→読んだので表現を微修正しました。(11/13)
「静後輩! 待ったかい?」
「"先先輩"。『たった今入ったばかりの新鮮なブツでさあ』」
ある日の休日。静と先は待ち合わせをしていた。
「凪乃……本当に尾いていくのか? 二人の時間をこっそり見るのも悪いような気が」
「あの二人ではちょっとしたアクシデントで容易く死に至るという計算結果が出た。よって尾行は有意義」
「どういう計算?」
そして恋太郎と凪乃も尾行のために待ち合わせをしていた。
「"我"『体力が持たない』"者"。『それゆえ同行者の選択には難儀しておった』」
「そこで後輩を引っ張るアタイの出番ってわけだね!」
「『そういうことにしておこうか』」
ドヤ顔を浮かべて意気揚々と先が先導し、静もそれに付いていった。
「たとえペースが合わなくても、こちらが合わせるのに」
「合わせてもらうのが申し訳なく感じることもあるからね。それに先先輩と仲良くなりたいってことかも」
やがて目的地に着くと、静が息も絶え絶えな先を引っ張って扉を開いていった。
「いらっしゃいませ。ボードゲームカフェは初めてですか?」
「『どちらも未熟者であった』」
「えっ! あ、はい。その〜」
「いけない。ボードゲームカフェはスタッフや他の客とのコミュニケーションが必要。スマホ会話は面食らう可能性大。ここは私が……!」
「凪乃、ストップ!」
「しかし。……!」
「はぁ……ふぅ。とりあえず今日は二人でやって、ハマったらまたみんなで来るよ」
「あ! かしこまりました〜。まずは席についてドリンクをお選びください。よろしければゲームの提案もさせていただきます」
「『ご助力感謝する』」
「これくらい先輩としちゃ朝飯前だよ!」
「輩先……」
しばらくして運ばれてきたオレンジジュースを先ががぶ飲みすると、一つ目のゲームが選ばれた。
「『あいうえバトル』?」
「お題に沿って2〜7文字の言葉を1文字ずつ相手に見えないように書き、交互に1文字ずつ宣言して先に当てるゲーム」
「wikiみたいな説明ありがとう」
「お題はどうなさいますか?」
「うーん。どうする?」
「"恋太郎ファミリー""から""家族"『ってえのはどうだい?』」
「おお。いいじゃん」
静の提案でテーマが家族に決まり、二人がそれぞれの言葉を書き終えると年功序列ということで先の先攻で始まった。
「まずは手始めに『か』なんてどうだい?」
「『いやぁさすが』"先先輩"『じゃわい』」
すると静の二文字目の言葉が開かれた。
「あ〜。ご自身の言葉に含まれていますので、開かなくてはいけませんね〜」
「え?」
うっかり先の一文字目も開かれた。
「理解不能……」
「そんな先先輩も可愛いです!!」
どうあれ相手の文字を当てられたので、もう一度だけ続けて宣言が可能になり『あ』が指定され、静の三文字目が開かれた。
「家族で『かあ』を含む言葉で条件を満たす言葉といえば」
「お母さん……!?」
((キュン!!))
「しかしこのままでは敗北は必至。もしかすると好本静はこの完敗にショック死してしまうかもしれない」
「静ちゃんのメンタルがトランプタワー並だと思ってる?」
「至急端須蓮葉を呼んで相手の言葉を推理してもらうべき」
「蓮葉ちゃんには悪いけど匂いを嗅いで去っていくだけじゃないかな……」
凪乃のAIが弾き出した結論がバグり出す中、静は1文字目『か』に続く言葉を考えていた。
(同じ『あ』かと思ったら、そうじゃなかった。家族で『ぞ』……はさすがにないよね。他に続きそうな言葉は……あっ)
すると静の脳裏にヤクが紅葉のマッサージに世界一癒され、薬莉がショックを受けていたエピソードが過った。
「『まさかとは思うが……』"た"?」
「なんだって!?」
そして先の2〜4文字目が全て開いた。
「"き"?」
「わ〜。正解です〜」
最後の文字も開かれて先は逆に1ターンキルを喰らう羽目になった。
「静後輩っ……! アタイショック死しちゃうかも……!」
「輩先!? すぐにAEDを」
「待って!」
「事態は一刻を争……!?」
「『生きろ。そなたは美しい』」
二人きりならいざ知らずスタッフもいたため、いつものぐしゅぐしゅ泣きを堪える先の背中を優しくさすると次第に落ち着きを取り戻していった。
「好本静……」
「ふっ。まずは後輩に勝ちを譲る。先輩の嗜みってやつさ」
「『そういうことにしておこうか』。"お次は"『一時協力といかねえかい? 相棒』」
「アタイの胸を借りたいってなら貸してやらんこともないよ!」
二人が次に選んだのは『ito』という数字を使ったゲームだった。
「数字を口に出さずに相手に伝え、小さい順に数字の書かれたカードを場に出すゲーム」
「いつも最効率でありがとう」
「輩先には誇張癖がある。すぐに一二三数の指導を受けるべき」
「絶対数字を数字以外で表現しないよ?」
1〜100までのナンバーカードが1枚ずつ配られる。二人であるため偏った数字が来れば楽に突破できるがそうは問屋が卸さなかった。
「テーマカードは『学校にあるものの大きさ』です!」
「裏番長として学校を知り尽くしたアタイに任せな!」
「『頼りにしておるぞ』」
留年を通して最も長くいる自負からだったが、諸事情によりズル休みも多かったので、結局恋太郎達と出会ってからのことに想いを馳せていた。
(しかし不思議なもんだ。アタイは誰にも弱いとこなんて見せたくないからずっと一人だった。それが恋太郎と出会ってからというものの、一人で過ごす日なんてありゃしない)
「……?」
先はふと静に目をやった。今まで自分を慕ってくれる後輩もおらず、年齢だけが誇りだったが、今では自分と共に過ごしてくれる人が当たり前のようにいる事実に目を丸くする。
(恋太郎ファミリー……か。先ファミリーじゃこうはいかなかったんだろうな。……!)
「決めたよ。アタイの数字の大きさは千優先輩だ」
「『そう来ると思ったよ』。"我は""彗流さん"『である』。『先手はいただくよ』」
そして静の出した34の上に先は35を重ねたのだった。
「彼女の加入順というアイディアが輩先から出るとは……」
(先先輩……ファミリーのこと大事に思ってくれてるんだな)
「『やはり』"先先輩"『の方が私より強いのだな』」
「まあね! でもそれについて来れる静後輩も中々のもんだよ!」
「『あたぼうよ』」
その後もゲームを楽しみ尽くした二人は次のカフェを訪れた。
「猫カフェかあ。可愛い二人に似合いすぎて心臓が張り裂けそう」
「和んでいる場合じゃない。二人の戦闘力では猫から致命傷を負う恐れがある。猫成珠を代わりに呼ぶべき」
「休日には断固として働かないと思うよ」
「なんで静後輩の方ばかりいくんだい!」
「『守るべき存在として』"認識されている"『恐れがある』」
危惧した展開にはならず平和に二人とも過ごし恋太郎と凪乃も癒されると、次に訪れたのはプラネタリウムカフェだった。
「いけない。二人の視力では星座を追って目が機能停止する恐れがある。すぐさま中二詩人に指導を受けるべき」
「『目の疲れもまた醍醐味——とも言えるね』かな」
「見てみなあそこ。綺麗だろう」
「『そなたほどではないがな』」
「時間だけはあったからね。よく見ていたものさ。星座の名前は知らないけどね」
「『いいのではないか』。『そなたが見ている世界を私も知りたい』」
「任せな!」
二人が肩を寄せ合うようにして先の指先を追っていると、恋太郎も凪乃の指先を追っていた。
「あれは幻の『ねこ座』……」
「へえ……! プラネタリウムならではだね」
「自分の愛猫が愛らしすぎるために作ってしまったものらしい」
「分かる!! 俺もみんなの星座作りたい!」
そうしてプラネタリウムを堪能した四人が出ていくと、ここまで三軒のカフェを巡った先と静は疲れてきた様子だった。
「『持ってくれよ俺の体』」」
「最後に行きたいところがあるんだって?」
「『その通りなのであった』。"先先輩"『にも是非味わって欲しい』」
「一体好本静はどこのカフェを……。まさか、メイドカフェ……!?」
「いつも銀河一可愛いメイド二人に会っているのに?」
「そのツッコミで合っている?」
すると二人が最後に辿り着いたのは貸本カフェだった。
(ここは前に角夜先生のサイン会があった……)
「おっ。あの日当たりのいい席なんかどうだい!?」
「『睡眠魔法の餌食となるのがオチよ』」
二人は席について各々本を読み始める。しかし先はいまいち集中できない様子だった。
「あ〜。本がアタイの先輩力についていけてないかもしんねえ」
「"いいのだ"。『時として』"合わない本"『もあろうよ』」
「静後輩はすごいよな。夢留後輩もだけど、難しい本と向き合っててさ」
「"我も"『難しいことは分からぬ』。"しかし"『運命が導いてくれたのかもしれぬな』。"こうして""先先輩と"『共に過ごす日々がやってこようとは』」
「運命ねえ。アタイも留年生活がこんな風になるとは思わなかったよ。……アタイさ。本当年齢しか誇れることないからさ」
「『何を言うか』。"我も"『自身の言葉を持たぬ身』。"それでも"『貴女は気にも留めないのではないか』」
「静後輩……」
「『同じ華奢な身でありながら』『器の大きい』『あなたの優しさに救われてきたのだ』」
「……そうかい。アタイは力強いけど、それはそれとして受け取っておくよ。静後輩自身の言葉としてさ」
少し目を逸らして鼻を鳴らし思い切り目をゴシゴシしてから先は振り返った。
「いつも思ってたんだけど、スムーズに会話できるのすごいよな。全部覚えてるのか?」
「『それだけが取り柄でさあ』」
「その本、アタイも読んでみたいな」
「『それきた』」
「……どうやら心配いらなかったみたいだね」
「なぜ計算が合わなかった……?」
「確かに静ちゃんは自然界最弱だし、先先輩はその……アレ……だけど、俺達はファミリーだ。いつも誰かの影響を受けてる。昔の自分を否定せず、それでも強くなろうとしてるんだ」
「大人になっていくということ?」
「どうだろう。俺も彼氏として必要があれば隕石からも守るつもりだよ。凪乃のこともね。だからこそ触れ合いで起こる変化は見守っていきたいんだ。誰かじゃなく本人が向き合うことで、なりたい自分を見つけられるようになれると思うから」
「……また一つ勉強になった。二人の弱さの中にも、強さが芽生えていた。それを知ることができた」
「きっと凪乃が知りたいと思ったからだね」
「そしてあなたが見守ってくれたから。……いつもありがとう」
こうして二人に見守られながら、静と先は互いの世界を知っていったのだった。