RollBack ~白エルフ達の最後の努力~【完結】   作:ぼっちクリフ

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雨月政変①

2月初頭、ダリエンド・マルリアン大将は王宮に参内、女王エレンミア・アグラレスに謁見した。女王はこれまでのマルリアンの功績を褒め称え、マルリアンをエルフィンドの守護者とまで言い切った。

マルリアンは恐縮しながらも自分のような化石が軍最高幹部の地位を占めていては近代戦に対応できない、と退役を示唆。これに対し女王は『余人を持って代え難し』として何とか地位に留まるよう慰留する。

 

午後16時から始まった謁見は日没まで続いたが結論は出なかった。女王はマルリアンに夕餉を共にするよう命じ、マルリアンもこれを受け王宮へ宿泊する事と相成った。

マルリアンと共に侍従武官長ファラサール大将も王宮に宿泊、翌日再び遺留の為の話し合いがもたれる事となった。

 

結局1日で謁見が終わらなかった経緯には少しばかり理由がある。

何故こんな遅い時間から謁見が始まったのか。それは参内の日の昼前に起こった。

 

「女王陛下はマルリアン閣下の参内に際し、四頭立ての馬車を迎えに寄越されました」

 

ティリオン政庁にもたらされたこの報告が問題になった。

四頭立ての馬車を迎えに出すのは閣僚級、もしくは元帥位を持つ者に対しての待遇であり未だ大将位のマルリアンが乗るには相応しくないというのが教義大臣モリンドを始めとする教義派からの意見として出て、対して陸軍大臣ウィンディミアら穏健派は陛下の格別のご高配であり逆らうのは不敬ではないかと反論する。

ダリンウェン首相も流石にこの問題には悩んだ。慣例的に言えばモリンドらの意見が正しい。しかしこれは女王がマルリアンに対し「退役時の元帥昇進を仄めかしたもの」とも取れる。となればこれを断ってしまうと返って女王にマルリアン遺留の理由を与えてしまうものになるかもしれなく、それはマルリアンを軍から追い出したいダリンウェン首相としては困るのだ。

閣議は昼食を挟んでも続き、王宮近侍や大学博士らの意見まで求める事態にまで発展。普段ならばこんな面倒な事があればとっとと歩いて出発してしまうであろうマルリアン大将が珍しくティリオン政庁内で閣議の結論を待っていた事もあり、出発する時には時計の針は15時を指そうとしていた。

 

結果として馬車の件は以下のような結論となった。

 

「マルリアン大将には恐れ多い事と一度断ってもらい、侍従武官長ファラサール大将が陛下の格別の配慮ですのでと無理矢理マルリアン大将を一緒に乗せる」

 

――他国人が見れば呆れるであろうこの猿芝居を本人たちは大真面目にやった事で、ようやく参内の馬車の件は片付いた。

後に分かった事であるが、馬車の派遣を女王に進言したのはファラサール大将本人であった。

 

 

「お入りなさい」

 

女王は小さなノックの音に対しそう告げた。

人々が寝静まった王宮内。近侍にも下がるように言っており室内に居るのは来客2人、ダリエンド・マルリアン大将とトゥイリン・ファラサール大将だけだった。

 

馬車の件はこの密会を用意する為の芝居だった。秘密警察に気取られないようにマルリアンとファラサールを王宮内に宿泊させる事、その為に馬車の出発を出来るだけ遅らせる事。他にもいくつかの策を準備していたのだが、まさか馬車の迎えを寄越すだけで夕方まで閣議を続けるとは思っていなかった。フォローしなければ最悪謁見が翌日に持ち越しになってしまう所だったと肝を冷やしたくらいだ。つくづくこの国の行き過ぎた教条主義は馬鹿げている、とファラサール大将は心の中で罵った。

 

一方女王は真剣な瞳で二人を見つめていた。

 

「……このクーランディアからの書状、まことですか?」

 

ファラサールは会食の折、密かに女王にクーランディアからの手紙を渡していた。近侍に気取られぬようクーランディアと女王のみに分かる符牒を使って渡したのだが、王宮は急な晩餐の準備で大忙しであり余計な心配だったかもしれない。

 

書状の中身はマルリアンが同志たちに語った『レーラズの森事件』の内容とほぼ同じであった。

そこにはダリンウェン首相、プレンディル内相、ブレンウェル秘密警察長官の三人の手によって行われたダークエルフ(デックアールヴ)の民族浄化について事細かに記されていた。

 

「事実です」

 

マルリアンは女王の目を見ながら即答する。女王は顔を真っ青にして俯き、微かに震えていた。

 

「私のせい、なのですね」

 

自分がデックアールヴを側近に取り立てようとした事、そしてそれが政争の引き金を引いてしまった事。

それをこの女王はずっと悔やんでいた。自らの意志を示した事が信頼する者を追い詰めてしまい。あまつさえ、このような虐殺に至った――

 

「違います。今の政権に居座る連中のせいです」

 

マルリアンは女王の意見を一蹴した。

自らの責任を問う姿勢は立派だが、それでは何にもならない。

 

「そうでなくては困ります。陛下が責任を自覚した所で、誰も罰されず何も変わらないままでは被害が余計大きくなりますので」

 

本当に責任を感じるなら、この悲劇を二度と起こしたくないと願うならば。

罪ある者を断じよ、新たな方策を定めよ、次の責任者を任じよ。

 

グスタフ・ファルケンハイン(オルクセン国王)ならば、間違いなくそうする

 

マルリアンは心の中で思いながらも、この若き女王にこれほどの重圧をかける事に僅かばかり心を痛めた。彼女には何の権限も無ければこれまで真実すら知らされてこなかったのに。

だが、すぐにその感傷を振り払った。あのオルクセンに対抗するのに、手段など選んでいる余裕は無いのだ。

 

女王は青い顔をしながらもマルリアンの言葉に頷く。が、すぐに顔を顰めた。

 

「ですが、ダリンウェンは二代にわたり我が国に仕えた忠臣。あまり酷い事は……」

 

「命までは取らないとお約束致します」

 

「陛下、なにとぞ非常大権の発動とダリンウェンらの逮捕の勅許を」

 

ファラサールの言葉に頷いた女王はゆっくりとペンを取った。

 

 

 

夜間、ティリオン市内入り口の警備兵は意外な訪問者を迎え入れた。

 

「ティリオン市長からの要請だ。最近掃除のやり残しが多いという事で、本日は通常よりも多い人数の囚人を使い市内を清掃する」

 

なるほどと頷き衛兵はロクに命令書をチェックせずに彼らを通してしまう。確かに今日は掃除の囚人の数が大分多い。普段より行進もきびきびしているような気もするし、きっとよく働く連中を選んで連れてきたのだろう。ご苦労様です、と呑気に責任者らしき監督官に敬礼し眠そうに待機所へと戻ってしまった。

 

――監督官である収容所所長リダイアン大佐は敬礼を返し、囚人服を着た一団を率いて市内へと歩み去った。




※四頭立ての馬車の慣例は当SSのオリジナル設定となります
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