100カノ短編集   作:ゾネサー

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恋太郎ファミリーの日常(その6)

〜どっちも素敵〜

 

「ありあとね。数っちー」

 

「ちゃんと休めよな」

 

 体育の授業でマラソンをしていたところ、気分が悪くなったあー子に気付いた数が保健室に連れてきていた。

 

(大切なあー子さんの体調を崩させるなんてぇ〜)

 

「わー」

 

 そんな経緯を知った千優先生の顔に怒りマークが浮かび、あー子は大きく表情を変えず大層驚いていた。

 

「あ……ごめんなさい。びっくりさせちゃいましたかぁ〜?」

 

「ビックリもしたけどぉー。いいなーってぇ。あーし顔に出にくいからー。昔、友達だった人を傷つけたことに怒ってるのが伝わらなくてぇー……」

 

 そう語るあー子の表情はさほど変わらなかったが、千優先生には悲しそうに見えた。

 

「先生には伝わってますよ。それに羨ましいです。保健室に来る生徒さんには常に笑顔で安心させてあげたいので〜」

 

「えー? 千優先生包容力マジヤバいしぃー。笑顔も、あーしらの為に怒ってる顔もどっちもエモいっていうかぁー」

 

「あら〜。そう……ふふっ」

 

 二人はお互いの顔を見合わせて、癒されるひとときを過ごしたのだった。

 

〜それはそれ、これはアレ〜

 

「なあ唐音」

 

「何よ?」

 

 ある日の放課後。いつものように屋上で過ごしていた騎士華は神妙な面持ちで唐音に話しかけていた。

 

「最上級生の中で一番頼れるのは私……だよな?」

 

「自分で言うな」

 

 唐音としてはそう感じられるだけに、自分で確認する情けなさにやや呆れていた。

 

「いや、それにしてはな……」

 

 そんな視線から目を逸らすように騎士華はまず楠莉に目を向けた。

 

「またお美しい姿を拝見したいですわ」

 

「美々美ってば最近ずっとこんな感じなのだ……」

 

「あはは……。でも私も久しぶりに見たい……かもです」

 

「知与は甘えんぼさんだなー」

 

「そ、そういうわけじゃ……」

 

「しょーがねえのだ。……ふぅ。相変わらずこの姿は動きにくいのだよ」

 

「やっぱりお美しい……!」

 

 十八歳の姿になった楠莉は美々美に至近距離まで詰め寄られ、知与にもさりげなくメガネ越しに目を見つめられる。

 

「なんなのだよー。そんなん不老不死の薬飲めばいいのだよ」

 

「乱用ゔー!」

 

「楠莉は子供かと思えば、高校生の姿なら案外慕われているし……」

 

 次に騎士華は本人の自覚はともかくとしてもう一人の同級生にあたる先にも目を向けた。

 

「『こうして長い旅路に終止符が打たれたのだった』。『その裏に』"先先輩"『の活躍があったことは、一部の者しか知らぬまま——』」

 

「お出かけで静さんをリードしたんですねぇ〜。先さん、偉いです〜」

 

「へへっ。いやぁそれほどでも……あります!」

 

「『よっ。我らが総大将!』」

 

「今度は先生もご一緒したいです〜」

 

「任せてください! 普段お世話になってる分をお返しします!」

 

「ふふっ。もういっぱい貰ってますよ」

 

「先は虚弱体質でありながら、献身的な騎士道が認められつつある。私は最高学年なのに甘えてばかりなんじゃないかと思うようになってな」

 

「……ばっかじゃないの。みんなにはみんなの、あんたにはあんたの良さがあるでしょーが」

 

「唐音……。そうか……そうかもな」

 

 唐音がそんな彼女を他と比較することなく肯定すると、騎士華は目を丸くしてから柔らかく微笑んだ。すると彼女を慕うように、夢留と羽々里が駆け寄ってきた。

 

「そろそろ絵本の読み聞かせの時間ですよ」

 

「同時におっぱいの時間でちゅよ〜!」

 

「ママが……二人……! ばぶ〜!」

 

「ごめん! やっぱり甘えてはいるかも!」

 

 つい先程まで神妙な面持ちだった人間とは思えない精神構造に唐音は思わずツッコんだ。そんな彼女達を呆然と見守っていると、視線に気付いた羽々里が振り向いた。

 

「唐音ちゃんもちゅっちゅちたいのね……!?」

 

「するかボケ」

 

 それでもこれよりはましかと思わざるを得ない唐音だった。

 

〜んなもんしゃらくせぃよ〜

 

 登校中、祭李はファミリーと合流する前にツインテールに顔を埋めて歩く彗流を見つけ、小走りで駆けつけた。

 

「相変わらず目立つねぃ」

 

「アタシのツインテールに見惚れたのね!」

 

「いや、んなこた言ってねぃよ」

 

「謙遜しちゃって……って! ヘッドドレスで隠してるけど、アンタ髪ぼさぼさじゃない!」

 

「これはねじりはちまきでい」

 

「あーもう! チャチャっと直すわよ」

 

「え〜っ」

 

「露骨に嫌そうにしてんじゃないわよ。アンタもっと女子って自覚持ちなさいよッ!!」

 

 彗流はシャワーを嫌がる子猫を洗うように祭李を捕えると、たおやかな手つきで髪を解かしていった。

 

「生乾きでしょこれ! またドライヤーかけなかったわね!」

 

「母ちゃんみたいなこと言うなよ〜! 言いたかったら騎士華がいるだろい」

 

「あの人はあれでもちゃんとしてんのよっ! ほら、動かない!」

 

「てやんでい……」

 

 この後繰り返し彼女のケアを受け、借りてきた猫のように大人しくなる方がしゃらくせぃという結論に至った祭李はドライヤーをかけるようになった。が、かける時間が秒過ぎてまた注意される羽目になるのだった。

 

〜初期の頃はですわ口調だった気がしますわ〜

 

 さっきのエピソードのすぐ後。

 

「お二人ともおはようございますわ〜」

 

「あら、凛じゃない。今日はツインテール日和だし、朝ツインテールしとく?」

 

「……彗流さん。前々から言おうと思っていたこと、今こそ言わせてもらいますわ……!」

 

「な、なによ」

 

「それは……キーワードが長すぎますわ!」

 

「ツインテールのこと? 別にいいじゃない。アタシのツインテールは天の川より広く深いのよ!」

 

「いつかのニュースみたいに地球が髪で包まれるでい」

 

「問題はセリフが長いと、折角の野澤先生に描いていただいた絵がそれだけ隠れてしまうのですわ!」

 

「そんなっ!? アタシのツインテールが見れないなんて人生の全部を損してるわっ!」

 

「大半でも過言だろぃ」

 

「例えば私の場合、『バイオレンスですわ』が野暮ったく『バイオレンすわ』になり、やがて『すわ』でも通じるようになりましたわ!」

 

「つまり『痛いの痛いのツインテ』なら『痛ツイ』ってわけね!」

 

「それだと痛いツイートみてぇでい」

 

「タイミング良く『一ふきだしにつき2文字しか発せなくなる薬』を譲っていただいてますわ。折角ですので試してみましょう!」

 

「いいのはタイミングじゃなく作者都合でい。ばーろちくしょ」

 

 薬が起爆すると三人は煙に包まれた。そして煙が晴れるのと同時に彗流はツインテールの想いを2文字へと集約させ、解き放った。

 

「テル」

 

「電話」「でい」

 

「すわ」

 

 言葉が無理矢理圧縮される様にバイオレンスみを覚える凛だった。

 

〜母なる大地〜

 

「山女ー。疲れたから膝借りるぞ」

 

「だどー?」

 

 ラヴィニーランドを経てからというものの数は山女に甘える頻度が上がっていた。

 

「ちょっと意外だどー。おで、どっちかと言えば迷惑かけてたからー」

 

「そうか? まあちょくちょく痛い目には遭ったけど……別に山女のせいじゃない。数のせいでもないけど」

 

「ほっ……」

 

「それに山女はお母さんみたいで安心するんだよな」

 

 数が気負いなく温もりに身を委ねると、表情も段々と柔らかくなっていった。

 

「照れるどー。数さんはお母さんのことが好きなんだどー」

 

「大好きだぞ! たとえば小さい頃——」

 

(数字や恋太郎サン以外のことでこんなに楽しそうにする数サンは初めてだど……。それをおでに話してくれるのは、ファミリーへの信頼の証みたいでこっちまで嬉しくなるどー)

 

 熱意を持った数の言葉を、山女は時折相槌を挟みつつ柔らかく受け止めたのだった。

 

〜ドキドキは物理じゃ倒せない〜

 

「芽衣。話があるの」

 

「はい。なんでございましょう」

 

「その……ラヴィニーでのこと覚えてる?」

 

「もちろんでございます」

 

「あたしはその……いいんだけど、ああいうことは誰にでもやっちゃダメだからね」

 

 アトラクションクリアのために心拍数を上げる必要があったからこその不意打ちキスと考えたエイラは、芽衣がそういった行為を軽々に行っているのではと心配していた。

 

「それは……ご命令でもでしょうか?」

 

「尚更ダメだよ……!?」

 

「確かに以前羽々里様にお願いされたことはございますが……」

 

「ございますなの!? なんてことをお願いしてるのあの人は!」

 

「い、いえ。私がお返しに望まれることはないかとお聞きしたからで、羽々里様はパワハラを懸念して自制しておりました。それに未遂に終わりましたので……」

 

「……?」

 

 すると芽衣の顔が茹で上がるように赤く染まっていき、絞り出すような声で続きが伝えられた。

 

「恋太郎様を除けば、エイラちゃんが初めて……でございました」

 

「きゃーーッ!!」

 

「エイラちゃん!?」

 

 破壊力のある一撃に、エイラはいつもより多めに転がっていったのだった。

 

〜お願いお願いトレード希望〜

 

 紅葉と蓮葉は悩んでいた。

 

「紅葉はマッサージのお礼に体の感触を味わわせていただいてますが……実を言うとすぐにでも揉みたい気持ちもあるのです」

 

「分かります! 私も名推理のお礼に嗅がせてもらってますが、理由もなく嗅ごうとすると断られるのです!」

 

「おお……同志よ……!」

 

 ここに同盟が成立し、握手が交わされた。すると紅葉がとりあえず手を揉み始める。

 

「……。他の部位も揉んでもいいですか?」

 

「……! 私も嗅いでいいですか?」

 

「oh……♡」

 

「大好きな紅葉さんの匂い〜!!♡」

 

 こうして二人の悩みは瞬く間に解決した。

 

〜養殖は天然に勝てない〜

 

「え!? 恋太郎君に胸を揉んでもらえた!?」

 

「いや持ってもらえた、だにゃん。ちょっとだけだったけど……」

 

「同じことです! 一体どんな魔法を……!?」

 

「重くて大変にゃ胸を支えてもらっただけだにゃん」

 

「そ、そんな方法が……! 早速試してみます!」

 

「羽香里も肩が重たいにゃん? 分かるにゃん。タマも唐音みたいにスレンダーな方が猫っぽくて羨ましいにゃん……」

 

「絶対本人の前でも言ってみて下さい」

 

 情報収集を終えた羽香里は一目散に恋太郎のもとへと駆けつけた。

 

「ああっ! 恋太郎くぅん。魅力的なGカップのせいで肩を痛めてしまいましたぁ……!」

 

 すかさず恋太郎の手を取った羽香里はそのまま自分の方に寄せていった。

 

「大丈夫か羽香里ーっ! うおおおお!」

 

(よっしゃあああ! ……あれ?)

 

「肩が……軽く……!」

 

 目にも止まらぬ速さで動かされた手に設定も忘れてガッツポーズを掲げた羽香里だったが、その軽さに驚いていた。

 

「前にタマに相談されて特有の悩みがあることを知ってさ。少しでも楽にできたら……と思って、紅葉ちゃんからマッサージを習ったんだ」

 

(キュン!!)

 

 天然の彼氏力に返り討ちにされた羽香里だったが、肩の軽さに比例するように好きが好きを呼んで好きが生まれたのだった。

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