RollBack ~白エルフ達の最後の努力~【完結】   作:ぼっちクリフ

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やばんなエルフのくに

「キャメロット交易船団より緊急の魔術通信です! オルクセン国籍の仮装巡洋艦数隻に襲撃を受けている、援護を請うとの事!」

 

ノアトゥン港でその緊急伝を聞いた時ミリエル・カランシア中将は十中八九囮だと判断した。

わざわざ魔術通信が使える範囲で襲撃を行うのはおかしい、これは罠だと。

 

しかし救助に行かないわけにはいかなかった。キャメロット航路はエルフィンドにとって細い細い命綱だ、ここが失われればエルフィンド全体が干上がってしまう。また、もし助けに行かなければ「エルフィンド海軍はキャメロット商船を助けなかった」と星欧中に喧伝されるだろう。

 

「詰み、か」

 

カランシアは国軍総司令官ダリエンド・マルリアン大将への報告と礼を書いた手紙に自らの護符を入れ、ノアトゥン港の執務室の机の中へ入れた。

 

 

リョースタと残存艦を率い現場へと到着し船団と合流すると仮装巡洋艦はそのままこちらと一定の距離を取りながらぴったり追尾してくる。間違いない、とカランシアが確信した次の瞬間だった。

 

「敵艦隊らしきもの、近づく!」

 

魔術探知手が指した方角を見るとリョースタに劣らない、いやそれ以上の威容が姿を現した。一等装甲艦ラーテ、排水量一万トンを超える最新鋭艦。オルクセンが対リョースタを想定し建造したその艦に率いられたオルクセン海軍荒海艦隊は、まっすぐ此方へと向かって来ていた。反対側は仮装巡洋艦達が頭を抑えるように展開している。逃げ場は無かった。

 

「総員、戦闘用意!」

 

カランシアはキャメロットの船団を逃がしながらこれの盾となるべく残存艦隊に戦闘を司令。ここにオルクセン海軍とエルフィンド海軍の最終決戦が始まった。

 

その結果は言うまでもなかった。

 

最新鋭の装甲艦ラーテにエルフィンド艦隊の装甲を無効化するが如き魔弾、またキャメロット式の前装砲ばかりのエルフィンド海軍に比べオルクセン海軍は最新式の後装砲を装備している。装甲、火力、装填速度の全てでオルクセンに軍配が上がっているのだ。

 

一隻、また一隻と炎上し沈んでいくエルフィンド海軍に比べ、オルクセン海軍は何隻かが有効弾を受けた程度で被害らしきものは無かった。カランシアは船団の動きを操作しオルクセン海軍がキャメロット船の追撃に移れないよう進路を塞ぎ続けたが、それが限界だった。

 

炎上する司令塔でカランシアはゆっくり煙草をふかしていた。

出来る限りの事はしたつもりだが、さて、後は白銀樹の下でマルリアン閣下のお手並みを拝見するとしようか。

 

その時カランシアはドアの付近にいる一人の白エルフに気が付いた。煙が回り地獄の様相を呈するこの船の中で、彼女はまだもがいている。

 

「何をしている、とっとと脱出しろ!」

 

よく見ればその水兵はまだ子供だった。ノアトゥンで徴集したのだろう、国民義勇兵としてリョースタに乗り込んでいたのだ。カランシアはあたりを見回したが脱出用のボートは既に火が回って使い物にならなくなっていた。仕方なくどうしていいのか分からないとばかりに迷っている少女を連れて船縁まで連れて行く。幸い火傷はしていないようだ、これならもしかしたら助かるかもしれない。

 

「魔術通信でオルクセンの船に助けを求めろ、良いな!」

 

そのまま少女を海に放り投げる。同時に船体全体に火が回った。

 

少女はそのままオルクセンの巡洋艦に助けられ捕虜となった。オルクセン人達は「こんな子供まで兵隊になっているのか」「生きていて良かった」と親身になって助けてくれ、これはお嬢ちゃんのかい、と帽子を手渡してくれた。海に落ちた時に夢中でもがいている最中に掴んでいたらしい。

 

少女は戦後その帽子――ミリエル・カランシア中将の名前が入った軍帽を持って故郷へと帰る事になる。

 

エルフィンド海軍は壊滅し、北海の制海権はオルクセン海軍のものとなった。

 

その翌日、ネヴラス駅オルクセン軍国王大本営にて。

 

オルクセン王グスタフ・ファルケンハインは悩んでいた。

これから自分が為そうとする事、それがもたらす影響を。

 

おそらくエルフィンド国民は反発し、戦後統治は多少やりにくくなる。

またオルクセンの汚名の一つとして後世から批判されるだろう。

そして何より、戦後に星欧の人々が白エルフ達を迫害する理由になってしまうかもしれない。もちろん、それは自分が何としても阻止するが。

 

だが、これで外交戦で完膚なきまでにエルフィンドに勝利出来る。彼女達が外交で活路を見出そうとするなら、それを叩き潰し継戦の意志を削がねばならない。特にキャメロットからの仲介の道は閉ざしておかなければ万が一という事もある。

 

グスタフ王は決断し、メモを電信手に渡しながら言った。

 

「シュタインメッツに送ってくれ」

 

 

ヴィルトシュヴァイン大学学長シュタインメッツと法学科教授達の連名で発表が為されたのはそのすぐ後の事だった。

 

『昨今しきりにエルフィンド王国が求める講和条約締結の為の活動をオルクセン王国は認める必要が無い。理由は以下の通りである。

 

一、エルフィンド現政権は不法にも軍事クーデターを起こし正統性なく政権に居座る者たちである

 

一、エルフィンドは現在統制経済を敷いており自由市場経済を維持出来ていない

 

一、エルフィンドは正式にいずれとの星欧列商国とも条約を締結しておらず条約遂行能力に疑問がある

 

一、エルフィンドの法制度は未熟であり星欧私法の精神を遵守していない、これはリュティスの比較法協会に照会済みである

 

一、エルフィンドはマイアール号事件に見られる通り自国の利益のみに熱心であり星欧全体の利益を考えていない

 

一、レーラズの森事件に見られる通りエルフィンドは道徳に欠け極めて狂暴である

 

以上の事から星欧諸国はエルフィンド王国を半文明国と見なし扱うべき(、、、、、、、、、、、、)でありオルクセン王国が対等に交渉を行う必要性を認めない』

 

 

半文明国とは即ち星欧列商にとって対等の国家ではなく、それより一段劣り不平等条約を押し付けても構わない国家の事だ。他国で言えば道洋の秋津洲がこれにあたり、かの国は今も不平等な条約撤廃に向けて盛んに活動している。この文明国、半文明国、そして非文明国の匙加減は星欧列商次第であり、列商3位のオルクセンが理路整然と「エルフィンドは半文明国だ」と主張すれば各国は反論の術を持たない。そもそも自分達が植民地を得る為に振りかざしていた理論なのだ、自分達の利益にもならないのにオルクセンに反論する筈が無い。

これは植民地主義の産物であり後世からは批判の対象となる(グスタフ王もそれを懸念していた)が、当時の星欧ではそれが罷り通っていた。そして「オルクセンが何故エルフィンドとの交渉のテーブルに着かないのか」に対する回答として十分なものであり、各国の和平周旋の機運は急速に萎んでいった。オルクセン王は半文明国を膺懲し必要な条約は自分達で結ぶ、だから邪魔をするなと言っているのだと各国は理解した。

キャメロット女王も不満の矛をひとまず収めた。彼女も植民地帝国の君主だ、大国の論理を作り上げそれで利益を得る一人である以上、オルクセン王にこれ以上の口出しは無用であると理解していた。

 

 

キャメロット航路の喪失と各国による仲介の可能性消失により、エルフィンド王国の命運は尽きた。

 

 

エルフィンド王国臨時首都ディアネン政庁

 

記事でシュタインメッツらによる発表を見た時、クーランディア元帥は新聞を引き裂きながら青い顔をして叫んだ。

 

「こんな、馬鹿な話があるか!」

 

お前らは文明国に値しない、よって交渉の必要性を認めない。戦争の終了もその条件もオルクセンが決める。これはそういう通告に等しかった。

本来エルフィンドは文明国待遇の筈だったが、マイアール号事件とレーラズの森事件、そして雨月革命が彼女達を半文明国へと格下げする理由になってしまった。どんなに怒ろうとも自業自得以外の何者でもなかった。

 

マルリアンはぐったりと椅子の背もたれに寄りかかりながら自嘲した。

 

「グスタフ王に外交戦で渡り合えると考えた私が浅はかだったよ」

 

かの御仁が120年の間に手を回し、そして作り上げ学んできた『星欧のルール』、それを自分はまるで理解しちゃいなかった。星欧外交界には星欧外交界のルールがあり、そしてルールを都合よく解釈する権利を持つのは大国。小国がいくらルールに則って戦ったところで、大国は必要とあればルールを捻じ曲げ都合の良いように解釈する。ましてや今回の事は都合の良いルールがあるだけで、反論の余地自体は何ひとつ存在しない。

上手く行けばキャメロットの仲介で講和出来るかもしれないなどと考えていた自分の横っ面をひっぱたいてやりたい気分だ。グスタフ王が本気を出せば、エルフィンドの外交戦の成果など紙吹雪のように吹き飛んでしまう。それを、いやという程思い知らされた。

 

ゆっくりと新聞記事を手に取り眺める。よくまぁここまでコケにしてくれたものだ、それも何一つ間違っていないのが余計に腹が立つ。

 

恐るべきはオルクセン王グスタフ・ファルケンハインだ。自分達は国際法を順守する正義の味方面をしながら、必要とあれば大国のエゴを容赦なく振りかざす。あぁ、まさしく魔王だ。

 

「無責任な後世の歴史家たちはきっとこう記すのだろうな」

 

マルリアンは薄く嗤いながらそのまま新聞記事を小さく火が灯る暖炉の中へ放り込んだ。

半文明国のもう一つの名前を思い出したのだ。

 

 

半文明国、またの名を野蛮国(、、、)

 

 

「野蛮なエルフの国は平和なオークの国を怒らせた、と」




※参考文献
小梁吉章 19世紀国際私法理論にいう「文明国」基準 広島法科大学院論集第14号(2018)
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