「……増えてますねぇ〜」
小々枝さんが加入してからというものの、皆さんで鍋を囲む機会が増えました。大勢でいただく食事はついつい箸が進んでしまいます。
「ぱっと見はあまり変わってないんですけどねぇ〜。ただ……」
体重に囚われすぎるのも良くないと理解しつつ、鏡越しに自分を見つめながらお腹をさすってしまいます。これだけのカロリーが皆さんにも襲いかかっていると考えただけで……
「あっ……。またやってしまいましたぁ〜」
少し考えただけで青筋が立ってしまい、思わず顔を覆いました。
「大丈夫……大丈夫……。皆さんはまだ若いですし、特に先さんはもっと食べた方がいいくらいです〜。問題なのは私だけですから……」
他の誰かに襲いかかるような外敵ではないと、認識を改めて表情を戻していた時でした。恋太郎君に言われたことが過ったのは。
「私自身も大切に……?」
幼少の頃から母の姿を見てきたから、自然と誰かを傷つける原因が許せなくて。でもその誰かに私自身も含めていいんだって言ってくれて……。
「私も恋太郎君に綺麗だって思われたい……なんて」
無意識にそう呟いていました。それは……許されることなのでしょうか。慌てて首を振りました。このまま放っておくと健康にも良くないからと言い聞かせるように。
「……それで
「はい〜。美々美さんがそのスタイルを保っていられるのは、並々ならぬ研鑽があってのことかと思いましてぇ〜」
「ふふーんですわ!!」
後日。美々美さんに相談を持ちかけました。自信満々に受け止める彼女が羨ましく思えます。
「たとえば普段のご食事などはどうされてますかぁ〜?」
「美容に良いものを摂るようには心掛けていますが……それ以外は特にありませんわね」
「そうなんですかぁ〜? てっきり厳しく管理されてるものかと〜」
「アスリートというわけではございませんからね。体に無理をさせるのは美容によろしくありませんもの」
「健康的でいいと思います〜。ただそれなのにこのような体型を維持されてるんですかぁ〜?」
傍目から見ても美々美さんは整ったモデル体型で、いつも同じようにファミリーで食事しているとは思えないほどです。
「美しさは一日にしてならずですわ! 私は毎朝ランニングしていますのよ!」
「うう……運動ですかぁ〜」
「激しいのがお辛いならウォーキングという手もありますわ。ただお仕事に影響が出てもいけませんし……」
美々美さんが真剣な表情で悩んでくださると、何かを思いついたように目を見開いて、あれよあれよという間に空き教室まで連れて来られてしまいました。
「……ヨガですかぁ〜?」
「はい。健康目的のイメージが強いですが、カロリーもしっかり消費されますのよ。もちろん高い消費ではございませんが、代わりに自分のペースで続けやすいのですわ」
そこまで考えてくれた美々美さんの心意気に応えるために、彼女の真似をしてみました。両手両膝をつけて、右脚を前に出しながら、左脚を後ろに引いてつま先まで真っ直ぐ伸ば——
「きゃんっ」
「あっ! しっかりなさって!」
体が硬すぎて伸びきらず、それでも伸ばそうとしたらつんのめって倒れてしまいました……。
「だ、大丈夫です〜。おでこをちょっと打っただけで……」
「……いえ、しっかりご自分を大事になさってくださいな」
あまりのことにビックリしてしまいました。どうしてあの時の恋太郎君と同じ言葉を……?
「私……嬉しかったんですのよ。いつも誰かのために頑張ってらっしゃる千優先生が自分のために頑張りたいと仰ってくれたことが」
「そう……なんですか? ……ごめんなさい。それは私が恋太郎君に少しでもよく見られたいからなんです」
学生が多いファミリーの中で、大人が取る行動とは思えません。まるで子供のようなわがまま……。
「……それの何がいけないんですの?」
「えっ……」
「私が頑張るのは世界中の誰よりも自分が美しいと証明するためですわ! 誰かのために頑張るのも美しいことです。ですが! 自分のために頑張れること、それも美しいではありませんか」
「自分のために……頑張る……」
そんなことは考えたことがありませんでした。母がシスターだった頃の面影を見るたびに慈愛の心に惹かれて、誰かにとっての居場所になれる存在になりたいってずっと——!? そこまで考えてようやく気付きました。なりたいという気持ちは、他ならぬ自分のためなんだって。
「……ダメですねぇ〜。生徒さんにこんなこと言わせてしまってぇ〜」
「どういう情緒ですの!?」
涙と共にどうやら青筋が立ったみたいで驚かせてしまったみたいです。
「いえ……ずっと大きな勘違いを抱えちゃってたみたいです〜。ありがとうございます。美々美さん」
「ふふっ。構いませんわ。同じ釜のご飯を食べたファミリーですもの。……さ、ご無理をなさらずゆっくりと」
両足の付け根を寄せるイメージで骨盤が正面に向くように促され、ほんのり背筋が伸びて、体が軽くなったように思います。
「できるところまででいいのですわ。少しずつ積み重ねていけば骨盤が安定して、果ては上半身まで柔らかくなってこのように——」
美々美さんが背中を大きく反らせながら、頭越しに両手でつま先を掴みました。自信ありげな得意顔をする美々美さんを改めて羨ましく思いました。でもそれはもう眺めるような羨望ではなくて。
「私のつま先がスベスベすぎて滑りましたわ」
「美々美さ〜ん!?」
自分のためにも誰かのためにも頑張れるご友人のようになりたいという、私のわがままでした。