吾未識誰授吾生之所為。
然若吾身有所指、則吾身為刃、唯欲其首耳。
■ ■
その日の始まりは、特にこれといって不可解な点など何一つとして存在しなかった。
雪が降る冬の日。空は鉛色に覆われ、そこからふわりふわりと降り頻る小さな白は、人肌に触れてしまえば、ほんのりと呆気なく溶ける脆さのままだった。
カズマも、めぐみんも、ダクネスも、そしてアクアですらも、誰一人として違和感といったものを何一つ感じる事はなく、今日が単なる一日でしかないと認識していた。
しかし、擁護するのであれば、それは必然であった。
何故ならこの事態は、
本当に、ただただひたすらに、
「天地、生マレ出ズル、源ヨ。汝、修羅神仏ノ者ナレバ、即チ、吾ガ至高ノ苦難。吾ガ路、七難八苦ナゾ止マルニ能ワズ。七獄八寒征スコソ吾ガ大望。然シテ、此路塞ガバ苦難ガ汝タルナラバ、吾、天淵氷炭覆シ、将ヲ獲ラン」
◆
———宿の外は、案の定と言うべきかとてつもない寒さだった。防寒していたとしても、僅かな隙間から入り込んだ風が肌を撫でれば、それだけでぶるりと体が震えた。
「ささささ寒いぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!!! なんだよこれバカ寒いじゃねぇか!!!!!」
「かえりたい……」
まだ街の外にすら出ていないというのに、カズマとアクアは早速限界寸前だった。
カズマは兎も角として、アクアの方ですらこれなのだから、相当の寒さである。
弱体化しているのも相まって、何処ぞのしわしわ顔の電気ネズミみたいな顔を浮かべながら、さりげなく人肌でぬくぬくしようとカズマの手を握っているが、残念ながらカズマ本人は寒過ぎてそれどころではなかった。お前は本当にダメな男だな。
「お、おかしいですね……来る時はここまで寒くなかった筈なのですが…」
「んっ…………この寒さ、中々に堪えるな」
「堪えるじゃなくて感じるの間違いじゃねぇの?」
「そ、そんなことにゃいっっ!!!!」
蕩け始めている顔で言われたって何の説得力もないが??? カズマはガクガク震えながらも、訝しむ事は忘れなかった。
「てかマジやだもう帰ろうぜマジで。アクアだってこれじゃんもう出来る事ねぇって帰ろうって」
「おふとん…だんろ……おふろ………」
「アクアが完全に溶け切っているぞ……めぐみん、流石にこれは、どうしようもないんじゃないか?」
「ぐぬぬ……いいえ、私は諦めませんよっ! せっかくこうして外に出たんですから、このままノコノコと引き下がれません! それにこれだけの寒さ、さぞかし雪精も沢山湧いている筈です! 一攫千金を逃す訳にはいきません!」
どうやら、めぐみんは引き下がるつもりは無いらしい。しかしそれに反して、カズマとアクアはだいぶ限界であった。主にアクアが。
とは言えども、こんな状態では雪精を捕まえるのも楽とはいかないだろう。
此処は異世界、日本とは全く異なる世界である。要はこの星の軸は日本のそれとは些か勝手が異なるという訳で、それは春夏秋冬の厳しさにも影響するという事でもある。
日本の冬はまだ良い方だ。北極とか南極とかは国と呼ぶにはアレなので置いておくとして、ロシアとかそこらに行くと良い。外にちょっと放置しておくだけで何でも凍る。
だがまぁ、それにしたって。
(こんなに寒くなるもんなのか……めぐみんとダクネスの反応的に、此処に来るまではそこまでって感じだったっぽいし。もしかしなくても、なーんかトラブルに巻き込まれそうな気がすんなぁ)
カズマとしては、ここまで急激に変化するのは怪しさ満点で、異変と言わざるを得ないだろと疑っていた。
そして実際、それは確かなものだった。
「申し訳ありませんが、今は依頼は出せない状態でして……」
「えぇー!?」
「ほら見た事か」
雪精の捕獲依頼を受けようとギルドに足を運んでみれば、受付嬢のルナから告げられたのはめぐみんにとって無慈悲なものだった。
嬉しくない予感が当たって複雑な心持ちになりながらも、カズマは詳細を尋ねた。
「なんか理由があるのか? やっぱこの寒波?」
「いえ、寒波は二次災害の様なものです。実は冬に入り始めてから間もなく、異変が発生しまして……詳しく言うと、辺りで冬将軍が出現し、しかも無差別に攻撃を始めたんです」
「冬将軍がか? それは確かにおかしいな……」
「アクア、冬将軍ってのは?」
「雪精の主みたいな存在で、特別指定モンスターの一匹よ。日本人……転生者達の『冬と言えば冬将軍』っていう共通認識から生まれたモンスターね。極めて高い戦闘能力を持つけど、敵対の意思さえなければ無害なモンスター…の筈なんだけど」
冬将軍。この世界において、ギルドから特別指定されているモンスターの一匹であり、下手すれば魔王軍の幹部以上の強さを誇るとされている怪物だ。
日本からこの世界に転生してきた者達の『冬といえば冬将軍』という強いイメージから生み出されたモンスターで、その容姿は日本の武士と遜色ない。
雪精の主とも言える存在であり、その特徴は極めて高い戦闘能力。並の冒険者であればその剣筋を目に映す事なく首を落とされ、前線で戦う冒険者であろうと可能な限り戦闘は避ける程の強さを誇る。
だが、冬将軍はこちらが敵対する意思を見せさえしなければ、無害極まる存在だ。しかしルナが言うには、その冬将軍が無差別に暴れ回っているらしい。
「人、モンスター、鳥、野生動物……とにかく無差別に、縄張りと思わしき範囲に入った生物を見境なく殺しています。ギルドの要請を受理してもらい、王都からも二人の冒険者を派遣してもらったのですが……一人は死亡、もう一人は生きてこそいるものの、右足と両目を失いました」
「こっっっわ!!!!!」
想像していたよりも凄まじい惨状に、カズマは顔を真っ青にしながら身震いする。
王都の冒険者と言えば、魔王軍の前線部隊と交戦経験もあるベテラン冒険者だ。それが手も足も出ず、ほぼ瞬殺となれば、自分なんてもうどうしようもないではないか。
「精神的にも不安定になっていて……辛うじて判明しているのは、冬将軍である事。しかし本来の冬将軍とは違い、甲冑が変化して所々が鋭利になっており、また、左半身が僅かに黒ずんでおり片目が赤くなっている事。そして———冬将軍の攻撃によって与えられた箇所は、絶え間なく極低温を保ち続け、肉体の再生を停止し、激痛をもたらす特殊な状態異常を、……これが、現状で判明している冬将軍の特徴です」
「絶対ヤベー奴じゃん。勝てる見込みゼロじゃん。絶対スリップダメージの標準値がHP割合のやつじゃん。確実にALEPHクラスのヤベーやつじゃん」
「この世界でPALE属性は無法にも程があるでしょ……とは言え、確かにその情報だとスリップダメージは確実でしょうね。仮にカズマの言う通りだとしたら、レイドボスと何ら遜色ない性能してるわ」
面倒ね……アクアは内心で毒づいた。
これがただのモンスターだったら、そう悩む事もなかった。ニャルラトホテプ———あのクトゥルフ神話の愉悦邪神がイタズラを仕出かした、で全ての辻褄を合わせられる。
だが、今回は冬将軍。転生者達のイメージによって生み出されたモンスターだ。転生者達が『やっぱレイドボスは居るだろ』というイメージを強く根付かせてしまえば、世界は呆気なくそれを容認する。
その可能性もある以上、あの邪神が犯人だとは断定し辛い。単なる自然現象として認識すれば、今回の事態はゲームで言う所の『イベント』でしかないのだから。
「てかそうじゃん、これレイド案件だろ! 王都からもっと増援呼べねぇの?」
「それはちょっと厳しいですね……なんせ
「じゃあなにか? アクセルの冒険者は冬の間、クエスト受けれず引き篭ってろってのか? 分かりましたありがとうございます」
カズマはサッと踵を返した。
良かった良かった、これで僕達の冬は終わるんだね。よーし、春になったらお金集めるぞー☆
……とは案の定いかず、ガッと、めぐみんに襟を捕まれて動きは止まった。
「おいコラ。本音がダダ漏れですよカズマ。サボる気ですね? この期に及んで放ったらかしにするつもりですね!?」
「あったり前だろうがバカ野郎!!!!! 王都の冒険者が瞬殺される様なクソ強モンスターと戦う訳ねぇだろうが!!!! 俺らただでさえパーティーとして癖が強過ぎんだぞ!? お前のバカ多い魔力とダクネスの防御力&カウンター、アクアのヒールと俺の盗賊系やら弓兵系やらのスキルをフル活用した持久戦が出来るなら考えたけど、お前は一撃で魔力スカだし、ダクネスはカウンター持ってねぇし、アクアは弱体化入ってるしで連携もクソも無い状態なんだから戦闘なんか出来る訳ねぇんだよちょっとは考えろやこんのロリっ子がァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「ちょ、落ち着きなさい、カズマ。流石に言い過ぎよ」
カズマはこの上なくキレていた。めぐみんは勢いに呑まれて涙目であった。うんうん、これがこのすばだね。
とは言え、カズマの言い分はご尤もである。幾らなんでも、強力なモンスターと戦闘するにはあまりにも条件が不足し過ぎている。
そんな状態で死地に飛び込む? ナンセンスここに極まれりだ。こんな冬場で気付く間もなく首を落とされて死ぬなんて真っ平御免である。
「はぁ、はぁ、はぁ……いいか、めぐみん。お前の冒険者らしい事をしたいってのは分かる。困難な壁に突き当たって、それを何とかしたいってロマンは確かにあるよ。けど、死んだら元も子もない。アクアにも言われたろ?」
「う……それは、そうですが…」
「俺達のパーティーはアタッカーが居ないんだ。超強力なボスを相手にする上で、アタッカーは必須条件。対して俺達は、爆裂魔法こそあるものの、一発撃てばそれでおしまい。仮に爆裂魔法が当たったとして、その冬将軍が雪精の力が云々みたいな理屈で、『雪の中なら何処でも行ける』みたいな能力持ってたら、俺らは瞬殺だ。何もかもが噛み合ってないんだよ、今回は」
「———つまり、アタッカーが居れば良いんだね?」
聞き覚えのない声に語り掛けられ、カズマ一行の視線はその声の方へと向けられる。
ギルドの扉の方には、3人の冒険者が立っていた。
黄色い髪、金の意匠が所々に施された青みがかった黒い鎧、背中には
「えーっと…」
「会話に割り込む様な真似をしてすまない。君の言い方的に、『十分なアタッカーが居れば戦えなくはない』って感じだったから、気になってね」
「……貴方、もしかして」
ふと、アクアが驚いた。
「———お久しぶりです、アクア
「……え、なに? もしかして知り合い?」
「知り合いと言うか……
「俺と同じ…?って、もしかして」
「遅れてしまったけど、初めまして———僕は
自信過剰な面も、腹立たしさも無く、誰がなんと言おうとも、その男は『勇者』であった。
人呼んで、『魔剣の勇者』。女神アクアから特典として
「魔剣の勇者! よかった、王都は強力な助っ人を呼んできてくれました!」
「何そのカッコイイ異名。え、なんだろう??? 俺今すっごく嫉妬心に溢れそう」
魔王軍幹部を討伐してもそんな異名もらってないのに……とか思いながらも、いやでも倒したのアクアだしなぁ…なんて納得してしまったカズマ。
実際、何もしてないのに不相応な異名貰ってもな。カズマは凄まじくクールであった。なんなら、向こう側の対応が対応なので逆に惨めになりそうだった。
「どちらかと言えば、羨ましく思っているのは僕の方なんだけどな。功績で言えば、君達の方が凄いと思うよ? 魔剣の勇者だとは言われているものの……僕は一度も幹部を倒していないからね」
「それこそなんでだよ。なに、魔剣使っても倒せない様な奴なの幹部って」
「キョウヤは魔剣は使ってないよ。と言うか、ほぼ毎日使ってるのはこっちの長剣の方」
「んー…? 訳分からん。じゃあなんで魔剣の勇者?」
「……カズマ、で合ってるよね?」
「お、おう」
「アクア様の説教を知っているのは、君達だけじゃないという事さ………………」
「あぁ……お前も
「うぐっ……」
ミツルギは非常に遠い目をしていた。
思い出すだけでも心に色々とグサグサ突き刺さる様な光景が瞳に浮かんでいたのか、カズマもつい同情してしまう。
そう、彼もまたアクアに導かれて異世界に行った側の人間である。カズマが死者の間でアクアにボロクソに言われた様に、彼もまたアクアにボロクソに言われた側だったのだ。
本来の彼が自信過剰でナルシストな面になっていたのは、
しかしこの世界では、このダウナー女神が相手であった訳である。
「実際、魔剣じゃなくて長剣で戦ってみた時、自分が無力だったかを痛感したよ…魔剣ばかりに頼っては、自分では勝てない相手にも勝てると勘違いしてしまうんだと、本気で気付かされた」
「アクア……」
「し、仕方ないじゃない。実際その通りだもの。自信過剰になって、倒せない敵に勝負を挑んであっさり死ぬ、なんて珍しくないんだから、この世界」
「その……なんだ。苦労したな、色々」
「ありがとう、その言葉だけで十分だよ……」
お互いに夢をぶち壊された者同士、本来なら有り得ないくらいの慰め合いがどうやら友情を育んだらしい。
まぁ、
「えっと……言い方的に、協力してくれるのか?」
「うん、そのつもりだよ。僕も最初の頃はアクセルで活動してた身だし、お世話になった人も居るからね。この事態を見過ごす訳にはいかない」
「なんて眩しい奴だ……ラノベの主人公かよ」
何かの間違いがあれば自分でも言いそうな台詞を、何の気なしに軽々と言い放つ様は、まさに主人公のそれだ。
実際、彼の根は善良だ。原作ではナルシストな面が目立ったそれも、ダウナー女神様の異世界向けの毒舌正論説教によって矯正されているのか、文句無しの主人公だった。
「声はやれやれ系だけどね」
「おいコラ、そういう事言うじゃない。お前さてはマトモなフリして巫山戯るタイプか?」
なんかどっかの高校で奉仕活動に勤しむ捻くれ腐り目の高校生が思い浮かんだが、カズマはすぐにそれを捨てた。言ってはなんだが、流石に不必要過ぎる。
アレは物語的に青春だからこそ成り立つのであって、こういう異世界ものでは不和しか呼ばんのだ、あの少年の性格は。
「ある人に
「お前普通に友達居ただろ、絶対」
「そりゃあね。流石にアレは捻くれ過ぎだろ。まだ阿良々木くんの方が好感が持てるよ、僕は」
「それは俺もそう。……いかんな、話が脱線する。えっと、要約すると、だ。一緒に協力して突然変異個体の冬将軍を倒そうぜ?って事だよな」
「うん、その通りだよ。僕は勿論、フィオとクレメアもね」
「キョウヤ程じゃないけど、一応戦士だからね。槍は得意だよ」
「盗賊だから、まぁ殆どバックアップになるだろうけど……冬将軍にトラップが効くはさておいて、足止めくらいは出来ると思う」
「ふーむ……」
思ったより役割が増えた事に喜びつつ、カズマは戦術を思考し始める。
アタッカーが2名、ミツルギとクレメア。タンクが1名、ダクネス。キャスターが1名、めぐみん。サポーターが3名、自分とアクアとフィオ。
こちらの武器は、なんと言っても『
ダクネスがヘイトを稼いでいるその隙にミツルギとクレメアで削り、逐一でカズマとフィオがバインドやトラップ、スティールを使った足止めで動きを封じ、前線の3人をアクアが回復。また同じ動きを繰り返す。
「まずまずって所かな……出来ることならもう一人くらいタンクが欲しいんだけどな。向こうの攻撃力がどれくらい高いのか分からない以上、防御力バフは1番高いやつにしとくか」
「あとは、サポーターも常に適切な距離を取っておくべきでしょうね。冬将軍は一瞬で距離を詰めてくるわ。援護が間に合う距離を保っておかないと、サポーターはあっという間に全滅よ」
「となると陣形を組むのが大事か……アクアのバフで速度と防御力を維持しつつ、アタッカー組の援護と同じサポーターの気配りが出来る様に……うぇ、やる事多過ぎだろ」
「良いじゃないですか! 如何にも冒険者らしく、まさに決戦前と言った感じです!」
「呑気な事言ってんなよ。下手したら死ぬんだから。つか、1番の問題はお前なんだからな。ミスったらマジで死ぬぞ」
陣形を組むのは良いとして、言い方は悪いがめぐみんがこの上なく邪魔だった。
一撃離脱が叶わない一撃必殺など、それなんて特攻隊という話である。めぐみんの爆裂魔法で決めきれなければ、確実にめぐみんが死ぬというデメリットをどう消すか、それが重要だった。
「今酷いことを言われた様な気が……」
「めぐみんはあたしがカバーするわ。ただ、これは事が上手く運べばが前提の話よ。最悪の事態も想定しとかないと」
「《
「無いもの強請りしても仕方ないわ。……まぁ、本当に危なくなったらあたしが何とかするわ。一応、手段が無い訳じゃないから」
もう遠慮はなくなった。カズマの発破は確かにアクアの心に響き、前よりも神の力を使う事に対する嫌悪感は薄くなっていた。
とは言え、あまり使いたいものではないというのは変わりない。それに、連続で権能を使えば、下界にどんな影響を及ぼすかも未知数な以上、やはりそう易々と手を出すべきではない。
しかし今回は、最悪の事態を想定せざるを得ない激戦となるのはおそらく必然。アクアにとっての奥の手……『前借り』、或いは『救援要請』も視野に入れておいた方が良いだろう。
(何とかするって……権能使えないんだろ?)
(水神のは、ね。他のも使えない事はないわ。出力は下がるけど……想定するのは最悪の事態だもの、使えるものはなんでも使わないと)
それからは、話し合いを重ねに重ね、戦術を練った。
時間にして約2時間。気が付けば他の冒険者達やギルドの組員も集まり出し、その準備と確認を終え、ようやく彼等はギルドを出て、アクセルの外へと踏み出した。
白銀の世界には未だ敵将は映らず、周囲を警戒しながら前へ前へと進んで行った。
「分かってはいたけど、やっぱり静かだね……」
「眠ってるだけなのか、それともモンスター揃って冬将軍に斬られたのか……どちらにせよ、警戒は続けておいた方が良さそうだ」
「あー怖い……帰りてぇ」
「今更何を怖気付いているんですか、カズマ。もうここまで来たからには旅は道連れですよ」
「それが文字通りになりそうだから嫌だってんだよ。あーヤダヤダ、なんだってこんな事に……」
「諦めなさい、カズマ。もう四の五の言ったって仕方ないわ。シャキっとしなさい、シャキっと」
「うす……」
ザクザク、と、雪に溢れた大地は靴を履いていて尚もその冷たさを足の底から身体へと伝え、ぶるりと体を震わせる。
緊張による鼓動は血流を加速させ、嫌でも体を熱くするが、それでも寒気は止まない。カズマ達にしてみれば、これは間違いなく明確な死地であるのだ。
何か一つでも間違えれば、それが死に直結する戦い———作戦を崩されてしまえば、それだけで自然の脅威の具現は、彼等を一刀で斬り伏すだろう。
歩き始めてから、僅か数分。それがまるで何年もの時間を経過させ、この身を老いさせてもまだ足りないと思い始めた頃———
「——————」
甲冑は、所々が鋭利に。
その半身は、僅かに黒く染まり、片目の真紅が白銀の世界でゆらりと揺れている。
白く、白く、白く。ただひたすらに白いその身体を歪ませるかの如き黒が、まるで煉獄の焔を想起させた。
「あれが……冬将軍」
「…………行こう。アクア様、お願いします」
「えぇ。じゃあ———レイド戦、行くわよ」
開戦の合図は、アクアのバフに始まった。
ゆらり、と巨躯が動く。右手に握った銀の刃金を揺らし、
「
【
推定レベル:90
特性:七難八苦止まるに能わず、七獄八寒征すこそ我が大望
スキル:初伝・
・
自身の攻撃と行動にスリップダメージの特殊デバフ『八寒』と『七獄』を付与。八寒は相手に、七獄は自身に作用し、行動を消費した際に最大HPを参照した割合ダメージを与える。