ウマ娘にもトレーナーにもなれなかったモブ転生者   作:塚山 泰乃(旧名:なまけもの)

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続けて投稿。


第二話 負けウマ根性を克服せよ 前編

 府中にあるトレセン学園には2000名ものウマ娘が在籍し、勉学のための校舎の他、寮やプール、各種トレーニング設備、屋外コンサート場、いくつもの専用コースが備わり効率的にウマ娘の総合能力を向上させる機能に優れた施設だ。

 入学できるのは小学校を卒業した上位のウマ娘たちに限られるが、なるべく多くの未来ある少女たちを受け入れるための努力が行われている。

 

 まあそれはそれとして。

 しばらくの間はトレセン学園に在籍する彼女たちに干渉するつもりは無い。

 理由としてはこの世界にあるスマホならぬウマホという携帯端末が問題なのだ。前世の世界でも位置情報が分かるGPSが標準搭載なので不調に陥っている彼女たちを治療すると俺の存在が特定される可能性が高い。

 こちらの世界でも彼女たちの年頃になればウマホは必須だから迂闊に手出しできない。

 

 それに比べてどういうわけか前世日本よりもウマ娘世界は治安が割かし良いのだ。

 人間はウマ娘に勝てない。

 この言葉がこの世界に浸透しているように一般人と比べて年頃のウマ娘は全盛期の力を発揮できる。彼女たちを力ずくで乱暴しようとすれば返り討ちに遭う。これは絶対の法則だ。

 それに加えて余程の事がなければ人間に危害を加える事はないほどの温厚な気質の持ち主が大勢を占める。

 彼女たちは走るために生まれてきた、と言われるくらいには情熱を注ぐある意味羨ましい種族だ。

 全盛期でなくてもウマ娘というだけで力量差がある。なので余程の悪人でもない限りはウマ娘に暴力を振るわない。

 インターネットで検索したところ、過去に自衛隊所属のウマ娘に因縁をつけていじめた大きめの暴力団ひとつが仕返しで壊滅したという新聞記事が見つかった。

 その辺りからウマ娘への犯罪件数がみるみる減少していくグラフが見つかり、恐ろしいやら感心するやら。

 触らぬウマ娘に祟りなし、だね。

 

 で、何が言いたいのかと言うとトレセン入学前の小学生ウマ娘のウマホ所持率が極端に低い事が挙げられる。都内の街中の防犯カメラも無いわけではないが、治安が良いのか少な目だ。

 一応、対策として俺のチート能力があるから心配は無いが念のため。

 

 故に小学生ウマ娘を積極的に助けていく。

 図書館でウマ娘関連の資料を調べていくうちに、頻繁にレースを行い怪我で引退を余儀なくされるウマ娘が群を抜いて多いが、トレセン入学前のウマ娘たちも練習やレースで怪我をして夢を諦める者も少なくない。

 中には金銭的な問題で入学自体を断念するしかない者もそれなりにいるが、俺のチート能力に金銭を増やす力は無いし、怪我をしたわけでもないから救う理由にはならない。

 

 まだ中学生で帰宅部の俺は放課後の時間を使って困っているウマ娘を探してはこっそりと治療を施す日々を送っている。人間に比べてウマ娘の数は少ないが、東京都だけでも10万人を超える。ウマ娘が100才まで生きられると仮定しても1~2万人の小学生ウマ娘が存在するのだ。

 二度と走れなくなるかもしれない怪我をしたウマ娘を救う。それだけに絞っただけでもそれなりの数に上る。

 まあ、そんなしょっちゅう大きな怪我をするような毎日は起きてはいないが、起きるときには起きるのだ。

 

 放課後、今日も街中をぶらついていると頭の中で助けを求める、というより自責の念にかられた声が響いて来た。

 脳内に浮かび上がらせた都内の地図からそう遠くない位置だ。怪我をしたわけでもなさそうなので無視をしても良いが、声質からしてここしばらく響く同一人物だろう。

 今日は緊急で呼び出されていないし、気紛れで様子でも見に行こう。

 

 

──────────────────────────────────

 

 

 あの娘か。

 程なくして見つけたのはトレセン学園とは比べ物にならないほどのちっぽけなグラウンド。ざっと10人以上のウマ娘がコースを思い思いに走っているのが見て取れたが、目的のウマ娘はグラウンドから離れた位置で彼女たちを眺めていた。

 体操服ではなく私服である事から走るつもりは無いのだろう。

 

「隣、お邪魔するよ」

「……え? あ、はい」

 

 念のため、付近一帯に俺が怪しい者ではないという暗示を浸透させているので、部外者として警戒される事はないだろう。

 コースを走る彼女たちを見ながら少女に話しかけた。

 

「君は走らないのか?」

「……はい」

「怪我をしてるのかい?」

「いえ。……走りたくないだけです」

「理由を訊いても?」

 

 沈黙。

 隣に視線をやると少女が困った表情でこちらを見上げている。

 

「何でそんな事を訊くんですか?」

「本能のまま楽しそうに走ってるウマ娘を見るのが俺は好きだ。君たちの頑張りを見て俺たち人間も頑張れると勇気づけられる。何、ちょっとした人助けと恩返しだよ」

 

 あー、うーと少女はためらっていたがぽつりぽつりと語りだした。

 

「私、どんくさいんです。何をやっても他の子たちより遅くて」

「走ってもびりっけつだと?」

「……はい。楽しくなくなってしまったんです」

 

 さて、困ったぞ。

 この時期、まだ中央トレセンにはハルウララは入学していない。負け組の星と呼ばれた彼女なら底辺のウマ娘たちを勇気づけてくれたのだろうが。

 目の前の少女に走るきっかけを与えてやれないだろうか。

 催眠や洗脳で走る意欲を増やす手もあるが、あれは対象数人に付きっきりでトレーニングを見るのに使うのであって、術をかけてはいさようならと放置して良いものではない。加減を誤ればそれこそ大怪我するまでトレーニングする事になりかねない諸刃の剣だ。

 どう答えたら良いだろうかと悩む俺を隣の少女が見つめていた。

 

 

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