RollBack ~白エルフ達の最後の努力~【完結】   作:ぼっちクリフ

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対オルクセン戦略会議

新政権の中枢メンバーは王宮で一堂に会し会議を行った。

議題は対オルクセン国土防衛戦争。実際にエルフィンド軍とオルクセン軍が対峙した場合の方針策定だ。

 

「オルクセンの総兵力はおよそ50万、移動方法は鉄道を基幹とし最短二日で250kmを移動可能。動員までの日数は12日、開戦と同時にモーリア市とファルマリア市に進軍してくる」

 

マルリアンの言葉に一同はシン、と静まった。改めて聞かされても意味が分からない。動員から12日で50万の兵が雪崩れ込んで来るなど、悪夢としか思えない。

 

「動員日数の桁がひとつ違うのでは?」

 

「事実だ。私が経験した戦争ではエルフィンドが外交で失敗したのが10月14日、開戦が10月26日だ」

 

陸軍大臣ヴェルナミア中将の言葉をマルリアンは一言の下に否定する。続いて国軍副司令官カランウェン中将が挙手して発言する。

 

「であれば我が軍はモーリア市とファルマリア市近辺に野戦築城し迎え撃つので?」

 

「不可能だな」

 

これもマルリアンは否定する。順を追って説明を始めるようにオルクセン軍の特徴ひとつひとつを説明し始めた。

 

「オルクセン制式小銃の最大照尺は1500、兵一人につき携行弾薬は140発。また野戦砲の射程距離は4000から7000、撃ち合えば我が軍は必ず負ける」

 

一同は絶句した。エルフィンドの制式小銃であるメイフィールド・マルティニ小銃の最大照尺は1300、携行弾薬は70、野戦砲も最大距離で3000。オルクセン軍の火力はエルフィンド軍とは比べ物にならないものであると容易に想像できた。

 

「また攻城用の大型火砲は射程5km、大鷲族が空中から観測し命中精度を上げながら撃ってくる。野戦築城どころか稜堡式要塞すら大して意味はない」

 

エルフィンドの都市は近代戦に対応していない。星欧では稜堡式要塞は既に時代遅れの代物であり、国防の要と言われるアルトリア要塞ですらオルクセンの火砲の前では大きな目標以上のものではない。ましてや防御機構としての欠点が明確であるモーリア、ファルマリア両市に籠城など出来る筈が無い。

聞けば聞く程絶望がのしかかる中、次に発言したのは騎兵総監イヴァネメル中将だ。

 

「であれば国土の奥に引き込んでから運動戦で敵を包囲――いえ、これは難しいですな」

 

「そう、その通りだ。オークどもに運動戦を挑むのは自殺行為。これはロザリンドの時からの鉄則だ」

 

オークの常人ならざる体力に支えられた運動戦は現在更に磨かれ研ぎ澄まされている。エルフィンド軍がオルクセン軍に運動戦を挑んで勝てる筈が無い、だからこそロザリンドの時は胸壁に篭る事を選択したのだ。歴戦の騎兵であるイヴァネメルにはそれが分かっていた。火力で牽制されながらでは騎兵とて容易に包囲出来るものではない。

 

「と、なると持久戦になりますな」

 

副総理兼侍従武官長のファラサール大将が呟く。

ここで座長を務めるクーランディア総理が口を開いた。

 

「そう、持久戦だ。だがここで一つ問題が出て来る」

 

クーランディアは視線を末席に向ける。彼女の視線を受けてそのエルフ、物資調達を担当するレマーリアンが立ち上がり説明を始めた。

 

「我が軍がオルクセン軍に対し持久戦を挑んだ場合、おそらく先に我が軍の弾薬が尽きます」

 

「はぁ!?」

 

衝撃の発言に一同は一斉にレマーリアンの方を見た。遠征戦争では当然攻撃側により補給の負担が掛かり弾薬も多く消費する。ましてやオルクセン軍は一人あたりの携行弾薬が多い上に火砲を重視した火力主義ドクトリンを採用している。その上でエルフィンド側の弾薬が先に尽きるとはどういう事なのか。

 

マルリアンはレマーリアンに忌々しそうに語りかけた。

 

「やはり硝石か」

 

「はい、南星大陸産の硝石はかなりの部分が抑えられています。表向きは幾つかのキャメロット商社ですが、マルリアン閣下のおっしゃる通り裏にはファーレンス商会が一枚噛んでいます」

 

硝石はオルクセンが海外から調達せねばならない数少ない物資であり、火力主義を支える最重要資源だ。この硝石を確保する為にオルクセンは相当気を使っており、オルクセン最大の商社ファーレンス商会の手が伸びていない硝石鉱山を探す方が難しいだろう。マルリアンはレマーリアンには硝石を確保する為に海外各地の鉱山を調べさせていたが、やはり相当難しいようだ。

 

「硝石の問題だけは難しい。なにせ我々は『完璧』だからな」

 

場の空気を和らげようとマルリアンがおどけるように言う。エルフ族は排泄をしない為に硝石を国内から採取する事が事実上不可能な事を揶揄ったのだ。が、場の空気を変える効果はあまりなかった。

 

「つまり我々は短期的に戦うには絶望的な能力差がある相手に、長期戦を挑めば先にこちらの弾薬が尽きる状況というわけだ」

 

「考えたくもありませんな」

 

クーランディアの言葉に憲兵総監リダイアン少将がため息を吐きながら答える。

全く考えたくもない事だが考えなくてはいけない。この状況からどのように戦うのかを。皆が自然とマルリアンの方を向いた。

マルリアンは頷きながら地図を示し言う。

 

「基本は持久戦だ、遅滞戦闘と敵補給線への攻撃を繰り返しながらジリジリと退き時間を稼ぐ」

 

「しかしそれでは先に弾薬が尽きるのでは?」

 

「オルクセン軍を撃退しようとすれば、な」

 

海軍総司令官カランシア中将に応えながらマルリアンは星欧の地図を取り出す。

 

「短期戦でも長期戦でもオルクセン軍を独力で押し返すのは不可能だ。可能な限りの時間を稼ぎつつ、列強各国、特にキャメロットの仲介で講和する事を目指す」

 

マルリアンは明確に戦争の絵図面を引いてみせた。

記憶にあるエルフィンド軍の失敗を可能な限り防ぎながら時間稼ぐ。そして国際世論を味方につけて講和する。これがエルフィンド軍の基本方針となる。

 

「しかし、国際世論と言っても……」

 

ファラサールが懸念するように言うのにマルリアンは頷いた。

 

「もっともな懸念だ。外交情勢は完全にオルクセン有利、というよりも差が付き過ぎている」

 

オルクセン王グスタフ・ファルケンハインは星欧外交界における長老のような立場だ。キャメロットとは修好通商条約を結び他の国々とも友好関係にある。彼が120年の間に稼いだ信頼は星欧外交界に広く知られており、「オルクセン王は約束を違えない」と絶大な信頼を得ている。

対するエルフィンドはといえば、キャメロット王家との繋がりがある程度で他の国とは国交を結んでいない。外交的に完全に孤立している。おまけにレーラズの森事件という爆弾を抱えており、国際外交の舞台ではゼロどころかマイナスのスタートとなる。

 

「なるほど、だからウィンディミアか」

 

在キャメロット駐箚公使として赴任したラエリンド・ウィンディミアは早速精力的に動いているらしい。キャメロット女王に謁見してエルフィンド女王からの手紙を渡したり、現地の貴族や外交官と積極的に交流していると報告書に記されていた。銀髪灰眼で容姿端麗、物腰柔らかで諧謔に富む彼女はまさに外交官としてうってつけだった。

 

「我がエルフィンドがオルクセンに勝る数少ない長所だな」

 

「と、いうと」

 

「我ら白エルフ族の容姿はとても人間好みだからな」

 

自嘲するようにマルリアンは語る。要は顔が良いというだけの話だが、それでも外交では数少ない資産だ。これから何とか外交の舞台で挽回していくにはとにかく人間達からの好感を稼いで点数を積み上げていくしかない。

 

「そのレーラズの森の件に関してはどうするんだ?」

 

「国内向けには既に発表した。国外向けにも国際赤星十字社を通じ発表を行う」

 

クーランディアは気が重そうに口にする。これに関しては仕方がない。そもそもこの『新政権』設立の大義名分がダークエルフ(デックアールヴ)虐殺の責任を問いそれを追求するものなのだ。国内向けにも国際向けにも発表しなければ新政権の存在意義が無い。が、自らを虐殺者と知らしめる発表など気が重くなって当然だった。

 

「当然オルクセンは反応してくるだろうな」

 

「その場で宣戦布告して開戦する可能性は?」

 

「流石に各国に白エルフ族の残虐さを喧伝する事はあっても、開戦までは多少時間がある筈だ」

 

マルリアンが経験した世界での開戦は10月26日だが、元々オルクセンは来年星暦八七七年夏頃の開戦を予定していたらしい。今回はエルフィンド外交書簡事件のようなヘマをやらかすわけにはいかない。何としても開戦を先延ばしにして少しでも時間を稼がなければ。デックアールヴ虐殺の責任はあくまで前政権にあり、新政権はその清算と補償をする気がある事も重ねて国際社会に示さなくてはならない。

オルクセンもデックアールヴ……あのディネルース・アンダリエルからの情報を元に戦略・戦術を修正している頃だ。開戦の期限(タイムリミット)は八七七年夏、それが新政権各位の共通認識となった。

 

だが。

 

何事もそう都合よく進む事など、ない。

それを白エルフの面々は嫌という程思い知る事になる。

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