ウマ娘にもトレーナーにもなれなかったモブ転生者   作:塚山 泰乃(旧名:なまけもの)

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リハビリも兼ねて投稿再開。


第八話 【朗報か?】リナの父親の溺愛っぷりが重い件【悲報か?】

 リナへの施術が終わった。

 俺は体を起こして背伸びをする。

 下半身に続いて上半身の一部の疲労している箇所を念入りに揉んだため、2時間以上経過していた。

 

「終わった終わった。久々に満足のいく施術だったな」

 

 俺は達成感を感じている。

 施術を受けたリナはベッドですやすやと寝息を立てて深い眠りへと落ちていた。

 この間のトレセン学園の怪我人を癒した時も勉強になったが、今回の治療もためになるものだった。

 うつ伏せになって気持ち良さそうに寝息を立てるリナを見ながら思案する。

 せっかく気持ち良さそうに寝ているのを起こすのは気が引ける。何よりここは女の部屋だし。

 ということで、俺は自分の学生カバンを手に取ると、そっと部屋から抜け出そうと扉に手をかけた。

 

 はて、目の前には出口が存在しなかった。

 扉を開けたら壁がある。

 何のこっちゃと思ってよく見たら人間だった。それも男性の。

 俺の背の高さは170cmである。扉の高さは男よりも少し高めであるからおそらく180cmはあるだろう。そして、開口部の外側に立っている男はそれよりもはるかに高く首から上が見えない。

 さらに目の前の男の肉体は誰が見てもわかるくらいに筋肉に満ちあふれ、ボディビルダーのようながっしりとした筋肉の塊が目の前にあった。

 

「うぉ、でっか」

 

 無意識に口からそんな言葉が出た。心無しか目の前の筋肉ダルマの身体が震えた気がする。

 この人の背丈、天井近くまであるんじゃないか?

 そんな感想を抱きつつ視線を下に落とすと、筋肉ダルマの手には解体工事現場で使われるようなごっついスレッジハンマーが握られていた。

 脳内に本能的な警鐘が鳴り響く。

 最悪の事態を回避するために恐る恐る声をかけた。

 

「あの、つかぬことをお伺いいたしますが、あなたはリナさんの父親ですか?」

「……いかにも。私がリナの父親だ。そして君は誰だ?」

 

 想定していたよりも理性的でダンディボイスな返答に安堵するが、目の前の父親は声が震えている。

 おそらくこれから行われる会話の中に少しでも父親の勘に触るような言葉が含まれていた場合、その手にあるスレッジハンマーから鍛えられた筋肉を伴った恐るべき破壊力が生み出されるであろう事は明白だ。

 俺は戦慄しながら、しかし堂々と男らしく返事をする。

 

「僕はリナさんと同じクラスメイトの山海野太一と申す者です。彼女とは気兼ねなく会話できる友達としてお付き合いさせていただいております」

 

 即興で組み立てた言葉を口にした。

 どうだ?と内心で父親の様子を見る。

 

「ほう、友達! ではそこのベッドに眠る娘の服装を君の口から言いたまえ」

 

 その震える言葉に思考が停止する。

 そして首をゆっくりとひねって、背後に眠る女を確認し、頭を父親へと向ける。

 

「……上下、下着姿です」

「そうだな。下着姿だな」

 

 俺と父親との間に沈黙が訪れる。

 踏んだ! 今、確実に地雷を踏んだ!

 次の瞬間にも父親の手の中にあるハンマーが男に向かって振われると思い、いつでも回避できるよう身構えようと――

 

「……私は、今、冷静さを欠こうとしている」

 

 ん?

 

「詳しく、説明しなさい」

「アッハイ」

 

 お、踏み留まった。まだ助かる余地がありそうだ!

 

「僕はウマ娘のトレーナーになる事を目指そうとしてました」

「……してた、とは?」

「問題集が難しすぎて無理そうです。別の道に進む事にしました」

「……続けたまえ」

「端的に言うと、マッサージ師になる道へ進みます」

「……ふむ」

 

 リナの父親の頭部が見えない状態での開け離れた扉越しの会話。

 いや、何だこの状況。

 

「で、娘の、リナの状態はどうだった?」

「軽度の疲労状態でした。下半身の左右に偏りがあったので整えておきました」

「ほう」

「あと、何でか分からないけど、リナさんの首の付け根の筋肉が極端に凝り固まっていたので念入りに揉みほぐしておきました」

「……」

 

 ん? あれ? 反応が無い?

 

「……すると、さっきまで聞こえていた娘の喘ぎ声は?」

 

 聞かれてたーーーー!

 はい、死んだ! 俺、死んだ!

 ええい、こうなりゃ自棄だ、洗いざらいぶち撒けてやる!

 

「……首の付け根を施療中、ずっと鳴いてましたね。あんな声、今まで施術してきた子たちからは出ませんでした。彼女が初めてですね」

 

 勢いをつけてまくし立てる。何か余計な事を口走ったような気もするが。

 

 もう、どうにでもな〜れ!

 

 どんな裁決が下されるのだろうか。

 

「娘のあのような声は私も初めて耳にした」

「はい」

「娘が通う学校からは特に問題を指摘してくるような事もなく健全な生活を送っているのだろう」

「はい」

 

 淡々と語る父親に頷くしかない。

 雰囲気からして、彼は父親として娘を大切に育てているのだろう。

 

「……そう、思っていた」

「……ハイ」

 

 おや? 声の雰囲気が少し変化、した?

 

「不安だった。身内だからという理由で風呂上がりには全裸で家中を闊歩するし」

「……ハイ」

 

 おい、リナ、開けっぴろげすぎだろ。

 父親であっても男だぞ。年頃の娘がそんな態度でどうすんだ。

 

「そんなズボラな娘が今度は友人を連れて家に帰って来た」

「ハイ」

「男の君が」

「ハイ」

「娘を裸にして」

「ハイ」

 

 うん、間違ってない。それとなく誘導したのは事実だし。さすがに年頃の女の子だから拒否するだろうと期待してはいたんだけどね。

 リナは受け入れちゃったんだよなあ。

 

「触れるどころか揉みしだいた」

「ハイ」

 

 父親の言い方に語弊はあるけど反論できる雰囲気じゃないよな。

 もはや俺は頷くだけの機械でしか――

 

「黄泉路への特急券を希望するか?」

「嫌です!」

 

 突然の死刑宣告に拒絶の即答を返す。

 危ねえ! ただ頷くだけの機械に徹していたら俺の人生終わってた!

 父親の口ぶりからして、彼がその切符を切る車掌か。

 切符切りの道具がスレッジハンマーだと。

 誰がそんなん受け入れるか!

 この人、筋肉志向だけど無茶苦茶頭が切れるぞ!

 さり気なく罠を仕込みやがった!

 

「……そうか、では――」

 

 俺は何が起きてもいいように身構える。

 

「娘のどこに魅力を感じる?」

 

 は?

 

「……質問の意図が分かりません」

「正直に答えなさい」

 

 え、魅力?

 魅力……魅力……?

 そんなんあるか?

 俺はただ単に泣いて困ってるウマ娘をどうにかしたいだけで、リナは泣いてないけど、クラスメイトのよしみっていう理由で癒しただけだし。

 

 でも、その事を馬鹿正直に答えてもいいのだろうか。

 

「答えなさい」

 

 父親の厳かな圧力にリナの魅力を考える。

 そんな事、思った事無いぞ。単なるクラスメイトでしかないのに。

 

「どうして答えない?」

 

 父親の言葉に圧力が徐々に増している。

 

「いや、その、怒らないでくださいね?」

「……」

「娘さん、リナさんには、魅力を、感じません」

「……理由を」

 

 言わなきゃいけない? 言うしかない?

 ですよねー。

 

「トゥインクルシリーズに限った話ではないのですが、ウマ娘たちの輝く姿の陰では泣いてる子たちも存在します」

「……」

「僕は、そんな子たちを支えてやりたい」

「……」

「一人だけに付きっきりでいてあげる時間は無いんです」

 

 言い切った。

 さあ、リナの父親はどう返す?

 

「話をしよう。ここでは何だ、食堂に案内する」

「分かりました」

 

 これは、死亡フラグは回避できたか。

 内心で安堵して背を向けて歩き出したリナの父親の後について行こうと――

 待て、何でスレッジハンマーを持ったまま?

 死亡フラグ回避できてないじゃないですかやだー。

 

 そんなやり取りしながら部屋を出て行き。

 部屋に残されたリナがベッドで静かに涙を流している事に俺はついぞ気付く事は無かった。




以後は不定期で投稿します。
それでは。
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