〜×100の愛を浴びせて〜
恋太郎の部屋にうさちゃんが招かれていた。
「ぎゅってしていい?」
「もちろんです!」
肩を並べるだけでは満たされず、後ろから思い切り抱きしめて
(本当はして欲しいけど……恋太郎君が見えないもんね。それに距離感間違えたら……だし)
「体勢変えてもいいですか?」
「あっ、ごめん! 苦しかった?」
「幸せです。ただ……」
「あ……」
すると恋太郎はクッションの位置を移動してベッドに身体を預けさせ、自身はベッドに座って彼女のことを抱きしめていた。
「もっと甘えて欲しいな」
「うん……ありがと」
(いつも俺に沢山の愛をぶつけてくれて、ありがとうございます)
(あーん♡ 賑や生きる……♪)
多くを語らずとも互いに幸せに満たされたひとときを過ごしたのだった。
〜謎解きは朝ご飯の前に〜
蓮葉の家でお泊まりしたよ。
「おはよう蓮葉ちゃん」
「おはようございます!」
(寝起きの恋太郎しゃんのにおいっ……!)
「何してるの?」
「推理の体操がてら朝は『100パズ』をしているのです。全然上手くいきませんが……」
恋太郎はソファに座っている蓮葉に近付くと、後ろからスマホを覗き込んだ。
「困った時は光ってるピースを繋げるといいよ」
「……!? 本当です! なんという名推理……!」
アドバイスを貰いながらパズルを繋げていくも、パズル内の恋太郎の声帯様が行方不明で寂しさも覚えた時だった。羽々里が生声でサービスをしていたことを思い出す。
「その……代わりに褒めて欲しいのです」
「なんて天才なんだ蓮葉ちゃんまさに名探偵だ朝からパズルを解いてるなんて偉いし努力家でもあるんだねそれに寝起きのトロンとしたお目目も愛おしいよああ可愛すぎて爆発——(後略)」
「……♪」
嗅覚と聴覚を恋太郎に支配されて気分が上がった蓮葉は見事ステージをクリアした。
「やったね!」
「えへへ……」
すると蓮葉は背中を預け、恋太郎のことを上目遣いで見上げた。
「もっと褒めて欲しい……」
(ぎゃわっ!!)
この日を境にして定期的におねだりしてくるようになった。
〜銀河一美味しい〜
恋太郎と一緒に喫茶店に来た胡桃は一瞬目を逸らしてから向き合って尋ねた。
「あの……さ! これ……頼んでもいいかな」
「カップル限定ハートフロートだね! もちろんいいよ!」
「や……その、多分あたしほとんど持っていっちゃうから……」
「別にいいよ。その分美味しそうに飲んでる胡桃を見れるから」
(キュン!!)
ストローでハートを象ったアイスフロートが運ばれてくると、二人で一緒に飲み始めた。
(間接キスなのはいいんだけど……これって)
キスと比べたらそれほど照れることもないだろうと考えていた胡桃だったが、程よい距離だからこそ顔をまじまじと見つめられているのが分かり、妙な恥ずかしさを覚えていた。
(それにあたしも先輩の顔をずっと見ることになって……。こんなに長い間見つめ合ったの初めてかも)
幸せそうに飲む胡桃を幸せそうに見つめる恋太郎。そんな恋太郎を胡桃も見つめ、幸せの無限ループが発生していた。
(あたし今、恋太郎先輩を飲んでる……)
溶けたアイスが流れ込んでくるが、体の火照りは鎮まりそうになかった。
〜この恋はあまじょっぱい〜
恋太郎と紅葉はデートの終わりに喫茶店に立ち寄っていた。
(ここの目玉はふわふわしすぎて雲を掴むような話でお馴染みのパンケーキ。紅葉ちゃん気に入ってくれるといいな)
「注文決まったかな?」
「はい。紅葉は豚汁を頼むのです」
「……!? そ、そっか。俺はパンケーキにしようかな」
春らしい陽気で風もさほど強くない気候の中、頼まれた注文に恋太郎は少なからず動揺していた。
(身体を冷やしてしまったのか? あるいは元々体調が優れなかったのか? だとしたら俺は彼氏失格だ……!)
「うーん。火照った体に沁みるのです」
「……??」
(寒い日にアイスクリームを頼むようなものなのかな……?)
理解は追いつかないながらに、幸せそうに完食する紅葉を見て安心していた時だった。
「豚汁の気分は満たされたのです。後はデザートが欲しいのです」
「あ、それなら一口食べる?」
「お言葉に甘えるのです」
「んむっ……!?」
言い終わるや否や突き出された唇が恋太郎の唇と重なり合った。
「も、紅葉ちゃん……!?」
不意打ちに心臓の高鳴りが収まらない恋太郎に対し、紅葉はいつも通りの読めない表情で頬に両手を当てた。
「うーん。恋太郎さんのお味なのです」
〜照れ隠しという名のだいしゅキッス〜
詩人は公園のお気に入りの丘でプチコンサートを開いていた。
「日差しという名のスポットライト〜♪」
「いいぞ詩人ー! まさに現代に生きる米津玄師!」
詩人は遊具の上でマントを靡かせながら、オカリナに口をつける。するとなんとも言えない音色が広場に広がっていった。それに伴い近くで遊んでいる子供達の表情もなんとも言えないものになっていく。
(やはりダメか……)
観客は一人だったが恋太郎が万雷の拍手を送ってコンサートが締められると、二人は水たまりで釣りをしながら反省会を開いていた。
「恋太郎。いつもありがとう」
「こちらこそいつも演奏を聴かせてくれてありがとう!」
「君はずっと楽しそうに聴いてくれるね。そんな君にだからこそ聞いてもいいかな。ボクの演奏に果たして人を楽しませる力があるのかな……」
「……。万人受けはしないかもしれないね。でも俺もそうだし、唐音を始めとしたファミリーも最初は好意的じゃなかったけど、今ではすっかり楽しんでる。だからあると思うよ」
「そう……とも言えるね」
「それに今日はドの音がいつもより綺麗に出てた。吟遊詩人として人に楽しんでもらいたいって、詩人の気持ちが聞こえた気がしたよ」
「…………。君って人は本当に——」
「……!?」
すると初めて会った日のように水たまりには二人のキスが映し出されていた。
「い、今!?」
「ボクの気持ちは風のように気まぐれなのさ」
詩人は吹き上がる風にはためく帽子を押さえ込むようにして、深く被り直したのだった。
〜こういうのは勢いでい!〜
「ん!」
二人きりで過ごしていると祭李が両手を広げ、キスを待ち構えた。
(最近何故か不意打ちが多くなって心臓が破裂してばかりだったし、心の準備をさせてくれるのは助かるなあ)
「え、えーい!」
「ん!?」
恋太郎が近づいて行くと急に抱き寄せられ、唇が重ねられた。
「きょ、今日は積極的だね……!」
「男の人はこういうサプライズが嬉しいって羽香里がむふふ教室で……」
(羽香里ーっ!? ……ってあれ?)
「ばーろちくしょ……」
勢いに任せて敢行した祭李だったが、今更になって顔を真っ赤にしてもじもじしていた。
(可愛すぎか!?)
「ん!?」
思わず恋太郎も勢いでキスをする。名残り惜しむようにゆっくりと離れると、我に帰った恋太郎の顔も次第に赤くなっていったのだった。
〜いつかその景色を何度でも〜
「わん太郎とお散歩してくるから! 何しても大丈夫だからね!」
「お父さん!!」
「あはは……」
「まったく……それじゃあ、始めましょうか」
「お願いします」
エプロンを身に付けた二人は並んでキッチンに立っていた。
「今日は魚の煮付けにしましょう」
「はい。先生!」
「も、もうからかわないで下さい」
「実際色んなことを教えてもらってるからさ」
「恋太郎さんと一緒にお料理できるのが楽しいのでいいんですよ。でも急に熱心になりましたね」
「昔メンチカツサンドを作るために、水洗いしたハンバーグを揚げて悲惨なことが起きてね……」
「絶対真似しちゃダメなやつ……」
「その怪我で心配させちゃってさ。このままじゃいけないなって思い返したんだ」
「……?」
「その……将来奥さんにばかり負担をかけてしまうダメな夫になってしまうかもしれないって」
「恋太郎さん……」
結婚を前提としたプロポーズをした身として、赤ん坊のお世話から家事全般まで自分の力が不足していると考えた恋太郎は花夫修行を始めていた。
「そう考えるとこれって先生と生徒というよりは……」
「夫婦……」
「……ふふっ」
今はまだ遠い未来に思いを馳せながら、その時をもっと楽しめるように、目の前のことを精一杯頑張るのだった。
「ただいまー! お父さんお腹空いちゃった……よ?」
「結婚!! 結婚!!」
「結婚!! 結婚!!」
「????」
〜毒を以て毒を制す〜
愛々の部屋に招かれた恋太郎は編み物を教わっていた。
「ふぅ……ちょっと休憩しようかな」
「あ、じゃあお茶でも……」
「大丈夫だよ。このまま眺めててもいいかな」
「は、はい……。どうぞ」
特にお互い触れ合うでもない時間だったが、それが家族の団欒のようで心地良かった。
「すごい集中力だね」
「そんな……黙々と作業するの、好きなんです」
(それじゃあ俺も好きになれるよう努力しよう!)
そうしてお互い黙々と作業を進めると、気付けば夜になっていた。
「もうこんな時間……。遅くまで付き合わせてごめんなさい」
「俺も楽しすぎて長居してごめんね。お詫びといったらなんだけど……受け取ってくれるかな」
そう言って差し出したのは愛々を模したあみぐるみだった。
「あんまり似てないかもしれないけど……」
「い、いえ! 初めてでこれならすごいですよ! ありがとうございます……!」
(喜んでもらえてよかった)
「それじゃあ私からも……プレゼントさせて下さい」
「……!?」
そう言って差し出したのは愛々自身の等身大あみぐるみだった。
「あ、ありがとう……?」
「あ、その! 頭を撫でる練習にでも使ってもらえれば!」
「そ、そうだね! 愛々ちゃんだと思って大切にするよ!」
こうして恋太郎は彼女を持って帰っていった。
(ああああ……! ついに渡しちゃった!)
しばらくして愛々はベッドに寝かせた恋太郎のあみぐるみに顔を埋めながら足をばたつかせていた。
「お互い様だからセーフ……! お互い様だからセーフ……!」
こうして愛々は罪悪感からの解放を果たした。
〜水族館デートリターンズ〜
恋太郎と楠莉は以前お世話になった水族館を訪れていた。
「お魚探してペペンペーン♪」
(北極の楽園かな?)
ペンギンとの触れ合いを堪能した二人は人混みではぐれないように手を繋いで巡っていた。
「そうだ! 打ち消しの薬飲めば良いのだ!」
18歳の姿に戻った楠莉は手を離すと腕に抱きついた。
「く、楠莉先輩!? はぐれないために飲んだんじゃ……!?」
変身によってギリギリの服装になっていたことで、一転して刺激が強くなっていた。
「おや? 楠莉は人混みなんて関係なくくっ付きたいのだよ。……恋太郎は嫌なのだね?」
「め、め、滅相もない……!」
くすりくすりという笑い声が喧騒に紛れていくが、恋太郎にだけはよく聞こえたのだった。
〜おねだり下さい〜
「恋太郎様はいつもキスやハグなどを求められますが……その他にして欲しいことはございませんか?」
「……!?」
芽衣の部屋に着いて早々に閉眼上目遣いで尋ねられ、恋太郎はいささか混乱していた。
(落ち着け愛城恋太郎! 恐らく芽衣さんはどんなことをお願いしても聞いてしまう!)
「あ……ええと……芽衣さんには日頃からお世話になっていますし……」
「今はご命令ではなく……一人の彼女としておねだり下さい」
(い、色っぽい……!)
それは恋太郎が愛で包み込んでいる欲を引き摺り出すには十分過ぎた。
(これはお姉様に飲み物を届けに行くだけ。仕事中だけど恋太郎さんの顔を一目見たい!!!! 違うそんなこと思ってない!!!! ……ん?)
扉をノックしようとした妹だったが、その手が止まった。
「それでは入れますね。力を抜いてください」
「あ……そこ、気持ち良いです……!」
「動いてはいけませんよ。痛くなってしまいます」
「すいません。気持ち良過ぎて……」
(!?!?!?!?)
妹は倒れた。
「——はい。お耳様綺麗になりました」
「ありがとうございます。すごい上手ですね……!」
「妹に時折頼まれるもので……喜んでいただけて何よりです」
耳掃除をしてもらった後もしばらく膝枕を続けてもらい、存分に甘え尽くしたのだった。
「ちょっ……!? 二人してどうしたんですか!?」
その後、部屋の前で倒れている二人を羽香里が発見したのはまた別のお話。