季節は春のままですが、今日の梳杉町はハロウィン一色です。
「お菓子はいいのでイタズラさせてください」
「イタズラはいいからお菓子くれっ!」
「二人合わせてトリックオアトリート!?」
紅葉も胡桃さんもハロウィンをなんだと思っているんでしょうか。
「いいですか二人とも。ハロウィンというのは仮装した子供が、『お菓子をくれないとイタズラするぞ』と家を回ってお菓子をもらう行事で……!?」
よく考えたらこの行事、お菓子のない家の人にはさもイタズラされて仕方ないような押し付けがあるような……!?
「くうぅ……ッ! イタズラ上等なんてふしだらな……ッ!」
「ああ、いえ。そもそもお菓子を渡すのは魔除けの意味があるのですよ」
「え……?」
「どういうことだよ」
「元々ハロウィンは秋の収穫をお祝いする行事なのです。家畜や作物を荒らす悪霊に対して、お菓子を渡すので悪さをしないで帰ってくださいという意味合いがあるのですよ」
「そ、そんな……」
なんで知ってるんですか! 絶対調べてもないっ! くっ、私だって今日になっていきなりハロウィンが始まる変な町じゃなかったら、詳しく調べられたのに……! 底知れぬ敗北感に襲われていると、胡桃さんのくるくるモードのスイッチが入りました。
「う……お腹が。お菓子……お菓子はどこだーっ!」
「悪霊が出たのです」
「確かに胡桃さんなら作物を直で食べるかも……」
「変なところで息合うな!」
「では紅葉も改めてイタズラを要求するのです」
「ま、待ってください! お菓子なら用意してありますから。ほら、もちもちしてますよ」
「ああ、そういうお菓子は恋太郎さんにいっぱいもらったのです」
「ぐぬぬ……。な、なら勝負ですっ! 今から見えないようにシャッフルしますから、お菓子がある方を示してください!」
「では紅葉が勝ったらいつも通りに」
「いいですよ! 絶対に負けませんから!」
かかりましたね紅葉。私は見えるように右手にお菓子を包んで、後ろ手にシャッフルしました。そして紅葉の目が胸に釣られているうちに、お菓子を押し出して胡桃さんにパス! すかさず手を前に!
「さあ、お菓子はどこにありますか!」
「胡桃さんのお口の中ですね」
「なっ……! なぜ!」
「くるくるモードが切れているからですが……」
「あ……」
振り返ると先ほどまで不機嫌だった胡桃さんが「おいっし〜!!♡」と目を輝かせて味わっていました。
「しまった! また負けた……ッ!」
「ではいただきます。うひょー。今年も豊作なのです」
「おめーのほうが悪霊じゃねーか」
魔除けに失敗して悪霊に乗っ取られた私は好き放題揉みしだかれてしまいました。ふしだらな……ッ!
「ところで蘭那。まだ持ってたら……」
「ああ……いいですよ。こうなると思って多めに持ってきましたから」
「ありがとう……ッ! 本当に……ッ」
「恋太郎さんからも貰ったのでは……?」
「はい。でも紅葉の分も合わせて全部食べてしまいました」
「全部……はっ! 紅葉! トリックオアトリートです!」
そうですよ! なぜ私だけ要求されなくてはいけないんですか。それに紅葉は胡桃さんにお菓子を全てあげてしまった。つまり自動的に私の勝ちです!
「いいですよ。お好きにしてください」
「えっ……? どういうことですか?」
「蘭那さんもイタズラしていいということです」
自動的に……イタズラに……? 紅葉が私の手を掴むと、なんでもないように自分の胸に乗せて……。
「ふ……ふしだらなーッ!」
今回のハロウィンは紅葉に勝つことができませんでした。……ですが! 次のハロウィンこそは勝ってみせます! 絶対に!