オルクセン軍内部でも豚肉のローストが供された。戦地の事ゆえ酒は控えめだったが、兵士たちは帰国したらガチョウが食べたいなどと言い合いながら祭りの夜を楽しんでいた。

そんな中で一人だけ、不機嫌そうに御馳走も食べずに地図を眺める高級将校が居た。荒海艦隊司令長官マクシミリアン・ロイター大将だ。彼はエルフィンド海軍を取り逃がした事に責任を感じ、その行方を全力で探っていた。しかしエルフィンド近海は霧が多く、またエルフィンド海軍にいる宿敵のうちの一艦リョースタ型の一隻が遠くログレスに現れたという情報もあって大鷲による偵察は敵塹壕陣地に対して優先され、結局敵主力を見つけられないまま冬季を迎えてしまった。この季節の北海では作戦行動は難しい。大本営は船団護衛と沿岸警備を強化しつつ第一軍が北進する事でエルフィンド海軍の策源地となっているであろう東部沿岸を制圧してしまえば良いという結論になっていた。

けれどもロイター大将はどうしても敵艦隊の動きが気になってしょうがなかった。相手はリンドヴルム岬の監視をごまかしファルマリアを出港したほどの手練れだ、策源地が無くなる前に必ず何か仕掛けてくる。ロイターはそれを見極めようと各地に監視の船を出していたが、一向にエルフィンド海軍は動く気配が無い。

その時だった。外からの騒ぎ声にロイターは港方面へと足を伸ばした所、見張りのコボルト兵士が耳を抑えて頭を振っていた。周囲のオーク海兵たちはそれを心配そうに見守っている。

 

「何があった?」

 

「それが、エルフィンドの連中魔術通信で大声で歌い始めたんです。冬至祭の歌らしいんですけど、本当にうるさくて」

 

酔っ払いどもめ、などと悪態をつくコボルト兵士。それを聞いたロイターの肌がザワリと戦慄いた。戦歴を重ねた者のみが感じるという「戦の匂い」。第三軍司令官アロイジウス・シュヴェーリン元帥(アルトリア攻略の功績で昇進)やアンファングリア旅団長ディネルース・アンダリエル少将などのロザリンド世代が感じるというそれを、この歴戦の海の男もまた感じ取った。

 

「おい、魔術探知はどうなってる!?」

 

「この大声じゃ魔術探知員との連絡も……」

 

「出航準備ぃ!!!」

 

ロイター大将はただちに全艦に対し出航を命じ、慌てて伝令が駆け出した。

 

 

「時間だ、突入開始」

 

エルフィンド海軍総司令官ミリエル・カランシア中将は巡洋艦アルスヴィズの上で敬礼した。リョースタ型装甲艦スヴァルタを旗艦に他巡洋艦2、砲艦2、水雷艇3で構成されるファルマリア港襲撃艦隊は一斉に敬礼し暗闇の中を進んでいく。冬至祭当日を狙ったこの襲撃作戦は周到に練られていた。ファルマリアの市民たちが魔術通信で歌を歌い市内の通信を遮断、同時に艦隊は魔術誘導波を頼りに暗い海をファルマリア港に対し進む。自国領土の港だからこそ行える襲撃作戦だ。冬の北海は戦闘行動を行えない程荒れるが、波が穏やかな湾内ならば話は別だ。また暗く荒れた海を進むにあたり有効活用されたのが白エルフ族が全員魔術を使えるという事だ。これにより多数の現地協力者が海岸沿いで魔術誘導波を出して艦隊を誘導する事が出来た。危険な作戦ではあるが、カランシアはやる価値があると踏みマルリアンも了承していた。

カランシアは自分がその指揮を執る事を望んだがこれはマルリアンに却下された。艦隊全滅すらありうるこの作戦に海軍総司令官を参加させるわけにはいかない。結果、カランシアは後方待機する巡洋艦アルスヴィズで突入地点まで見送るにとどめる事にした。彼女は闇に消えていく艦隊を見ながら呟いた。

 

「白銀樹のご加護を」

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