RollBack ~白エルフ達の最後の努力~【完結】   作:ぼっちクリフ

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ロザリンドの英雄再び②

「シルヴァン川……」

 

クーランディアは自分が汗をかいている事に気付いていなかった。

シルヴァン川流域、先日『あの命令』が発せられた地域。

まさか、マルリアンがその事に気付くなんて……

 

「レーラズでは、国境警備隊が穴を掘ってたよ」

 

静かに呟くマルリアンの言葉にクーランディアは衝撃を受けた。

穴? 穴と言ったのか!?

 

「ま、マルリアン……」

 

「護符の回収もせずまるでゴミのように、ダークエルフ(デックアールヴ)の死体を何千何万と放り込んでた」

 

クーランディアは思わず口元を抑えた。

詳細を知らされてはいなかったが、まさか、まさか……!

 

「そこまでやったのか、アイツらは!?」

 

激昂したクーランディアは思わず立ち上がり……

そして項垂れるようにして椅子に腰かけた。

 

怒る資格など無い。軍最高位の元帥でありながら、止める事もしなかった自分に何を言う権利があろう。

そんなクーランディアをマルリアンはじっと眺め、手元の火酒を一気に呷った。

 

「運命を恨んだよ。何故あと1年、いや半年前に戻れなかったのかとね」

 

ここに来てクーランディアは認めざるを得なかった。

マルリアンは未来から『戻ってきた』。あの命令とその実行場所まで正確に知っているのがその証左だ。

 

「私もあなたも罪人だ。この蛮行を止める事が出来なかった」

 

「……ああ、そうだな」

 

マルリアンの言葉にクーランディアは静かに頷く。

如何に言い訳しようとも、この事件はエルフィンド王国の汚点として永遠に記録される。

ならば我々にも、罪はある。

 

「そこでだ、あなたにひとつ手伝ってもらいたい事がある」

 

「一体何をだ、マルリアン」

 

「来年10月、オルクセン王国がこの国に侵略してくる」

 

「はぁ!?」

 

今度こそ度肝を抜かれたクーランディアは大声を上げる。

何事かと見に来た家令を追い返しながら、クーランディアはマルリアンに問い返す

 

「お、オークどもがこの国に?」

 

「そうだ、総兵力50万以上。彼らは緻密に練られた戦争計画を持って我がエルフィンド王国に侵攻し、そして……」

 

「そして?」

 

「7カ月の後、我がエルフィンド王国は降伏。滅亡し地図から消滅する」

 

クーランディアは自分の息が荒くなり鼓動が早くなっている事に気付いていない。

マルリアンの口から告げられる悪夢のような未来を黙って聞いていた。

 

たった12日間で50万の兵力を展開する動員

 

船ごと炎上させる新型火薬によって壊滅する艦隊

 

強力な火砲に呆れるくらいの火力主義

 

それらを支える強靭な補給

 

為す術なく敗れ追い込まれるエルフィンド軍

 

国内各所は物資が欠乏し各所で地獄が顕現

 

各国から『虐殺者』として指さされ孤立する外交

 

そして全面降伏、女王の退位、エルフィンド王国の終焉

 

 

全てを聞き終えたクーランディアは顔を覆い俯いていた。

この悪夢のような出来事が未来に待っていると、信じたくなかった。

 

だが、語ったのはマルリアンだ。

ロザリンドの英雄、もっとも頼りになる女、宿将ダリエンド・マルリアンだ。

彼女が詳細に語る未来――ベレリア戦争は、現実に起こる事なのだろう。

 

「私は帰りの列車で考えたよ、私がどうするべきなのか」

 

オルクセン王国に敗北した事は結果として多くの利益を白エルフ族に齎した。

農地改革、教条主義・優性思想の破棄、経済の立て直しに鉄道網の整備。

おそらく市井の白エルフ族からしてみれば、エルフィンド王国よりもオルクセン王国時代の統治の方がずっと住みやすい世の中になっただろう。

 

そんな中で私はどうするべきなのか?

以前の歴史通りの行動を繰り返すのか、それともオルクセン王国を利する為に行動すべきなのか。

 

「――どちらもごめんだ」

 

マルリアンの声に段々と力が篭る。

 

「確かにエルフィンド王国が無くなった事で多くの者が救われたかもしれない」

 

無言で火酒をグラスに注ぐ。

 

「歴史は良き方向に導かれたのかもしれない」

 

持ち上げたグラスがギシ、と少し軋む。

 

「だがな……」

 

お代わりの火酒を煽り、グラスを机に叩きつける。

クーランディアは顔を上げ、マルリアンの顔を見た。

その顔は怒りに満ちていた。

 

「納得できるか! あぁそうだ、我らは惨めに敗北した。結果としてエルフィンドは、良き未来を手に入れた」

 

クーランディアは堰を切ったように喋るマルリアンを見つめる事しか出来ない。

 

「だからと言ってなんだ、我らは敗北すべきだったのか? 残忍で愚かな白エルフ族は負ける運命にあったとでも嘯くのか?」

 

マルリアンは唇を嚙みしめる。

この10年以上胸の奥底に仕舞い込んだものが溢れ出ていた。

 

「……そんな事は認めない、絶対に!」

 

鬱屈したものを全て吐き出したマルリアンはじっとクーランディアを見る

 

「手伝ってくれ、元帥。あなたの力がいる」

 

「何をする気なんだ、マルリアン」

 

「この国……いや、白エルフ族が『より良き負け方』を出来るように。私はその為に戻ってきたんだ」

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