小々枝の加入により、こたつ鍋を始めとした温かい食べ物を皆で食べる機会が増えたことで、彼女達にある恐怖が襲いかかっていた。それはこの世に生きる乙女の難敵……そう、体重の増加だった。
「……? おいしー」
ある一人の彼女とある一人の皆を守るために猛特訓をしている彼氏を除いて……
「皆でスポーツをしましょう!」
「賛成!!!!」
「うわっ。ビックリした」
羽香里の提案に皆が食いついた。考えることは皆同じだったのだ。
「皆がしたいならもちろん俺もサポートするよ」
「でもどうするにゃん? 人数が多すぎるにゃん」
「36人ならトーナメントをするのには適しているが……」
「
「野球はどうかな? ちょうど9人で4チームできるよ!」
「9! 4!」
「それが……お母様。あれを」
「ちょうど焼肉食べ放題の優待券をもらってね。20人分なんだけど今日までで、あまり時間がないの」
「行ぎたいっ!!!!」
こうして胡桃にも真剣に取り組む理由が生まれた。
「それなら急いでカロリーを消費したいところですわね……」
「け、けど……36人でやるちょうどいいスポーツなんて……あるんでしょうか……」
「18人のチームで戦うスポーツならクリケットとオーストラリアンフットボールが該当する。試合時間を考えれば後者にするのが効率的」
「『さすがうちの』"機械仕掛けの少女の計算は早かった"」
「勝った方が行けるのはいいとしてー、あとの二人はどうすんのだ?」
「優待券を頂いた羽々里様は確定でよろしいかと存じます」
「あとはお嬢様と恋太郎さんを確定にして、お嬢様と羽々里様を別のチームに分ければ20人ですね」
「え? でも俺はただ審判するだけだし……」
「恋太郎君のためなんですから絶対来てくださいっ!」
「そ、そういうことなら」
スタイルを保ち続ける恋太郎に並び立っても恥ずかしくないスタイルを目指し、少女達の聖戦が幕を開けた。
「ところで私ルール知らないわ。奇人だから」
「日本で知らないのはそこまでおかしくないんじゃねぇかぃ?」
「そんな……ルールを知らないままなんて危険よ……っ。ダメなんだから……っ」
「るうる……? そもそもすぽうつというのは……?」
「そこからでしたの!?」
凪乃がwikiのような説明をし、恋太郎も彼女に危険がないようにあらゆる対策を徹底したところで早速試合が始められた。
「読者への説明は!?」
「院田唐音。頭が良くないと何かを知らない相手にルールを説明することは不可能」
作者が理解せずともファミリーの面々はルールを理解していた。恋太郎が楕円状のボールを真っ直ぐトスすると、バスケの取り合いのように両チームがジャンプした。
「まずはボールを死守すること。そのためには身長の高いうさちゃん先輩を向かわせるのが定石です!」
「それは残念ながら現実でのお話ですね」
「夢留さん!?」
「お忘れですか? この作品は
すると高身長を生かしたうさよりも、相手の選手は高く跳んでいた。
「芽衣! ボールを私に」
「かしこまりました」
「しまった! バフ掛け……!」
(あっちのチームは夢留さんが指揮を……! この試合、いわば天才たちの恋愛頭脳戦になりそうですね!)
はたかれたボールを受け取った羽々里はドリブルではなくパスを選択した。しかしこの競技ではスローによるパスは反則であり、代わりに二つの方法が認められていた。その一つは拳によるパンチで叩いて渡す方法。
「エイラちゃん!」
「ナイスパスです!」
そしてもう一つはキックによって大きく蹴り飛ばす方法だった。強靭な足腰から放たれた弾丸ライナーは低空で地上を切り裂いていく。高さとしては触れそうだが、あまりに強烈な弾道に誰もカットすることができなかった。
「こ、こんなパス誰も受け取れな……あっ!」
「キッツ……ッ!!♡」
しかしその衝撃を喜んで受け止める人物が一人いた。15メートル以上離れたキックを誰にも触られずに受け止めると、マークというフリーで次のプレーを行う権利が認められる。育はすかさずキックによるシュートを選択した。
「これで先取点ですね。……!」
「確かにそうですね。ですが……!」
「おでに任せるど……っ!」
育は中央に設置された二つのポールの間をピッチャーのように正確にコントロールして通した。しかし蹴り上げたボールは段々と落ちていき、ゴールを通る寸前にディフェンスに参加していた山女が辛うじて触ってから入っていった。
「キックでのゴールは6点入りますが、誰かが触ってから入れば1点になるんですよ……! ナイスディフェンスです山女さん!」
「羽香里サンの完璧な作戦だどー」
「……なるほど。そう来ましたか」
既にこの競技の本質がいかに相手に6点を与えず、こちらが取るかという部分にあることを見抜いていた羽香里。しかし夢留は山女の弱点を見抜いていた。先程と同様のパターンで育にボールが渡ると、彼女にサインが送られる。
「食らえ! これがボクの……『炎のシュート』だ!」
「それドッジボールの必殺技じゃない!?」
「ひっ……火だど!?」
『炎のシュート』……全身のバネをつかうことで放たれる最強のシュート。しかし身体が発達した大人になるまでに放つと、全身の骨がバキバキに折れる代償があった。
「キッツゥ〜!!♡」
「山女さんには申し訳ありませんが、放つのは空中です。触ろうとしなければ危険はありません」
「甘いですね。私が山女さんの苦手をフォローせずにそのままにしておくとでも?」
「こ、これは……」
事前に炎技の対策としてディフェンスに配置された選手がボールに向かう。彼女の身長では届きそうにもなかったが、寝転んだ山女の足とドッキングして大ジャンプが敢行された。
「スカイラブ・ハリケーン!? いいの!?」
「なんとオーストラリアンフットボールでは敵味方を踏み台にすることが認められているんです」
「そこもだけどさっきから版権的に!」
炎を纏ったシュートは彼女が触れた途端、急速冷凍されて蒸気を吹き出した。
「……はぁぁ……あったかい……」
「あったかいですんでたまるか」
寒くて凍えていた小々枝が動けるようになり、ドリブルが開始された。全力疾走しながら15メートル地点ごとにボールを地面につく、見事なドリブルだった。
「息も乱れず汗もかかないとは……走り慣れているんですの?」
「……アタシ汗かいたことないし……あっ……」
「油断は禁物じゃよ」
しかし30メートル地点でもう一度バウンドする必要があったところをヤクに狙われた。美々美も近くで構えていたため、混戦を避けて味方へのパスが選ばれる。
「わ、私か!? くっ……こうか!?」
「……!? ん〜?」
しかし騎士華のパスはヤクへのフレンドリーファイアになってしまった。さすがの彼女も味方からの攻撃は想定できずに、ボールが当たって弾かれてしまう。
「す、すまない! 球技はからっきしで……!」
「チャンスですわ! って、私の手がすべすべで滑りましたわ」
「なら私が……って、お姉様!? おんぎゃー!」
「大丈夫ですか妹?」
「ぐだぐだじゃねーか」
芽衣が盛大に転んだ妹をキャッチすると、転がり続けたボールは育のもとに戻ってきた。
「戻ってきたんだね。ボクのトモダチ……!」
「もうツッコまないからね……」
「では代わりに紅葉が」
しかし先程のエイラのパスと違ってボールに近づくリスクがなく、紅葉がタックルに成功した。上述の連鎖で周囲はうさがハート目になるほど絡まり合っており、全くパスを受け取れそうになく、ホールディングの反則を避けるために育はやむを得ずボールを離した。
「あ、もーみもみ」
「……!? 恋太郎、反則じゃないかな!」
「何を言っているのですか。ただでさえひどい筋肉痛なのに、こんな複雑骨折……今すぐマッサージが必要なのです」
「ノーファール!」
「ぐあああああ! せっかくキツかったのに……」
タンク役の育が回復魔法でダメージを受けて無力化され、羽々里チームは攻め手を欠いた。しかも彼女のチームのディフェンスは夢留の指示で高身長の選手を欠いており、ショートパスで攻め込んだ羽香里チームは大チャンスを迎えていた。
(この密集地帯ではキックに触られビハインドにより1点になる確率が高い。フィジカルの差を生かして確実にかわすのが効率的。……!?)
「『かかってこいやぁ〜!』」
「無理……ッ!!」
「楠莉に任せるのだよ! 打ち消しの薬も飲んで、完全に上を取ってるのだよ!」
「ですがハンドパスでゴールしても1点です。足元に気をつければ……あっ、メガネが……! うわあああん!」
「もう……知与はしょうがないのだよ。ほら楠莉のメガネを見るのだよ」
「ここはなんとしても私がゴールへの道筋を推理してみせます!」
「アタシのツインテールを横切れるとは思わないでよね!」
「はぁぁ……! いい匂いれす……」
「何をやってるんですか皆さん……。試合中なんですよ。もっとルールを守って……」
「フットボールという名の蹴る球〜♪ オーストラリアンとは名ばかりのファミリー式〜♪」
「そんな……試合中にポエムなんて……ダメなんだから……っ」
「しょうがないね。先輩のアタイに任せな!」
「もらってくでい」
「なっ……!? ま、祭李後輩の手にいきなりブラックホールが現れただけだよっ!」
「どんな超常現象でい。ばーろちくしょ」
「そんな馬鹿な……! 先先輩はともかく、前線の5人が無力化されるなんて……」
「これが私たちの
「…………」
唐音はツッコまなかった。もう絶対にツッコんでやるものかと心に誓っていた。
「し、しかし……攻め手が封じられているのは夢留さんのチームも同じです!」
「ふむ……それは否めませんね」
「だ、大丈夫かあー子?」
「マジキモーい」
20分という短期決戦ながら攻守の入れ替えが激しい競技であるため、既に足が止まる選手も出てきていた。
(こうなるとロングパスによる戦術が有効ですね……そのためには)
「育さんの蘇生が必要……そうですね?」
「……!」
「育さん行きますわ。バイオレンす——!?」
「ダメですよ凛さん〜? 育さんもサッカーでバットを取り出しちゃダメです〜」
(読まれていた……!?)
エイラの強烈なロングパスを受け取れるのは育しかいなかった。そのためケツバットによって復活を試みていたものの、千優のビキビキチェックによって阻まれてしまう。
「……なるほど。さすがは羽香里さん。謀はお手のものですね」
「それほどでもありますよ!」
「しかし攻め手を封じているのはこちらも同じです。それならばこちらは……」
「……! 分かったわ夢留!」
「えっ……!?」
ボールがショートパスで繋がれていくと、姫歌に渡った。しかし山女を始めとして固い中央を避け、外側を確実にハンドパスで通していった。
「ゴール! オールクリア! 1点!」
恋太郎が右手の人差し指を出し、1点を指すビハインドのゴールを宣言する。ゴールのポストは全部で4本あり、その内中央の2本から外側のポストの間を通すことでも1点を得ることは可能だった。
「残念ながら6点を狙わせては貰えないようですからね。無理に狙えばカウンターのリスクがあります。ヤクさんも先程の誤爆で混乱気味ですし、小々枝さんに同じような突破を許すわけには参りません」
「20分制限を活かした逃げ切り……ですか」
守備的な戦略だが、羽香里に文句はなかった。リードすれば自身も同じ指示を出していたし、何より6点を狙いにくい布陣を作り上げたのが他ならぬ自分だったからだ。
(どうにかしてトスのボールを取らないと……!)
しかし高身長のうさと美々美が協力しての踏み台プレイですら、バフを受けた芽衣には及ばなかった。これによりトスの制空権を支配した羽々里チームが猛攻を仕掛ける。いかんせん6点を取られれば厳しい状況ゆえに、中央を厚くしないわけにはいかなかった。
「一緒に寝るにゃん……」
「それもいいですね……。……ぐー!」
スリープモードにより身体強化が入った寧夢により1点——
「タックルは揉み放題のチャンスなのです」
「ひゃああ——」
タックルをミスディレクションで回避し、フリーになった愛々によりさらに1点——
「焼肉ーッ!」
「栄光の焼肉ロードかな?」
焼肉への執念でバーサーカーと化した胡桃により追加点が入り、5点目——
(残り時間もあとわずか。恋太郎君との焼肉、私は負けても得ることはできますが……)
(……まあ。誰が行くことになっても嫌ってわけじゃないし、それが勝負の結果なら——)
絶望的な状況で勝利にこだわる意味も薄い羽香里だったが、それでも顔が上げられた。
「——唐音さんっ! 何を遠慮してるんですか。さっきからツッコミもせずに……!」
「べ、別に遠慮なんてしてないわよっ!」
「……分かりますよ。前に私達は一度焼肉デートをしていますから、今回は……そう考えるのは」
「う……それは……」
「最後まで戦いましょう! 私達はファミリーです。家族に遠慮なんて必要ありません!」
(羽香里様……かしこまりました。そう仰られるのであれば)
すると羽香里は自ら芽衣とのトスの競り合いを買って出た。その意味するところは全員に伝わった。
「……分かったわよ」
そして唐音も前を向いた。恋太郎も二人の覚悟を見届けつつも、あくまで公平になるようにトスを上げた。
「……!? 羽々里様、ご命令を……!」
「お母様!? まさか……」
子供の覚悟に鬼に徹しきれなかったのか……そう思った羽香里の目に映ったのは——
「ばぶーっ!」
「あびゃびゃーっ!」
——これ以上プレイに関わっては迷惑になると判断して休んでいた騎士華をあー子が撫でているのに目ざとく気付き、甘やかすのに夢中になって命令を忘れた母親の姿だった。
「何やってるんですか!!」
「ぐっ……!」
苦虫を噛み潰したような表情で込められたツッコミは芽衣のスピードを上回った。羽香里はボールを弾かずに胸に押さえるようにキープを狙う。しかしいかんせんツッコミのパワーが強く、神様がくれたエアバッグにより弾かれてしまう。
「あっ……!」
宙に浮いたボールはカバーに入っていた唐音の胸に当たり、そのまま垂直落下した。
「ふざけんじゃないわよーっ!」
怒りが込められたツンデレキックはゴールまでの80メートルをゆうに越えて、フェンスに突き刺さった。
「ゴール! オールクリア! 6点! 試合終了!」
「なんという
恋太郎が両手の人差し指を突き出し、ゴールが認められる。同時にタイムアップの笛が鳴り、羽香里チームの劇的な逆転勝利によって、試合に決着がつけられたのだった。
「すいません夢留さん……あんなチートを使ってしまって」
「誰がチートよ」
「確かにチートではあるかと思います」
「……悪いわね」
「ですが私の作戦ミスです。羽香里さんの策略にハマるうちに戦略が現実的なものになってしまいました。この作品が
「こちらこそ戦えて良かったです。ファミリーの参謀として、また戦いましょう……」
こうして二人の固い握手と、皆の盛大な拍手によって試合の幕が閉じられたのだった。
「焼肉がああ……!」
「申し訳ございません。力不足でした」
「あ、いや……夢留先輩が悪いわけじゃ」
「代わりと言ってはなんですが、私たちも打ち上げといきましょうか」
「行ぎたいっ!!!!」
真剣勝負によって芽生えた友情は何も相手ばかりではなく、共に戦った味方もそうだった。戦友とお腹を空かせて取った食事はもちろん美味しく、そんな時間を彼女たちは心ゆくまで味わったのだった。
「皆でスポーツをしましょう!」
「賛成!!」
「……心ゆくまで食べ過ぎてしまったのですね」
だからこそ食べ放題が牙を剥き、しばらくは無限ループのようにファミリー式フットボールが流行ったのだった。