あくる日の屋上。今日も今日とて恋太郎ファミリーが集まる中、寧夢は睡魔と戦っていた。
(だ、ダメ……。目を閉じると寝ちゃう……!)
目を閉じまいとするあまり、顔を力ませながら白目気味になる彼女を見兼ねて、詩人が声をかけた。
「夢の世界は何者にも縛られない自由な空間だ。そこへ旅立つのもまた吟遊詩人である——とも言えるね」
「私は吟遊詩人ではありませんが……夢を見るのは大好きです……。ただ皆さんといる時間は起きていたくて……」
「現実もまた自由な時間と言えるからね。ならあれに挑戦してみるのはどうかな?」
詩人が指した先では凛がバットを構えて、タイミングを測っていた。寧夢が疑問に思いながら凛の視線の先に目をやると、同じくバットを構えた芽衣と平台車に乗った育がいた。そして芽衣のキレのあるスイングが痛烈な音を響かせた。
「キッツゥ〜!!♡」
すると反動で平台車が発進され、育が反転して今度は凛の方にお尻を向けた。
「バイオレンすわ〜!!♡」
「キッツ……ッ!!♡」
「ケツバットラリー!?」
「あいつらやっぱりおかしいんじゃないのかい……?」
「うん」
ケツバットに慣れたファミリーでもいささかの困惑が見られる中、寧夢の眠たげだった目が次第に開かれていき、やがて瞳を輝かせていた。
「いいな……」
「いいな!?」
「詩人さんも……どうですか……?」
「ボクは吟遊詩人だからね。夢の世界へ旅立つとするよ」
詩人が想定以上の代物に対する動揺をおくびにも出さずに目を逸らすと、対照的に寧夢はその光景を凝視していた。しかし一歩を踏み出せずにいた。
(うう……でも私が名乗り出ると育先輩がケツバットラリーできなくなっちゃう……)
「……何悩んでんのよ。いいなって思ったんでしょ」
「
「唐音先輩……。ナディー先生も……。はいっ……!」
後押しを受けて寧夢は一歩を踏み出した。寝てばかりいる自分に自信が持てなくとも、そんな自分を受け入れてくれるファミリーだからこそ、歩み寄りたいと思えていた。
「わ、私にも……ケツバットをして下さい……っ!」
「かしこまりました」
「め、命令ではないです……」
そんな彼女の勇気を無碍にするファミリーではなく、一度育をボールにしたラリーが中断されると、早速芽衣がバットを持って歩み寄っていく。
「ま、待ってください。私に……やらせてください!」
「かしこまりました」
「命令ではないんですが、ありがたく受け取りますわ……!」
(凛さん……初めてのケツバットで私が緊張してるから……)
「お願いします……!」
しかし率先して凛が名乗りを上げ、芽衣はあっさり引き下がった。寧夢は凛の心意気を無駄にしまいと意気込み、不安で目を瞑らないように気持ちを強く持って、お尻を向けた。
(ああ。ご友人の初ケツバットを奪うなんて……そんなの)
普段仲良くしている同級生がバットを前にあまりに無防備をさらけ出しており、凛は思わず生唾を飲み込んだ。しかし次の瞬間には愉悦で紅潮しきった笑顔と共にギザギザの歯を覗かせ、涎が垂れてしまっていた。
「とってもバイオレンすわ〜!!♡」
「…………!!」
迷いのないフルスイングが乾いた音を鳴らすと、寧夢は雷にでも撃たれたかのような衝撃を受け、普段からは信じられないほど目が見開かれた。
「どう!?」
「ケツバットって……こんなにも刺激的なんですね……!」
「ね! いいよね。生きてるって感じがして」
あれほどあった睡魔はどこへやら。吹き抜けるミントの香りのような爽快さが寧夢の身体中を満たしていた。
「凛さんもありがとうございます……」
「い、いえこちらこそ……。いひひ……ッ!」
凛の方は電気が走ったかのような快感で身体中が満たされていた。
「お邪魔しました……。どうぞラリーの続きを……」
「遠慮しないで! このキツさはもっと味わわなきゃ損だよ!」
「え……でも、凛さんをお借りするとラリーが……」
「大丈夫! ケツバッターは三人いるからね!」
「ケツバットを連呼する状況にツッコミが入らない時点で、この小説はどうかしている」
「その紹介で出てくるのもどうかしてはいるけどな」
代打に凪乃が送られると、芽衣と力を合わせて正確無比なラリーが展開された。
「キッツゥ〜!!♡」
そんな彼女たちを横目に二人が目を合わせると、やりたくてうずうずと逸る気持ちを抑えて、万全の体勢でセッティングが整えられた。
「すわ〜!!♡」
「スッキリ……ッ!!♡」
そして新しく開いた扉の先をお互い堪能しまくったのだった。
「……なあ。もしかしてみんなおかしいんじゃないのかい?」
「何を今更」
りんねむは早くケツバットすべきだという思いを抑えられなかった。悔いはない。