RollBack ~白エルフ達の最後の努力~【完結】 作:ぼっちクリフ
――ここに記すは、白エルフ族の苦難の歴史。
ベレリア戦争が終わり、国無き民であり「野蛮人」の烙印を捺された我らの、耳を塞ぎたくなるような、目を覆いたくなるような記録だ。
それでも見たいというなら、しばしお付き合い願いたい。
国軍総司令官ダリエンド・マルリアン大将は正式に戦犯として裁判を受けた。
戦争及び他種族迫害に関する責任を調査する一五名委員会による調査と裁判により彼女に言い渡されたのは死刑。ただエルフィンド内外から減刑願いが殺到した事、また処刑すると影響が大きすぎる事から量刑は無期懲役に減刑されている。彼女は粛々と裁判の結果を受け入れ、
戦後、ダリエンド・マルリアンの名声は地に墜ちた。彼女は白エルフ族の優性・選民思想に染まり、オルクセンに無謀な戦争を挑んだ人物として戦争の全ての責を負わされ、国内の新聞各社はマルリアン批判を展開する。一方で彼女は侵略者に対抗し最後まで戦い抜いた名将、国と種族の為にその身を捧げた者という評価も確かに存在した。この評価は主に彼女と戦ったベレリア戦争の生き残りが主張する事が多く、特にマルリアンライン攻防戦の生き残りは揃って「マルリアン将軍こそ我らの希望だった」と発言している。マルリアンに関する評価は現在に至るまで二分されており、論争が絶えない。彼女自身は星暦八七七年、オルクセン連邦がエルフィンドを併合した時の恩赦減刑で釈放されたが、ベレリアント半島には残らずオルクセン連邦メルトリア州に移住したという。その後の消息は杳として知れない。
戦後のベレリアント半島は酷いものだった。暫定政権は戦時外債の返済計画としてベレリアント半島全域に対し一回限りの財産税を課税、これにより主流派氏族の財産を撒き上げ外債返済の元手とした。市民は反発してオルクセンに財政援助を頼むよう要求したが暫定政権は断固としてこれを拒否、さらには財産税を絞り取る為に新紙幣発行や銀行封鎖、払おうとせず逃げようとする大地主の土地の強制回収や国家憲兵隊による制圧まで行った。市民は暫定政権に対しあらん限りの罵声を浴びせたが暫定政権は占領軍総司令部の威光を振りかざし「この外債は白エルフ族が借りたモノであり、我らの手で返す義務がある」と一切聞き入れなかった。結果として戦後のベレリアント半島の経済状況は最悪を更新、占領軍に対する身売りや乞食が横行する有様となったが、それでも暫定政権は財政再建と外債返済を諦めなかった。12年後のエルフィンド併合時にはベレリアント半島各州による拠出金で(かなりの長期間にわたるが)返済の目処が立っていたという。
農地改革は比較的スムーズに進んだ。ただしあくまで比較的、であり大地主からの反発は大きかった。それでも農務官僚達はオルクセンの助けを借りながら大規模農園を解体、小作人の解放を成し遂げた。主流派の大地主の中には失輝死した者まで出たという徹底的な改革であり、何とかベレリアント半島の戦後食料事情は改善傾向へと向かった。ただ土地が瘦せている問題だけはどうにもならず、土地の質改善に関しては完全にオルクセンとグスタフ王を頼る形となる。12年後のエルフィンド併合にあたり農務官僚達の影響を受けた白エルフの学生たちがオルクセンのヴィルトシュヴァイン大学に留学、エルフィンドの土地改善や白銀樹の研究をしているという。
白エルフ族への迫害は酷いものがあった。オルクセン王グスタフ・ファルケンハインは国内での白エルフ族迫害を禁じ全ての魔種族を公平に扱うよう心掛けているが、誰しもがそんな高潔な心を持てるわけではない。有形無形のあらゆる差別が白エルフ族に対し為されたが、これが公に取り締まられる事は少なかった。取り締まる側も魔種族でありかつて白エルフ族に同じように差別された者がいる中では、どうしても迫害する者に対する捜査は甘くなる。白エルフ族は屈辱の中で日々を過ごすしかなかった。
ただ、人間族からの視線は徐々に和らいでいた。白エルフ族が人間から借りた外債を少しずつでも返済している事、キャメロットとの交易を最後まで維持しその船団を護った事、また暫定政権二代目首相のラエリンド・ウィンディミアが在キャメロット駐箚エルフィンド公使を務めていた事などが関係しており、白エルフ族と人間達との交流は細々とだが続けられている。
また、新たに生まれた産業もある。ベレリアント半島では通信事業が活発となった。占領軍総司令部がティリオンに進駐した時、市内での夜間魔術通信が完全に禁止された。これにより魔術通信で夜間取引をしていた者達が困り果てる事態が発生したが、この時一人の白エルフがティリオンに電話を持ち込んだ。彼女はかつてエルフィンド軍、そして今は占領軍総司令部の電信修理工で、機械に詳しかった。その白エルフはエルフィンド地域に対し電話の特許が取られていない事を発見したのだ。魔術通信が盛んなエルフィンドでは電話など使われる事は無いと思って取っていなかったと思われる。これ幸いに彼女は電話を生産、魔術通信が使えず難儀している業者に売りつけ通信事業を立ち上げる事となる。後に発明された無線通信事業にも乗り出し、ベレリアント半島は通信事業者の一大拠点となる。
マルリアン以外の者達がどうなったのかの動向も記しておこう。
<エレンミア・アグラレス>
女王は戦後ベレリアント半島各地を巡る長い旅に出た。時には列車で、時には馬車で。戦争の被害にあった地域や戦争による徴発で困窮している地域を訪れ、膝をついて人々の話を聞き、手を取って励ました。占領軍総司令部に掛け合いこの旅を了承してもらう為、監視付きで費用は女王の私物を売り払って作るとまで言い切った。12年後のエルフィンド併合時に退位、以後王女を名乗り「黄金樹の守護者」となる。現在はエルフ系種族の赤子を保護し育てる財団の名誉顧問を務めている。
<サエルウェン・クーランディア>
名声が地に墜ちたマルリアンに代わり持ち上げられたのがクーランディア元帥だった。彼女はエルフィンドの守護者であり軍神であると祀り上げられ、ベレリア戦争戦没者墓地はその名前を冠され公園が併設され合わせて「クーランディア戦没者墓苑」と命名された。
<トゥイリン・ファラサール>
暫定政権初代首班を1年務めた後に引退、エレンミア・アグラレスの侍従としてその巡行の旅に同行する。特に独立過激派の行動を抑える事に心を砕いており、「今は雌伏の時である」と説得して激発を抑えさせた。
<アノールリアン・イヴァネメル>
戦後エルフィンドでは復興競馬が開催され、後には競馬場が新設される事になった。競馬場の名前は「黄金樹競馬場」、かつての近衛騎兵隊の名前を冠した場所には馬に乗った彼女の像が建立された。
<ファンリエン・ヴェルナミア>
戦後はエルフィンド軍復員事業に従事、退役した兵士たちの再就職などの斡旋に力を尽くす。ただ怪我を押して激務を行った事で体調を崩し、復員事業完了後は軍を去り田舎に戻り静養する。
<セレスディス・カランウェン>
戦時中各都市で徴発を行った事からアルウェン市長をはじめとした市民達がカランウェンの罪を告発、一時は死者ながら戦犯に加えるべきだとされたがアロイジウス・シュヴェーリン元帥がこれに不快感を示した事で無かった事になる。彼女の遺体はベレリア戦争戦没者墓地に葬られた。
<ミリエル・カランシア>
戦後彼女の帽子はノアトゥンにある海洋訓練校に寄贈され展示された。後にファルマリア港に出来た海軍記念館へ移転、ベレリアント半島の船乗りは初めて海に出る前に必ずその帽子の方に向かって敬礼する習慣があると言われている。
<リダイアン>
長くオルクセン王グスタフ・ファルケンハインの暗殺を狙った不届き者としてその名は貶められていたが、後にグスタフ王を狙ったものではないと公式に認められ戦没者墓地に埋葬される事が許可された。
<デライウェン・コルトリア>
ヴェルナミアと共に復員事業に従事した後に退役するが、ユールレイエンに参加していないというその経歴を買われ内務省国家憲兵隊予備隊の顧問としてその創設に携わる。
<アダウィアル・レマーリアン>
財務省に協力を続け外債返済計画を策定、「財政の鬼」の異名をとる。12年後エルフィンド併合時、外債返済計画が軌道に乗った事で引退、念願の独立商人として活動を始める。
<カティエレン・タルヴェラ>
建設業者として復興の指揮を執りながら政治家としての基盤を固め、ベレリアント半島を基盤としてオルクセン連邦の政治家になる。後に白エルフ族初の大統領となり歴史に名前を残す。
<ラエリンド・ウィンディミア>
キャメロットより帰国後第二代暫定政権首相に就任。以後エルフィンド併合の時まで暫定政権首班を務める。デックアールヴ虐殺に関与しているという噂もあったが、それに関する資料は全て廃棄されていたという。
<デックアールヴ独立大隊>
ベレリア戦争戦没者の合同国葬でデックアールヴ氏族の正統後継者として名指しされた事で王妃ディネルースおよびその周囲の不興を買い、オルクセン新聞各社は一斉にデックアールヴ独立大隊を合同国葬から除外すべきとの社説を打つ。しかしオルクセンの意向に従順な暫定政権がこの時ばかりは断固として介入を拒否し彼女達を合同国葬に参加させた。女王を護った勇士としてその名は語り継がれている。
<エルフィンド王国>
星暦八八七年十一月、オルクセン連邦に併合される。その終焉は既にベレリア戦争直後からの規定路線であり多くの白エルフ達は従容として受け入れた。その名前が歴史上に再び登場する事は無かった。