RollBack ~白エルフ達の最後の努力~【完結】 作:ぼっちクリフ
星暦八七五年十二月二十五日、クーランディア元帥の家で冬至祭の祝宴が営まれた。
常日頃は質素な事で知られるクーランディアだが、今年の冬至祭は豪華な御馳走を用意し軍高官を何人も招いていた。
秘密警察はこの祝宴が何かしらの政治的意図を孕んでいるのではないかと怪しみ、調査を開始。
結果として出てきたのは……
「クーランディア元帥は旧友のマルリアン大将と賭けをして勝ち、グロワール産の超高級ワインを巻き上げた。今年の冬至祭でそれを見せびらかすように飲む気だ」
……秘密警察もこれには呆れたが、それでも偽装を警戒し何人かの内通者をクーランディアの家へと派遣した。
祝宴は和やかなうちに行われた。
クーランディアはいつもより陽気で酒を過ごし、マルリアンは終始不機嫌そうにしていた事以外は普通の宴であった。
やがて祝宴が終わると一人、また一人とクーランディアの家を辞していく。
だが、今日のクーランディアは完全に出来上がっていた。
呑み直しだとばかりに奥の私室に酒宴の用意をするよう家令に命じると、玄関に向かおうとする旧友の肩に手を回す。
「マルリアン! 今日の主役は君だぞ、何を帰ろうとしている!」
心底嫌そうなマルリアンが引っ張られて行くのを見て何人かの高級将校が付き合いで残ると表明。
秘密警察の内通者を含む他の参加者はやれやれと肩を竦めながら帰宅した。
「――集まってくれて感謝する」
奥の部屋に入ったクーランディアは一同を前にして頭を下げる。
彼女は素面だった。酔っていたのはおそらく紛れ込んでいるであろう秘密警察の目を欺く為の演技であった。
クーランディアの目の前には、彼女とマルリアンが密かに連絡を取り集めた信頼できる白エルフ達が揃っている。
トゥイリン・ファラサール海軍大将
アノールリアン・イヴァメネル中将
ファンリエン・ヴェルナミア少将
セレスディス・カランウェン少将
ミリエル・カランシア海軍少将
リダイアン大佐
2人がこれと見込んだ6人の高級将校たちを前にクーランディアはこの会の目的を説明する。
「――つまり、目的は対オルクセン王国の戦争計画を練る事ですか」
ヴェルナミアの言葉にクーランディアは頷く。
「詳しくはマルリアンから話そう」
マルリアンはクーランディアに語ったのと同じ事を語り始めた。
自分が12年もの時間を遡ってきた事。
この後起こるエルフィンド外交史に残る失敗と開戦、そして地獄のようなベレリア戦争。
『将軍たちの叛乱』、そして敗戦と滅亡、女王の退位。
面くらった6人はそれぞれ顔を見合わせた。
話があまりにも突拍子でついていけなかったのだ。
「にわかには信じ難いな」
呟くファラサールに同調するように他の5人が頷く。しかしクーランディアは言い切った。
「マルリアンが根拠の無い妄想を言う筈が無い。私はその確信を得る証拠を持っている」
「証拠?」
「
その言葉を聞いた瞬間、ファラサールの顔に苦悶の表情が浮かんだ。
他の5人は訝しげに2人を見る。
「クーランディア! その話は……!」
「マルリアンは全てを知っていた。現場も見たそうだよ」
「すみません、我々にも分かるように話していただけませんか?」
イヴァメネルが静かに言う。この無口な騎兵中将が口を挟まねばいられない程、2人が話している事には何か重大な意味があるとこの場の全員が感じていた。
マルリアンは再び静かに語り始める。
「シルヴァン川流域に住む
ファラサールは俯き、他の5人はあまりの驚愕に言葉も無かった。
その中で一番始めに驚きから立ち直ったカランシア少将はマルリアンの方を見て言った。
「証拠はありますか?」
カランシアは海の女だ。憶測や推測で航海を行えば待つのは沈没のみ。
明確な根拠とそれに伴う航海技術こそが彼女の根幹。故にどんなに説得力のある言葉よりも証拠を求めた。
「これでも信じられんか?」
マルリアンは机の上にひとつの袋を置いた。
そこからほのかに感じられる魔力に一同は驚愕した。カランシアが震える手でその袋を開ける。
「護、符……!」
そこから出てきたのは、およそ50にもなる『白銀樹の護符』だった。
例外なく土で汚れており、中には欠けたものや焼けたもの、血の痕がこびりついたものまである。
護符は白エルフにとっても神聖なものだ。この世に生まれた祝福であり、白銀樹のもとへ戻る道標でもある。
その護符がここにある、という事は……
「私の有り金で買い戻せたのはそれが全てだった」
「国境警備隊のヤツら、護符を金に換えたのか!?」
「落ち着けリダイアン」
怒りのあまりリダイアンが立ち上がるのを姉であるカランシアが制する。
マルリアン曰く、国境警備隊に埋める死体の護符を譲ってくれるよう申し出た所、金を要求してきたらしい。
「腐りきってやがる」
イヴァメネルが忌々しく呟くのに他の5人も口々に同調した。
クーランディアは心配そうにマルリアンに声をかける。
「大丈夫かマルリアン、護符を買ったのが君だとバレれば秘密警察に付け狙われるぞ」
「なに、フードで顔を隠していたからな。あいつら、私の事を世間知らずのお嬢様とでも思っていたようだ」
鼻で嗤うマルリアンを見て場の空気が少しだけ緩む。
なるほど、マルリアンの姿は顔を隠せばあどけない少女にしか見えない。
「それで、どうするんだクーランディア、マルリアン」
他の5人を代表するようにファラサールが訊ねた。
クーランディアはマルリアンに目配せする。
「現政権を排除する」
マルリアンは事もなげに言い放った。
他の5人は驚いたが――それでも、異を唱える者は居なかった。
ダークエルフ達に対する扱い、特に護符を見た彼女たちは腹に据えかねていたのだ。
「現政権を排除し女王親政の形を取った臨時内閣を形成、対オルクセンの戦争準備を行う」
「……それしかあるまい」
ファラサールの言葉に他の5人も同意した。
本来ならばどんな政府であろうとも軍はそれに従い、政府が滅びるならばそれに殉じるのが常道。
しかし現政権は完全に暴走している。そしてそれを穏便に止める方法が存在しない。
民主主義国家であればそのような場合に政府を掣肘し対抗するのが議会であり選挙であるが、あいにくエルフィンド王国にはどちらも存在しない。
そして政権を止める力を持つのは軍部しか存在しない。
正道を取って国家が暴走し民が不幸になるのを傍観するのか。
非道の手段で悪しき前例を作り軍の信頼を失墜させるのか。
どちらを選んでも地獄が待つのなら。
「せめてマシな地獄を、我々の手で掴み取ろう」
マルリアンの言葉に、その場にいた全員がグラスを掲げた。
エルフィンドの未来を憂い動き始めた8人の白エルフ。
彼女たちは後世『