ウマ娘にもトレーナーにもなれなかったモブ転生者 作:塚山 泰乃(旧名:なまけもの)
さらに魁さんの解説は続く。
「襲われなくなる条件としてはウマ娘が伴侶を見つける。……ぶっちゃけ、子作りをすると途端に性欲が収まるんだ。以降は伴侶と交わることが中心となり、他の男性は襲われなくなる」
魁さんの言葉に俺はまたしても嫌な予感がしたので恐る恐る聞いてみる。
「あの、まさかとは思いますけど、トレセン学園が設立された理由というのはレースを盛り上げるためだけではなく……?」
「そうだ。彼女たちの暴走を起こさせないよう、ひとまとめに隔離しておく、いわば監獄みたいなものだ」
嫌な側面だなあ。
「そこまでしなければならない理由というのは何なんでしょうか?」
「決まっている。レースを盛り上げるためだ」
「……どういう意味ですか?」
まさか、世間を盛り上がるために少年たちやトレーナーには犠牲になれとでも?
「簡単な話だ。ウマ娘というのは性欲を走る力へと変換する。何を馬鹿なと思うかもしれないが、それが爆発的なスピードとパワーを生み出すんだ。大小のレース、特にトゥインクルシリーズで記録が更新される度にウマ娘ファンたちが熱狂する。その期待に答えるため日々切磋琢磨し、さらなる新記録を打ち立てるべく彼女たちは努力する。そしてレースで結果を出せばファンはさらに熱狂する。好循環を生み出すために必須なんだよ」
「……で、レース場の入場料や各種グッズ販売の売り上げにも繋がる、と。……ですが、さすがに性欲まで利用するのはさすがに……」
俺は前世の競馬を思い起こす。競馬なら当然ではあるが、ウマ世界のレースでは賭博行為はご法度である。その代わりに俺が口にした内容が主な収入源となっている。
運営側もトレセン学園も無償で社会へ奉仕しているわけではない。何をするにも元手となる資金が入り用となるからだ。
そう思っていると、魁さんが首を横に振って否定する。
「君は阿呆かね? 全力を出せないウマ娘にファンがレース場へ足を運ぶとでも?」
俺の苦言に父親はきっぱりと否定した。
ああ、そういう理由なのか。ならば問題無いな。
いや、問題しかねえわ。
「だから彼女たちにはトレセン学園に在学中に特別な性教育を施され、無闇矢鱈に男性を襲わないようにされるんだ」
「……そういう事でしたか」
なるほど、トレセン学園も馬鹿ではないんだな。一応、対策はしてあるのか。
てことは、前に治療したウマ娘に襲われたのは俺が迂闊にも性欲を刺激するトリガーを引いてしまった、と。
治療後のウマ娘に考え無しの言葉をかけたのが原因かもしれないな。
「だが何事も全てが上手く行くとは限らない。でなければトレーナーが襲われることはありえないのだから」
「僕みたいな一般庶民からすると、ウマ娘がトレーナーを襲うというのは噂しか聞いていませんし、被害に遭ったトレーナーたちが自ら告白したという話も聞いたことがありません」
俺の言葉に父親は苦笑する。
「それはそうだろう。そんな恥部が外に漏れてみろ。ウマ娘への見方が大きく変わってしまう。偏見されるなんて事は許されないんだ。それはトレーナーたちも承知している……はずだ」
魁さんが最後らへんに発した言葉は自信無さげだ。
「だからウマ娘の、性にまつわる事件は基本箝口令が敷かれ、表に出ることはない」
「へえ。……で、もし口外するような被害男性がいた場合、どうなるんですか?」
人類の長い歴史から考えると、そんな人はいくらでもいたんじゃないか?
「黙殺される。人とウマ娘との共存にヒビを入れる行為が許されるわけが無いだろう」
「……徹底されてるんですね……」
あー……、もう"そういうもの"として諦めるほか無いかな。
いや、諦めたら貞操を奪われる可能性がはね上がるだろうから、これからも回避する努力は惜しまない方が良いな、うん。
「だから、改めて警告する。悪い事は言わない、マッサージ師というかウマ娘に関わるのを止めなさい」
「え、何で?」
魁さんは俺に酷い目に遭ってほしくなくて言ってるんだろうけどそんな警告、聞き入れられるはずが無いだろ。
泣いてるウマ娘を救おうと決意して行動してた意味が無くなってしまう。
「……聞いていなかったのかね? 貞操を奪われた上、繰り返し繰り返し襲われるのは太一君のためにならない」
「はい?」
あれ、何か勘違いされてる?
まだ貞操は守り通せてはいるぞ。
「……もしかして、君、誘い受けなのかい?」
「違います! 何でそうなるんですか!?」
何だその性癖!
俺の個人データには無いし新たに加えたくもないぞ!
「既に童貞では無いのだろう?」
「まだ童貞です!」
こっちには能力があるから意図的にウマ娘を操って回避できるくらいの自信があるんだ。
問題無い問題無い。
俺の正直な主張に魁さんが何か変な生き物を見てるような目つきに変わる。
「……そんな事あるはずがない。押し倒された時点で普通なら詰みだ」
「その場しのぎの口八丁で何とか回避できてますよ」
「ほう?」
おや、魁さんが興味深げな表情へと変化したな。
「性的興奮状態のウマ娘を口先でいなせるのか? ……ほう、ほうほう。是非とも後学のために教えてもらいたいものだ」
あ、やべ。この人、学術的探究心が旺盛だ。
本当は"催眠"っていうチート能力のひとつで回避してるからなんだが、誤魔化しがきかない。
仕方ないな。
「話せませんよ? 方法を伝授して広まったとしても対策を取られたらおしまいですし、自身の貞操を守る事が第一なんですから」
魁さんに軽く"催眠"をかけながら正直な理由を話す。
「…………ふむ、一理ある。それなら仕方ないな」
「ご理解いただき感謝します」
納得してくれたので俺は軽く頭を下げる。
このチートは万能では無い。ちょっとした対策を取るだけで無効化されてしまうのだから警戒するに越した事はないからな。
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side.?
(ふーん、そういう事だったんだ)
食堂の外、会話をしている二人からは見えない位置に佇む少女が真剣な表情で盗み聞きしている。
(少なくとも、他の女、ウマ娘に盗られる事は無いんだ)
食堂の開口部から少し顔を覗かせ背を向けるクラスメイトを見る。
残念ながら、少年が持つチート能力には助けを求めるウマ娘の声は聞こえても欲望を感知したり読み取る能力は持ち合わせていなかった。
ちなみに、この位置からでも対面の父親の視界には入っていない。
(まだチャンスはある)
最初は興味本位で面白半分だったとは言え、あんな逸材を誰が放っておけるものだろうか?
(絶対、私のものになってもらうんだから覚悟しておきなさい)
少女は無意識のうちに舌舐めずりした。
今回はここまで。
書き溜めに入ります。