ウマ娘にもトレーナーにもなれなかったモブ転生者   作:塚山 泰乃(旧名:なまけもの)

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お久しぶりです。
投稿を再開します。


第十一話 ご相伴に預かります

 話も一段落したところで、ふと壁にかけられていた時計を見るとアナログの針は午後七時をとっくに回っていた。

 

「あれ、もうこんな時間か」

「む、しまった。時を経つのも忘れ、つい話し込んでしまったな」

「長居しすぎました。今日はこの辺で帰ります」

 

 俺は席を立ちながら言うと魁さんが親しげに話しかけてくる。

 

「ここであったのも何かの縁だ。何か困った事があったらまた来なさい」

「……そうさせてもらいます」

 

 俺は魁さんに頭を下げると、学生鞄を持って食堂を出ようと振り返る。

 そこには廊下へ繋がる開口部にリナが立っていた。Tシャツと短パンというラフな格好だ。

 

「あ、いたいた。父さんと何してたの?」

 

 リナはどうやら目を覚まして部屋にいなかった俺を探しにきたらしい。

 

「リナの親父さんとちょっと話し込んでてな」

「そうなんだ。もう帰るの?」

「もう遅いしな」

 

 その言葉を聞いたリナが何かを考え込む仕草をした後、俺に向かって告げる。

 

「だったらさ、夕食を食べていきなよ」

「え? いや、悪いよ。せっかくの家族の団欒を邪魔するのは」

「そんなこと言わずにさ!」

 

 同級生の押しが強いな? 参った、断りづらいぞ。

 

「まあ良いじゃないか、食べていきなさい」

 

 俺が悩んでいると父親が助け舟を出した。

 

「しかしですね」

 

 俺がためらっていると父親が笑う。

 

「遠慮なんかするな。一介の少年が食べる量などたかが知れてる」

「……ウマ娘を基準にしてるんですか?」

 

 俺がジト目で問いかけると父親が笑う。

 

「ウマ娘のいる家庭なら食事に関して寛容になるよ」

「そんなもんですか?」

「そんなもんだよ」

 

 年長者には敵わないな。

 俺は――

 

 

→「それじゃあ、ご相伴に預からせていただきます」

 「やっぱり悪いよ、明日提出する宿題がまだだしね」

 

 

「それじゃあ、ご相伴に預からせていただきます」

 

 こうして俺はリナの家で一緒に夕食を取ることになったのだが、ふと気づいて魁さんに話しかける。

 

「そういえば、奥さんはどうしたんですか?」

「大丈夫だ。あいつは今、残業中だろう」

「……キャリアウーマンなんですか?」

「ああ、まあそんなもんだ」

 

 父親の含みのある発言に俺は偉い人なのか、地位の高い職業に就ついているのかとあたりをつける。

 

「そんな事よりも食事だ」

「え、もう用意できてるんですか?」

 

 俺の質問に魁さんが頷く。

 

「作り置きがある。温め直せばすぐに食べられるぞ」

「準備がいいですね?」

「妻がいつも遅くまで仕事をしているから、どうしてもね」

「……お疲れ様です」

 

 リナの家庭もそれなりに複雑のようだ。

 

「さあ、座って座って、私がよそってあげる!」

「悪いな、ありがとう」

「いえいえ!」

 

 俺と魁さんが席に座るとリナがシステムキッチンの方へ歩いて行き、大きな寸胴鍋の蓋を開け中身を確認し、電磁調理器を操作して温め始める。

 

 料理が出来上がるまでの間、俺と父親は何気ない会話へ話が移る。

 何もリナの前でウマ娘の歴史を語り合う必要は無いためだ。

 

「それはそうと、最近のリナはどうかね? 学校生活を訊くと『普通だよ』としか答えが返ってこないのだ」

 

 俺はリナの中学校での教室内でのクラスメイトとのやり取りを思い出しながら発言する。

 

「…………特にいじめられてる様子は見受けられません。友達と楽しく会話をしているのをよく見かけますよ。授業態度も周囲の生徒と一緒に真面目に勉強してますし、定期試験で赤点を取ったという話も聞きません」

「そうかそうか!」

 

 別段問題無い事を伝えると、父親はうんうんと頷いた。

 

「ちょっと太一君、お父さんにそんな事言わなくてもいいよ」

 

 リナが抗議の声を上げながらも、目の前の鍋の中にお玉を入れてかき回している。

 

「いや、すまんすまん。リナが楽しく学校生活を送れているか心配だったのでな」

 

 魁さんの言葉に俺も同意する。

 

「そうだぞリナ。結婚も子育てとした事が無いからよく分からないけど、今も元気でやれているのかどうか心配するのは親としては当たり前だぞ」

 

 前世では犬と猫を飼い始めた頃、学校で授業を受けてる間は気が気じゃなかったからな。

 俺が同調した事に魁さんが喜ぶ。

 

「太一君、分かってくれるか」

「先ほどのお風呂の件ですね」

 

 身内だからって遠慮なさ過ぎなのは確かに問題だもんな。

 

「ねえ太一君、さっきお父さんと何の話をしていたのかな? 後で聞かせてね」

 

 リナが笑顔で圧力をかけてくるも俺は怯まない。

 その程度では前世での社会人経験から査定するとそよ風に等しい。

 

「いや、大した事無いから大丈夫」

「いや、大丈夫じゃないから! 本当に何の話をしていたの!?」

 

 お風呂という言葉に嫌な予感がしたのかリナが顔を赤らめながら叫ぶ。

 彼氏を連れてきたら赤裸々な話題も上がる可能性を考えて無かったな?

 デリカシーが無いと言われればそれまでだが、親は子を心配するあまり苦言を呈すのも普通だと思うぞ。

 自業自得じゃい。

 

 そうこうしているうちに鍋が温まり、料理は完成したようだ。

 リナは納得の行かなさそうな顔で用意しておいた器にお玉で料理を移し替え、人数分の器を持って食卓の上に置いていく。

 いや、ウマ娘だから知ってはいたが、リナの器がデカい。俺たち人間用の皿よりも三倍以上あるように見える。

 魁さん、食費は大丈夫か?

 ……まあ、今まで暮らしてきたんだから杞憂か。

 

「はい、今夜はシチューだよ」

 

 器になみなみと注がれたシチューは湯気を立てている。中は人参やジャガイモ、ブロッコリーなどの具材が所狭しとひしめいており食べがいがありそうだ。

 

「美味しそうですね」

「何故なら俺が作ったからな!」

「私じゃなくて悪かったわね」

 

 俺の素直な感想に魁さんが胸を張り、リナが不貞腐れた表情で文句を言う。

 

「そんな意味合いで言ってないぞ?」

「だから――」

 

 笑顔で訂正する魁さんにため息を吐きながら文句を言おうとしたリナを俺は宥める事にした。

 

「まあまあ。とりあえず食事にしましょう」

「…………はあ」

 

 ため息を吐いたリナは空いている席――俺の隣に座ると三人で手を合わせる。

 

「「「いただきます」」」

 

 手にしたスプーンで早速シチューを掬い取り口に入れる。

 とろっとろに煮込まれたスープは優しい味を感じさせる。

 うん。これは隠し味に牛乳が入ってるな、ちょうどいい塩梅だ。

 

「親父さん、これ美味いですね!」

「そうだろう、そうだろう。妻子に喜んでもらいたくてな? あれこれと試しているうちに上手くなってしまったよ!」

「いや、これ本当に美味いです。店開けるんじゃないんですか?」

「ははは、今の仕事を退職したら次はそうしようか」

「凄いでしょー。私の自慢のお父さんだよ」

 

 先ほどまで不機嫌だったリナはどこへやら。今は上機嫌で喋っている。

 まあ、こんな美味い飯を食べてる最中に口論は無粋だ。

 もう1杯おかわりをして腹も丁度良く膨れたところでごちそうさまを言った。

 

「食後のお茶、どう?」

「うん、頂こう」

「……悪い、俺にもくれないか?」

 

 口の中をさっぱりさせたくて、魁さんに続いて俺も頼み込む。

 

「はいはい。……緑茶と紅茶、それにコーヒーがあるけどどれが良い?」

「私はいつもの緑茶でお願いするよ」

「コーヒーを、ブラックで」

「はいよー」

 

 リナは食器棚から専用のカップと来客用のを取り出すと、備え付けの茶筒から緑茶の茶葉を急須に入れ。

 ラベル付の透明な瓶の金属蓋を回して開けると木製スプーンを差し込んでコーヒー豆を取り出してコーヒーマシンに投入しスイッチを押すと豆が砕かれていく音が聞こえ出す。

 

 うーん、それにしても進路相談に付き合っただけなのに夕食をご馳走になってしまった。

 たまにはこんな事があっても良いだろう。

 一人暮らしが当たり前だと思っていたからなあ。

 

 リナと魁さん、そしてコーヒーマシンを不思議と落ち着いた気持ちで眺めていた。




続けてもう一話投稿します。
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