季節は相も変わらずの春だが、梳杉町は一日限定で梅雨になっていた。そのためいつもの屋上には集まれず、ファミリー全員で薬膳家の広い実験スペースをお借りしていた。
「勝負よ紅葉ッ!」
「紅葉は一向に構わないのです」
しかし薬絡みの騒動が細胞レベルで刻み込まれた彼女達の行動は早かった。以前楠莉と紅葉が『温めた人の味になる薬』を練り込んだパンを二人で作ってきたことを話題に、
「よし。自然な流れでパン対決に持っていけたぞ、じゃねーんだよ」
「止めないで胡桃さん! 私達が出会う場所、そこはバトルシティと化すのだからッ……!」
「頻繁に化しすぎだろ」
「決着はどうやってつけますか? 恋太郎さんは優劣をつけないと思われますが」
「彼女一人につき一投票よ! 皆さん、清き一票をお願いします!」
まるで選挙でも始めようかという蘭那に、紅葉もなんとなくで喝采を浴び、皆もやんややんやと盛り上がっていた。そんな盛況から少し外れたところにいた凪乃に美々美が話しかける。
「……思い出しますわね。あの時のことを」
「同じことを考えていた」
加入して間もない蘭那が紅葉を目の敵にする様は、かつて美々美が加入する際に凪乃とのファミリー追放を賭けて行われた美しさ比べを彷彿とさせていた。それはかつての拒絶にも繋がるものだった。
「もし私がもっと早く受け入れていれば彼女達のように、何度でも……」
「あら。らしくないたらればですのね。過ぎたことですのよ」
「……そうだった。過去の過ちを責めるのは無意義」
「それに……今からでも遅くはありませんわ。私は諦めていませんのよ」
「望むところ。……ありがとう。美杉美々美」
「ふふっ。どういたしまして」
凪乃にとって蘭那と紅葉の関係はあり得たかもしれない美々美との過去だった。しかし美々美は羨望を抱かなかった。恋太郎ファミリーとして繋がる今があるなら、どんな関係でも未来で築いていける確信があったから。
「それではいつものように勝った方がお胸を揉むということで」
「構いませんよ。今度こそ私が勝ちますからッ!」
(毎度毎度よく飽きないな……。まぁ、いいか。いつものことだし。それより——)
胡桃が周囲を見渡すと、各々が好きにパン生地をこね出していた。
「ん〜? 騎士華はなんで楠莉のこと見張ってんのだ?」
「貴様のことだ。どうせ盛るつもりなのだろう?」
「失敬な! 今回楠莉は使わないのだ!」
「"は"……?」
「あ、やべ」
「んー。パンか……てやんでい。ばーろちくしょ」
「何かお悩みですか?」
「おぅ知与。焼きそばパンってあるだろぃ? あてぃあ焼きそば単体でしか作ったことがないんでい。パンに合う味付けがどんなもんかってぇな」
「パンは甘みもありますから、濃いめに味付けすると良さそうですね……。良かったらお手伝いしますよ」
「おぅ! 知与は色んな料理作ってんでい。参考にさせてもらうでい! ……その、花嫁修業のためにも……い、いや! なんでもねぃ!」
「ふふっ」
(知与さんのマークが外れた……! 今がチャンスです!)
「恋太郎くーん! 早速ですが私のサンドイッチを——」
「待ちなさいよ。味見させてもらうわよ」
「あっ!」
(ラッコ肉という名の、楠莉先輩にもらった媚薬を浸した牛肉入りのサンドイッチが——!)
「んっ。なによこれ……っ。視界がぼやけて……恋太郎ぅ」
「ちょ、唐音さん!? それ私……んむっ!?」
(体が熱く……!? 唐音さんの唇を通して私にも——)
それぞれがペアを組んで仲良くパン作りやらなにやらを進める中、調理が進むにつれて胡桃の腹の虫も騒ぎまくっていた。
「胡桃ちゃん胡桃ちゃん! 一緒に作ろっ」
「いや離せよ! 腹減ってんだよ!」
「さみ死んだ」
「あっ。うさ先輩ーッ!」
見事に悪いタイミングで突っ込んだうさが拒絶と共に血反吐を撒き散らして黒ウサギ化してしまった。
「ごめんね。少し考えれば分かったよね……。これ食べて……っ」
「いや、そうかな……っ。とにかくごめ……おいち」
「良かった……。この前のことがあったから……おかわりもあるよ……」
「そんな。それより先にうさ先輩を……おいち。助ける方が……おいっしー! 先だよ……!」
「同時——とも言えるね」
空腹を一時的に解消してくるくるから脱出した胡桃が抱きつくと、ギチギチに満たされたうさは次第に人の形を取り戻していった。
「ありがとう胡桃ちゃ〜ん♡♡」
「い、いやこちらこそ。……!」
お返しと言わんばかりにうさは倍返しで抱きついた。あまりのパワーに引き寄せられ片目をつぶっていた胡桃だったが、その執拗なハグに光明を見出した。
(そうだ……。うさ先輩なら!)
「さっきの返事だけど……。一緒にパン作り手伝って欲しいんだ」
「本当に!? やった〜! 一緒一緒♪」
花が開いたような満面の笑顔に胡桃は頬をかくと、助力を得てパンを作り上げた。
「あの……さ。恋太郎先輩。これ……っ」
「えっ……!? このメンチカツサンドはあの時の……!」
胡桃が差し出したメンチカツサンドに恋太郎は既視感を覚えていた。それは厳密にはメンチカツではなく、ハンバーグをフライにしたものが挟まれていた。
「……まだお礼してなかったから」
「お礼なんて……胡桃の美味しそうに食べる姿で返してもらってたよ」
「……それはお互い様でしょ。それに今度はあたしから作りたかったんだよ」
「本当はずっとやりたかったんだよね〜♪」
「ちょ!? うさ先輩……!」
「……そうか。だからうさちゃん先輩が一緒に作ってくれたんですね」
「早いよ理解が」
生地をこね出す段階ですら食欲にかきたれられる胡桃を阻止するには、調理中にずっと彼女にくっついて我慢できなくなるたびに食べ物を渡す必要があった。一瞬の隙も作らずにイライラする自分の世話をするような真似を申し訳なく思い自重してきた胡桃だったが、ずっとくっつける喜びに満ち溢れていたうさによって願いが叶ったのだった。
「——うんっ。おいしい!」
「ほ、本当?」
「ほら。一緒に食べよう?」
「う、うん。……! おいっしいいいいぃ〜!!♡♡」
(ああ、やっぱり。恋太郎先輩と一緒に食べると、いつもより美味しい……)
「良かったね胡桃ちゃん♪」
「うさ先輩も……その、ありがと」
「えへへっ。これからもお料理する時は呼んでね」
うさは思い出の味をお裾分けしてもらいながら、恋太郎と胡桃の間に挟まるギチギチも堪能したのだった。
(美味しかった〜! ……そういや二人はどうなったかな。……ん?)
「くッ! なぜ……ッ!? レシピ通りに作ったのに」
「今日は湿度が高いですからね。仕込み水を冷やして、レシピから大さじ一杯減らすのが良いのではないでしょうか」
「なるほど……そうしてみるわ」
「一緒に作ってる!? 勝負はどうした」
「もちろん継続中ですよ。ただパン作りにおいては知識がないので、基礎を教えてもらっているんです」
「対戦相手に!?」
「別に気にしないですよね」
「そうですよ。気にしません」
家が隣でずっとクラスが同じであり、幼少期から勝負を繰り返してきた二人にとってはもはや勝負中にペアを組むことなど瑣末な問題だった。
「いいのかよ。そのせいで負けるかもしれないのに」
「胡桃さんなら分かっているはずです。勝ち負けよりも大切なものを」
「そっか。折角作るなら、美味しいものを——」
「パン生地の——揉み心地です」
「分からないんだよ食べる方には」
こうして蘭那は好敵手に教わるたびに胸以外の部位を揉まれながら、敵対心を燃やしてパンを作り上げた。
「さあ——完成ですッ!」
「フォカッチャですか。唐音さんみたいですね」
「誰の何が平べったいって?」
「いいにおいれす……♡」
「……ほぁぁ……あったかい……」
「トマトやじゃがいもがとっても合うどー」
分量に苦労しつつも苦労の甲斐あり、完成した平焼きパンは外はカリッとしていて中はもちもちだった。プレーンのままでもオリーブオイルや塩の風味が効いており、スライスされた野菜やチーズを乗せてアレンジを楽しめるお祭り感も相まって、あっという間に人気を集めていた。
「紅葉もできたのです」
「これは……ッ」
「彗流、知ってるのか」
「アタシのためのパンと言っていいわ! なんたってツインブールだもの!」
紅葉が完成させたのはツインブールという丸いパン生地を二つ並べて焼き上げたパンだった。
「ツインテールとは関係なくなーい?」
「いや、分かるぞ。"2"は尊いってことだな」
「分かってるじゃない!」
「通じ合っちゃったしぃー」
蘭那と同じように強力粉をベースに水・塩・イーストで作ったシンプルな生地を使いながらも、外側の皮を薄めに仕上げ、丸く整えたことで中身がたっぷりと詰まったふわふわもちもちの食感へと仕上げていた。またこちらは二つのパンの結合部に切れ目を入れ、バターや練乳ミルククリームなどを塗って好みの味に仕上げる自由度が人気のもとになっていた。
「ちなみに蘭那さんのお胸をイメージして、柔らかさまで再現しているのです」
「ふしだらなッ……!」
(う……ッ! でも美味しい……)
ライバルの視察がてら蘭那も試食してみると、彼女の才能を踏まえた上でも想像以上に美味しく感じていた。
(いつもしれっと私の上をいく紅葉に、経験があるパン作りで勝負したのはやはり無謀だった……! ……えっ)
今回も敗北を予感した蘭那だったが予想とは裏腹に、皆に投票券として配られたスポイトで試験管が満たされていくと、三十四人の投票が綺麗に二分して分かれていた。
「すごいじゃないか蘭那後輩! 初めてとは思えないよ!」
「初めてで食パンとかじゃなくてフォカッチャって奇人っぽいわ!」
(発酵時間が短くて初心者にオススメだから選んだのですが……。でも、そうでした。心理的には初心者に味方したくなりますよね。こうなれば私も手段は選びません!)
「彼女は三十七人ですから、私と紅葉を除いてあと一人……ど、どなたですか!?」
「あそこで唸ってる人なのです」
「あたしに食べ物の優劣をつけろってのかよ……! どっちも美味しい。それでいいじゃないか!」
「なッ……! ダメですよ。どんな決着であれ、紅葉とは白黒はっきりつけたいのです!」
「悩むことはありませんよ胡桃さん。どちらも美味しいのなら、どちらに入れるかは気分で左右されてもいいじゃないですか」
(迂闊ですね紅葉。胡桃さんは私が負ける様を何度も見ています。気分に流されれば、こちらに入れるが必定!)
蘭那は計画通りと言わんばかりの悪どい笑みを浮かべるが、紅葉は特に気づく素振りもなく蘭那のパンを食べていた。
「……分かった。あたしも腹を括るよ」
美味しそうにパンを食べる紅葉を見て胡桃も決意が固まった。皆が固唾を飲んで見守る中、スポイトによる投票が行われる。やがて投票を終えた彼女が横に逸れたことで、その結果が明らかになった。
「そんな……ッ!?」
胡桃が選んだのは紅葉のパンだった。
「いや、違うんだ! 本当に委員長のも美味しかった! ただどっちかだけを選べって言われたら……あたしは感じた美味しさに嘘はつけない……っ」
(今までずっと練習の素振りもない紅葉に負けてきた……。得意とするパン作りでしれっと勝つことで、雪辱を晴らせると思ったのに……)
「そう落ち込まないでください。蘭那さんのも美味しいのです」
「……いいですよ、慰めなんて。……えっ」
紅葉はそう言うや否や、蘭那のパンに投票を入れていた。
「どういうことですか! 紅葉、あなたからの同情だけは——!」
「そうではないのです。蘭那さんと一緒に作っていて、考えが変わったのです」
「え……?」
(そうだよな……。勝負中だってのに、あんなに協力してたんだ。もう勝負そのものより、自分の好きなパン作りを委員長と一緒にやれたことが、何よりの思い出に——)
「今日はツインブールより、フォカッチャの気分になってしまったのです」
「本当に気分に左右されてる」
「……ふっ。変わらないですね紅葉。昔からそうでした。あまりある才能を持ちながら、自分のやりたい行動を優先して……。でも言いましたよね。どんな決着であれ、白黒はっきりつけたいと」
「蘭那さん……」
蘭那は同じ高さで並んだ試験管を少し見つめ、いつも微差で負けてきた日々を思い起こした。しかし首を振って最後のスポイトを取り出した彼女は、引き分けという結果を自ら拒否した。
「……えっ?」
蘭那は自分のパンに投票していた。
「い、委員長!? こういうのって……ほら! お互いに入れあって、美しい話になるもんじゃない!?」
「ふふふ……! 紅葉に勝てるのなら手段は選びませんよ! これで私の勝ちです!」
「そ、それはねぃだろぃ! そんな先みてぃなこすっかれぃことしたらカッコ悪いでい!」
「そうだよ! そんなアタイみたいな真似……って、どういう意味だい!?」
ほんわかした雰囲気に包まれていたファミリーは一転してざわめきで満たされたが、唯一紅葉だけは気にしていなかった。
「いいのですよ。紅葉も蘭那さんのパンが美味しかったのです。それに羨ましいのです」
「え……?」
「紅葉はこの通り気分屋ですから、揉むこと以外は途中で飽きてしまうのです。ですが蘭那さんは一度うまくいかなくても諦めずに何度でも挑戦するのです」
紅葉は最初に作られたフォカッチャを手にする。お世辞にも出来の良いものではなかったが、作り直していくにつれて少しずつ……されど着実に良くなっていった。
「……紅葉」
(なんでもしれっとできる才能が憎かった……。けれど本当は私も……羨ましかったんです)
「……すみません。馬鹿みたいでした。こんな見苦しい真似までして、まるで自分一人だけが抱えているかのような自分本位を……」
「蘭那さん……?」
すると蘭那は自分の試験管を手に取り、中身を一気に飲み干した。
「この勝負私の——!? な、なにこれぇ……ッ!?」
全てを言い終える前に彼女の手から試験管が滑り落ちた。そのまま内股で座り込むと、湧き上がる火照りに顔どころか耳まで真っ赤になっていた。
「あっ! それ羽香里にあげた媚薬の余りなのだ!」
「なんてものを作ってるんですか! 騎士華先輩も厳しく言ってください!」
「うーむ。こいつにしては珍しく自発的なやらかしではなかったしな……」
「媚薬作ってる時点でアウトですよ!?」
「こうなったら紅葉のお胸を揉んでください」
「なッ! なに言って……ッ」
「お忘れですか? 勝者は敗者の胸を揉む。それが我々の宿命なのです」
「『難儀な宿命じゃのう……』」
「い、いやだから……ッ。勝負はあなたの……ううッ!」
(こんな状態で胸なんて揉まれたらそれこそ……)
「くうぅッ……! ふしだらなッ……!」
やむを得ず蘭那は幼馴染の慎ましい胸を背後から揉みしだいた。しかしファミリーの注目を浴び、羞恥のあまりグルグル目になってパニック状態になってしまう。
「ち、違うんです! この興奮はふしだらな意味じゃなく! ふしだらな意味じゃなくですよッ!」
「いいんですよ蘭那さん。さっき飲んだ唐音さんと比べたら全然スケベじゃありませんから」
「また媚薬を盛ったドドドドスケベには言われたくねーんだよ」
(媚薬を盛られ慣れている!? なんてふしだらなの……!?)
「ママともちゅっちゅちまちょーっ!」
「ぎゃっ。あっちいけ」
「ママ……?」
「
羽香里に振られた羽々里はチャンスとばかりに騎士華と授乳プレイを始め、蘭那は空いた口が塞がらなかった。
(ふしだらすぎる……ッ!)
「ダメですよ蘭那さん……。こんな皆が見ている前で胸を揉むなんて……っ」
「そ、そうですよね。今すぐやめ——」
「ダメなんだから……っ」
季鞠は蘭那の手をガッチリ掴むと、そのまま彼女の手越しに胸揉みを再開させた。
「き、き、季鞠先生!? な、なにをふしだらな……ッ!」
委員長気質同士シンパシーを感じていた季鞠の奇行に、今度は発した声が震えっぱなしだった。しかもやたら力強く、非力な彼女では振り解くことができなかった。
「おぉぅ……」
「さすがに紅葉も照れてる」
「ゔーッ!!!」
しかしもう一人の委員長気質が助けに入り、風紀の乱れに小さな体に似合わぬパワーを発揮して季鞠の手を振り解くと、恋太郎から渡された打ち消しの薬を蘭那に飲ませた。
「そういやここ楠莉んちだから大量にあったのだ」
「忘れないであげてくださいまし……」
媚薬の効果が打ち消され、蘭那はようやく平静を取り戻した。
「あ、ありがとうございます。他の皆さんにも打ち消しの薬を……」
「ええと。これはいつものことで……飲んでないんです」
「えっ。この惨状で!?」
「はい……」
自分と同じで媚薬由来だと思っていた数々の奇行がシラフでのものだと分かり、蘭那は一つの結論に至った。
「すいません。やっぱり乱れてますよね」
「そうですね! ということは……つまり! 私はその分ふしだらじゃないってことですね……!」
「え? ええ、まあ……」
(人からふしだらな子だと思われなかったらいいんだ……)
以前の知与なら逐一指摘するレベルで乱れていたファミリーだったが、蘭那は自分以外の風紀を自主的に修正する様子はなく、知与の止めてくれる仲間が増えたという期待は泡沫と消えていった。
「ありがとうございます。知与さん……それに紅葉も。おかげで自信がつきました」
「それは良かったのです。なら紅葉も揉んでいいですか?」
「……本来はあなたの勝ちですからね。まあ、いいでしょう」
「うひょー」
「知与さん……その、あまり見ない方向でお願いします」
「は、はい。……ちなみに紅葉さんに揉まれることについてはいいんですか?」
「周囲からふしだらな目で見られるのは嫌ですが……紅葉自身はふしだらな意味で揉んでいるわけではないですから」
「女体の柔らかさは素晴らしいのです」
「そ、そうですか……」
知与は視線を逸らしながら、やけにシームレスに揉まれにいった蘭那を見て、ある推測が頭に浮かんだ。
(紅葉さんがファミリーの体をよく無断で揉むのって、蘭那さんのスタンスから来てたんじゃ……?)
知与がファミリーをふしだらにした一端に思い至りつつ、歓迎会は大盛況のもと終わりを告げたのだった。
それからしばらくして、胡桃と蘭那は作ってきたパンを胡桃に食べてもらい勝負の判定をつけてもらうのが定例になった。
「また負けた」
「それでは遠慮なく」
「くうぅ……ッ。胡桃さん。以前のパンと比べてどうでしたか……ッ?」
「学校だと焼きたてってわけにはいかないのに、今回はまるで焼きたてみたいな食感になってて美味しかった!!」
「そうでしょうそうでしょう。今回はレンチンする前に霧吹きで水分を補給したんです!」
「でも紅葉もパンそのものがすごく美味しくなってた!!」
「今回はより生地の揉み心地に拘りましたからね」
「ぐ……ッ。そうですか。ですが明日は負けませんよ!」
「明日も作ってきてくれるの!? ありがとうありがとう……!」
(やはり一筋縄ではいきませんか……。それでも諦めませんよ。何度でもあなたに挑戦して、いつか悔しがらせてみせますから!)
蘭那は変わらず悔しさを覚えていたが、彼女の才能に劣らない自分の才能を信じて何度でも挑んでいくことを心に誓っていた。
「ところで今回の紅葉のパン、サイズが大きくなってたよな」
「気付きましたか。実は蘭那さんのバストアップに対応したのです」
「恥ずかしいから別の誰かの胸にしてくれませんか?」
「皆さん最近はガードが固くて……」
(ふーん。じゃあ本物はこれだけ大きくて、柔らかくて、美味しい……?)
目の前で揉みしだかれている胸を見て、胡桃はごくりと喉を鳴らした。
「胡桃さん? ……胡桃さん!?」
「あむあむ……♡」
「ふしだらな……ッ!」
こうして蘭那はファミリーの一員として迎え入れられ、数々のふしだらな目に巻き込まれる羽目になるのだった。