RollBack ~白エルフ達の最後の努力~【完結】   作:ぼっちクリフ

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※本編に関する重要なネタバレがあります、以降の章は必ずWeb版本編読了後にお読みください


エレントリ館の会談①

「エレントリ館に入ったオルクセン王グスタフ・ファルケンハインは逮捕されたダリエンド・マルリアンと直接面会し、その優性思想・白エルフ至上主義を問題視して戦犯として処すよう命じた」

 

史書に記されたエレントリ館でのグスタフ王とマルリアンの会談は事実とは完全に異なっている。

だが、この会談は決して史書には残せぬ類のものではあった。

 

 

逮捕・拘禁されたマルリアンは連日占領軍総司令部によって取り調べを受けていた。拘禁と言っても士官用の刑務所に1週間程入れられ取り調べを受けた後は自宅軟禁に切り替えられたが、一日一度占領軍司令部に出頭し占領軍最高司令官アウグスト・ツィーテン元帥による尋問を受ける事とそれ以外の外出禁止の他は特に制限を受ける事は無かった。

 

その尋問の内容だが、どうも占領軍総司令部は「オルクセン軍内部にエルフィンド軍のスパイが居るのではないか」と疑っているようだった。開戦直前になってエルフィンド軍があそこまで活性化した事、更には緒戦の奇襲が完全に失敗した理由としてマルリアンがオルクセン軍内部にスパイを潜ませているのではないかと疑っているらしい。まさか12年後から来た、などと言うわけにもいかないマルリアンは素直にそんな奴は居ないと答えている。内偵の結果オルクセン軍内部でもどうもスパイの線は無いと分かったようだが、今度はそれならば何故ここまではっきりとオルクセン軍の侵攻に対処出来たかが問題となった。どう答えるか困ったマルリアンだが、その懸念はとある出来事により解決する事になる。

 

六月下旬、オルクセン王グスタフ・ファルケンハインはティリオンに移駐、エレントリ館を接収し滞在する事を決めた。エルフィンド国民は自分達の「聖地」を奪われた事に悲嘆の声を上げたが、どうなるものでもない。

マルリアンにとって問題なのはその直後、占領軍総司令部から極秘の通達があった事だ。

 

「グスタフ陛下が貴女と会食をお望みです」

 

何でグスタフ王が自分と食事をしたいと申し出たのか、マルリアン自身にも見当がつかなかった。占領に関する諸事務の通達は占領軍総司令部が行っているし、そもそも逮捕されたマルリアンは現在統治に関わっていない。

とはいえ断る権利などない。仕方なくマルリアンはエルフィンド軍総司令官の礼装を着込み、エレントリ館へと出向く事になった。迎えは夜間、誰にも悟られないように輜重馬車を手配するという手の込みようでマルリアンは益々目的が分からなくなった。

 

到着して早々、エレントリ館の壮麗なたたずまいにマルリアンは嘆息する。軍務大臣の時に一度だけ女王のお供で入った事があるが、夜の暗闇の中でなおその美しさに目を奪われる。さて、オルクセンの魔王は一体どんな用事で自分を呼んだのだろうか。

 

奥の一室、会場には既に二人の人物が待っていた。オルクセン王グスタフ・ファルケンハイン、そしてアンファングリア旅団長ディネルース・アンダリエル少将。他に参加者はおらず、三人のみでの会食であった。占領軍最高司令官ツィーテン元帥すら席を外しているのかとマルリアンは内心驚いたが、顔には出さずにグスタフ王に対し挨拶する。

 

「お初にお目にかかります、陛下」

 

「急にお呼び立てして申し訳ないダリエンド・マルリアン殿」

 

穏やかで安らぐ声だ。シュヴェーリンとは違ってオークらしくないな、などと考えながらマルリアンは帽子を取ってお辞儀する。グスタフ王は和やかな調子でマルリアンも着席するよう言い、給仕に酒を注ぐよう命じた。もう一人の参加者ディネルースとは旧知の仲ではあるが、視線を向けても彼女は何も言わず此方を剣呑な視線で見つめるだけだ。仕方のない事だが友好的な雰囲気とは言い難い。わざわざ挨拶をしても嫌味なだけか、と軽く会釈するのにとどめておいた。どうも彼女はあくまで立会人兼護衛役のようだ。

 

会食が始まるとマルリアンの疑問はすぐに氷解した。ワインがグラスに注がれ饗宴が始まった所で、グスタフ王は唐突にマルリアンに対したずねたのだ。

 

「マルリアン殿、失礼を承知で聞きます。もし覚えが無い事であれば忘れて下さって構わないのだが」

 

グスタフ王は手にワインを持ったままじっとマルリアンを見つめながら言葉を紡ぐ。

 

「貴女は、今から12年後までの記憶をお持ちではないかな?」

 

 

グスタフがエレントリ館を接収し黄金樹を見た時に見つけたあの石碑、この世界の真実と真相の書かれたあのオブジェクトのすぐ近く。彼はそこでもう一つ古代の物らしき物品を見つけたのだ。それは水晶の板――彼が元居た世界で言う所のディスプレイのようなものそっくりだった。そこにはこう書かれていた。

 

 

「ERROR:08870610

主体験地域ワールドマップデータと海洋管理データが一致しません。サーバー管理データをアップデートします。

 

ERROR:08870610

サーバー管理データにアクセスできません、データ修復を実行します。

 

ERROR:08870610

データ修復を完了できません。緊急措置としてワールドデータのロールバックを実行します。

 

ERROR:08751110

4230Dayのロールバックを完了しました。データ照合を開始します。

 

ERROR:08751110

不正なオブジェクトの干渉を確認。一部キャラクターのロールバックが失敗しています。

 

ERROR:08751110

不正なオブジェクトの消去を完了。運営にて個別に処理を行いエラーを修復して下さい。

対象名:ダリエンド・マルリアン。

 

ERROR:08751117

データ照合未完了につきこれ以上のロールバック処理は不可能です。修復プログラムを停止します。再起動の場合はお手数ですがサーバー管理会社までご連絡下さい」

 

 

この文言を見てグスタフは理解した。どうやらこの世界は一度12年後まで進み、そこで何かがあって大規模なロールバック、つまりは巻き戻しが発生したらしい。その中で何故かマルリアンだけがロールバックの影響を逃れた、とこの文言……おそらくはエラーログから読み取れる。つまりマルリアンはこの世界でただ一人、12年後の記憶を持つ存在となったのだ。グスタフはそれでエルフィンド軍の不可解な動きの理由を悟った。エルフィンドで何故星暦876年2月に急にクーデターが起こったのか、そしてオルクセン軍の侵攻に対応しその戦略を見通すかのような動きをするようになったのか、これで全て説明がつく。その仮説を裏付ける為に、今日マルリアンを食事に招いたのだ。

 

グスタフはこの世界の真実を伏せ、あくまで何か不可解な現象で世界が12年間巻き戻った事、そしてマルリアンだけが何かの影響でその巻き戻りを逃れた事を説明した。この世界にはインターネットやサーバーどころかコンピューターの始祖である電子計算機すら発明されていない、あくまでもこの世界の文明で分かるような説明を心がける。

 

「おそらくですが、12年後の世界で何か大きな地形を変えるような事があった……シルヴァン川の運河が完成したのでは?」

 

「……その通りです。丁度シルヴァン運河が完成したばかりだった」

 

マルリアンの言葉にグスタフは頷いた。シルヴァン運河は既に彼が構想を終え、この戦争を終えたら着手しようとしていた占領構想の一つだ。12年後の世界ではおそらくその巨大運河の完成が原因でこの世界にバグが発生し、その修復の為にロールバックが起こった。しかしそのロールバックが、何故かマルリアンには起こらなかった。

 

「おそらく、何かが原因で貴女には12年後の記憶が残り続けた。心当たりはありませんか?」

 

「心当たりと言っても……」

 

「例えば、お手持ちの何か重要な物品が消えたりとか、そういう事は?」

 

あのエラーログでは何かオブジェクトが影響を与えたと言っている。そのような物を誰かが持っていれば世界に影響を与えるかもしれない、グスタフとしては正体を特定しておきたい所だった。

だがマルリアンにしてみれば、12年の隔たりで何かが消えたと言われてもそうそう思い出せるものではない。強いて言えば古道具屋で買ったドールハウスの家具が消えたぐらいだ。今は無きミールダイン工房の作品で見つけた時は狂喜乱舞したものだが、流石に「重要な物品」とは言い難い。

 

「心当たりはありませんね」

 

「そうですか」

 

グスタフ王はそれ以上追及しようとはしなかった。とりあえず「修復プログラム」はもう動かないらしいし、流石の彼にも手に負えない規模の話だ。代わりに彼はマルリアンの体験した12年間の話を聞きたがった。『前回』の自分とオルクセン軍はどのように動き、それに対しエルフィンド軍はどう対応したのか。是非知っておきたかった。

断る権利も無し、既に12年を経験した事を知っているなら隠す理由も無いだろう。マルリアンは自分が『前回』に経験した事――オルクセンの奇襲で慌てふためくエルフィンド軍、アルトリアの攻防、ネニングの会戦、そして戦後の処理などを全てグスタフに話した。グスタフは食事をしながら興味深そうに、時に合いの手を入れながらマルリアンの話に聞き入っていた。対するマルリアンはちびちびとワインを飲むばかりだった。元来食が細いのもあるが、流石にこのオルクセン王の前で食事をするほど図太くはなれなかった。

 

一通り12年間の話終えると、今度はマルリアンがグスタフにたずねた。

 

「グスタフ王、折角の機会ですのでひとつお聞きしたいのですが」

 

「何ですかな?」

 

マルリアンはワインでゆっくりと口を潤した。この質問をするのはなかなかに度胸がいるが、どうしても聞いておきたい事だったのだ。

 

 

「何故そこまでして我が祖国(エルフィンド)を滅ぼそうとなさったのか?」

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