〜裏番長のお仕事〜
千優は保健室で一人、いつ体調不良の生徒が来ても対応できるように待機していた。
(以前は先さんが話し相手になってくれたので、時間が長く感じますね。けど生徒さんのお怪我が無くて暇なのはいいことです)
「大変です千優先輩っ! 廊下に三人が倒れてて……!」
「……! それはいけませんねぇ〜」
すると倒れていた三人が運ばれてきて、千優の笑顔にも三つのビキビキが浮かび上がった。
「どうして倒れてたのか分かりますかぁ〜?」
「寧夢後輩は寝不足、小々枝後輩は廊下が寒すぎて、百八先輩は二日酔いですっ!」
「
「……寒いぃ……ッ!!」
「迎え酒が裏目に出ちまった……」
「分かりましたぁ〜。三人ともベッドでゆっくり休んでくださ〜い」
寧夢が百八をベッドに転がすと自身も横になり、先は小々枝を息を切らせながら座らせた。その間に温かいお茶と常温水を用意した千優はそれぞれを小々枝と百八に手渡し、ゆっくり飲むように促した。
「ぐー」
「……はぁぁ……あったかい……」
「いや〜。いつも悪いね」
三人は温かいベッドで休み、すっかり体調が落ち着いた。
「さすが千優先輩! おみそれしました!」
「先さんが見つけて手伝ってくれたからですよぉ〜。さすが学園の裏番長さんです〜」
「へへっ。それほどでも……ありますよ!」
(周りから見下されるのが嫌で、保健室に来る時はいつも一人だったのに、今ではこうして——)
感謝と共に尊敬の念を向けられている先を見て、千優はビキ一つない笑顔を浮かべたのだった。
〜吟遊詩人とも言えるし、ポエマーとも言えるね〜
詩人は季鞠の家にお邪魔していた。
「それで私に頼みたいこととは? 進路相談でしょうか」
「そうとも言えるし、そうでないとも言えるね」
「どっち?」
「ボクの進む道が吟遊詩人である以上、言い得て妙ということさ。つまりは君のポエムを聴かせて欲しい」
「なっ……! 一体誰がそのことを?」
「百八が酔った勢いで口を滑らせてしまったのさ」
「うう……忘れてくださいと言ったのに」
「お詫びと言ってはなんだけど、こんなものを寄越したよ」
すると詩人がどこからともなく取り出したのは酒瓶だった。
「ちょっ!? 未成年にこんな物を預けて……! そんなことしちゃ……」
「そう怒らないでやっておくれ。これもボクが悪用しないと信頼してくれたからこそなんだ。二日酔いで飲めなくて、傷んでしまうのがもったいないとも言っていたけどね」
「ダメよ……っ。ダメ……なんだからっ」
「なぜボクの口元に近づけるんだい?」
「はっ……!」
季鞠がわざとらしく咳払いをすると、詩人に飲ませる背徳感を断ち切るためにも自分でいただくことにした。
「——あなたの進路はどんな道? 一直線の高速道路? それとも長い長い自然歩道? いつか目的地に辿り着いた時に振り返ってみて。そこにはあなただけの足跡が残っているから」
お酒が回りすっかり仕上がった季鞠はノリノリでポエムを炸裂させていった。
(吟遊詩人はその土地や人々に合わせて唄ったという。季鞠のポエムはまさにそれだね……)
即興で作ったとは思えない完成度の高い詩に詩人は圧倒されていた。
「……すごいね季鞠は。君のポエムを聴いて改めて思ったよ。ボクはよく『そうとも言えるし、そうでないとも言えるね』と口癖のように口ずさむ。けれど本来の吟遊詩人とは、それをどう表現するのかなんだろうね」
「ふふ……そうとも言えるし、そうでないとも言えますね」
「え……」
「あなたの道は遠回りだからゴールが見えなくて不安なのね。けれどそれは誰かが走り抜けてしまった道。誰かがゴールで唄えば、あなたは道のりで唄う。それはあなただけの特別な詩」
「季鞠……ふふっ、参ったね。ボクとしたことが一本取られたよ」
「自慢じゃありませんが、学生時代はよく専用のノートに書いていましたので」
「それは興味深いね。見せてくれるかい?」
「いいですよ」
こうして二人はポエム談義で盛り上がり、翌日になって季鞠は耳まで赤らめて恥ずかしがったのだった。
「姫歌。ボクは季鞠に弟子入りすることにしたよ」
「……!? なら弟子である私も既に妹弟子というわけね!」
「そうとも言えるし、そうでないとも言えるね」
〜物理判定〜
屋上では姫歌、凛、詩人によるプチコンサートが開かれていた。
「素敵な音色だね……!」
「一人だけ外しまくってるけどな」
(きっと私のことね!)
姫歌がドヤ顔を浮かべる中、うっとりするエイラを見て、楠莉はふと疑問に思った。
「そういや音は物理じゃ倒せないけど平気なのだ?」
「詩人ちゃんのおかげでね。音楽なら生命の危機に直結しないし」
「赤ちゃんや犬猫に転がるやつが何言ってんのだ……?」
「そっちはか弱すぎて、触っただけでコロリといっちゃうから……」
「いかねーのだ……? じゃあそうだなー。羽々里とかはどうなのだ?」
「どういう意味!? 私から生命の危機を覚えることはないでしょ!」
「え……?」
「うーん。でも羽々里さんは物理で倒せるからなあ」
「……残念ですエイラちゃん」
芽衣が羽々里を庇うように割って入る。覚悟を示すように目が見開かれ、虹色の瞳がエイラを捉えていた。
「羽々里様をお倒しになるのであれば、私めは立ちはだかる盾となりましょう」
「きゃーッ!! 芽衣は物理で倒したくない……!」
「エイラちゃん……!」
いつもより多めに転がっていくエイラを見て、芽衣は瞳を潤わせたのだった。
「私はいいの?」
〜ツインテールとシュシュ〜
「うーん。今日もなんてパーフェクトでファビュラスな神ンテール……」
通学路にて、彗流はツインテールに顔を埋めながら歩いていた。
「……前……見ないと……危ないよ……」
「平気よ。アタシのツインテールは生命の危機を覚えたら、自動で守ってくれるんだから」
「ぎゃッ!?」
「羽々里!?」
「……だから……言ったのに……」
見えていないのを良いことにキス待ちをしていた羽々里にツインテ真拳が炸裂してしまう。
「あっ。髪留めが……!」
「……大変……これを……!」
「アルミホイル!? ……常備してるの?」
「……あったかいから……」
超奥義の反動に耐えきれなかった髪留めの代わりに、小々枝がアルミホイルをシュシュのように巻いて応急処置を施した。
「あ、ありがと……」
「……うん……。……やっぱりツインテールの方が……いい……」
「本当!?」
「……アタシも……彗流みたいなツインテールに……したい……」
「……! そうでしょそうでしょ! なんたってアタシのツインテールはエレガントでゴージャスな富ンテールで——」
喜びを噛み締めるように口元でツインテールを押さえる彗流を見て、小々枝は後ろ髪を伸ばすことを心に決めていた。
(だってマフラーみたいで絶対暖かいから……!)
〜ギャルとふふーんとモンスター〜
「うーん……。うーん……」
あー子はカードを手にしてグルグル目になっていた。
「あら、何か悩み事ですの?」
「美々美っちー。あーしデュエリストになりたくってぇー」
「それはまた……唐突ですわね。どうしてですの?」
「この前のギャルコンテストの決勝がバズってぇー。今はねぇー。デュエリストギャルがマジ流行りなのぉー」
「金髪高身長のトレンド短かったですわね」
「でもあーしあんま字のない本しか読まないからぁー。全然分からなくってぇー。これとか攻撃力どれくらいなのぉー?」
「それ
「えー? マジはずーい。ブラマジギャールが大きくプリントされてるからぁー。モンスターだと思ってたしぃー」
「まあ……カーテンが端っこに追いやられて、どっちが本体か分からないきらいはありますわね」
「うーん。どうしよぉー。SNSで流れてくるの楽しそうで、あーし好きなんだけどぉー。こんなんじゃ好きって言えないしぃー」
タイムラインに流れてくる動画を見返して自分なりに勉強してみたあー子だったが、なにぶんルールが複雑で理解しきれず、カードには彼女の落とした影が差し掛かっていた。
「あら、らしくないことを言いますのね。詳しくないからといって、好きじゃいけない理由なんてありませんのよ」
「そうかなぁー?」
「時にあー子さん。そのカードのことどう思います?」
「んーとぉー。ブラマジギャールが枠ギリギリまで飛び出してて、本物みたいだしぃー、マジかーいー」
「そう……たとえば見た目が好き。それはルールが分からなくても自然に抱く感情ですのよ」
「あ……」
「ルールが好きな方もいらっしゃるでしょう。ですがいいじゃありませんか。他の誰でもなく、自分が好きなら……声高々に主張すればよいのです」
「……えへへぇー。美々美っち好きぃー」
「あらあら」
あー子がとてとてと歩いて倒れ込むように抱きつくと、美々美は照れくさそうに微笑を浮かべて受け止めた。
「でもでもぉー。せっかくだしぃー、少しはできるようになりたいしぃー」
「ふふっ。お手伝いしますわよ」
日差しに照らされたカードには二人の楽しそうな笑顔が映し出されていた。
〜くるくるくるりん〜
(寧夢さんも育先輩もご予定が空いていないなんて、ついていませんわ……)
凛はバイオ⚪︎ザードの新作を遊びに一人でゲームセンターへと赴いていた。
「ああ……クソっ! やりすぎた……」
「えっ!? 胡桃先輩……?」
「り、凛!?」
すると不機嫌な様子の胡桃と鉢合わせした。
「……ごめん。びっくりしたよね」
「いえ……ほんのりバイオレンスメルが……!」
「無敵か?」
「それで何があったんですか?」
「いや、その……クレーンゲームのコーナー出禁になっちゃって」
「ああ……」
戦利品として抱えられた大量のお菓子を横目に凛は全てを察した。
「はあ……また新しい穴場探さなきゃ」
「よろしければ私の知っているゲームセンターをご紹介しますわ」
「本当!? ありがとう……!」
「それで……その。代わりと言ってはなんですが、ご一緒にバイオ⚪︎ザードをプレイしていただけませんか?」
「喜んで! あたしバイオ⚪︎ザード好きだし!」
「良かった……! その設定生きていたんですわね……!」
「確かにここ最近は使われてないけども。……あたしさ。バイオ好きになったの、ちょうど出禁になった時だったんだよね」
「え? そうなんですか?」
「ほら、出禁になるくらいだから収穫は順調で軍資金が余ってさ。出禁のイライラを解消しようと思ってやってみたんだ」
「ストレス解消もバイオの魅力すわ〜」
「そしたらさ、ゾンビって理性をなくして人肉を求めて襲いかかってくるじゃん。あたしもくるくるしてる時は理性失っちゃうからさ……。倒すことで自分を抑えられる感じがして、好きになったんだよね。……ごめん。変だよね」
「いえ……! どれだけ人と違くても変なことなんてありませんわ!」
目を見据えて真っ直ぐ放たれた言葉に、胡桃は目を見開くと頬をかいてはにかんだ。
「そっか。よーし、やるぞ!」
「はい!」
二人は顔を見合わせ、筐体の中に入っていった。
「バイオレンすわ〜!!♡」
人目を気にせずギザ歯をのぞかせていひひ笑いをする凛に、胡桃は穏やかな笑みを向けると、自身もくるくるを解消すべく目一杯楽しんだのだった。
〜100カノ名物カス気候〜
「困ったどー」
園芸部にて山女は悩んでいた。すると事件の匂いを嗅ぎつけた蓮葉と彼女のピンチを嗅ぎつけた恋太郎が颯爽と現れた。
「どうしたんだ山女ちゃんっ!」
「名探偵の私に打ち明けてみてください!」
「それがーずっと春なのに気候の変化がすごいからー、もしそれで植物達の元気が無くなったらと思うと……」
「ああ……確かに最近一年経ったのかと思うほどめちゃくちゃでしたもんね!」
散った桜が再び満開になるような春を迎え、秋のように落ち葉舞い散る気候を迎え、夏のようなセミも鳴くほどの暑さを迎え、さらには豪雪まで迎えた。しかし実際には一年経っておらずずっと春なので、気温の変化に弱い植物に悪影響がないか山女は心配していた。
「分かった! 俺に任せて!」
「何か秘策があるんだど……!?」
「そもそもなんで春なのにこんな異常気象だらけなのか……! それは原作の頭が悪くて気象の仕組みを知らなすぎるせいだ!」
「原作だって生きてるんだど……!」
※原作からの引用だよ。
「だから俺が原作と相討ちになればこの問題は解決するッッ!」
「恋太郎サンも生きてて欲しいど……!」
すると話を聞いていた蓮葉がふと疑問に思った。
「ちなみに植物って気温の変化に弱いんですか?」
「その場から動けないからー、環境の変化をそのまま受け止めて体内の機能で調節するしかないんだど……」
「……! そうか! 原作が気象の仕組みを知らないのと同じで、植物の仕組みを知らないなら……!」
「そういえばこの前の豪雪の時も、霜や凍結がなぜか無かったど……!」
「これなら大丈夫そうだね!」
「ほっとしたどー。蓮葉サンのおかげだど! さすが名探偵だどー!」
「えっ。……もちろんです! この名探偵蓮葉にいつでもお任せください!」
どう解決したのかいまいち理解していない蓮葉だったが、名探偵と呼ばれて気を良くし、まあいいかとなったのだった。
小々枝ちゃんと彗流ちゃんのカプ名がこごえるで果たして平気なのか気になって夜しか眠れ……ぐー。