RollBack ~白エルフ達の最後の努力~【完結】   作:ぼっちクリフ

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エレントリ館の会談②

マルリアンの問いにグスタフは少し目を細めた。マルリアンはグラスを置くと、ディネルースから発せられる剣呑な気配を感じ言葉を続ける。

 

「誤解しないで頂きたいが、我らに滅ぼされるだけの理由が無かったとは言わない。エルフィンドのしてきた所業を思えば滅ぼされても文句は言えないだろう。ただ……」

 

慎重に言葉を選びながらテーブル上のワインの赤を見つめる。そう、この戦争が始まる前から、『前回』から不可解であった事。それは。

 

「グスタフ王は合理性を超えた所でエルフィンドを滅ぼしたがっている。私にはそうとしか思えないのです」

 

滅ぼさずともエルフィンドを支配する方法などいくらでもある。それこそ傀儡政権を立てて間接統治の形態で経済を支配し、資源だろうが労力だろうがいくらでも搾取すれば良い。南部シルヴァン川流域のみを割譲させそこに運河を通せば経済的にエルフィンド北部は干上がるし、オルクセンがやらなくてもファーレンス商会がそれこそ禿鷹の如く商圏を食い荒らすだろう。エルフィンドを滅ぼし併合するというのは手間と時間と金がかかる割に得るものが少ないのではないか、それがマルリアンの仮説だった。

 

「これが12年巻き戻る前の世界だったらまだ理解できました。しかし、今回のオルクセンはそれこそエルフィンドを滅ぼす事に関しなりふり構っていないように感じまして」

 

『前回』におけるエルフィンドの外交はそれは酷いものだった。オルクセンを対等の交渉相手と見なさず攻められるがままに放置しそのうち事態が打開できると高を括って何もしていない。それこそ滅ぼされても文句の言えないような外交をしていた。しかし今回は違う。一応交渉窓口を開き交渉条件を引き出す為の打診を続けていた。にも関わらずオルクセンはエルフィンドを滅ぼす事を優先し楽な道を放棄したとしか見えない。

 

「ええ、ですから私は考えました。オルクセンはエルフィンドを滅ぼし、併合したがっている。どんな労力をかけリスクを取ろうとも。これは何故か」

 

マルリアンの頭の中に一つの仮説がある。『前回』のアルトリアで気付いた魔種族の弱点、そして今回の戦争で見たオルクセンの不可解な行動。これらは全て……

 

「魔種族は次の戦争を戦えない、故に陛下は我らエルフィンドを見せしめになさった。『オルクセンに逆らう者はこうなる』という事を、世界に知らしめた。違いますか?」

 

グスタフ王は何も語らず、表情一つ変えなかった。しかし、隣の黒エルフ(デックアールヴ)――ディネルース・アンダリエルは一瞬だけ肉を切るナイフを止めてしまった。マルリアンはそれを見逃さない。その仕草が何よりも雄弁に正解を物語っていた。

 

魔種族同士の近代戦の問題点、それをダリエンド・マルリアンは『前回』のアルトリア戦の時点で見抜いていた。出生率が低くかつ不老長寿の身体を持つ魔種族は殺傷能力が高い兵器が使われる近代戦を戦えない、戦えば多くの死者とさらに多くの負傷者が出て魔種族は種として滅びてしまう。そしてオルクセンもそれを理解している、火力偏重で可能な限り砲撃で決着をつけようとした「火力主義」。あれこそオルクセンが近代戦の死傷者を限りなく減らす為に編み出したドクトリンだ。

しかしそうなると非合理な事が一つある。そこまで近代戦の被害を抑え種としての延命を志すオルクセンが、何故無理矢理にエルフィンドを戦争で滅ぼそうとするのか。はっきり言えばあの時点でのエルフィンドはオルクセンの脅威とならない、なる筈も無い。戦争の被害をもっとも恐れる国が戦争を他国に仕掛ける。この非合理性を解こうとした時マルリアンが辿り着いた答え。それが「見せしめ」だった。

実際に効果は覿面だった。世界各国の新聞はオルクセンの武威を称賛し、陸戦の軍事力で言えば星洋随一であるというのがオルクセン軍に対する率直な評価だ。ベレリアント半島を併合すれば国家規模や経済の面でも列商2位の地位は揺るがない。今後オルクセンと戦争をしようなどと積極的に考える国家は当分の間現れないだろう。

 

グスタフ王はその言葉を聞いてゆっくりとマルリアンを見つめ言った。今までの温和な態度とは違い、無表情で冷たい雰囲気を漂わせ、気のせいか部屋の空気まで重くなったようで息苦しささえ感じる。マルリアンは背筋に冷たいものが走るのを感じ身震いした。

 

「だとしたらどうする?」

 

今までの言葉とは違い、酷く冷たい声。冷酷なる魔王の声だ。有無を言わさない圧倒的な迫力。なるほど、諸国の恐れるグスタフ王の怒りとはこれほどまでのもので、『前回』のエルフィンドはこんな牡を怒らせたのかとあらためて感心してしまった。

 

だがマルリアンは再びグラスに口をつけながらさらりと返した。

 

「特に何も。答え合わせをしたかっただけですので」

 

拍子抜けしたような顔のグスタフ王を見て、ようやく一本取ったとマルリアンは内心満足していた。全くこの御仁は、冷徹な判断でエルフィンドを外交的に孤立させ滅ぼす魔王でありながら、内面は底抜けのお人好しではないだろうか。おそらく彼はマルリアンが憤慨し、悲憤し、我らの祖国をそんな理由で滅ぼしたのかという罵声が飛んでくると思っていたに違いない。そしてそれを魔王として受け止め、全ては私の一存でやったと言って一人でその責任を引き受けるつもりだったのだろう。

マルリアンに言わせれば、そんなものは見せしめにされる方が悪い(、、、、、、、、、、、、)のだ。それが嫌ならば平素から国を守る為、大国の思うがままにならない為に備え、国際外交で強かに立ち回るべきだったのだ。それを怠ったエルフィンドは滅びた。滅びて当然だった。

 

「それに私も人の事は言えません」

 

マルリアンは語った。12年の記憶を持って戻った時、自分はこの国に『より良き負け方』をさせる為に戻って来たのだと語り同志を集めこの国を乗っ取った。その言葉に偽りは無い、しかしそれが全てではない。自分には別の思惑もあったのだ、と。

 

「かつて私はアロイジウス・シュヴェーリンから施しを受けました。私にはそれが許せなかった」

 

届いた食料を輜重馬車ごと突っ返し、特別扱いするなと吠え立てた。だが、その心の奥底にあった一言。決して言ってはならない一言を押し殺し、封殺して鍵をかけ見て見ぬフリをした。それは子供じみた言い訳であり、そんな事を思いついてしまった事自体を恥じるべきものであった。

 

「お前達は生まれた国と主君に恵まれていたくせに、と」

 

120年も惰眠を貪り挙句に世間から背を向けていながら何という言だと、今思い出しても顔から火が出るようだ。それが稚気であり、癇癪である事は誰よりも自分自身が知っていた。だが、12年の時を戻った事でその言葉は心の奥底から這い出て来た。己がエルフィンドを差配し、思うままにオルクセン軍との戦いを指揮すれば。そうすれば……

 

「結果はこれです。私はエルフィンド軍将兵を私物化し多くの犠牲を出した。責任があるとすれば、それは私の方だ」

 

グスタフはその言葉を聞いても何も言わず、給仕に目で合図をしマルリアンのグラスにワインを注がせた。ゆっくりとグラスを傾けるマルリアンと視線は合わせずにグスタフはたずねた。

 

「その『よりよき負け方』について、良ければ聞かせて頂きたい」

 

マルリアンの心情よりも、グスタフの興味はむしろそちらにあった。聞く限りでは『前回』の結果とこの世界はあまり変わったようには思えない。グスタフの望み通りベレリアント戦争は完遂され、エルフィンド王国はいずれオルクセンに併合される。多少時間はかかるかもしれないが、そこまで何かが変わったようには思えない。

 

マルリアンはグラスから口を離すときっぱりとグスタフに告げた。

 

「貴方にかけられた『魔王の呪い』を解く事、それが私の考えたよりよき負け方です」

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