ウマ娘にもトレーナーにもなれなかったモブ転生者   作:塚山 泰乃(旧名:なまけもの)

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続けて投稿。


第三話 負けウマ根性を克服せよ 後編

 何度もレースをしても最下位となって走るのが嫌になってしまったウマ娘にやる気を起こさせる方法。

 簡単なようでこれが意外と難しい。

 要するに「どうせ自分は駄目なんだ」状態に陥ってしまっている。

 代わりに俺のチート能力でこの子に付きっきりで併走してあげても良いんだが、毎日付き合ってあげられる余裕はない。

 あくまで優先順位は怪我をしたウマ娘が上だしね。

 

「なあ、お嬢ちゃん。走りたくない、というのは競争して負けるからなんだよな?」

「うん」

「なら、競争しないで君1人だけ走る、というのも楽しくないのかい?」

 

 少女が眉を寄せた。どうやら考え込んでるようだ。

 

「要するに気楽なランニングだよ」

「……うーん。勝ち負けが無いなら楽しいと思う」

 

 ふむ。走る意義を見失ったわけじゃないか。

 

「じゃあ持久力、……スタミナをつけて体力の向上をはかった方が良いね」

「そうするとどうなるの?」

「簡単にはへばらなくなる。より長くトレーニングができるようになるし、速いスピードを維持したまま走れるようになるな」

「ふーん」

 

 俺の解説に耳を傾けてるってことは再起をかける意志があるみたいだ。

 

「本当は君たちくらいの年齢だと、筋肉を鍛えるよりもスタミナを増やした方が後々有利になる」

「……お兄ちゃん、中学生?」

 

 おや。

 

「ああ」

「トレーナー、目指してるの?」

「そうなりたくて、この間まで勉強してた」

「して、た?」

 

 少女は不思議そうに首を傾げた。

 彼女が悩みを打ち明けてくれたんだし、俺にも特に隠す理由はない。

 

「俺の頭じゃ難しすぎてトレーナーになれない。……諦めたんだ」

「そうなんだ」

「でもな。お嬢ちゃんの年で諦めるのは早すぎる。まだ入り口にすら立ってないぞ」

「うん」

「トレセン学園に入学できるかどうかまで頑張って、できなかったら諦めれば良いんじゃないかな?」

「……分かった。もう少し頑張ってみる」

「その意気だ」

 

 どうにかやる気を取り戻したようだ。心の中で安堵する。

 

「お嬢ちゃんがやる気を取り戻してくれて良かったよ」

「ありがとう」

「じゃあ俺、そろそろ行くよ」

「うん」

 

 踵を返して歩き出し、脳内に地図を展開する。

 今のところ緊急の案件は無いようだ。もう夕方だしこのまま帰るか。

 

「お兄ちゃん」

 

 背後から声をかけられて振り向く。何か訊きたい事でも思いついたか。

 

「お兄ちゃんの名前、教えて」

 

 そのくらい構わないだろう。東京都民1300万人の住む地域で再び会えるのは至難の業。

 

「山海野太一」

「やまうみの、たいち君。……覚えた」

「じゃあな」

「私、ヤヤヤーノヤーノ。またね」

「会えたらな」

 

 こうして俺はその場を離れた。

 

 

────────────────────────────────

 

 

 府中の商店街から外れた一軒家の古びた木造二階建ての前に到着すると鍵を開けて玄関に入る。

 

「ただいま」

 

 返事は無い。

 1階の居間に移動して仏壇の前に行くと、ライターを使って灯った線香を立て手を合わせる。

 2つの位牌の手前にひとつの写真立てが置かれ、ウマ娘と男性が写っていた。

 

「父さん、母さん。また一人のウマ娘に善行をしたよ」

 

 俺が中学二年の時、両親は旅行先の事故で亡くなり今は俺一人で住んでいる。

 料理から洗濯、掃除までこなさなくてはならなくなったが、気楽な独身生活を手に入れた。

 2階の自室に戻ると通学用鞄を置いて今日出された課題をささっと終わらせる。

 夕食まで少し時間があるし漫画でも読もうかと思ったが、止める。

 脳裏に浮かんだのはつい先ほどまで励ましたウマ娘。

 本棚にある「中央トレセン学園・トレーナー資格試験参考書」に目を向ける。

 参考書を取り出して中身をめくる。

 

「あいつが頑張ってるのに、俺が諦めるわけにもいかないよな」

 

 未練がましいと自嘲しながら投げ出した部分から読み直す事にした。

 商店街で買った惣菜でさっさと夕食を済ませると風呂もそこそこにベッドに寝転びながら参考書を読む。

 

 分からない用語はウマホで検索しながら理解を深めていたところ、頭の中で声が響いてきた。

 声からして嘆き、自暴自棄に近い感情が読み取れた。脳内地図を展開するとすぐそばの商店街の一角からだ。

 騒動が起きてる方に顔を向けチート能力のひとつ、透視で観察すると1人のウマ娘が路上に座り込んでいるのが見えた。

 

「うわ」

 

 少女がトレセン学園の制服を着用している事から面倒事か厄介事の類と推察できたが、門限をとうに過ぎたのに学園に戻ろうとしない理由が知りたかった。脳内地図を広げると住民の知らせを受けたのか最寄りの警察官が向かっているのが確認できた。

 どうするか。

 素直に警察に保護してもらい任せるのが無難だろうが、あそこまで荒れていると気になってしまう。

 

「まあ、何かの縁だしな。仕方ないか」

 

 俺はベッドの上で胡座をかくと部屋の中央に視線を向ける。次の瞬間、忽然とウマ娘が現れた。

 

「殺せぇ、殺してくれぇ!」

 

 少女が床に座り込んだまま泣き叫ぶ。

 チート能力のひとつ、転移。行ける場所はこの世界のみだが破格の性能だ。

 

「うるさい、近所迷惑だ」

「なんだと、この野郎!」

 

 状況判断能力が著しく低下してるせいもあるのだろう、我を忘れた少女は立ち上がりながら殴りかかろうとして転倒する。ちなみに、今のはチート能力を使っていない。

 少女はうつ伏せになったまま起き上がろうとしない。

 

「…………足を怪我してるのか?」

「そうだよぉ、畜生ぉ」

 

 泣きながら痛めている足を抱える少女に俺はため息を吐いた。




とりあえず今日はここまで。
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