ダウナー女神のアクア様   作:全智一皆

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ちょくちょく見掛けたので、他の主要な神格から見たアクアをご紹介。

・弁財天
ウチ様とはテンション真逆過ぎて逆にウケる的な? でもたまにぐぅかわなギャップ出してくるからカワイイ遡って愛いって感じ!

・ヘスティアー
身内に全能が居る手前、あまり良いイメージは無かったけれど、あの子は他の神格とは考え方から根本的に異なるというか……どこか放っておけないの。だから沢山ご飯を食べて、沢山色んな人と笑ってほしいな

・天照
人を愛し、人に焦がれ、故に人と相容れないなんて悟るのは、あまりにも早すぎる。そして間違っている。人に愛され、人と対等に、人と結ばれる未来がくる事を切に願っています

・素戔嗚
神と人に大した差は無い。そこには絶対も無い。ただ君は、その想いを素直に、正直にさらけ出してしまえば、それだけで君が思い描く未来は形として現れる。

・ポセイドン
若輩ながら我と愚弟と同等の位に立つ身に在って、それを毛嫌う愚神。羨望の獣に選ばれた、大海の濁り

・フローラ
子供(お花)を大事にしてくれる優しい人。

・ゼウス
美人だけどおっかない。なんかヘラっぽい雰囲気を感じる。こわ……

・ヘラ
そんなに人間って良いもん? それはそれとして男はしっかり選びなさい。コイツ(ゼウス)みたいなのは論外よ

・ヨグ=ソトース
にゃあー

・ルシファー
理解(わか)る。神はどいつもクソだしやっぱ人間って良いよな…

羨望の獣(■■■■■■■)
いとしい、いとしい、わがうみのこ。どうかとわに、そのこころをわすれないで




第十五話 羨望の果てに、ささやかな願いを

 

■  ■

 その変化はまさしく劇的であった。

 水神権能———女神アクアの根本を成す権能である『水の女神』としての力を解放した彼女の姿は、それまでの民衆のイメージを一新した。

 青いパーカーはそのままに、透き通る様な淡さを保つ水によって象られた羽衣と天輪を背にし、指先一つを動かすという些細な動作で以てして曇天を消し去る様は、まさに神の顕現と表現する他ないだろう。

 本来の力の3分の1程度であろうが、この世界ではそれだけで規格外だ。神が下界において権能を解放するなど、そうある事態ではないが、少なくとも今この場において、アクアを力不足だと罵る様な輩は誰一人として存在し得ない。

 水神としての権能は、アクアという存在を肯定するに当たって必要不可欠なものだ。もはやそれ自体は『権能』という力と言うより、一つの『事象』に近しいが。

 

「せめてもの弔いとして、手加減はしないわ。貴方を天に召す事もしない。あそこは貴方にとって酷な場所だもの———だから、底無き海に沈みなさい。きっと安らかに眠れるわ」

「は……それで良い。それでこそ、否、そうでなければ、貴様を殺した気にもなれん」

「お前さ、俺に首取られてるのになんでそんな態度取れんの? もしかして首無くても問題無かったりすんの?」

「———だとしたら?」

「なんでフラグ建てちゃうんだよ俺」

 

 嘲笑う様な声色と共に、猟犬が一人でに駆け出した。

 確かにこの状態では、首を取られたデュラハンなどもぬけの殻も等しい。だがそれはデュラハン単体の話であり、ベルディアが騎乗するこの愛馬まで含まれるのかと言われると、それは断じて否である。

 この愛馬にも意思があり、それ故に駆る。如何に冒涜的存在に呑み込まれようとも、されど馬は片時も主人を忘れはしなかったのだ。

 実に感動的だ。馬に蹴り殺されるか大剣で首チョンパされるかの二択が待ち受けるカズマ以外にとっては。

 

「アクアぁぁぁぁぁ!!!!! アクアさんお願いしますします助けてくださいぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「まったく……本当に締まらないわね!」

 

 先程までの啖呵を切っていたカッコ良さは何処へ行ったのやら。呆れた様に首を振りながら、アクアは指先で空をなぞる。

 その行動に応えたか、海が意志を宿したかの様に動き出せば、瞬く間に千重波として大地を征服する。

 如何に猟犬であろうとも神格によってもたらされる物理法則には抗いようもなく、失速しながらも唸りをうげて抵抗を続けるが、それも大した成果には繋がらなかった。

 

「サンキューだけど流石にこれは規模デカすぎませんかねアクアさん!?」

「遠慮しないって言ったでしょ。これでも3分の1の出力なのよ、文句言わない」

「これで3分の1!? 規模バグり過ぎだろ!? なんなの!? 神様って揃いも揃って規模デカくしないと気がすまないの!?」

 

 そりゃそうだろ神様なんだから。至極当然の帰結である。

 そもそも『神様』という概念自体、元はと言えば人間が創り出したものである。どの時代から明確になってきたかは分からない偶像崇拝の理論が溢れ、誇張に誇張を重ねまくった結果が我々のイメージする『神』である。

 神が人を作ったのか、人が神を作ったのかなんて往々にして議論されるが、あくまでもこの世界においては、という枕詞こそつくものの、結論から言うなら答えは人間である。

 最初に神を思い描いたのは人間で、それが永い時の中で片時も忘れられる事なく誇張され続けて、信じられてきた結果として、空想は現実として昇華された。

 要は立場が変わってしまったのだ。神を創ったのは人間なのに、その人間が『人間と世界はつまり神の被造物!』だと信じ続けてしまった末、神は生命と世界を創造した、空想的だが実在する存在となったのだ。

 人が神を過大評価するのはいつの世も変わらぬ事である。

 

「というか、ハナから相性が悪過ぎるのよ———ティンダロスの猟犬とあたし()は」

「なんだと……?」

「貴方はきっと、便利な空間移動くらいにしか認識してないんでしょうけど———別に無敵じゃないのよ、ティンダロスの猟犬は。要は尖ってる部分があるなら何処にだって現れるって力なの。だから———完全な球体を創ってしまえば、簡単に対処できる」

 

 ティンダロスの猟犬の恐ろしさは、その執拗さと時空の跳躍。

 彼等は一度狙った獲物を逃がす事はない。その獲物がどんな所に逃げようとも、あらゆる鋭角から現れてはその牙と爪で追い詰め、狩り殺す。

 時間を超えた跳躍から逃れられる術など人間には到底持ち得ぬものだが、しかしそれにも弱点はあった。

 ティンダロスの猟犬は、その根底からして『人間』という存在とは完全に対極を成す独立した種族である。それ故に彼等はあらゆる鋭角を司るのだが、しかしだからこそと言うべきか、彼等にとってすれば『鋭角』こそが生きる世界であり酸素なのだ。

 鋭角が存在しない空間———つまりは直角が存在しない全方位360度の球体の様な場所には、彼等は跳躍出来ないし、存在もしえない。

 女神アクアの権能によって発生した聖水によって象られたその空間は、ティンダロスの猟犬にしてみれば生き地獄に等しい世界であった。

 

「カズマ、それ貸しなさい。投げ込むから」

「あ、はい」

「貴様っ———こんな、」

「申し訳なくは思っているわ。けど———遠慮するなって言われたの。だから今この時だけは、慈悲とかそういうのは忘れるわ。呆気なく終わらせてあげる」

 

 罪悪感が拭えた訳ではない。だが少なくとも、先程よりは心なしか、錨の様に重たい何かがほんの僅かに軽くなった様にも思えた。

 受け取った頭部は、罵詈雑言を浴びせてくる。それら全てを否定はしない。アクアにしてみれば、その憎悪は至極当然であるからだ。

 例え他者にとって、それが八つ当たり、逆恨みに見えたとしても———彼女にとっては、それくらいは仕方がないと受け入れるべき事だった。

 

「《解錠(バースト)》———『ターン・アンデッド』」

 

 絶叫の間は与えられなかった。

 投げられた頭部は水球に沈み、音が遮断されてそこにはもがき苦しむ騎士と愛馬の姿だけが透明な水の中に浮かぶのみだ。

 

「あぁ……あれが私だったなら」

「お前本当にいい加減にしろよ??? この状況で尚もそういう事言う? バカなの? 死ぬの?」

「今なら確実に爆裂魔法を当てられるのでは…?」

「やめろ、マジでやめろ。今現在進行形でアクアが確実な処理してんの! ど素人が隠し味入れるだけで料理ってクソ不味くなんの! お分かり!?」

「今さりげなく私をど素人呼ばわりしましたね!? この私以上に爆裂魔法を愛している人間など一人しか居ないというのになんという物言いですかっ!!!!!」

「お前こそ今さりげない爆弾ぶっ込んだよっ!? なに!? お前以外にも爆裂魔法好きなやつが居んの!? 頭イカれてんのか!?」

「頭イカれてるとはなんですか!? 私が師と慕う人をバカにしましたね!? 良いでしょう、今日という今日こそカズマに爆裂魔法を打ち込んでやりますよ!!!!」

「いいぜやってみろよ! お前が爆裂魔法使う前に『窃盗(スティール)』でお前の杖———いやパンツ分捕ってやらぁ!」

 

 クズマさんの発言にめぐみんは震え上がった。ここ最近で一番の鳥肌を立たせた発言である。

 

「なっ!? ゆ、言うにこと書いてとんでもない発言をしましたねっ!? ほ、本気じゃないですよね? まさか本当にしませんよね? はっ!? まさかアクアにもやったんじゃありませんよね!?」

「できるかバーカ! する必要ねぇだろアクアはなんも悪いことしねぇし多分だけど履い」

「カズマ」

「はいすいませんでした嘘です嘘ですからその水収めてください溺死だけは嫌だァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 なんとも呆気ない最期であったが、しかしまぁ、つまる所。

 神が力を使うというのは、こういう事なのだ。それを認識してもらえただけでも、十分というものだろう。

 ———神とは、つまりそれだけで世界を根本から壊しかねないのだと。

 

 

 

 

 その日、アクセルの街は実に賑やかであった。

 なんせ魔王軍の幹部、勇者殺しのベルディアが倒されたのだ。これで王都の魔王軍前線部隊の勢いは減り、人類が魔王軍に勝利する道に確実な一歩が刻まれた訳である。

 となれば宴をせずにはいられんだろうと、ギルドも大盤振る舞いだ。飲めや歌えやのバカ騒ぎは、まぁ騒ぎなだけあって喧しいとは思うものの、それでも楽しさというのは隠せぬものだった。

 まぁ———約1人を除いて、ではあるが。

 

「はぁ……つかれた」

 

 ギルドから少し離れたベンチに一人、アクアは腰を降ろしていた。

 結論から言えば、アクアはその宴には参加しなかった。力を使い過ぎて疲れたから、少し休んでから行く———そう伝えはしたものの、しかしアクアにはその意思など無いというのが、現状であった。

 疲れたのは事実だ。力が制限された状態での権能の解放は、確かにアクアに多大な疲労を一気に蓄積させてしまっていた訳で。

 現にこうして、彼女はベンチの背にもたれかかって、だらしなくなっているのだ。

 

「下界に降りて権能を解放するなんて、夢にも見なかったわ……やっぱり無茶はするものじゃないわね。身体は痛いし、頭もガンガンするし……これが二日酔いの気分なのかしら。味わった事はないけれど」

 

 性質上、酒はおろかジュース、スープですら飲めない身の上だ。酔いなんて経験できる訳もないアクアだが、今の状態は二日酔いに十分近いと言える。

 無茶な力の解放は、それ故に神の存在自体に影響を及ぼす。今のアクアは、権能を解放する前よりも疲弊していて、3分の1よりもさらに下の出力になってしまっている状態である。

 これでも時間経過で治るというのだから、やはり神格というのは信じられているからこそ存在しうるのだと、改めて実感させられる。

 まぁこの世界においては、アクシズ教にとってアクアは『神』ではなく『母』として見られ、敬われているので、原作よりも信仰が厚いとは正確には言えないのだが。

 

「……女の子、か」

 

 ふと、思い浮かぶのはあの言葉だった。

 

『あーうるさいうるさいうるさい!!!!!!!!!!!!! あのな、さっきの話に戻るけどさ! 格が高いのか何なのか知らねぇし、俺も神話の事詳しい訳じゃねぇけど、聖書の神様だって全人類まるっと救済した事ないだろ多分!? つまりはそゆこと! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……なによ、それ」

 

 無茶苦茶だ、と思った。

 確かに、聖書の神———救世主(ヤハウェ)とて世界の人類と生命を全て救済した事などない。あの唯一神は世界を創造し、生命を創造し、知恵を実らせ、幾つもの予言を残したが、それまでだ。

 黙示録を起こした事だってある。決して善なる神とは言い難いが、それでも偉業は偉業であり、神とはつまり救世主(ヤハウェ)から始まった。

 その救世主に対して不遜なのも、驚きはしたが……

 

「女の子扱いなんて……はじめてされたわ」

 

 誰も、そうは言わなかった。

 弁財天やヘスティアーですら、友でこそあれども『女神』として、同僚としての立ち位置だった。

 それなのに———カズマは、アクアを女の子だと断言した。

 

『言ってる事ぜーんぶバカバカしいッ!!!!!!!!! 天界の仕事とかそういうの全部ほっぽり出して、俺のお願い聞いてくれた上で実際に異世界に来たんだろ!? だったらもう———遠慮なんかしないで楽しめよ!!!!!!!! 前世のアレコレとかガン無視して派手にバカやって笑うのが異世界転生だろうが!!!!!!』

 

「背負う必要もない責任、か……確かに、その通りかもしれないわね」

 

 自分で神を嫌っているのに、それから抜け出せてはいなくて。

 結局のところ、悩めば悩む程に自覚するばかりで。

 怖くて、恐くて、こわくて。放り出してしまえば、自分がなんであるのかも考えられなくなりそうだった。

 だって———ずっと、神としての在り方しか知らなかったから。

 

「……でも」

 

 何もかもを放っておくとして。

 要らない責務とやらを投げ出すとして。

 じゃあ、そうしたのなら。

 

「あたしのやりたいことって、なにかしら」

 

 サポートするのは、カズマの為。

 『アクア』が異世界でやりたい事とは……なんだ?

 

「———あたしは、この世界で……何かしたいことを見付けられるのかな」

 

「あ、やっぱ外に居た。ったくよぉ」

 

「っ?」

 

 完全に意識が思考に割かれていた所為か、アクアはびくっと肩を跳ねさせて声の方を見た。

 呆れた様な顔で後頭部を掻き、ズケズケと歩いてくるカズマであった。

 その顔はほんのりと赤い。あとついでにアルコールの匂いもした。

 

「カズマ……」

「主役が外にいちゃ宴も盛り上がらねぇだろがよー。何やってんだよお前」

「……もしかしなくても、酔ってるわよね? お酒飲んだの?」

「ちょっとだよ、ちょっと。こう、雰囲気で」

「はぁ……ダメでしょ。貴方まだ未成年なんだから」

「良いだろー別に。それに異世界じゃ成人してるんだしさ」

「ダメなものはダメよ。肝臓に悪いわ」

「へいへい。分かったよお母さん」

「誰がお母さんよ、もう……このやり取り、飽きるくらいしてるわよ」

 

 事ある毎に、お母さん呼ばわりされるのも慣れ始めた自分が、ちょっとどうなのかしらと思うアクアだが、カズマはそんな事など知った事ではなかった。

 なんせ今のカズマはほろ酔いの状態であるのだ。意識は保ちながらも、酔いによって思考はある程度緩くなっているという、ある意味で無敵な状態である。

 

「で? 何に悩んでんの?」

「……何も考えないで、異世界を楽しめって、貴方は言ったわよね」

「ん? あー……そうだな。あの時はなんか、感情が爆発してたっていうか……今思うとマジでバカだな。デュラハン居たのに何言ってんだ俺」

「ふふっ、それは否定のしようがないわね。まぁ、でも……嬉しかったわ。他ならぬ貴方がそう言ってくれたから。でも、いざ考えるとね。あたし、やりたい事がないの」

「マジ? 何もないの?」

 

 カズマは分かりやすく驚いた。

 責任とかそういうのから解放されたのに、一切思い付かないものなのか? というか、持たないもんか?

 神様にだって欲はあろうに。ギリシャとかが良くも悪くも例になる。

 だが、アクアは何もないと断言した。

 

「なにも。別にお金が沢山欲しいとかもないし、有名になりたいとかは嫌だし……欲しいものも、やりたい事も、何もない。そんなあたしは、どうやって異世界を楽しむのかしらって、ちょっと考えてたの」

「えー……俺だったら色々思い付くけどなぁ」

「例えば?」

「お金沢山欲しいし、それででっかい家が欲しいな。屋敷みたいなやつ? あんな家に住んでみたいな。後はやっぱ執事とかメイドとか雇ったり? 働かなくていいなら働きたくないけど……でもアクア達と冒険者やるのも何だかんだ楽しいし、それは続けたいな。でも危険なのは勘弁な、死にたくない。あとはそうだ、魔法! やっぱ異世界と言えば魔法だろ! 俺も炎とか雷とか使いたい! そんで後は」

「ちょ、ストップ、ストップ。流石に多過ぎるわよ」

「えー……まだまだあんのに」

 

 なんと俗な人間であろうか。いや、まぁそりゃそうなのだけれども。

 ファンタジーとやらに強い憧れがあるからこその願いと言うべきか。酔っているとはいえ、それを全部ぶっちゃけるのは実にカズマらしい。

 

「ていうか、そう考えるとアクアも出来ない事沢山あるじゃん」

「え?」

「その権能?ってやつの所為で水しか飲めないだろ? 酒は兎も角として、スープとかジュースとかも水になるの嫌じゃね? 冬とか寂し過ぎるだろ」

「あー……言われてみれば、そうね。水以外に飲んだ事ないのは確かにあるわね」

「んー……やっぱ出来る事が多いと見えないもんも増えるんだな。あれだ、もういっそ人間にでもなったら?」

「……人間に?」

「神様嫌なんだろ? じゃあ人間になれば良いじゃん。権能とかそういうのは無くなるけど、酒もスープも飲めるし、出来ない事があるからこそ頑張ろうって思えるし。今のアクアには出来ないことだって、人間になれば出来るじゃん」

「———あたしが、ひとに」

 

 考えた事もなかった。

 欲しいものも、やりたい事もなかった。

 だが、それを言われて初めて———()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そっか……人になる、か。()()()()()()()()()()()()()()()()———想像もつかないわね、そんなこと」

「やっぱそっか…」

「でも……うん。確かに。あたし———生まれ変われるなら、人になってみたい。自信満々で、お酒が好きで、お馬鹿で、気品なんて無くて……けど、色んな人に愛される様な、そんな人間に」

 

 それは奇しくも、原作の彼女(本来のアクア)と同じ生き方だった。

 

「えー……なんか駄女神って呼ばれそう」

「うるさいわね。良いでしょ、別に。それともなに? あたしのなりたい自分が似合わないっての?」

「いやいや、そうじゃないけどさ。ただ、別にそんな劇的に変わらなくたって、今のアクアで十分魅力あるし」

「………………………………」

 

 ふい、うたれた。

 

「ダウナーでクールで、たまに毒吐いて、けど素直で、だから可愛くて……アクアのなりたい自分を否定する訳じゃないけどさ、『もしもの自分』じゃなくて、『今の自分』のままでやりたい事とかを見付けるのも、良いんじゃね?」

「なっ、ばっ……も、もうっ!」

「おぐっ!? ちょ、顎押すな痛ぇって!」

「うるさい、うるさいうるさいっ! しばらくそのままでいなさい!」

 

 あつい。ひどく、かおがあつい。

 おちつけ、おちつけ。へいじょうしんだ、へいじょうしん。

 ………………ダメだやっぱり落ち着かない!!!!!

 

「ふぅー、ふぅー……」

「ちょ、マジで顎がイカれるっ! アクアさんマジだって!!!」

「……分かった、離すわ。けど絶対にあたしの方を見ないで。それか目を瞑りなさい」

「えぇ……何故に」

「しないなら目を潰すわ」

「はい分かりましたしっかり閉じます」

 

 言われるがまま、即座に瞼というシャッターを落とす。実に従順な奴隷である。

 何度も深呼吸を繰り返し、厭に加速する鼓動を収めていく。

 明らかに動揺している自分に、寧ろ動揺してしまう。何がここまで自分を驚かせているのか、それを考えるとまたカズマの言葉が頭の中で反芻し、悪循環を産むばかりだった。

 

「…………あたしの、ままで」

 

 なりたい自分は、もしもの自分。

 つまりは———叶わない自分。

 そうではなくて、今の自分で———今の自分らしい、やりたい事。

 

(そっか……カズマは、今の自分(あたし)を尊重してくれるのね。多分、無意識なんでしょうけど……)

 

 それが優しさなのか、はたまた別の感情なのかは、今のアクアでは察せられないが。

 

「ふぅ……よし。もういいわよ、カズマ」

「…………」

「カズマ? もういいって、」

 

 すこん、と。力が抜けた様にカズマは横に倒れ込んだ。

 結果に頭が柔らかい枕に飛び込んで、飛んだ意識がさらに深い場所へと引き摺り込まれる———要するに、膝枕である。

 どうやら目を閉じなさいと言われて目を閉じた結果、酔いが作用して眠気に呑まれてしまったらしい。

 

「もう……だからお酒はダメって言ったでしょ。未成年で飲酒するからこうなるのよ」

「……」

「このまま外で寝かせる訳にもいかないんだけど……まぁ、でも…暫くはこのままでもいいか。貴方も頑張ってくれたものね」

 

 だから。

 

「……さっきのおかえし」

 

 ちゆ、と。

 頬に触れた柔らかい感触を、カズマは知ることもないまま、深い眠りに惑わされて、その日を終えた。

 きっと目を覚ませば、何も覚えてはいないのだろう。当然アクアも、何も伝えはしないし、何事もなかったかの様に過ごすだろう。

 だがそれで良いのだ———これはたった一夜、ただ二人だからこその出来事であるのだから。




アクアと関わりがある神格をざっくり紹介

・弁財天
我ら日本の芸能神にして天界が誇る最高のギャル神。巫女服と制服が融合した様な格好が特徴。下界の流行をいち早く取り入れ、過去の流行もしっかり忘れない良い陽キャ。

・ヘスティアー
ギリシャ神話の数少ない良い女神であり炉の神様。ここで言う炉というのは鍛造などで使われる炉ではなく、暖炉といった家庭的なものを意味する。天界で親にしたい女神ランキング上位に君臨する母性の持ち主。しかし処女神である。

・天照
日本神話における最高神にして日本で初めて引き込もりになった神様。メリハリがしっかりし過ぎており、職務には忠実で最高神らしい威厳を存分に発揮するが、休みの日は自室で下着姿でだらしなく惰眠を貪るOLタイプ。なんだかんだで弟の素戔嗚とは仲が良いらしい。

・素戔嗚
天照の弟にして嵐の権化。荒くれ者とはつまりコイツであり、素戔嗚とはつまり荒くれ者。しかし実際の所は愛妻家であり、人と神が結ばれる事もあるという前例を創り出したのは他でもないこの男。なんだかんだで姉の天照とは仲が良いらしい。

・ポセイドン
ギリシャ神話に数多く存在するろくでもない神の一柱にして天空神ゼウスの兄。海とか水の神様で誰が思い付く?なんて質問を投げれば9割でこの人が挙がるくらいの知名度を誇り、その実力も高い。

・フローラ
ローマ神話に登場する花の神様。常にふわふわしていて、男女問わず色んな神格から愛でられている愛され系。戦う力は欠片もない。

・ゼウス
言わずとしれたギリシャ神話の最高神。雷霆と天空を司るギリシャ最強の男神にして『ギリシャの神はヤベェ』と下界に知れ渡るに至ったバカの一人。一言で言えば浮気野郎。

・ヘラ
ゼウスの妻にして鬼嫁。鬼は鬼でも鬼神とかそっちの方であり、ゼウスと揃って『ギリシャの神はヤベェ』と言われる所以の女神。この世界ではアルテミスから蛇蝎の如く嫌われている。

・ヨグ=ソトース
全にして一、一にして全なるもの。某宗教の唯一神と肩を並べられる数少ない神格の一柱だが、正確に言えばコレは本体ではなく数ある分体の内の一つ。全体的に黒く毛先が灰色の猫の姿をした分体。通称ヨグにゃん。全力で猫パンチしたら多元宇宙を含めた全体の3割くらい消し飛ぶ。

・ルシファー
堕天使の癖に全力を出せばオリュンポスの神々にも勝てる天界と魔界のイレギュラー。唯一神も認める実力を持ちながらオタクに目覚めた堕天の王。反逆して堕天されてから暫くは神はクソだし人間は下等生物な思考だったが、日本の娯楽文化に触れてからは人間おもしれーって思う様になった。今の目標は日本円を貯めて好きなアニメの新シーズンを作ってもらう事で、ちょくちょく下界に降りてはアルバイトを掛け持ちしている。

羨望の獣(■■■■■■■)
原初の海に沈み続けている最初の怪物であり、唯一神の創造物においてただ二つの失敗作、その内の一つ。それでいてアクアの水の女神としての力の本質。ぶっちゃけ水神としての能力の八割がコイツの力であり、存在と言うよりはもはや事象か概念と言った方が正しいくらいの禁忌(タブー)
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