100カノ短編集   作:ゾネサー

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恋太郎ファミリーの日常(その1)

〜奇人判定〜

 

 今日も今日とて奇人勉強に励む姫歌。今回は皆の加入時のエピソードを聞き回っていた。

 

「『美しさ探し』?」

 

「ええ。他人の美しさを探す競技ですの」

 

「何それ……! 奇競技ね!」

 

「姫歌さんの場合なら……いつも細部まで手入れが行き届いている! といったところですわね」

 

「なんだ。当然のことじゃない」

 

 才が溢れている姫歌にとっては再三かけられた賛美。もはや本人にとってはノットビューティフルポイントだった。

 

「いいえ、あなたの美意識はかなり高いわ。わたくしから見ても奇麗な人と言わざるを得ないくらいにね。まあ世界一の座はわたくしのものですが!」

 

「待って!」

 

(しまった。わたくしが美しすぎるあまり落ち込ませてしまった……?)

 

「奇麗な人ってことは……奇人ってことじゃない!」

 

「…………。あなたがそれでいいんでしたら……」

 

(ドヤー)

 

「美々美も奇麗よね。芸能人は周りにサポートしてもらえるけど、独力でここまで美しいのは相当な奇人だと思うわ」

 

「ふふーんですわ」

 

 二人ともそれはもう奇麗なドヤ顔だった。

 

〜うとうと詩人〜

 

(うう……みんなとお話ししてるのに眠くなってきた。我慢しなくちゃ。……!)

 

 寧夢が睡魔と格闘していると不意に詩人が目を閉じた。

 

「夜更かしをし過ぎた——とも言えるね」

 

「寝ますか……?」

 

「たまには鳥のさえずりに耳を傾けるのも良いかもしれないね」

 

 するとマイペースと言うべきか詩人はそのまま夢の世界へと旅立っていく。

 

(……もしかして気を遣ってくれたのかな。ありが……とう……ごさ……すぅ)

 

「ぐー!」

 

「きゃあ!?」

 

 この後肩を寄せてくる寧夢に合わせてぐっすり寝た。

 

〜現実だと破れないルールでも妄想の中では破りたい放題だということを教えてあげて、季鞠さんを"こちら側"に引き込みます!〜

 

「あの……妹さん。以前貸していただいた小説読み終わりました。ありがとうございました」

 

「どうでしたか!?」

 

「こういった本は読まないようにしてきたのだけど……いいものですね。姉妹愛に心が温まりました」

 

 妹は周囲の様子を伺うと季鞠に耳打ちをした。

 

「ふっふっふ……いいんですよ本音を曝け出して。……考えたんでしょ? 実在の人物に重ね合わせて……」

 

「……!? ダメよ……そんなことしちゃダメなんだからっ……」

 

「考えるだけならセーフです! それで……誰を想像しました? あっ! お姉様だけはダメですよ!」

 

「その……。恋太郎君がお兄ちゃんで、許されない恋をしてしまったり……なんて」

 

「えっ?」

 

(恋太郎さんがお兄様で、お姉様と妹を取り合って……???)

 

「かはっ!」

 

「妹さん!?」

 

 天空に鼻血のアークを描いた妹は遠くに聞こえた「すわ〜」を最後に真っ白に燃え尽きてしまった。

 

〜どこでもミスディレクション〜

 

 休み時間の教室でのこと。凪乃が愛々のことをじーっと見つめていた。

 

「ど、どうしたんですか?」

 

「貴女のことを観察していた」

 

「えっ! それって……」

 

『貴女のことが頭から離れないの——』

 

「ひゃああ——」

 

(観察結果その1。脱力による筋肉の弛緩を確認)

 

 ミスディレクションが発動し、愛々は視線から逃れるように背後へと移動していた。

 

「瞬間移動を実用化できれば効率的」

 

「あっ。そういう……」

 

「何か意識していることはある?」

 

「い、いえ……恥ずかしくて気が付いたら……」

 

「なるほど。無意識で……。華暮愛々。私を恥ずかしがらせて欲しい。どこを触っても構わないから」

 

「ええっ!?」

 

 脱力して背中を預けてくる凪乃。その位置から恥ずかしがらせるための選択肢……愛々には一つしか浮かばなかった。

 

(お、お、大きい……!)

 

「ひゃああ——」

 

 そして愛々はいなくなった。

 

「……観察結果その2。揉ミスディレクションは揉む側でも発動する」

 

 こうして長く険しい戦いが幕を開けた——。

 

〜お祭り少女はメルヘンの夢を見るか?〜

 

「へいおまち!」

 

「おいっし〜♡」

 

「…………」

 

 あくる日の放課後。夢留は祭李のスケッチを取っていた。

 

(学校という舞台で人形のような装い……これもまたメルヘンですね)

 

「夢留もどうでい!?」

 

「ご飯が入らなくなってしまうので、少量だけいただきます。……美味しい」

 

「はっはっは! あていの焼きそばはメルヘンだろい!」

 

「いえ焼きそばはメルヘンではありません」

 

「てやんでい!? あていの焼きそばはみんなを笑顔にできらあ!」

 

「はい。祭李さんのその志こそが無垢(メルヘン)です」

 

「どういうことでい!?」

 

「さながら『ぐりとぐら』のカステラのような高揚感。お祭りで皆を楽しませようとする心意気こそが、祭李さんをメルヘンの住人にしているのです」

 

「いつの間に住んでたんでい!? ……でも、へへっ! その言葉嬉しいねぃ。つまり……祭りはメルヘンってことでい!」

 

「部分的にそうですね」

 

「アキネ⚪︎ターみたいな回答」

 

〜名探偵紅葉〜

 

「むむむっ……これは難事件です……」

 

「おや? どうしましたか?」

 

「気付いてしまったんです……! 名探偵を名乗るためには、足りないものがあると……!」

 

「ほうほう。してそれは?」

 

 もみもみ。

 

「実は決め台詞が欲しくて……!」

 

「ああ。真実はいつも(はじめ)ちゃんみたいなやつですね」

 

「そうです! 何か良い案はありませんか?」

 

「それならちょうどいいのがあるのです。紅葉は自分の名前を伝える時、野比のび太みたいですよねと言っているのです」

 

「な、なんと……! それは確実に覚えてもらえますね!」

 

「良ければ蓮葉さんも使って下さい」

 

「はっ……! 確かに端須蓮葉(はすはすは)も野比のび太みたいです……! なんという名推理……!」

 

「どんな難事件も紅葉が揉みほぐしてあげるのです」

 

「師匠……! ありがとうございます!」

 

 こうして紅葉は決め台詞っぽいセリフと共に満足して帰っていった。

 

〜キックの使い道〜

 

「見て見てー」

 

「ん?」

 

「てやっ」

 

 あー子はその場で蹴り上げる動作をしてみせた。なんとその体勢のままキープをしてみせる。

 

(ゴク……!)

 

「どーお? エイラっち先輩のおかげでここまで上がるようになったんだぁー」

 

「どうってそんなの何の役に……。……! あー子、お前それ……٢(インド数字の2)……! すごいじゃないか!」

 

「うぁ……バランスが……」

 

「あ、危ない!」

 

 バランスを崩したあー子だったが、数が伸ばした両手が間一髪間に合った。

 

「ありあとー。数っちー」

 

「ふぅ……。……! 見てくれあー子! 数、今٦(インド数字の6)になってる!」

 

「そうなんだー。すごーい」

 

「ありがとうあー子……! 数と26になってくれて……!」

 

「えへへぇー。頑張って良かったー」

 

「芽衣ー! 写真撮ってくれー」

 

「かしこまりました」

 

「…………」

 

「突っ込まねーのだ?」

 

「本人達が嬉しそうならいいんじゃないの」

 

「唐音、あー子のことになるとあめーのだ」

 

「べ、別にこの前一緒にクレープ食べに行ったりなんかしてないんだからねっ!」

 

「はー?」

 

〜ゔーゔークッション〜

 

 探し物をしていたナディーを見つけた知与が屋上へと連れてきた。

 

「アイアムのロープありマーシタ!」

 

「やっぱり屋上にありましたね……」

 

「サンキューデース!」

 

「39!」

 

「そろそろ忘れないようにして下さい」

 

「ソーリー……ホワッ? そういえば最近知与ロリータのゔーを聞いて(ニュース)ないのデース」

 

「厳しくするばかりが秩序を守る方法じゃないんだって……ここに来てそう思えたので」

 

「すわ〜〜!!」

 

「キッツ……♡」

 

「ママぁ……♡」

 

「ちゅっちゅちていいのよーーッッ!」

 

 デザイナーズコンボが炸裂しても知与は呆れるように苦笑いするのみだった。

 

「オー! それもまたフリーダムデース!」

 

 一連の会話が聞こえていた夢留はこう思ったと言う。

 

(鳴らしすぎて緩くなっただけでは……?)

 

 そしてナディーは今日もロープを忘れていった。

 

〜静ちゃん救出作戦〜

 

「きゃー! 強風は物理じゃ倒せない!」

 

「『お助けあれ』」

 

「静ちゃあああん!?」

 

 春の嵐と呼ぶべき強風が吹き荒れ、早めの退散を試みた時だった。一陣の風が静を舞い上がらせた。

 

「くそっ! こんな時にアタイの体が伸びれば……!」

 

「先先輩をそんな目に合わせるくらいなら俺が伸びます……!」

 

「きゃー! ゴム人間も物理じゃ倒せない!」

 

 タイミング悪くほとんどの面々が退散を済ませており、恋太郎がはしごを登って一番高い位置まで駆け上がるも、静の軽さは想像以上だった。

 

「静後輩! アタイに任せろ!」

 

「"先"『アニキはやっぱり頼りになるぜ!』」

 

「ナディー先生のアメーリカジャスティスロープ……! おっと!」

 

 静目掛けて力一杯投げられたロープがかろうじて恋太郎の足元に届くと、中継を介して静を捕らえることに成功した。

 

「ぎゃあああ!?」

 

「先せんぱあああい!?」

 

 しかし強風に煽られる静を支えられるほど先の足腰は強くなかった。

 

「『このままじゃ……』"先先輩"『まで巻き添いだ。手を離してくれ……』」

 

「馬鹿言うな! 何かあったら守るって言っただろうが! 死んでも離さねえ! アタイは……先輩なんだ!」

 

「そして……あたしも!」

 

 引き摺られる先を強靭な足腰でエイラが受け止めたことで、急ブレーキがかかって落ちてきた静を恋太郎がキャッチし、事なきを得た。

 

「エイラ先輩! おかげで助かりやした!」

 

「ううん。あたしなんかゴロゴロ転がってただけだし。先ちゃんの頑張りで助かったんだよ!」

 

「そうですよ! まさしく頼りになる先輩でした! 思わず100億倍惚れ直しました……!」

 

「『何とお礼を言ったらいいか……!』。『いやぁさすが』"先先輩"『じゃわい!』」

 

「へへっ……。もっと……言っていいんだよ!」

 

「今の先輩は威厳に満ち溢れてます……!」

 

「きゃー! 威厳は物理じゃ倒せない!」

 

「『なんと深い業を背負っておられるのか……』」

 

〜G線上の羽香里〜

 

「——というわけでそろそろシても良いと思うんですよ」

 

「ダメでーす」

 

 恋太郎へのセクシーアピールが実らないのは出版社の許可が降りないから、そう当たりをつけた羽香里は大元を崩しにいく完璧な計画を遂行していた。

 

「ヤング誌の表紙といえばグラビアアイドルのセクシーポーズじゃないですか! つまりこれは推奨していますよね。エッチなことを!」

 

「していませーん。ヤングジャンプはヤング誌の中でも連載漫画を表紙にする頻度が高いでーす。お色気描写も少なめで読者層も若いでーす」

 

「若いからこそです! その年頃の子が正しい子作りの仕方を学ぶ……いわば『100カノ』は保険の教科書としても使えます!」

 

「使えませーん。直接的な描写はNGでーす」

 

 ——その時、羽香里に電流走る——!

 

「漫画内で行為を描かなければ裏でシてもいいんですね!」

 

「暗に仄めかす程度なら許容範囲内でーす」

 

「ッしゃぁああ! 言質取ったぁああ!」

 

 フルマラソンを走り切ったマラソンランナーのごとく体内の水分が枯渇しながらも、高々とガッツポーズが掲げられた。——その刹那。

 

「……っ!? 中村先生!?」

 

「恋太郎が良いと判断するまでは無理なんだ……」

 

「ちくしょぉおお! でもそんな恋太郎君だから好き!」

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