100カノ短編集   作:ゾネサー

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恋太郎×大人組の日常。
競うな、持ち味をイカせッッ。


恋太郎と彼女の日常(その2)

〜その祈りは誰が為に〜

 

 恋太郎と千優は教会を訪れていた。

 

「綺麗ですね〜。それになんだか落ち着きます〜」

 

「本当に……同じ梳杉町とは思えませんね」

 

 アーチ状の門を潜ると天井や祭壇の鮮やかな装飾に迎え入れられる。荘厳な雰囲気に包まれた聖堂内は、日常から切り離されたようだった。

 

「恋太郎君はお祈りはしますか?」

 

「ええと……あまりしないですね」

 

("神様"に祈りや感謝を届けるのがどうも……)

 

「ふふっ。恋太郎君は自分の力で頑張ろうとしてくれますからね〜。でも私は結構しているんですよ」

 

「ちょっと意外でした。千優先生こそ皆のために自分でなんとかしているような……」

 

「そうですか〜? 嬉しいです〜。私はお祈りは願いを叶える手段じゃなくて、静かに自分に向き合うための時間だと思っているんです」

 

「日頃から皆を守るためにそんな努力を……! 俺も見習います!」

 

 二人はそれぞれ指を組んで目を瞑り、十字架に向かって祈りを捧げた。少しして恋太郎が目を開けると、ステンドグラスから差し込まれた光に照らされた千優の微笑みに思わずドキッとしていた。そうしているとようやく千優も目を開けた。

 

「どうしましたか〜?」

 

「いえ……シスターさんみたいだなって。つい見惚れちゃいました」

 

「あらあら〜」

 

 千優が目を細めて柔らかく笑うと、二人は聖堂を後にして再びアーチ状の門を潜った。

 

「でも今度また来る時があれば……やっぱり並んで潜りたいですね〜」

 

「千優先生となら何度だって来ますよ!」

 

「……ふふっ。そういう意味じゃないですよ〜」

 

「え……」

 

 そう言うと千優はそっぽを向いてしまう。恋太郎は少し遅れて彼女が何を祈っていたのかに気がついた。

 

(い、言っちゃいました……!)

 

(デートが終わったら四つ葉のクローバーを一晩かけてでも探し出そう……!)

 

 二人は顔を赤らめてしばらくお互いの顔をまともに見ることができなかったが、その手は何かを祈るように繋がれていたのだった。

 

〜ロシアンルーレット晩酌〜

 

「また負けたーッ!」

 

 恋太郎が百八のテントを訪ねると、彼女は大の字になって倒れてぎゃぴーッ!! と大泣きしていた。

 

「ゲームですか? 珍しいですね」

 

「妹に借りたんだよ。酒飲み勝負でさー。度数が違うお酒をお互い選んで、酔い潰れたら負けってやつ」

 

「おやじっぴに続く飲み友達な訳ですね」

 

「そうなんだよー。まあ、あたし毎回度数高い方引いちゃうんだけど」

 

「致命的なギャンブル運……。完全にランダムなんですか?」

 

「あー、一応ヒントを聞き出せるみたいなんだけどさー。ほらあたし現実でも飲んでるから頭回んなくて」

 

「ある意味ゲームに寄り添った体験ですね……」

 

「は〜。妹も恋太郎も一緒に飲めたらなー。本気子どもビールでもいいからさー」

 

「ダメでーす」

 

 突如現れた出版業界の大いなる存在に対し、恋太郎がハンディ掃除機で吸引を試みるも通用しなかった。

 

「また出てきちゃった。飲む?」

 

「飲みませーん」

 

(そうか百八先生は俺達と一緒に晩酌をしたいんだな……)

 

「ちょっと搾りたてジュースを飲んで頬を赤らめて、温度差でしゃっくり出して早口言葉で舌の筋肉を疲弊させてきます!」

 

「待て待て。毎回やる気か? 気持ちだけで嬉しいよ」

 

「百八先生……」

 

(どうする……! タイムスリップして、飲酒表現の規制が緩い時代に飛ぶか? ……!)

 

 すると恋太郎の目に百八が先ほどまでやっていたゲームが目に入った。

 

(そうか! 飲酒はダメでも!)

 

「少し待っててください! おつまみ作ってきますね」

 

「おー? ありがとなー」

 

 百八の生活に必要であれば、シャワー等施設の利用の許可は羽々里から降りていたため、恋太郎は家庭科室を借りておつまみを作ってきた。

 

「うっひょー! つみれに油揚げに手羽先……!」

 

「美味しそうでーす」

 

「まだいたんですか」

 

 大いなる存在には恋太郎がアルコール及びアルコールと同様の効果のあるものは摂取しないことを約束してお帰りいただき、まずはつみれが一つずつ皿に乗せて並べられた。

 

「これはまさか……!」

 

「そのまさかです。選んでください」

 

「どっちかが当たりなんだな。よーし、こっちだ! ……! うめえええ!」

 

 つみれの中にはチーズが入っており、百八は感激して喜んだ。恋太郎は選ばれなかったもう一方を口にする。

 

「恋太郎の方には何が入ってたんだ? タバスコか〜?」

 

「俺の方はお餅が入ってました」

 

「へっ? てっきり外れかと……」

 

「ギャンブル性は残しつつ、負けがない勝負で楽しんでもらえたらなって」

 

「恋太郎……」

 

「大人になったら……一緒に呑みましょうね」

 

「……ああ。ありがとな」

 

 こうして二人はアルコールは共有できなくとも、その場にいた二人しか味わえない時間を共有したのだった。

 

〜密室で二人〜

 

 恋太郎と季鞠は満天のお日様の下でお出かけデートの予定だったが、恋太郎が家に迎えに来た瞬間に豪雨へと気候が書き換えられてしまい、お家デートに切り替えていた。

 

「ごめんなさいね。散らかっていて」

 

「これが散らかっていたらどこにも片付いたお部屋ないですよ。あらゆるものが整理整頓されてるじゃないですか」

 

「……? 使ったものを戻すのは当然のことでしょう?」

 

「季鞠先生らしいですね」

 

 誰に見られずとも正しくあろうとルールを守る季鞠の人柄に恋太郎からも思わず微笑みが溢れると、本棚から区分けされている数冊の本が目に入った。その視線に季鞠も遅れて気が付いた。

 

「ああ。これは静さんと一緒に図書館に返しにいく本です。良かったら読みますか?」

 

「読みたいです! 季鞠先生のおすすめはどの本ですか?」

 

「どれも面白かったけれど、私が一番惹かれたのは——」

 

 こうして二人はベッドを背にクッションに並んで座ると、それぞれの本を読み耽った。大した会話もなく雨の音に包まれながら刻々と時間が過ぎていく。静かなひとときであっても、穏やかな時間が二人には幸せに感じられた。季鞠は時折様子をちらりと覗いていた。ページ数からおおよそのシーンを予測し、表情を見て物語の冒険を共にしているような気分だった。

 

(そろそろ二人が結ばれるシーンね。……!?)

 

 恋太郎の表情に安堵が浮かぶと、せわしなく頬が赤く染められる。その時季鞠は思い出した。ロマンチックなシーンではあるものの……結ばれてはならない関係の二人がようやく誰にも邪魔されぬ土地へと辿り着き、初夜を迎えるシーンで締めくくられることを。

 

(雨で世界から二人だけが隔離されたようになるのよね……)

 

「き、季鞠先生?」

 

「ダメよ……っ。恋太郎君……っ。誰も見てないからって……私達……教師と生徒なのに……っ」

 

「ダメなのにどうしてベッドに……!?」

 

 恋太郎が本を読み終えた途端にベッドに押し倒されたが、キス100連発により辛うじて一線を踏みとどまったのだった。

 

〜犬猫の仲〜

 

「つーんにゃん」

 

(あからさまに不機嫌だ……!)

 

 今日はタマのバイトが休みの日。恋太郎はタマの彼氏兼飼い主として甘やかしに来ていたが、彼女は膝枕には頭を乗せずに腰を落ち着かせ、そっぽを向いていた。

 

「ど、どうしたのタマ?」

 

「恋太郎から犬の匂いがするにゃん……」

 

「ああ……前にヒロ叔父さんの犬嫌いを克服するために犬になったからね」

 

「人を捨てる覚悟をするって言うからにゃにごとかと思えば……よりにもよって犬に浮気にゃんて」

 

「決して浮気というわけでは……!」

 

「いーや、飼い主に匂いがついてたらそれは浮気にゃん」

 

(弱ったな……)

 

 複数股交際を共有している恋太郎ファミリーではこういったトラブルが起こることがなく、恋太郎はどう対応するのが誠実なのか分からず困っていた。

 

「ところでさっきからなにを……?」

 

 顔こそ合わせないが、かといって離れるわけでもなく、頭を撫でて欲しいのかと思えば振り払われてしまっていた。

 

「マーキングにゃん」

 

「えっ」

 

「ここはタマの場所にゃん……」

 

 ただひたすらに胸板に頭や頬を擦り付けられる時間が続き、こそばゆいやらいい匂いやらで恋太郎は気恥ずかしさを覚えていた。

 

(向かい合ってイチャイチャするより、かえって照れるような……!?)

 

「た、タマ……そろそろ」

 

「……反省したにゃん?」

 

「それはもう……」

 

「ならいいにゃん」

 

「ほっ……。ん?」

 

 するとタマは翻り、今度は抱きつく形で体を擦り始めた。

 

「た、タマ!?」

 

「今度はイチャイチャするにゃん。……嫌とは言わせにゃいにゃん?」

 

「は、はい……」

 

(やっぱり向かい合ってイチャイチャする方が照れるかも!)

 

 顔を埋められ視線こそまた合わなかったものの、先ほどより際どいアプローチに理性を抑えるので精一杯な恋太郎だった。

 

〜アメーリカ弁当〜

 

「アイアムがメイク(料理)したランチパック(弁当箱)イート(食べ)てくれるデース?」

 

「いいですともーッ!」

 

 公園デートをしていた二人はベンチに座ってお昼ご飯を食べようとしていた。

 

「ナウ回ミステイク(失敗)してジャパニーズイート(日本食)をメイクしないように、カタカナロープ(縛り)してきたデース」

 

「そこは英語じゃないんですね」

 

「まずは恋太郎ボーイがビッグラブ(大好き)なスペシャルなオムレツデース!」

 

「おお……! 嬉しいです! ということはアメリカンオムレツですか?」

 

「ノー! そのアップ()をいくスパニッシュオムレツデース!」

 

「スペインですねそれは」

 

「オー……? スパニッシュはスペシャルと違うデース?」

 

「えーと……俺にとってはスペシャルなのでアメリカです!」

 

 その後もナディーはフィッシュアンドチップスやチーズハットグといったアメリカ由来でない料理を次々と出していったが、ナディーの手作り料理というだけで恋太郎の舌はアメリカを感じ取っていた。

 

「……ありがとうございます。恋太郎君」

 

「えっ。ナディー先生?」

 

「正直なところ……お弁当には苦手意識がありました。それ自体が和と言いますか……淑女の嗜みとして、お母様に躾けられましたから」

 

「……確かに和風な出汁の卵焼きがベースになっているな、とは思いました。昔の経験もあるんでしょうね。でも過去を踏まえた今のナディー先生ならではのお弁当でしたよ」

 

「そうでしょうか……?」

 

 徹底してカタカナ料理に固執したのは、和から少しでも遠く、可能な限りアメリカに近づくことで安心を得たいという思いが込められていた。そんな不安を恋太郎は共に飲み込む覚悟だった。

 

「過去は消えませんが、未来は新しく作れます。俺はフリーダムに未来を切り開いていく先生のアメーリカがビッグラブですよ」

 

「恋太郎君……ノー、恋太郎ボーイ。ユーがビューティフル(美味)しくイートてくれたことが、アイアムにとってワールドワン(世界一)スパニッシュ(スペシャル)デース!」

 

 ナディーはいつか向き合わなくてはならない不安を抱えつつも、恋太郎が受け入れてくれることが乗り越えようとする希望になっていた。そんな二人が思いを分かち合ったキスは、少し甘塩っぱかった。

 

〜再生怪人は弱い〜

 

 恋太郎と羽々里はアニメ三期が近づいてきたので、特大スクリーンでアニメの一気見をしていた。そして全てを見終わったところで羽々里が紅茶を一口飲み、意味ありげに何かに気が付いた。

 

「私……一期と二期でキャラ違いすぎない……!?」

 

「もしかしたら一期の終わりで気付けたかもしれませんね」

 

「三期には騎士華ちゃんとの例のアレもあるし……。もしかしたらアニメ勢の視聴者ちゃんが、私のこと三度の飯より赤ちゃんが好きな人間だと思うかもしれないわ」

 

「間違ってはいないかと……」

 

「むぅ……」

 

(いけないわ……このままじゃ恋太郎ちゃんの彼女としても、大人としてのメンツとしてもあまりによろしくないわね)

 

 このままじゃ自身のイメージがあびゃびゃまみれになってしまうことを危惧し、羽々里は眠れる獅子を呼び起こした。

 

「恋太郎ちゃん……いえ恋太郎君」

 

「羽々里さん!? その顔つきは……ラスボスだった頃の……!」

 

 右手を顎に添えると、確固たる品格と威厳が纏われているような佇まいへと画風が変化した。

 

「ああ。可愛い恋太郎君。可愛い可愛い私の恋太郎君。あなたを不幸にするはしたない私なんかには死んでも渡さないわ」

 

「そんな……! 俺は羽々里さんのことをはしたないなんて思ったことは一度もありません!」

 

「え……そうなの?」

 

 何度かは思われている覚悟があっただけに、羽々里は意表を突かれて驚いていた。

 

「それにその姿ももちろん大人の魅力に溢れていて素敵なんですが……欲望を抑えて無理をしていた時の姿でもあるので、俺は普段の羽々里さんの方が好きですね」

 

「恋太郎ちゃん。私と結婚してちょうだいッッ!!」

 

「もちろんしますよ」

 

 二度目の陥落は秒殺だった。

 

「じゃあ早速したいことがあって……」

 

「俺にできることであればなんなりと!」

 

 はしたないと思われたくなくて抑えていた欲望が、今解放された。

 

「唐音ちゃんの書き下ろしステッカーで埋め尽くされたいから、ヤンジャン26号の買い占めを手伝って欲しいのッッ!!」

 

「喜んで!!」

 

 特殊ED走りで買い占めに走る二人の前に、立ち塞がる影あり。恋太郎が原作の中村先生を打ち倒したものの、野澤先生のキャラ愛に感激してファミリーの人数分の購入に留めたのだった。

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