ウマ娘にもトレーナーにもなれなかったモブ転生者   作:塚山 泰乃(旧名:なまけもの)

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続きです。


第四話 挫折したトレセンウマ娘を癒そう

 床で丸くなって泣き続けるウマ娘を助け起こしてベッドに腰掛けさせ、ティッシュ箱とゴミ箱を少女に渡すと靴を脱がして自室を出て階下へ降りた。

 玄関に少女の靴を置いて台所から茶道具一式を持って階段を上り2階の自室まで運ぶと、急須に茶葉を入れポットから湯を注ぎ、ちょっと時間を置いてから湯飲みに注ぐ。

 淹れたてのお茶を少女に差し出す。

 

「お茶でも飲んで落ち着け」

「…………うん」

 

 袖で涙を拭う少女が茶を飲んでだんだんと落ち着いた頃合いで話しかけた。

 

「まだ中学生だけど愚痴くらいなら聞くよ」

「いや、けどよぉ」

 

 親切にされた事には感謝してるみたいだけど、心情を吐露するほどの信用はされてない、と。

 少女に参考書の表紙を見せると、困惑気味の少女の目が開かれる。

 

「……これって」

「まだ勉強中だけど将来なれたらなって」

 

 願望でしかないけどな、と心の中で自嘲する。

 

「狭き門だぞ」

「承知してるさ」

 

 少女が呻く。

 

「トレーナーの卵どころじゃねえぞ」

「君だって夢を追いかけてトレセンに入ったんだろ。それよりも足の状態診たいから靴下脱がすよー」

「……好きにしろよ」

 

 不貞腐れる少女を横目に靴下を脱がすと足首周辺が腫れ上がっているのが目に入り、さすがに我慢できなくなって叫ぶ。

 

「何でこんなになるまで放っておいたんだ!?」

 

 これじゃあ歩行すらままならないほどの激痛に苛まされるだろう。

 咎めるような視線を向けると、少女は耐えられないのかそっぽを向く。

 

「……どうしても外せないレースがあったんだ」

「ふざけるな、君のトレーナーはどこを見ているんだ!?」

「……見てねえよ」

「あ?」

「名義貸しなんだよ、うちのトレーナー」

「そんな馬鹿な話があるか」

 

 名義貸し。トレセン学園に在籍するウマ娘の総数に対し、厳しい難関を乗り越えた中央トレーナーの数は少なく全員の面倒を見る暇が無いため、規則ではグレーとして扱われているが参加すればレースに出場できる権利がもらえる必要悪な制度。

 名義貸しするトレーナーによっては基礎トレーニングすら放置する場合が多いので、本来であればトレーナーがしなければならない裏方を未経験のウマ娘がやる羽目になり、必然的にトレーニング時間が少なくなるのは当たり前。まともなトレーナーと契約してるウマ娘に差をつけられるという地獄が問題となっている。

 

「それならなおの事、君自身が自己管理しなきゃいけないのに……」

「……仕方ないだろ、負けられない奴がいるんだ」

「一生松葉杖の人生を送る事になってもか?」

 

 俺の言葉に少女が目をそらす。

 闘争心が旺盛なのは良い事だけど怪我を悪化させてまで走るのはやりすぎだ。呆れを通り越して怒りが沸いてくる。

 

「今から治療するからじっとしてろ」

「ああ? 中坊がんなことできるわけねえだろ」

「むしろ俺はこれが本業だ。まあ見てろ」

 

 少女の痛めた足を持ち上げその下に小箱を置いて台にすると、足に直接触れないように両手をかざす。

 チート能力のひとつ、治癒。

 腫れ上がっていた患部がみるみる元のきれいな足へ戻っていく。

 その様子を見ていた少女が息を呑む音が聞こえた。

 

「……嘘だろ」

「終わり。まだ痛むか?」

 

 俺が手を引っ込めると同時に少女が自身の足に触れ状態を確認する。

 

「……痛くない」

 

 少女が恐る恐る立ち上がる。次いで軽く足踏み。

 

「は、はは。マジかよ、夢じゃねえよな?」

「現実だ」

「走れる。あたしはまだ走れる……!」

 

 少女の顔がくしゃりと歪み涙があふれ出す。

 

「いや、まだ駄目だ」

「……え?」

 

 少女の笑顔が凍りつく。まだ何か問題があるのかという不安げな表情だ。

 今の少女の足踏みで疑惑が確信に変わった。

 

「君、痛む足をかばって日常生活をすごしていただろ」

「あ、ああ」

「左右のバランスが崩れてる。この状態だとベストどころかベターな走りもできないぞ」

 

 少女は目を逸らさず俺を見つめる。彼女の目には先ほどまでの絶望は無く何かを決意したようなものが揺らいでいた。

 

「……どうすれば良い」

「俺が治してやる」

「できるのか? いや、やってくれ。頼む」

「じゃあ脱げ」

「え」

 

 少女が固まる。

 仕方ないだろ、俺の治癒能力は中途半端で衣服があると診れない仕様なんだから。精神操作や暗示などの各種チートが無かったら助ける事すらできなかったよ。

 

「安心しろ、全身マッサージみたいなもんだ」

 

 少女は迷っている様子だったが、覚悟を決めたのか上着とスカートを脱ぎだす。

 荒い口調でも女なのか下着姿になると途端にしおらしくなったな。

 腕で胸と下腹部を隠しもじもじする少女がおずおずと言う。

 

「な、なあ、下着も脱げとは言わないよな?」

「いや、それで良い。ベッドに仰向けになれ」

「わ、分かった」

 

 少女は寝っ転がると不安そうな目で俺を見る。相変わらず腕で胸と下腹部を隠している。

 

「腕をどけろ、治療の邪魔だ」

「……変な事したらただじゃおかねえからな」

「誰がするか」

「……即答された。それはそれでムカつく」

「どっちだよ」

 

 掛け合いしながら少女の全身を観察する。チート能力の透視も使って内部も診る。

 

「……背骨が歪んでるな。左右の筋肉のバランスも悪い。首の骨も傾いてる」

「そこまで分かるのか?」

「そこらの中学生と一緒にするな」

 

 少女の足先へ手をかざす。肉体的疲労を癒やしつつ凝った筋肉をほぐし左右のバランスを整え、少しずつ上半身へ向けて治療を行っていく。

 

「……なんだか体がぽかぽかしてきた」

「治療受けたウマ娘はみんなそう言うなあ。何故そうなるのか俺にも分からんが」

「まあ、悪くねえな」

 

 各部の骨や筋肉の歪みを整えつつ、首までの治療を終えた。

 

「終わりだ。もう服を着て良いぞ」

 

 声をかけたが返事が無い。少女がぼうっとした表情で天井を見ている。

 

「おーい」

「……ちょっとこのまま……ふわふわする。なんだか良い気持ちだ……」

 

 治療が完了した直後のウマ娘が陥る状態だな。施術後の余韻にひたるのは悪い事ではない。

 体を冷やすと良くないのでタオルケットをかけてやる。

 椅子に座って参考書を読んで待つ事にしよう。

 10分もたたないうちに少女から寝息が聞こえてきた。

 待った、誰が寝て良いと言った。もうそろそろ寝る時間なんだが。

 ため息を吐いた俺は少女を起こす事にした。

 

 




それではまた明日。
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