「……と言う次第でございまして……。
「その前にすごい震えてるけど平気か?」
いつもの屋上にて冷や汗にまみれながら恋太郎が紹介する横で、小々枝は冷や汗すら出ないほど凍えていた。
「緊張してんのかい? なーに皆見た目ほど怖いわけじゃ……」
「…………」
「怖っ!?」
(ち、違う……! 睨んだわけじゃなくて……ああ、またやっちゃった)
小々枝はあまりの寒さに舌が動かず、熱を逃すまいと口も開けず、結果無言のまま三白眼で見つめることになり、睨みつけたような印象を与えてしまう。
「小々枝ちゃんはすごい寒がりで、口数が少ないだけなんです……!」
(恋太郎……!)
「こんな春のポカポカ陽気でも!? と、とにかくアタイの上着着なっ!」
すかさず恋太郎がフォローに入ると、先は驚きながらも特攻服を着せた。それでも揺れは収まらなかった。
「これでもダメなのかい!? ならっ……!」
「……はぁぁ……あったかい……」
体調でも悪いのかと見まがうほどの衰弱ぶりに見えた先は迷わず抱きつき、肌で温めた。すると小々枝は幸せそうに蕩けた表情を見せながら、ようやく口を開くことができた。
「先の子供体温が役に立ったねぃ」
「誰が子供だいっ!」
「……
「……!!」
後輩にもろくに先輩呼びされない先にとって、初対面でいきなり先輩呼びしてくれることはまさに青天の霹靂だった。
「良いやつだね! 気に入ったよ! 困ったら先輩のアタイを頼りな!」
「……えっ……えっ……」
(こんなアタシを嫌がらずに……)
多少なりとも目つきの悪さにビックリしたファミリーではあったが、直前の加入で千優の笑顔に浮かび上がる怒りマークを経験した彼女達にとってはさほどの恐怖ではなかった。これを機に他のファミリーも興味津々に雪崩れ込んできた。
「大丈夫ですか〜? 体調が悪かったらすぐに言ってくださいね〜」
「……ありがとうございます……。……屋上の風って……冷たくて……」
「分かるよ! 物理で倒せないから震えちゃうよね……!」
「エイラちゃんもお寒いちゃんでございますか?」
「タマで暖をとるにゃん……」
「わしの膝も空いているよ」
「おしくらまんじゅうかぃ? わっしょいわっしょい!」
「私も私も! 小々枝ちゃん小々枝ちゃん♪」
「……わっ……」
そして小々枝を温めようと次々とファミリーが覆い被さっていく。さながらそれは一つの集合体のようでもあった。
「……おや。いつものように彼女に奇人判定はしないのですか?」
「本人が寒くて悩んでるんでしょ? 変な人扱いは失礼じゃない」
「それもそうですね」
「でも私は奇人だから春におしくらまんじゅうをするのよ!」
「それはとてもメルヘンですね。ご一緒します」
「良い名字だね!」
「
「あなたの三はどんな三なの?」
「……えっと……」
寧夢の筆談用の紙を渡された小々枝は震えが収まった手で自分の名字を書き上げた。
「わぁ! 丸くて儚げな三だね!」
「……その……目つきが怖くは……?」
「俺に触れたら火傷するぜって感じの7で素敵だね!」
「……初めて言われた……」
「最初で最後じゃないかな……。まああたしも目つきはいい方じゃないから気持ちは分かるよ。人に不快な思いをさせて自己嫌悪しちゃったり……」
「……うん……。……今まで隠してたんだけど……恋太郎が好きって……言ってくれて……」
「だよな。だから目のことは気にしなくていいから」
「そうなのです。こんなんでも胡桃さんは優しいのです」
「揉むな」
「胡桃さんのはまた今度にして、今日は小々枝さんをマッサージするのです。見たところ血行が良くないようなので」
「……ありがとう……。……ほぁぁ……気持ち良くて……あったかい……」
「私もれろれろちゅっちゅしてい……?」
「……え……
「そんなっ……!?」
「何を以ていけると思ったんだ貴様は」
「いいもーん。
「ばぶーっ!」
「小々枝! 寒いならケツバットなんてどうかな!」
「バイオレンすわ〜!!♡」
「キッツ……ッ!!♡」
「……えっ……えっ……。……これはどういう……」
ファミリーにとってはいつものことでも、小々枝にとっては慣れない授乳プレイとケツバットを見せられ、真っ白な顔が羞恥心で赤く染められていく。
(いきなりなんて恥ずかしい真似をするの……!? ……あれ。でもおかげで顔が熱を持って、温かくなったな)
「ゔーッ!!」
「オー、知与ロリータも
「アタシのツインテールを貸してあげるから見ちゃダメよ」
「目に毒——とも言えるね」
「マジヤバーい」
「まあまあ。じきに慣れるって。それより寒いなら一杯やろーぜ!」
「ダメですよ……未成年にお酒を勧めちゃっ……。ダメなんですからねっ……絶対っ……」
「あなたって人は本当に……ッ。小々枝さん。妹とお姉様以外は変な人で最初は戸惑うでしょうが、悪い人たちではないので仲良くしてあげてください」
「……こちらこそよろしくお願いします……。……あ……コーヒーありがとう……。……あったかい……」
「おお……いい匂いれす。私にも一口分けてください!」
妹が渡したコーヒーの匂いにつられて蓮葉が近寄ると、途端に小々枝は足で弱々しく地面をぺちぺちと叩き出した。
「……ぐるるるるる……」
「むむむ……! 難事件発生です!」
「これはリスの威嚇行動でー。保存食を守ろうとする防衛本能なんだどー」
「そうなんですね! これにて事件解決です!」
「そんなら楠莉からもプレゼントしてやるのだー。ほれ、『肌がガッサガサになる薬』ー!」
「乾燥肌はバリア機能の低下と血行の悪化を招きますのよ!?」
(この人達……ううん、ファミリーの皆。すごい熱量だな)
怒涛のラッシュも一息つき、あとは彼女も属する一年四組の面々を残すのみとなった。
「同じクラス……よね? わ、悪いわね。入学式から240話経ってるけど覚えてなくて」
「……アタシ……休んでたから……知らなくて当然……」
「ご家庭の事情ですか?」
「……いや……寒くて……布団から出られなくて……。……これだけ話数が進んだなら……あったかいかなって……」
「この漫画の進みが早ければもっと早く会えたってことね……ッ!」
「いまだに春たけなわですけどね」
「……もっと早く来れば……恋太郎や皆にも会えたんだよね……」
羽香里と唐音は顔を見合わせてから、二人して姿勢を低くして目線を合わせていた。
「大丈夫です。春はまだまだ続きますよ」
「いや言い方! ……これからずっと一緒でしょっ。むしろ今も寒そうなのに出てきて良かったじゃない」
「……そっか……そうかも……」
(これからずっと続くなら……。でもアタシなんかと嫌じゃないのかな)
「『そなたには親近感を覚えるな』」
「確かにどことなく好本静に似ている」
「……恋太郎から話聞いてたけど……すごいね……。……スラスラと話せて……」
「『それほどでもあるぜ』」
「……アタシ喋るの下手で……これなら口を冷まさずに話せるから……羨ましいな……」
「"小々枝さん"『もやってみるかい?』」
「……アタシじゃ……そこまで本を覚えてられないかなって……」
「かもしれない。けど、無理に話すことはない。ただ話すことが苦手というだけで誰もあなたを嫌いはしないから」
「"凪乃さん"……」
「……うん……。……ありがと……」
(なんで皆、アタシにこんな優しい言葉をかけてくれるんだろう……。それにここまでして温めてくれるなんて……)
「キッツゥ〜!!♡」
「ギチギチ〜!!♡」
「私も……奇人……だから……ッ」
ここまで総勢三十三人の面々が小々枝一人を温めようと押しかけていたため、彼女にはほとんどが汗だくで苦心しているように見えた。
「……恋太郎……。……皆どうしてアタシなんかのために……?」
「決まってるじゃないか。"なんか"じゃないからだよ」
その熱量の密集地帯に迷わず飛び込んだ恋太郎は小々枝のことを抱きしめていた。
「……そんな……ッ。……だって……」
「あの……小々枝さんっ」
「……えっと……」
「か、華暮愛々です……。目のこと……随分気にしていましたよね。私も顔を見られるのは苦手だから、分かるんです。こんな私なんかと仲良くしてもらえるわけがないって。けど……」
恋太郎がスペースを空けると、愛々は恥ずかしながらも消えずに小々枝に抱きついていた。
「ファミリーは……私たちはそんな事気にしません! だから認めてあげてください。あなた自身の魅力を……!」
「……愛々……皆……」
(こんな寒がりで、目つきの悪いアタシを……。いや、そうじゃないんだ。こんなアタシでも……嫌じゃないんだ!)
「……今朝髪切ったんだけど……似合ってる……かな……?」
「はい……! もちろんですよ」
「……良かった……」
ようやく見せてくれたあどけない笑顔にファミリーがほっこりしていると、愛々が前髪に手を掛けていた。
(私もそうした方がいいのかな……)
(ん? 髪を気にしてる……? さっき顔を見られるのは苦手って——)
すると腕を伸ばしたことで、何かが弾けるような妙な音が響いた。
「あっ! そ、そ、そんなっ……今っ!?」
「……えっ……」
愛々が慌てて離れようとしたが時既に遅し。胸を小さく見せる下着のホックが、またしても外れてしまい、抱きついていたことで小々枝の顔に押しつける形になってしまう。
(で、で、で……でかっ!?)
「ひゃああ——」
「……消えたっ……?」
「め、愛々ちゃんは極度の恥ずかしがり屋で、恥ずかしくなると消えちゃうんだ」
「……瞬間移動……? ……すごいね……」
(大きくて柔らかかったな……)
「分かるのです……愛々さんのお胸は一瞬しか味わえないのです」
「……そ……そういうわけじゃないけど……」
(でも恥ずかしい目にあうのは体が温かくなるから、たまにはいいかも……)
紅葉にマッサージのお礼と称して体を揉まれながら、小々枝はそんなことを考えたのだった。
そして、翌日。ファミリーとの初登校に小々枝が合流すると、愛々の姿を探して話しかけていた。
「……おはよう……」
「お、おはようございます。昨日はごめんなさいっ……!」
「……それは気にしてないかな……。……それより髪のことだけど……」
「やっぱり気になりますか……? 両目を髪で隠しているのって」
「……それは気になるかな……。……でもアタシはこの目が……人を
「そ、そうでしょうか……」
「……うん……気にしないよ……」
「……! ありがとうございます……! あっ。お、お詫びにと言ってはなんですが、マフラーを編んできたんです」
「……ありがと……。……はぁぁ……あったかい……」
(可愛い……)
マフラーを重ねて巻いた小々枝は、見ている方が心温まってしまうような幸せそうな表情を浮かべ、愛々も思わず和んでいた。
「……編み物できるんだ……いいな……」
「良かったら教えますよ……!」
「……
(愛々も、恋太郎も、皆も。すごく……温かいな)
こうして小々枝は恋太郎ファミリーの一員として迎え入れられたのだった。