RollBack ~白エルフ達の最後の努力~【完結】   作:ぼっちクリフ

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荒れ果てた大地に種を撒き

オルクセンの発表はエルフィンド国民を激怒させた。当然だろう、野蛮人と思い込んでいたオーク達に「お前らこそ野蛮国だ」と名指しされて怒らない筈が無い。エルフィンド国民は政府に対しネニング平原で決戦を行い、オルクセン軍を打ち負かすべきだと叫んでいた。決戦の機運は限界まで高まっていた。

リョースタ轟沈とエルフィンド海軍の壊滅で意気消沈していた国民だが、それでもこの時期になると悲壮な決意を持ってオルクセン軍と対する国軍を少しでも応援しようという動きが広がっていた。国内の工場はフル稼働し弾薬を生産し続けている。何とか維持していたキャメロット航路から機械類と鋼材料を輸入し国内の工場も拡張していた。焼け石に水ではあるが、それでも弾が無ければ戦えない。フル稼働した工場から少しずつだがネニング平原へと弾薬は送られている。

また国内の人々には軍人の為に靴下を編む事が奨励されていた。何故靴下なのかという疑問はあったが、前線に出ない銃後の者たちも競って靴下を編んで知り合いの前線将兵に送った。こっそり靴下の中に煙草や包帯等の慰問品を忍ばせて送る者もおり、これが戦後、冬至祭の日に靴下にプレゼントを入れて贈る習慣の元になったと言われている。

 

一方のオルクセン軍も決戦の時が来たと考えていた。

グスタフ王の一手はエルフィンドの戦略にとって致命的な筈だ。もう時間稼ぎの遅滞戦闘も意味はなく、このネニング平原に集結した大軍のみが頼みの綱である事は明白。ならば相手は決戦に打って出てその戦果で外交戦の挽回を図るだろう、それも早期のうちに。時間が過ぎれば過ぎるほどエルフィンドの弾薬、食料は枯渇し第三軍もネニングに到着する、相手は早期決戦を望む筈だ。

 

その第三軍は思わぬ足止めを喰らっていた。理由はカランウェン中将の指揮するゲリラ戦だ。

『前回』の効果を知るマルリアンは徹底したゲリラ戦の為の準備をフェンセレヒ盆地に行っていた。簡易陣地の形成、食料や弾薬の備蓄、何よりもフェンセレヒ盆地およびエイセル峠の坑道の詳細な地図を持たせたのが効果的だった。特に狙いをつけたのが電信線だ。オルクセン軍の情報伝達の迅速化を一手に担う電信線に狙いを定めたカランウェンは付近の住民に対し「何か線のようなものを見つけたら知らせるように」と予め指示していた。また占領されたアルトリア内部に居る協力者、いわゆる都市パルチザンにも破壊工作ではなく電信線の場所を見つけるように指示していた。そして電信線の場所を特定すると魔術探知を使い警戒の居ない場所を襲撃、電信線を切断する事を徹底した。輜重隊や物資集積所のような所には護衛を張り付けられるが、鉄道や電信線を全てカバーするのは不可能だ。エルフィンド軍はこの戦いで「敵の居ない場所を魔術探知で探りその場所で破壊工作を行う」事を徹底していた。

 

第三軍は徹底的な山狩りと坑道の爆破、巨狼族の投入までしてゲリラ部隊の掃討と坑道封鎖を実施したが、ここで役に立ったのがデックアールヴの知識だった。デックアールヴは狩猟のプロであり、70年前にベレリアで行われた魔獣狩りでもおおいに活躍した。巨狼族に対する効果的な罠を設置しおびき寄せる方法をデックアールヴ独立大隊に所属する者らから聞いていたカランウェンはこれを活用、流石ににわか仕込み故に巨狼族を仕留める事は出来なかったがその行動を掣肘する事に大いに役立った。その頃になるとアルトリア市57万の住民も負担として第三軍の上に大きくのしかかるようになっていた。なまじ住民の被害がほとんどない状態で占領したせいで食料はどんどん消費されていき、さらにはファルマリア方面の輸送が不安定だった為に『前回』と違い第二軍からの余剰物資支援は第三軍側ではなく第一軍側に投入されており、パルチザンの多発により第二軍司令官アウグスト・ツィーテン上級大将が占領地宣撫工作の責任者としてネヴラスの総軍司令部に招聘されていた事も相まって第二軍からの支援は無きに等しかった。結果として第三軍は『前回』と同じようにゲリラによって長期間足止めされる事態に陥っていた。

 

さらにトドメとなったのがアルウェン市だ。『前回』アルウェン市長がオルクセン軍に協力していた事を知っているマルリアンはこの地でも徹底的に徴発を実施、特にオルクセン軍の食糧輸送に役立ちそうな馬車や手押し車まで含めアルウェン市内の食料と運搬器具を根こそぎ持ち去った。アルウェン市長は猛抗議し戦後までマルリアンら政府の悪評を喧伝し続けたがどうにもならなかった。流石に坑道爆破までされては延々と戦闘を継続するのは難しかったが第三軍の足止めに関しては完全に成功したと言えるだろう。カランウェン率いるゲリラ・コマンドはその数を大きく減らしながらもギリギリまでゲリラ戦を継続した後脱出している。

 

 

星暦八七七年五月二十二日

 

総攻撃の前日、国軍総司令官ダリエンド・マルリアン大将は全軍将兵に対し訓示を行っている。後にマルリアンはこの訓示を「駄文、悪文、剥き出しの感情を連ねただけの醜悪な金切り声」と自ら評しているが、それでもマルリアンはこれを全軍に言う事が必要があると感じていた。翌日の総攻撃の為ではなく、もっと先。この先白エルフ達に待っている大きな苦難の時代を乗り越える為の言葉を。それが荒れ果てた大地に種を撒くような、不毛な行為だとしても。

 

 

「エルフィンドに生まれこの地を守る白エルフ諸君。

我らは何故いま窮地に陥り、祖国は滅亡の瀬戸際にあるのか。

邪悪で醜悪なオークどもの欲望のせいか?

それとも前政権の者達の非道な行いのせいか?

 

違う。違うのだ諸君。

 

全ては我々のせいなのだ。

私と諸君ら、そしてこの地に住まう全ての白エルフ達のせいだ。

私達は自らの教義を信じ、白エルフが世界でもっとも優れ、もっとも美しく、もっとも完璧だと自負してきた。

 

私は問おう。

私達は世界でもっとも優れた者であるべく研鑽を重ねたか?

私達は世界でもっとも美しくあるべく謙虚でいたか?

私達は世界でもっとも完璧でいるために努力をしたか?

 

何もしていない!

成功に胡坐をかき、傲慢に他者を迫害し、努力する事を忘れた!

 

そうだ、今日のこの惨状は、私達自身の堕落と怠惰が招いたものだ!

私達は目を覚まさなくてはいけない、自らの足で立ち、自らの手で未来を掴まねばならない!

 

世界は私達を野蛮人と断じ、オーク達はこの国を飲み込もうと進んで来る。

これを止めてくれる誰かは居ない。他者に頼る事は出来ない。

私達がこの手で止めるしかないのだ。

 

優れた者とは研鑽を積み重ねた者だ。

美しい者とは謙虚で他者を慮れる者だ。

完璧な者とは完璧であり続ける努力をした者だ。

白エルフに生まれただけでそれらを得られると思っていたのが間違いだ!

 

私は責任を取る。今日この日まで研鑽を怠り、傲慢で在り、努力を放棄してきた責任を。

私は諸君らの先頭に立って剣林弾雨の中にこの身を置いて戦おう。

この身をもって国難に対する盾となろう。

 

もし諸君らが自らを変え祖国を守ろうと思うならば。

もっとも優れた者。もっとも美しい者。もっとも完璧な者。

白エルフでありたいと願うのならば。

 

私に続け、この国(エルフィンド)を、白エルフである事の誇りを守る為に!」

 

 

教義の解釈を曲げる、平時に聞かされれば教義派に弾劾されるかもしれない言葉。しかしそれを表立って追及する者はいなかった。もう、エルフィンド軍の頼りにすべき者、精神的支柱はマルリアンしかいなかったのだ。

世界はこの国(エルフィンド)を野蛮な国だと断じ、オルクセン軍は圧倒的な火力と凄まじい勢いで迫り、どうすればこの状況から抜け出せるのか何も分からない。そんな中で唯一方針を示し続け導いてくれたのがマルリアンだった。兵士たちは彼女が前線を見て回り将兵に声をかけ、昼食は自分たちと同じ携行口糧(レンバス)と缶詰で済ませ、寝るときは寝台列車で毛布一枚引っかけただけで寝ているのを知っていた。苦しい状況に振り回されながら戦争計画を練り、オルクセン軍を撃退する方法を考え続けているのを知っていた。どんな戦況でも兵士たちの前では不安な顔一つせずに不敵に笑い、冗談を言いながら自信たっぷりに指揮を執っている事を知っていた。

 

マルリアンの訓示には敵将シュヴェーリンの言葉のような熱狂を呼び起こす効果は無かった。

オルクセン王グスタフ・ファルケンハインの言葉のような安心と温かさを呼び起こすようなものでもなかった。

訓示を直接聞いた者、あるいは内容を伝えられた将兵の反応はまちまちだった。

無言で何も語らぬ者、啜り泣く者、歯を食いしばる者、反抗的な言葉を述べる者。

熱狂も歓声も無く、エルフィンド軍は静かに翌日を迎えた。

 

それでもマルリアンの訓示を聞いた者全てが、予定時刻に遅刻せず所定の場所へと集まり整列した。総攻撃開始の合図を、待ちきれないように。

 

 

白エルフ達の逆襲が、始まる。

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