ウマ娘にもトレーナーにもなれなかったモブ転生者 作:塚山 泰乃(旧名:なまけもの)
3/31魁さんの戦後の解説のセリフを加筆しました。
それに伴い細かなセリフが変わってます。
俺はリナの父親に食堂へと案内された。
「座りなさい」
「……失礼します」
食卓の側の椅子のひとつに座る。
対する父親も対面の椅子に座った。身長が2m超えというのもあって体重もあるのか、はっきりと椅子がぎしりと悲鳴を上げたのが聞こえた。
「改めて挨拶する。私はリナの父で夢千夜出(むちやで)魁(かい)と言う。主に筋力トレーニングのインストラクターを生業としている」
「僕は山海野太一と申します」
「よろしく」
「よろしくお願いします」
互いに礼をした後、魁さんから尋ねられる。
「改めて尋ねる。君は、太一君はウマ娘に対して何をしたい?」
「怪我して走れなくなった娘たちをなるべく助けてあげたいですね」
「……トレセン学園へ行くのか?」
「それも有りっちゃ有りなんですが、世界中にいますからね、ウマ娘」
魁さんが困惑した表情を見せる。
「……視野が広すぎやしないかね?」
「どこかひとつの組織だけに肩入れしたら、他のウマ娘たちはどうなるんです?」
真面目な顔して尋ねてくる男が"何を言ってるんだこいつ"という表情へ変化した。
何でそんな顔するんだろう?
助けたいなら当たり前の考え方に決まってるじゃないか。
魁さんは咳払いをひとつすると真面目な顔に戻って話しかけてきた。
「ひとつ、確認したい事がある」
「何でしょうか?」
「太一君は今までにウマ娘に襲われた事はあるかね?」
単刀直入に訊いてくるな、この人。
「ありますが?」
「具体的に何回?」
やけに細かいな。
目線を天井へ向けて記憶してる限りの事を口に出す。
「えっと……、直接ベッドに押し倒されたのは、こないだの一件くらいで、他は……半年くらい前に集団で代わる代わる追い回された事がありますね」
俺の正直な答えに魁さんは沈痛な面持ちでそうか、とため息を吐く。
「押し倒されただけでなく、群バ戦術も仕掛けられたのか……」
「何ですか、そのグンバって?」
「太一君は第二次世界大戦のドイツ海軍については詳しいかね? Uボートによる群狼戦術というのがあるのだが」
ん? ウマ娘世界でもそこは同じ歴史をたどったのか。
こっちに来てからトレーナー関連の本を優先して読んでるから見落としてたな。
「ああ、それなら知ってます。複数の潜水艦で敵国の輸送船団を中心に狩る行動に因んで名付けられたんだとか」
「うん、ミリタリーマニアのウマ娘がそれを取り入れて、戦後の闇市を中心に男性狩りを繰り返してたんだ」
「なにそれこわい」
あれ、トレセン学園のウマ娘たちの間で流行ってる風習なのかと思ってたけど違うんかい!
「そこまでは知らなかったか。まあ、戦後の闇の歴史のひとつだったからな、あれは」
「どうしてそんな状況になったんですか!」
「戦争で男たちが大勢戦病死したから男女比がおかしくなったんだ。その穴を埋めるために子どもをたくさん増やして補おうとしたんだよ」
「何もそこまでしなくても……」
「大戦中の頃は人種差別が大っぴらに行われてはいたものの、ウマ娘は別で戦場へ従軍して捕虜になっても丁重に扱われたんだ。そのせいもあって部隊が極度の飢餓状態に陥ったり、銃で撃たれたりして戦死しない限り、ウマ娘は多くが生き残った」
なるほど、そんな歴史があるのか。
「結果、何が起きると思う?」
「え? そうですね…………」
生き残りのウマ娘が日本へ帰国して、焼け野原の各都市、鉄道路線の寸断。
前世で学んだ戦後の混乱期を思い浮かべ、ウマ娘にとってとある重大な事が思い当たる。
おい、まさか。
「戦後の食糧難?」
「正解だ。ウマ娘は大食漢だから大量の米が必要だったんだ。しかも、農家からも多くの男手を兵として取られたから人手不足解消のためとも言えた。さらにウマ娘は特に人参が大好物だ。戦時中はカロリーが最優先で味よりも栄養価が高い種類の芋が栽培に適しているとして奨励されたが、人参も例外ではなかったんだ。戦後、帰国したウマ娘たちはいつか誰もが人参だけで満腹になれる日を夢見て行動を起こしたんだよ」
「まさかの善意!?」
「一方的すぎるがね……」
俺は父親と同時にため息を吐く。
「理由と理屈は分かりました。でも悪意がない分余計質が悪いのでは?」
「当のウマ娘たちはそれが日本の将来のためになると考えに考えた末なんだろうけどね。結果的に極端に減った人口は驚異的なV字回復を見せたし、持ち前のパワーで積極的にインフラの復興整備に関わっていったから、思いのほか米所と早く繋がって短期的に戦後の食糧難は解決したんだ」
「…………という事は、もしウマ娘が存在していなかったら、もっと長く日本国民は苦しめられていた?」
「そうなるね」
父親の話に俺は唸る。
この世界ではウマ娘たちは大きな役割を果たしたんだな。
「魁さん、詳しいですね」
「ウマ娘の父親になると自然と学んでいくものだよ。目を背ける者も大勢いるがね。……というか、そうか、今もまだ続いているのか……」
魁さんが遠い目をする。
そういえばリナがウマ娘って事は、母親もウマ娘という事になるな。
「あの、もしかして、奥様も?」
「うん、ウマ娘だね」
自由恋愛だよな? 一応、冗談めかして訊いてみるか。
「……群バで狩られたんですか?」
「押し倒された方だよ」
おっと、反応に困る返事が来た。
「……まだ良い方ですかね?」
「仕留められたから大して変わりはしないと思うよ」
達観してるなあ。これが大人の貫禄といったところだろうか。
話題を変えよう。
「あの、そもそもそんな事を学ぼうとしたきっかけは何ですか?」
当然の疑問に魁さんが苦笑する。
「うちの娘のリナだよ。ウマ娘というのはトレセン学園のトレーナーと絆が深まっとき、彼らを性的に襲うという噂くらいなら知られていると思う。実を言うと、それはトレーナーだけに限られた話ではないんだ」
「……以前、身をもって知りましたけどね。彼女たちは男性となれば見境ありませんね?」
「そうだろう? まあ、さすがに老人までは襲ったりはしない」
「へえ、そうなんですね」
相槌を打った俺はふと疑問に思った事を口にする。
「あれ、ちょっと待ってください。今、老人って言いました? じゃあ子供は? 例えば俺は中学生ですけど、小学生とかも対象になっちゃうんですか?」
嫌な予感を払拭させたくて、魁さんに問いかけたら盛大なため息を吐かれた。
「……過去の文献には精通を迎えていない未就学児すら襲われている記録が残っている」
「……マジですか?」
「マジだ」
ドン引き案件来た!
いや、さすがにおかしいだろ、ウマ娘の倫理観はどうなっえんだ!?
…………いや、前に治療したウマ娘から襲われたし今さらだな?
「さっきも訊きましたけど、学ぼうとした理由は何なんですか?」
「……凄く単純な話なんだが、例えばの話、うちの娘が小学校入学前の男の子を襲ったらどうなると思う?」
「……社会的に死ぬでしょうね」
「それが嫌だから学んだんだ」
「…………何と言うか、ご愁傷様です」
俺はリナの父親に深く同情した。そして気付く。
「ならどうして一般社会で生活している普通のウマ娘たちはそこらの男性へ手当たり次第に襲いかからないんですか?」
俺の問いかけに居住まいを正した魁さんが語る。
「誤解を正しておこう。実は男性を性的に襲う条件がいくつかある」
「……それは、一体」
前世のアプリゲームや今世のウマ娘関連の本やネット上にはそういった情報は見た事も聞いた事も無い。
俺は唾を飲み込みながら尋ねると、父親はごつい片手をあげて指を一本立てる。
「一つ目。ウマ娘が男性を襲うのは第二次成長期を迎えてから閉経を迎えるまでの間だけである」
「熟女も!?」
「年齢を重ねれば確率は減少していくが事例がある」
俺が魁さんの言葉に戦慄する。
危険なのは年頃のウマ娘だけでは無かったのだ。
魁さんは二本目の指を立てる。
「二つ目。ウマ娘は何かしらのスポーツで一定以上の運動量をこなし続けないと発現しない」
「…………という事は、何も走るだけじゃなくて……」
「格闘技でも、警察、消防、自衛隊でも同じだ」
「うっわー……」
安全な場所が狭まってないか?
「え、それじゃあ同じ職場で働く男たちはどのような対策をとってるんですか?」
「いや、そういった所は結婚適齢期の大人ばかりだからお構いなしにカップルが成立するから、特に問題にはならんよ」
魁さんが三本目の指を立てる。
「三つ目。ウマ娘は異性、つまり男性と心を通わせ、一定以上の絆を結んだ場合に起きる」
そこまで言うと魁さんは手を下ろした。
「他にも細かい条件はいくつかあるが、主なものはこの三つだ。少なくとも本気でレースに命をかけるウマ娘たち、この場合はトレセン学園に通う者たちが該当する。他にも野良レースなどに命をかけてるウマ娘たちも引っかかる場合がある」
「野良レースも!?」
「ウマ娘が一生懸命になればなるほど、な」
魁さんの解説に、俺含めた少年たちにとって想像してる以上の危険に満ちあふれた世界だと痛感した。
今回はここまで。
それでは。