100カノ短編集   作:ゾネサー

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禁断のss二度打ち……!
来月は久しぶりにファミリーの日常シリーズ更新したいな。


2月分ssまとめ

〜理想の恋人は物語になるか〜

 

 また、筆が止まった。私はこれまで書いたページを読み返す。読み進めていくと、違和感が心を支配していく。初めて本を書いた時も、似たようなことがあった。誰かの物語と自分の物語を比べて、苦しんだ。今回はそうではなかった。それなのに、蟻地獄にはまったかのように抜け出せなかった。

 

「『へへへ……そこのお嬢ちゃん。ここだけの話聞いてもらえるかい?』」

 

「相談ですか? もちろん構いませんよ」

 

 スケッチのお邪魔になることは分かっていたけど、彼女にしか相談できないと思った。

 

「——なるほど。恋太郎君を主人公にした物語、ですか。それはとてもメルヘンですね」

 

「”まだ”『ようやく三号目ってところだがな』」

 

 途中までしかできていない本を人に見せるのは初めてだった。恥ずかしくて、顔が熱くなるのが自分でも分かる。ノートが閉じられる音で私は目を開いた。夢留さんはどう切り出すか、迷っているようだった。

 

「確認します。これは日頃の感謝を込めて、恋太郎君に渡す本なのですね?」

 

「『おうよ』」

 

「喜んでもらえることは間違いありません。その上で厳しい指摘をしてもいいですか?」

 

 怖い、けど。それ以上に知りたかった。恋太郎君に対して大きな勘違いを抱えたままではいたくなかったから、ゆっくりと頷いた。

 

「この物語の”彼”は完璧すぎるのです。あまりメルヘンな形容ではありませんが……俗にいうメアリー・スーにあたります」

 

 ズキン、と心が痛くなった。メアリー・スー……非現実的すぎるほど完璧で都合良く活躍するキャラクター。創作する者にとって使われることを好まれない、蔑称。

 

「それだけ静さんにとって、恋太郎君の存在が大きい証でもあります。ただ彼がしてくれた事実がベースになっている点がネックですね」

 

「”恋太郎君”『は嘘を好まない』。『それが一番と考えた』」

 

「あなたは誠実ですね。ただメルヘンと絶望は表裏一体。表だけを描いてしまうと彼は完璧で素敵な人……物語の上ではそこで終わってしまうのです」

 

「『絶望の先に希望があるというのか……』」

 

 夢留さんの指摘はよく伝わった。それだけにどうすればいいのか分からなかった。私なりに過程を描き、示しているつもりだったから。事実じゃないことを書けばいいのかな。でも、それはもっとできそうになかった。

 

「やはり恋太郎君自身がその答えを持っているのでしょう。とはいえ直接聞くわけにはいかないのも分かります。見つけるしかありませんね。恋太郎君の歴史から」

 

 そんな私を夢留さんは優しく導いてくれた。もしかしたら彼女は何か答えを持っているのかもしれない。けどヒントを与えてくれた。私だけのメルヘンを生み出すために。

 

「……『いつもすまない』”夢留さん”。”おかげで”『進むべき方向は分かった』」

 

「応援しています。……恋太郎君は私たちにとって時に完璧な主人公です。けど私たちは知っているはずです。それだけじゃないことを」

 

「『あたぼうよ!』」

 

 激励のモンエナで乾杯を交わし、私は旅に出た。記憶を辿り、恋太郎君の裏を探す冒険に。それは確かな記憶と、不確かな想像の巡り合わせだった。

 

 初めて出会った時、本を通してしか話せなかった私に、目を見て話せるやり方を与えてくれた。徹夜で王冠恋物語(サークレットラブストーリー)を写してまで。なんで恋太郎君は初対面の私にそこまでしてくれたんだろう。そうだ……”なんで”なのか。私にはもったいないくらいの彼氏だけど、決して非現実的な人じゃない。羽香里さんと唐音さんと付き合っていたのに、私を愛してくれた。具体的な理由が分からなくても、想像するんだ。そこにあった葛藤を。

 

 私は、私だけじゃない恋太郎ファミリーの物語を追体験した。幸い私は三人目の彼女だった。おかげで長い歴史があった。そして長さがあるからこそ——埋もれていた歴史を、呼び起こした。

 

「うそ……つき……」

 

 濡らしたくなくて、慌てて本を机の上に置いた。落ち着くと表紙のタイトルが目に入ってくる。妖精姫と花の王子……本を勧める前に大体読んでしまっているからと、恋太郎君が書いてくれた本。あの時あまりに何の気なしに取り出すから思わず、手作りクッキー感覚と言ってしまった。そんなわけないのに。本を書くようになった今なら分かる。私の期待外れにならないようにと、彼は辛く、苦しい思いを抱えたはずだ。けれどそんなことおくびにも出さなかった。笑顔で、優しい嘘をついていたんだ。

 

 もう一度私は書きかけの物語を見返した。ようやく分かった。この物語の”彼”には嘘がない。大きな愛が抜け落ちてしまっていたんだ。

 

 ふと私は並んだ本を見て気が付いた。あれだけ他人の物語と比べて苦しんだのに、今回は——救われていた。誰しもその人にしか生み出せない物語を持っていて、それは比べられるものじゃない。でもこれは恋太郎君が描いてきた唯一無二の軌跡で、私だけのメルヘンがそこには無かったんだ。

 

 私は恋太郎君が書いた本をしまい、一から物語を書き始めた。実際にやるかは分からない、想像上の話だ。でもきっと彼は笑って受け止めるだろう。だって彼は自分をどう描くかより、私がどんな気持ちで描いたかを想像するはずだから。

 

〜ミッション:ミスディレクションを攻略せよ〜

 

「——なるほど。お話は分かりました。ずばりミスディレクションの攻略法を知りたいのですね」

 

 ある日の屋上にて。アタシは愛々がいないタイミングを見計らって、相談を持ちかけた。

 

「……うん……。……愛々の手……あったかいけど……恥ずかしくて消えちゃうことがあるから……」

 

「分かるよ……! 消えちゃうとさみ死ぬよね……!」

 

「……アタシの場合……さみしくて死ぬ方じゃなくて……寒くて死ぬ方だけど……」

 

「同じくなのです。愛々さんのお胸と書いて儚いと読むのです」

 

「……や……アタシは胸を触りたいとかじゃ……ないし……」

 

 うっかり触って恥ずかしさで顔があったかくなれた時もあったけど、毎回はさすがに愛々が嫌だろうし……。

 

「ちなみに元ネタになった黒子のバスケでは視野を広く持つ攻略法があるのです」

 

「あ! 知ってる知ってる♪ 鷹の目だよね!」

 

「鷹の目……アタシもできるようにならないかな」

 

 アタシの目つき、なんとなく鷹っぽいし……。

 

「こんな時こそ楠莉の出番なのだ。じゃーん! 百眼が使えるようになる薬ー!」

 

「楠莉先輩!? 失敗作で目が腫れるやつですよ!」

 

「やっべー、そうだったのだ。野比のび太みたいな目になっちゃうのだ」

 

「茂見紅葉のことではないですよね?」

 

「あーん残念。完成してたら私達も愛々ちゃんの特殊能力についていけたのに」

 

「……本当(ほんと)に……」

 

「あら……お二人ともそれは違いますわよ」

 

「……えっ……?」

 

「何か違ったかな……?」

 

「確かにミスディレクションは瞬間移動のようなもので、特殊能力のように感じるのも分かります。けれど前提を思い出してくださいな」

 

「……前提……編みぐるみの可愛さに目を奪われて……その隙に視界の外に……?」

 

「ええ。目立ちたくない一心で身に付けた技術なのですわ」

 

「……そっか……。……生まれ持った力じゃなくて……努力して得たものなんだね……」

 

「言われてみれば……! ごめんね愛々ちゃん……」

 

「本当に一瞬で消えるので、お気持ちは分かりますわ」

 

「……それなら……見つけられるのは……()なのかな……」

 

 アタシの目つきが人を嫌な気分にさせるのが嫌で隠していたみたいに、愛々自身が隠していることを見つけようとするのは嫌な気持ちにさせちゃうかも……。

 

「ふふっ。それは大丈夫ですわ。顔を見られるのはどうしても恥ずかしいみたいですけれど。愛々さんは自信がないだけですから。あんなにお美しいですのに……。だからたくさん探して、彼女への好きを伝えてあげてくださいな」

 

「……うん……! ……ありがとう美々美……」

 

「やっぱり愛々ちゃんのことは美々美ちゃんに聞くのが一番だね!」

 

「ま! 長いお付き合いですもの! これくらい当然ですわ!」

 

 美々美が誇らしげに、ふふーんですわとドヤ顔を浮かべた。いいな……。アタシも愛々のことをもっと知っていって、美々美のように理解していきたい。そのためにはまず……。

 

「……アタシも頑張って……愛々のこと見つけられるようになる……!」

 

「ふふっ、できますわよ。そのお気持ちがあれば」

 

「そうだね! 愛々ちゃんへの愛があれば、気でビビーンと感じられるようになるよ!」

 

「それはちょっと特殊能力かもしれませんわ」

 

「……ふふっ……」

 

 美々美に恋太郎、それに他のファミリーも。アタシはまだまだ新参者で、知らないことだらけだな。でもだからこそ一気に知ろうとするんじゃなくて。皆が歩んできた道のりみたいに、アタシなりに一歩ずつ知っていきたいな。

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