騎士華は屋上にてマッサージを受ける季鞠を見守っていた。
(たとえ人に嫌われようと正しい注意をする姿勢は以前より尊敬していた。だが正しくあろうとするあまり、いつか決壊してしまいそうな危うさと隣り合わせだった……)
「おぅ嬢ちゃん。ここがいいのんか?」
「ダメよ……急に胸を揉むなんて……。絶対に……っ。ダメなんだから……っ」
(公の場では自分を律しつつも、ファミリーの中ではルールの枷を破る柔軟さを得たのだな——)
「いやふしだら!!」
共感する何かを感じて何度も頷く騎士華に対し、当然のように乱される風紀にビックリした蘭那は割って入っていった。
「何度も言っているでしょう紅葉! 胸を揉むのは私に勝負で勝った時か、マッサージのお礼として許可をいただいた時だけにするようにと!」
「何を言っているのですか。季鞠先生のダメは
「そんなわけないでしょう! 生徒指導の季鞠先生がそのようなふしだらなルビをッ!」
「そうよ……ダメなんだから……っ。生徒を導く立場の教師が……こんな真似……っ」
(まさか……本当に?)
胸揉みが解除されても指摘されて悦ぶ季鞠に、蘭那は戦慄を覚えていた。規則を厳格に遵守する季鞠は尊敬に値する人物だと思っていただけに、想像を絶する解釈違いを突きつけられていたからだった。
「くうぅッ……! ふしだらなッ……!」
「まあ待て蘭那」
「あなたは……騎士華先輩」
(確かファミリーに入らせていただいた日に、幼児化して胸を凝視してきた人……)
声を掛けられた蘭那が胸を腕で押さえながら警戒心丸出しで見上げると、騎士華は目を丸くした後に軽く微笑んだ。
「ファミリーに入ったばかりで、もしかしたら蘭那には私や季鞠先生がさらけ出す素がとんだ痴態に見えているのかもしれない」
「もしかしなくても……」
「蘭那は委員長だったな。長というのは誰かの道標となる存在だ。それが長女であれ部長であれな」
「そして裏番長であれ……ね」
「今は真面目な話をしているんだ」
「なっ! それじゃあアタイと話してる時は真面目じゃないみたいな——」
先が千優に引き取られると話が再開された。
「そんなことより……そうである以上、正しくあろうと努めるのは良いことだ。それが自分を頼ってくれる者にとっての指標となるからな」
「はい。それは任された以上、当然のことだと思っています!」
「しかし人間努力し続けるのは簡単なことではない。褒美として何か欲を満たしたくなるものだ。それが甘えることなのか、羽目を外すことなのかは人によって違うがな」
「努力の対価が欲しくなる……。確かにそうかもしれません」
蘭那の脳裏には紙飛行機大会で紅葉に敗れ、時間をかけた努力が実らず心が折れそうになったことが過っていた。
「だからこそそういった立場から離れ、ファミリーとして過ごしている間は欲望を解放しても良いのではないだろうか?」
「また頑張るために……ですか」
連なるようにこれまでの自分に打ち克つためにケツバット1000本ノックを乗り越え、また紅葉に何度でも挑む自信を取り戻したことも思い出していた。
(ふしだらと思っていたケツバットだって受け入れた。それってつまり——)
「ふしだらも……時と場合によってはダメじゃない、かも」
そうこぼした自分自身に蘭那は驚いていた。中学生に似つかわしくないGカップにより人からふしだらと思われることが何より苦手な蘭那にとって、まさかふしだらを肯定する日が来るとは夢にも思っていなかった。
(これってファミリーと触れ合う前の私と比べて、成長した——ってことなのかな)
すると蘭那は肩の荷が下りたように腕のガードを下げ、胸が大きく揺れた。
「お、良かったですね騎士華さん。許可が出ましたよ」
「舐めないでもらおうか。私に乳を揉む趣味はない。……まあ吸わせてもらえるというなら……」
「舐めようとしているのは先輩の方じゃないですか!? 第一母乳だって出ないですし何の意味が……」
「いや、実際に出ていなくても心の母乳で溢れていれば……」
「どういうことですか!?」
「ミルキーがママの味であるのと同じようにだな……」
「どういうことですか!!??」
(親身になって話してくれたと思ったら全く話が通じなくなった。これって——!?)
一転して表情がとろとろと溶け出す騎士華に対して、蘭那はある既視感を覚えていた。
(タイプは違うけどこの人……育先輩に似てる!!)
「ぱいぱい……」
「ぎゃーふしだら!!」
蘭那はふしだらも悪いことばかりではないと学びつつも、巻き込まれるのはやっぱり勘弁して欲しいと思ったのだった。