RollBack ~白エルフ達の最後の努力~【完結】   作:ぼっちクリフ

25 / 33
マルリアンライン攻防戦④

ネヴラス強襲失敗、リダイアン少将戦死――

 

その報を聞いたマルリアンは小さく歯ぎしりをした後、すぐに後続部隊に対しイヴァネメルの騎兵隊と合流し再編の時間を稼ぐよう命じた。

 

「まだだ、もう一戦する時間くらいは作り出す」

 

苦しいのは敵も味方も同じだ、予備部隊のありったけを叩きつけたおかげで南翼軍が作り出した戦線の孔は維持出来ている。オルクセン軍は何とか穴を塞ごうと部隊を展開しているが此方の方が展開速度は上だ。このまま出血を強いて敵戦線が崩壊するか、それでも粘るならもう一度ネヴラスに対し戦力をぶつけるか。まだイニシアチブは此方が握っている、このまま押し切ってやる。

 

そう思っていた矢先だった。

 

「ま、マルリアン閣下ぁ!」

 

飛び込んできた伝令のもたらした情報に、マルリアンは絶句し立ち尽くした。

 

 

一方のオルクセン軍も対応に苦慮していた。ネヴラスを強襲してきた騎兵隊はアウグスト・ツィーテン上級大将と防衛陣の活躍もあり撃退出来たが、戦線に空いた穴、いわゆる「大破孔」を修復する見通しが立っていない。矢継ぎ早に後続を繰り出し圧力をかけて来るエルフィンド軍に対し、オルクセン軍はどうしても後手に回っていた。ネヴラス強襲のせいで総軍司令部が一時機能しなかったのも痛い、何としてもこの出血を止めなければ早晩戦線南で浸透襲撃を受けた第一軍団と第五軍団が瓦解してしまう。

 

「北翼はどうだ、突破出来たか!?」

 

「ダメです、敵北翼の陣地が固すぎます、突破には時間がかかるとの事!」

 

エルフィンド軍北翼陣地はオルクセン軍第四軍団の猛攻に怯まず耐えていた。敵の繞回による背後への浸透を警戒したマルリアンはこの北翼を全戦線でもっとも固い防御拠点として構築していた。その秘密は北翼軍が塹壕陣地の両端や火力の弱い場所にファフシャン・レフィエ連発砲を集中配備していた事にある。グラックストンとは別形式の機関砲であるこの連発砲をマルリアンは全軍から回収、この北翼の塹壕陣地に全て配置した。エルフィンド軍に存在した計50門中30門を戦線に配備、20門を北翼軍後方に予備としてストックするという徹底ぶりだった。中央軍は南翼軍の予備軍が支援できるが、北翼軍にはどうしても単独で耐えてもらう必要がある。その為の施策であり、これが功を奏し北翼軍は何とかオルクセン軍の攻勢に耐え戦線を維持している。

 

オルクセン軍総軍司令部でエーリッヒ・グレーベン少将は静かに考え込んでいた。エルフィンド軍南翼軍の開けた大破孔を閉じるべくこちらも予備戦力を動員しているが、敵が矢継ぎ早に繰り出す後続部隊に振り回されて後手に回っている。一方でマルリアンライン北翼陣地は守備が固すぎて抜くのに時間がかかる、モタモタしていては此方の南翼が崩壊してしまう。また敵のネヴラス強襲第二波がある可能性も否定出来ない、既に国王陛下には一等装甲艦レーヴェで(無理矢理)避難頂いたが、敵パルチザン残党が居た場合はネヴラスが失陥する可能性もある。オルクセン軍は現在完全にイニシアチブを失っている、これは良くない傾向だ。たとえ戦力で大きな差があろうとも相手にテンポを握られ続けコールド負けという可能性は大いにあるのだ。戦争の最終的な決着はオルクセンの勝利である事は間違いない。しかしエルフィンドを「半文明国」と宣告した以上、ここでオルクセン軍が一時的にであろうと負けるような事があれば西欧における面目を大いに失ってしまう。そんな事をさせるわけにはいかない。

 

「敵中央に対する攻勢しかないな」

 

「敵南翼軍の予備が睨みを利かせてますよ。あいつら攻勢の初期に橋を落とされたせいで立ち往生してますが、そのせいで薄い中央軍に対する予備として機能してます」

 

「カバーできているのは中央軍南側だけだ、中央軍北側、北翼軍との結節点から攻勢をかける」

 

「確かにそこなら敵も薄いですが、進出しても敵北翼と中央軍の挟み撃ちにあいませんか?」

 

「普通に進出するだけならな」

 

グレーベンはそう言うと地図の一点、エルフィンド軍の開けた「大破孔」を指でトントンと叩いた。

 

「俺達もこれをやるんだよ。ただし、もっとスマートにな」

 

 

「これは無茶だ!」

 

総軍司令部からの命令を受け取った第四軍団長レオン・シュトラハヴィッツ大将は思わず叫んだ。

 

 

一、第六軍団および第三軍団は敵中央軍と北翼軍の結節点を全力で攻撃すべし。

 

一、第四軍団は結節点の部隊が後退したのを見計らって進出、これを確保・維持し一定の時間敵後背に繋がる回廊を形成すべし。

 

一、回廊形成後は速やかに一軍を送りディアネン市を攻撃すべし。

 

 

敵中を突破し本陣を強襲、これをもって敵南翼軍の蠢動を抑え込む。まるでロザリンド会戦時代の戦法ではないか。南翼が崩壊しかかりネヴラスにまで敵が迫る情勢下で、総軍司令部はこんな博打を打つつもりなのか!

 

「ですが、理論上は可能だと思われます」

 

ディネルース・アンダリエル少将は静かに指摘した。第六軍団の持つ28センチ攻城砲による集中射撃と第四軍団の持つ12センチ榴弾砲による移動弾幕射撃。それがあれば敵戦線に大きな穴を穿ち、一定時間回廊を形成・維持する事は十分に可能だろう。「速やかに一軍を送り」というのが騎兵であるアンファングリア旅団を指している事は誰にでも分かる事だ。そしてアンファングリア旅団はダークエルフ、すなわちエルフィンド軍と同じように全員が魔術力を持ち、魔術探知で「敵軍の居ない場所」を探す事が出来る部隊。エルフィンド軍が使ってきた浸透強襲作戦の意趣返しというわけだ。事前の偵察、そして南翼側に次々と叩きつけられる敵後続兵力から見ても敵に予備兵力は残っていない。ディアネン市は今、ありえない程手薄だと言える。マルリアンラインの防御力への信頼と、まさか慎重なオルクセン軍がそんな博打のような策を打って来るとは思っていないからだろう。この機を逃す手は無い。

 

「理論上可能だからと言って、失敗すれば敵中に孤立し全滅してしまいます。作戦の再考を求め具申すべきではないでしょうか」

 

「味方南翼が崩壊しかかっている今、北翼の我々に打てる手は少ない。私は総軍司令部の案を支持します」

 

第四軍団参謀長ジークムント・ブロン少将も再考を求めるべきだと意見するが、ディネルースは心の中で2人の厚意に感謝しながらも自分はこの作戦を決行すべきだと意見を表明した。成算の一つに敵捕虜から入手した地図があった。士官が持っていたネニング平原に関する正確な地図で、エルフィンド製にしては精度の高いものだ。これがあればディアネン市付近の地形は把握できる。また仮に陥落させる事までは出来なくてもディアネン市にはエルフィンド軍総司令部、そして何より女王が居るのだ。これを放置して攻勢を継続する事は流石に出来ない筈。敵は中央を厚くする為に部隊を再編せざるを得ず、その間にオルクセン軍も「大破孔」を繕う貴重な時間を得る事になる。

 

「しかし……」

 

「師団長、戦には無理をして大博打を打たなければ勝ちきれない局面が必ずあります。その無理を、どうか我らにお任せ願いたい」

 

敵将ダリエンド・マルリアン大将は無理を承知で大博打を打っているとディネルースは確信していた。かつて共に戦った自分だから分かる、この攻勢はマルリアンがエルフィンド軍そのものをオールインして行っている最後の賭けだ。それをコールする(受けて立つ)ならば、せめてアンファングリア旅団くらい賭けなければならないだろう。

元々の計画では敵北翼先端を撃退し大規模繞回運動で敵後背を遮断する予定だったのだ。それに比べればディアネン市強襲は距離にしてみれば半分以下、騎兵の行軍速度ならば指呼の距離と呼んで差し支えない。

 

シュトラハヴィッツ大将は最終的に総軍司令部の案を受け入れ、第三軍団、第六軍団とともにディアネン市強襲作戦を決行する。

 

 

オルクセン軍の反撃が始まった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。