■ ■
「確かに……私は、自分が辱められるのが好きだ」
(言い切ったぞコイツ)
(言い切りましたね)
(言い切っちゃったかぁ……)
アクアを除いた三人は、マジかよコイツと顔を見合せた。ここまで理路整然とした、文句の言い様がない説教をされて、はいそうですと頷いて話を続けようとするか、どんな執念だよ、と。
「だが、断じて仲間が悲しむのを良しとなんかしていない。自分でも、そこは分かっているつもりだ」
「はぁ……バカバカしい。それを分かっている人間はね、自分の趣味を押し出して仲間をそれに巻き込まないの。貴方の言葉には、何の説得力も、信用も感じないわ。何度も言わせないで―――あたしは、貴方を仲間に入れたくないの」
「…………ぐす」
「え?」
今度はアクアも驚いた。全員が一斉にダクネスへと目を向けると、
「う―――うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
めっちゃ泣き出した。嘘泣きとかそういうのではなく、もうマジのガチの、号泣であった。
「嘘でしょあのダクネスが号泣っ!? どんな攻撃も罵倒も嬉々として恍惚としてたあのダクネスが!?」
「おいアクア流石に言葉強いって! こんなにも女騎士な女性が子供みたいに号泣するって相当だぞ!!」
「こういうのはハッキリ言わないと伝わらないでしょ。この子だけじゃなくて、あたし達の命にも関わる話なのよ」
「くそぅ正論だから何も言えねぇ!!!!」
別に彼女の被虐趣向を擁護するつもりなんてサラサラないが、しかしある意味で精神的にも頑丈な人がボロボロ大粒の涙を流す様は、流石にカズマの良心が見過ごすなと叫んだ。
なので、もうちょっと言葉選んでもいいじゃんと言ったのだが、アクアはそれを一刀両断し、カズマも呆気なくそれで斬首された。マジでぐうの音も出ない正論である。
実際、アクアの言い分は非常に正しい。この中で誰の言い分が正しいのかをアクセル全体の住民に聞いたとしても、おそらく九割くらいの人間がアクアを支持するだろう。
タンクとして前線に出るのは、当然の事だ。なんせそれかタンクの仕事だ。前に出てモンスターのヘイトを請け負い、隙を作る事が重要な職業なのだから。
しかしだからと言って、タンクは自分の命を蔑ろにしていい職業なのだ、なんて公言するのは大いに間違っていると言わざるを得ないだろう。
突き詰めるまでもなく、壁役であろうが人は人。生きとし生ける者の一部である。タンクとしての役割に私情を挟むだけでも十分なくらい有り得ない事だが、そこに『自分が死んだ時に仲間がどう思うのか、どんな影響を及ぼすのか』を考えられていないのは、馬鹿と罵られても文句は言えない。
パーティーメンバーは、お互いに役割がある。それぞれがそれぞれの役割を全うし、互いに背中を預け合い、信頼し、全力を尽くすものだ。それなのに、趣味優先で死線に突っ込む様な真似をされては、相手の方の気持ちは察するに余る。
だから多少キツくあろうが、ハッキリ言わねば伝わらぬのだ。例え号泣されようがお構い無しである。
「わ、わたしだってぇ……いろいろかんかえてぇ…!」
「出来てないなら意味が無いのよ。自分だけで完結するのならそれで良いけど、パーティーを組めば貴方の周りには仲間が居るの。でもだからって、『自分の趣味を理解してくれる仲間を探せ』と言うつもりもないわ。寧ろそれじゃダメね。性癖とか趣味とかの言葉で着飾ろうが、結局のところ突き詰めれば貴方のそれは自殺行為よ。それを認める仲間なんてロクな奴じゃないわ」
「ヤベェどんどん追い詰められてるぞ…!」
どうしたものかとカズマは頭を悩ませる。
まだダクネス本人の能力を見た訳ではないが、上級職業のクルセイダーを手放すのはよく考えればかなり勿体ないのではないだろうか―――と。
(そりゃ探せば他の上級職も見付かるだろうけど、それを見付けるまでどうするんだって話になるよな。そいつが既にパーティー組んでたら話にならないし。じゃあ王都に行って探す? いやいや、まだ俺全然レベル低いんだぞ、普通に死ぬわ。王都は今も魔王軍と戦ってる最前線って聞くし、争いにでも巻き込まれたら無事じゃすまんって……そうなると、やっぱ今の内に上級職を仲間にするのは、わりと最善手なんじゃないか?)
被虐趣味という弱点こそあるものの、アクアもクルセイダーの性能は優秀だと認めてはいたのだ。そこには何の間違いもないのだろう。
それに、ダクネスの言葉から察するに、きっと彼女は自分達に話し掛ける前から幾つかパーティーを組んだ経験がある。それでも古傷など一切持たず居る時点で、相当の頑丈さがあるのでは?
それに―――アクアの理論は確かに正しいが、
(問題はアクアをどう説得するかだな……話聞く感じ、ダクネスが自分の命を粗末にしてるのと、仲間の事を考えてないのがダメなんだろうな。うーん―――ん? いや待てよ、
ふとして、思い付く。カズマの天性のずる賢さが、こういう時に火を吹く。
正論なのに変わりはない。だが―――アクアの言葉に当てはまるのは、
「なぁアクア、ちょっと―――」
『緊急クエスト発生! 緊急クエスト発生! 至急、冒険者の皆さんは門の前に集まってください!』
警報と共に吠える声に、カズマはびくりと体を震わせた。
急に何事だよっ!? これから説得しようとしてたのにと愚痴りながら、周囲の冒険者がいそいそと走り出す様に困惑する。
「案の定、来たわね。行くわよカズマ」
「来たってなに!? レイドか!?」
「まぁ規模で言えば間違ってないけど…別に高難易度って訳じゃないわよ。さっきめぐみんが言ってたでしょ、キャベツの時期だって」
「ま、まさか……」
「そう―――キャベツが来たわ」
真面目な顔でダウナー女神がギャグみたいな事を言っているシュールな絵面に、やっぱ良い顔してんなぁとか呑気に思ってしまうカズマの事はさておいて。
ちょっと待っててくれと制しながら、カズマはダクネスへと声を掛けた。
「ほら、お前も行くぞダクネス!」
「え?」
「このパーティーのリーダー俺だし、最終的にお前を入れるか決めるのは俺なの! だからまず俺から認めさせろ! その後でアクア説得してやるから!」
「い、いいのか?」
「いやお前を肉壁にするのは良かねぇよ!? いくらドMだろうが俺だって考え無しに敵に突っ込ませるのは気が進まないし! でも初期村で上級職をスカウトせず逃すのは流石に惜しい! あと言っとくけどお前がクルセイダーだからだぞ!? お前がクルセイダーでもなけりゃドMタンクなんざ勧誘したくねぇからそこは勘違いすんなよ!?」
「カズマカズマ、何やらツンデレみたいな言動になってますよ」
「うっそだろ我ながら気持ち悪っ!? 男のツンデレとか誰得だよ!?」
「私に言わないでくださいよっ! ほら早く行きますよ、アクアが待ってますから!」
【緊急クエスト★★☆☆☆】
【空飛ぶキャベツの大収穫!】
《パーティー構成》
・カズマ:中衛・冒険者
・アクア:後衛・アークプリースト
・めぐみん:後衛・アークウィザード
・ダクネス←暫定:前衛・クルセイダー
《スキル・特性》
アクア
・
味方全体の各ステータスの上限数値を5上昇・全属性の魔法威力を10%上昇・スキルと魔法のリキャストタイムを3%短縮
カズマ
・特性【未だ垣間見えぬ女神からの祝福】
カズマの幸運ステータスを1限界突破
*この特性は、パーティーメンバーにアクアが居る時のみ発動可能。
―――以上を確認の上、クエストを開始します。
◆
「……なんだこれ」
カズマは呆然としていた。
空を埋め尽くすのは、緑色の物体―――なんかやけにキュルンとした可愛らしい目が着いたキャベツだった。
そのキャベツ達が、物凄い勢いでアクセルの街を通り過ぎようとし、冒険者達が武器やら魔法やらを放ってせっせとそれを食い止め、なんかデカイ檻に投げ込んでいる様を見れば、きっと多くの人間が呆気に取られてしまうだろう。
特に隠す様な事でもないので白状するが、この世界のキャベツは飛ぶのだ。収穫の時期になると、人間なんぞに黙って食われてたまるか! と怒る様に身を躍らせ、食べられるくらいなら遠い地で腐ってやると羽ばたくのだ。
しかもタチが悪いのは、このキャベツ達は美味いのだ。死にたくないという意地のお陰なのかどうかは定かではないが、とにかく美味い。
それが理由か、1個あたり1万エリスの報酬がギルドから出される。こんなトンチキなイベントは異世界にも中々無いだろう。
「今自分の目の前で起きてる出来事が訳分からなさ過ぎて頭痛くなってきた……」
「慣れなさい。この世界、こんなんばっかだから」
「終わってるってマジでッッッ!!!!! ねぇどうなってんの異世界!? 俺がイメージしてた異世界像が尽くぶち壊されるんだけど!?」
がむしゃら気味になりながらも、アクアのサポートもあって的確にキャベツを剣で叩き付け、ダウンを奪うカズマ。
冒険者全体で見れば決して能力は高くないが、それは冒険者単体で見た話。凡人と比べればカズマの身体能力は十分ずば抜けているのだ。それにアクアからのサポートも合わさっている今、カズマは並の冒険者くらいはステータスが上がっている状態な訳である。
そうなれば、キャベツくらいは大した事はなかった。
「それで、話ってなに?」
「え?」
「ギルドで何か言いかけてたでしょ。あたしに何か話したかったんじゃないの?」
「あぁ、それな。それはこれが終わってからでも良いんだ。というか、言いかけたは良いものの判定がまだ出来てないっていうか……」
「…どうせダクネス絡みでしょ? 分かるわよ、それくらい」
「おぉうまた見抜かれた……」
クリエイト・ウォーターの水流で一気に羽ばたく敵を撃ち落としながら、アクアは肩をすくめる。
「別に、あたしだって……」
「分かってるって。心配してるから、ああいう言い方になったんだろ? 実際、アクアの言い分は正しいと思うぞ。言葉が強かったのは流石に否定できないけど」
「それは……あたしも反省してるわ。もうちょっと、言葉を選べばよかったって」
申し訳なさそうにするアクアに対して、カズマは分かってるからと受け入れる。
カズマは一度だって、アクアの言い分に『言い過ぎだ』とは言わなかった。カズマの意見はあくまでも『言葉が強過ぎる』であって、アクアの言い分自体を否定するつもりはこれっぽっちもないのだ。
新入りであろうがなかろうが、仲間が死ぬ光景を見過ごすなんてことは、きっと自分には耐えられないだろう。後悔なんていくらするか分からないし、自責だってしまうだろう。
趣味や性癖という免罪符を手に入れて、だからと言って罪悪感が軽減するか? なんて問われても、答えは当然の如くNOである。
「
「…えぇ。そこまで分かられてたのね」
「だってお前優しいじゃん。そんくらい分かるよ。でもさ、だからこそ、もうちょっと俺とかめぐみんに聞いてくれてもよかったんじゃないか? アレ、ほぼアクアの意見だけで進んでたし」
「うっ……そ、それは…」
パーティーは互いに信頼し合い、支え合う仲間。だが、あれは話し合いと呼べる様なものではなく、ただ一方的な拒絶であった。
勿論、それを悪いとは断言出来ない。仲間の為、そして彼女の為を思うが故の正論だったと、カズマは分かっているから。
だが、そうであっても、悪いと断言は出来なくとも、『こうした方が良かったのではないか?』という意見は出てくる。
パーティーなのだから、仲間にも意見を尋ねるべきではなかったのか? その上で、どう判断すべきを考えた方が誤解もなかったのではないか?
「そう、ね。ごめんなさい」
「俺達はまだダクネスの事全部知ってる訳じゃないんだし、決めるのはそれ知ってからでも遅くないだろ。それに、改善とか工夫とかが出来ない訳でもないんだし。これが終わってから、またゆっくり話そうぜ」
「……うん」
(あァァァァァァァ!?!?!?!? うん!? うんって言った!? 可愛い過ぎんだろ天使か!? 違う女神だ!)
せっかくカッコイイ事言ってたのに台無しだよこのスカポンタン童貞最弱冒険者。最後まで本当に締まらん野郎である。
まぁ、閑話休題。
「すまない、待たせた」
「お、やっと来た」
涙の後はすっかり消え、凛とした表情で剣を握る女騎士が、覚悟を決めた様な佇まいで現れる。その後ろには、何処か嬉しそうなクリスも居た。
クルセイダー、ダクネス。どうやらこれまでとは違うらしい。
「まずは謝罪させてほしい。アクア、貴方の言う通りだ。私は騎士として……いや、まず一人の人間として、考えが至らなかった」
「いえ……あたしも、ごめんなさい。言うにしても、もっと言葉を選べばよかったわ」
「いいんだ。あれだけ言われないと、きっと私は自覚しなかった。あと最悪感じていた」
「お前さ、シリアスにする気ないだろ。引っぱたくぞ」
「いいのかっ!?」
「ごめんアクア、やっぱりさっきの話無しで」
「いや流石にダメよ。男の子でしょ、言い切ったからには最後まで貫きなさい。反対してたあたしが言えた義理じゃないけど」
急激にやる気が下がってきた。このドMを仲間にしなければならないのか……と。
でも入れた方が戦術の幅が広がるのも事実。やはり入れるしかないのか。その為にもアクアを説得しなければならないのか。
「よーし、とりあえずお前の実力見せてくれ。まずそっからだから」
「分かった。よく見ておいてくれ、私の実力を!」
―――剣を構え、疾走は始まった。
敵は飛翔するキャベツ。敵対者に目を向けず、ただひたすらに先へ先へと逃げる事だけを思考する、生存本能の擬人化。
対して、こちらは人間。どの様に動けばいいか、どう武器を振るえばいいか、どうスキルを使えばいいのかを思考し、最適化し、行動できる存在。敗北など有り得ない。
今この瞬間、自分は試されているのだ。仲間に入れるに相応しいか、前を預けられるかどうかを。
言われるまで、自覚もしてこなかった。自分が、自分の事だけを考えて、他人の事なんて一切目に入っていないと。
自分が辱められるのはいい。だが、家族や友人がそうなるのは見過ごせない。その考えが、まず違った。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
感情のままに、剣を振るう。
―――空振り。
「やぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
縦に。斜めに。横に。振るう。
―――全て、空振り。
「えぇ……」
「まさか攻撃系のスキル全部振ってないのかしら…?」
「いや、違うよ―――あれは単純に不器用なだけ」
「嘘でしょ…?」
多くのものが勘違いをしている。ダクネスが攻撃を当てられないのは、彼女が攻撃系のスキルにポイントを割り振っていないからだと。
実際は違う―――ダクネスは単に、めちゃくちゃ不器用なのだ!
崩スタで例えるなら、通常攻撃が全く当たらない癖に戦闘スキルは持ってないし必殺技はヘイト稼ぐだけな、そんなキャラクターである。
「出来れば攻撃系のスキルも振りたかったんだけど……残念ながらスキルポイントが無くて」
「ま、まぁ、緊急だからそれは仕方ないか。……いやそれにしても不器用過ぎるだろっ!? 攻撃全部当たってねぇじゃん!?」
「それどころか、どんどん体当たりされて装備が剥がされていってるわ…でも生身は無傷ね。流石はクルセイダーって所かしら」
流石に予想外な面はあったものの、その頑丈さには感心せざるを得ない。あれだけの速度で突進されれば、鎧を着ていても怪我は免れない筈だが、ダクネスは一切傷を負っていない。
防御系や囮系のスキルに全振りしているのは伊達ではないという事か。まぁ、それにしたって自分がボロボロになっているのに恍惚としているのは、やはりどうなのかと思うが。
「あぁ、視線が一気に…! 多くの者たちが、少しずつ顕になっていく私の裸体に視線を」
「もう帰ろうぜ見てられねぇよ俺。さっきまでアイツを擁護しようとしてたのが恥ずかしいよ俺」
「我慢しなさいカズマ。貴方が始めた物語でしょ」
「ネタとかじゃくて本当に言われる日が来るとか思ってなかった……てか、めぐみんは?」
ふと思い出して、辺りを見渡す。
そうすると、後ろの方で、
「ふっふっふ……なんて大勢の敵っ! あれだけ大勢の敵に対して爆裂魔法を撃ち込めれば、いったいどれだけ爽快なことか! ここで撃たないという選択肢があるでしょうか!? いや無いッ!」
「あるよぉ!? 現在進行形で冒険者達が射程範囲内に出張ってるよぉ!?」
「いいえ我慢出来ません撃ちます!」
「あぁもう本当にやだ馬鹿過ぎるだろコイツぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
―――爆炎が、滾る。
「光に覆われし漆黒よ。夜を纏いし爆炎よ」
天に掲げる杖は、誓いの様に。
真紅は炎となって魔力の奔流を形作り、身を焼く業火を幻視させる。
「紅魔の名のもとに、原初の崩壊を顕現す。終焉の王国の地に、力の根源を隠匿せし者―――我が前に統べよ!」
「逃げてェェェェェ!!!!!!!!!!!!!!!!!!! みんな逃げてェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「めぐみんには後でお説教ね」
「エクスプロージョンっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
解き放たれた爆裂は、ダクネスごとキャベツを焼き尽くした。
【クエスト完了!】
【クエスト結果:キャベツ大収穫!】
ストーリークエスト完了により、次のクエストの内容を更
【クエスト名:魔王軍幹部ベルディア襲ららららrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr
《神格による因果律への干渉を確認》
《クエスト内容を改竄します》
【クエスト名:鋭角より舞う首無しの猟犬】
【難易度:★★★★★★】
【クエスト名:永久凍土を征すは紅蓮地獄の大将軍】
【難易度:★★★★★★】
以上をクエストとして―――確定。