〜恋太郎ファミリーは魔法少女の夢を見るか〜
「魔女っ子服作ってきたの! 着て!!」
いつもの屋上にて、羽々里はよだれを垂らしながら懇願していた。
「とうとう頭がイカれたか」
「『ついにと言うべきか。……いや、元よりこうなる
「私の類い稀なる観察眼と、あと最近よくする話からしてニチアサのアニメに影響を受けたと思われます!」
「にちあさ??」
「日曜日の朝に放送される子ども向け番組のこと」
「対象年齢に対して差がありすぎるだろう」
「それはそうだけど赤ちゃんになるやつが言うとややこしいから少し黙ってろ?」
「それにいくつになっても
「アイアムもビッグヒューマンになってからデース。初めて見たタイムのことを今でもライジングメモリーマース」
「いいよなー魔法って。あたしも透明人間になりてー」
「きゃーっ! 魔法は物理じゃ倒せない……!」
「透明人間になって何をするつもりなんですかっ……! そんなの絶対に……ダメ、なんだからっ……」
「……アタシは炎がいいな……。……あったかいから……」
「私は風ですかね。前髪が吹き飛ばされないように……」
「ふふん。私は奇人だから、魔法より変身に興味があるのよ!」
「長年続く子供たちの憧れでないかぃ?」
「アタイは背を伸ばしたい!」
「数は数字になりたいぞ!」
「あーしはやっぱりフリフリの服に早着替えしたいしぃー」
「べ、別にフリフリの服に興味なんてないんだからねっ!」
「そっか……。皆に似合うと思って羽々里さんと全員分のデザインしたんだけど」
「さっさとよこしなさいよっ!!」
キュンの衝動を歯噛みして味わった彼女達が次々と魔法少女への変身を遂げていった。すると作者の語彙力では表現できないほど、可愛らしさを倍増していた。
「あびゃびゃーっ!!」
「優勝マジック!!」
すると彼女達のあまりの可愛さに羽々里と恋太郎が吹き飛び、鉄柵へと叩きつけられた。
「ホームランだね!」
「すわ〜!」
「は、肌面積が多くて……。こんなのおでには似合わないど……」
「何言ってるんですか! すごくえっちですよ!」
二人で胸を寄せ合って放った魔法攻撃にヤツとヤツの魂が抜け、芽衣が慌ててダンクして戻した。
「あんたこそ何言ってるんだ?」
「パッツパツやんけ……」
「ゔーっ!」
「その変身は魔法少女というより獣人化ですね」
(魔法少女に囲まれて、ファンタジー世界の主人公みてえ〜! はー! お姉様のコスプレたまんねえ〜!)
「……私は体格が大きい。彼女達のようには似合わない」
「そんなことありませんわ! とても似合っていますわよ!」
「本当に? ありがとう。美杉美々美も端正な顔立ちとドレスのような服とのコントラストがマッチしている」
「……!? あ、ありがとうございます」
(嬉しすぎて震えが止まりませんわ〜!)
「タマさんとお耳お揃いお揃い♪ 一緒に頑張ろっ♪」
「……! 敵と戦うお仕事は嫌にゃん……」
「
「寝るのも子供の立派なお仕事——とも言えるね」
「敵さんですかぁ〜。平和を乱すなんて許せません〜」
「ビキビキ魔法少女!? ま、まあアタシのツインテールで成敗してやるわよ!」
「ふぅ……羽々里さんもありがとうございました! 全員すごく可愛かったです!」
「あら? まだ全員じゃないわよ」
すると羽々里が指パッチンを鳴らし、芽衣が瞬時にもう一着持ってきた。
「もちろん恋太郎ちゃんのもあるわよーっ!」
「ええっ! 俺はさすがに少女じゃないですよ!?」
「大人が少女でもいい……なら男の子だって少女でもいいじゃないっ!」
「ちょちょ……皆……うわぁーっ!?」
全員がノリノリで恋太郎の服を着せ替えると、恋太郎は顔を赤らめながらスカートの裾を隠すように持って佇んでいた。
「魔法少女最高ーっ!」
彼女全員の魂が昇天していき、恋太郎が慌ててダンクで戻していく。こうして恋太郎ファミリーは今日も平和でしたとさ。
〜卒業!? 恋太郎依存!〜
「恋太郎さんのアトムすごいことになってますね」
「疲労さんのせいで恋太郎君の体がぁ〜。無理はダメですよ〜」
「ありがとうございます。でも大したことはしていませんよ」
ビキビキジャッジに引っかかった恋太郎は紅葉のマッサージを受けていた。
「大丈夫ぅー? なんでこんなボロボロにぃー?」
「三十六人の彼女に対して一人の彼氏という分配が、身体的負担に繋がっている可能性大」
「確かに心持ちは良くとも、体がついていかないことはあるのう……」
その原因を追究するファミリーの中で、椎奈は言葉を発さずに俯いていた。
「うさちゃんさん? どうしましたの?」
「……私、やっぱり恋太郎君に依存しすぎなのかなって」
「ううん……。してるかしてないかで言えば、しているのでしょうけども。恋太郎君も遠慮せずにいてくれることが嬉しいのでは」
「うん。それは間違いないと思うんだけど。でも昨日だって深夜に勝手に家に入った私を、あんな疲れた体で相手してくれて……」
「お待ちなさって? 今ご友人の不法侵入を報告されましたの?」
「一応鍵は恋太郎君からもらったんだ」
(だからいいとはなりませんけれども)
「恋太郎君ってそれぞれに愛を分けるんじゃなくて、一人一人に全力を注いでくれるから。それはもちろん嬉しいんだけど。負担になってるなら、嫌だなって……!」
「……!」
椎奈の一言はまるで雷でも落ちたかのような衝撃をファミリーに与えた。
「そういえば楠莉もこの前『焼きそばが美味しくなる薬』の爆発に巻き込んじゃったのだ」
「私も色仕掛けを隙あらば仕掛けて防がれる攻防戦を繰り広げちゃいました……」
「それに乗じて匂いを嗅ごうとしたらとんでもないことになってしまいました」
「うっ。私もそれで勘違いして吹っ飛ばして複雑骨折させちゃったけど……」
「お見舞いに行ったときにオムツに変えようとして必死で抵抗させちゃったわ……」
「私もその際に耐えられなくて、怪我人をパパにさせてしまった……」
「"その晩。一通の手紙が送られてきた。"『我の詠唱を手助けしてくれる』『新しい本よー!』」
「えっ。次の日に回復したって言って、私のライブに来てたわ! 奇彼氏ね……!」
「しかもボクと凛の追加コンサートも全力で応援してくれて……」
「さらにはケツバットの加減の実験台になってくれましたわ……」
「その夜には素振り一万本に付き合ってくれて……」
「終わった後に満月の0の再現を夜通し手伝ってくれて……」
「次の日の朝にはタマのお散歩をしてくれて……」
「……その後二人で一緒に……布団で凍え死にそうなアタシを……あっためてくれて……」
「待ち合わせで突如発生した竜巻から私の前髪を守ってくれて……」
「私めどもと一緒に朝の業務を手伝っていただき……」
「その時に見惚れてて転んだ妹を助けてくれて……」
「終わったら妹と一緒にアタシのテントを片付けてくれてー」
「そうしたら百八先生と一緒に畑仕事を手伝ってくれてー」
「委員長だからって日直を押し付けられた私を手伝った上に、その子に何かをして反省させてきて……」
「早弁がつきたアタシに手作りのお弁当を渡してくれて……」
「間違っておクラッシュを作ってしまったアイアムにマックをプレゼントしてくれただけでなく、美味しそうにイートしてくれて……」
「昼休みにファミリーの集まりに行けなかったアタシが寂しくないように大学に来てくれて……」
「放課後に私がまた駄菓子屋に行きたがっていたのを察して、誘ってくれて……」
「そこで居合わせたアタイがガキ共と喧嘩して泣……かせちゃいそうになったところを、連れ去ってくれて……」
「そんで先と一緒にあていと祭りを楽しんで……」
「アタシのツインテールが傷まないように髪をとかしに来てくれて……」
「最高の睡眠が取れるようにって……子守唄を聴かせてくれて……」
「メルヘン不足で
「あ……そこから私と一緒にベッドの中でずっとお話ししてくれたんだ」
全てを聞き終えた美々美は、素直な感想を吐露した。
「恋太郎君は何を思って大したことをしていないと言ったんですの?」
「こんなの、彼氏として当然のことじゃないか」
あっけらかんと言い放つ彼氏に誇らしくも溜め息をつく美々美だった。
「まずうさちゃんさん。依存を卒業する必要は今の所ないでしょう。ご覧のように負担の欠片も感じていないようですから」
「良かったぁ……!」
「ただし鍵を渡してもらっていても、勝手にお宅に入るのは普通にアウトですわ」
「ごめ〜ん! 気をつけるよ!」
「次に恋太郎君。一体いつから寝ていないんですの!?」
「えっ、一週間だけど……」
「恋太郎君〜?」
判明した原因に千優のビキビキが七つも入ってしまった。
「ちゃんと十分な休養を取るように! いいですわね! 睡眠不足は美容の天敵ですのよ!」
「はい……。あ、そうだ。休養といえば! 美々美先輩がずっと探していた入浴剤見つけたんです! どうぞ」
「……あなたって人は本当に」
「あ……」
こうして美々美から始まったキス三十六連鎖によるバフで恋太郎の疲労は回復しましたとさ。
〜桜の唄〜
「え? 姫歌先輩が作詞を?」
春がまた本気を出して桜が満開になった頃、姫歌先輩の方から話しかけられた。
「そうなのよ。ファンの誰かが『奇姫ならできそう』って言い出したのがバズってね。やる流れになっちゃった」
……やばい。それアタシが言ったやつだ。
「まあ私にできないことなんてあるとは思わないけど、客観的な意見が欲しくて」
「あ、アタシに?」
「よくヘッドフォンで誰かの歌を聴いてるじゃない」
「ま、まあ確かに聴いてるけど……」
「決まりね! それで春をテーマにして欲しいみたいで、曲名は春ら……じゃなかった。『春の雷』でいいと思う?」
「ダメだよ! この前も米津の『lemon』リスペクトで『kabosu』出したばかりでしょ!?」
「あら……詳しいわね」
「はっ! いや……その……」
「まあ私の曲は全人類聴いてるからか……。なら題材は桜でいこうと思うのよね」
「春のテーマ王道ランキング第一位」
「けど私は奇人だからタイトルはローマ字で『sakura』にするのよ!」
「結構あるよ……!?」
しかも『kabosu』に露骨に味を占めたみたいになってるし……。
「というわけでお花見付き合ってくれる? 今日は団子も持ってきたから」
「あ……いや、今は桜餅の気分で」
「なんでよ!? 奇人ね!」
アタシ達はコンビニで桜餅を買ってから、鬼分咲公園にやってきた。
「何回満開になれば気が済むんだこの桜は」
「奇節ね……!」
アタシと姫歌先輩は桜を見上げながら……あ、いやアタシは桜餅を見下ろしながらしばらくはのんびり過ごした。
「私ね。どんな変な歌でも歌うとそれっぽい良い歌になっちゃうんだけど」
「自画自賛もすごいけど才能が追いつきすぎてる」
「でも折角の機会だから、私に今できる最善を尽くしたいの。お仕事っていうのもあるけど……こういう経験に向き合うのって自分のためでもあるから」
「姫歌先輩……」
アタシのなんでもない思いつきから始まった企画。姫歌先輩にとってはさほど思い入れもないはずなのに。この真摯さにファンになっちゃったんだろうな。
「先輩はどうして桜を選んだの?」
「そうねぇ……。やっぱり皆と来たお花見があったからかしら。その時に恋太郎から結婚のプロポーズもしてもらったし」
アタシからしたら美味しいお花見だったけど、確かに姫歌先輩からしたら一大イベントだな。桜が恋太郎ファミリーの象徴のように感じたのかも。
「でもそれなら恋太郎先輩に来てもらった方が良かったんじゃ」
「それも考えたし、詩人に相談しようかとも思ったけどね。私なりの奇人さをアピールするためには、客観的に奇人が分かる人じゃないと」
「ああ……うん。そうかもね」
「それに胡桃が花より団子で、団子が食べたくなるのを読めなかったじゃない?」
「あったけど……」
「恋太郎はそんなこともあるかと思って作ってきていたでしょ。私も恋太郎みたいになれたらなって……」
そう言う姫歌先輩の表情には翳りが見えた。さっきできないことなんてあるとは思わないって言ってたし、実際あんまりないんだろうけど、それでも恋太郎先輩の愛情の大きさに到底及ばないって思ってるんだ。
「そんなことないよ!」
「えっ?」
「恋太郎先輩のファミリー愛だってすごいけど、奇姫のファン愛だってすごいじゃない! 今だってファンに応えようと全力で……!」
「あ、ありがとう胡桃。……!? 恋太郎にとってのファミリーは、私にとってのファン……それよ!」
「えっ?」
すると姫歌先輩は天才と称されるのも仕方ないスピードで歌詞を書き上げた。その曲はまるで恋太郎先輩が主人公のような、それでいて姫歌先輩自身を主人公に見立てたような、彼女らしい歌詞だった。
「——幾千もの花びらがー♪ たとえ花吹雪となりて散りゆくともー♪ 全てを拾い上げるまでッ! 一つも逃さずにー♪」
奇姫の独占生ライブ……! それも未発表の歌の初お披露目……!
「……ふぅ。どうだった?」
「花びらになりたい……ッ!」
「なんでよ!? 奇人ね!」