ダウナー女神のアクア様   作:全智一皆

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第五話 はじめてのきょうてき?

 

■  ■

 もう何度も強調している様な気がするけれど、今回もまた強調に強調を重ねさせてもらうとしよう。

 水の女神アクアは()()()()()()とは違い、水という概念から連なる様にして天候・豊穣・生命の三つを司る事から、『全能の可能性』を秘めた女神である。

 だが、ここで勘違いをして欲しくないのは、全能の神とは言ってもそれが文字通りの『全知全能』であるという訳ではない、という事だ。

 勿論、例外はある。唯一神ヤハウェや副王ヨグ=ソトースといった、文字通りの全知全能と言える彼ら―――或いは彼女とも言えるか―――は例外だ。規格外という言葉の羅列にすら当てはめるのも烏滸がましい程に。

 しかしここで語りたいのは、『全能』は『全知』には繋がらないという事。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()―――という事である。

 ()()()()()()()()()王都を壊滅寸前にまで追い詰め、そして()()()()()()()に撃ち殺された『魔神』とは少しばかり訳が違う。

 彼女は『全知』だったからこそ『全能』にもなったのだ。生まれながらにして全てを知り得る事が出来たから、全てを為す力を手に入れただけで、最初から『全知全能』ではなかった。

 これが『全能』であるだけなら話は別になる。『何でも出来る』事は『何でも知っている』事にはならないという、何ともややこしい話になってしまうのだ。

 水、天候、生命。この三つを司る事が出来るのならば、それは一神としての普遍性を容易に超えている。アクアはまさしくそれだ。だが、それでもアクアは『全能』でこそあるが『全知』ではない。

 要するに、『全知』と『全能』はイコールではないという事である。神々における『全能』とは、その権能の多さ故に成り立つものであって、『全能』という単体の能力である訳ではないのだ。

 勿論、あくまでもその可能性を内に秘めているというだけで、今の彼女にそれが為せる訳ではないのだが、問題はそこではなく、可能性を秘めているというその時点で、彼女は()()()()()よりも能力が上であることが証明されている、という点だ。

 

 さて、それでは本題。

 つまり、今回言いたいのは―――()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なぁ、アクア」

「……何かしら」

「討伐するのって1体なんだよな」

「……そうね」

「これで何体目かな」

「……5体目ね」

「多いわっ! どうなってんだよこれ!?」

 

 アクセルの街から少し離れた草原で、カズマはうんざりした様に声を大にして喚く。

 アクアからのありがたい撫で撫でによってテンションブチ上がりだったカズマさんは、それはもう流れる様に綺麗な奇襲でジャイアントトードを討伐した。

 そこまでは良かったのだが、問題はその後だった。そのまま討伐完了! で終われば万事OKだったものの、しかしどういう訳か、そのジャイアントトード以外の他の個体がどんどんと湧いて出てくるのだ。

 依頼用紙にはしっかりと1体のみと書かれていた筈だ。ちょっと抜けてる所があるアクアでも、流石にそんな重要な所を読み落としたりはしない。

 なんならカズマも一緒に見ていたのだ。その点は絶対に間違っていないと断言出来る。

 

 が……実際問題、数が全然減らねぇ。寧ろ増えるばかりである。

 

「まだ繁殖期に入ってない筈なのに……どうしてこんなに増えてるのかしら」

「流石に疲れてきたんだけど……」

「…そうね。目標値は達成してるし、一旦帰りましょ。ギルドに報告を入れないと」

「これは追加報酬期待して良いよな? 無かったら何仕出かすか分からんぞ俺」

「本来の形とはだいぶ違うから、そこは大丈夫な筈よ。ギルドとしての面子もあるからね」

 

 ギルドも一つの組織だ。公式的に運営されている組織となれば、そこには面子と信用という二つのものが嫌でも関わってくる。

 依頼内容に漏れ、誤りがあった―――そうなると、組織としての面子と信頼に関わってくるのだ。これが単なるミスであろうが、『騙して悪いが』系であろうが、それだけで冒険者や市民との信頼関係に揺らぎが発生してしまう。

 だからこそ、そうなってしまった際の対応というのは大事であり、尚且つギルド側は決して強気ではいられない。報酬の増加は大いに期待出来るだろう。

 

「……よし、今なら大丈夫そうね。帰るわよ、カズマ」

「あいよ」

 

 剣を鞘に納め、物言わぬ肉塊となったジャイアントトードの上から滑り落ちてアクアの下へ。

 懐から取り出した冒険者カードには、しっかりと5の数字が刻まれており、そしてカズマのレベルは1から2に上がっていた。

 嬉しい。これマジで嬉しい。レベルが上がるってすげぇ嬉しい。レベルアップという愉悦に、にちゃあとする顔を隠し切れぬカズマである。普通に汚ねぇ顔である。

 

「今すげぇ罵倒を浴びた気がする」

「気持ち悪い顔してるからじゃないかしら」

「おう言うねぇ!? 天の声で済まそうとしたのになんで言うかねぇ!?」

「流石にニヤケ過ぎよ。子供が見たら泣くわよ」

「そんなに? 俺そんなにニヤけてた?」

「気持ち悪いくらいに」

「二度も言うんじゃねぇよ!? 仕方ねぇだろレベルアップしたんだから! 初めてのレベルアップは嬉しいじゃん!?」

 

 言い訳としてはかなり弱いが、まぁ分からんでもない。

 現実と違い、この世界ではレベルアップという概念があるのだ。自分が前よりも強くなったというのを、より鮮明に実感出来る点は、確かに興奮するのも致し方ないと言える。

 特にそれが、カズマの様な平凡な男子であるならば尚の事だろう。強くなれる、というのはいつの時代も男にとって嬉しいものなのだ。

 

「まぁ、殆どアクアのお陰みたいな所はあるけど…やっぱバフって大事だよな」

「そうね。でも、過信はしちゃダメよ。自分の力を勘違いするわよ」

「あるあるだよなぁ…」

 

 ため息と共に、がくりと肩を落とすカズマ。なんでそうもリアルなんだよ、と小さな愚痴が零れてしまう。

 バフというのは非常にありがたい。どんな場面でも信頼出来る。が、だからと言ってそれを過信してしまうというのは、冒険者として見過ごせたものではない。

 本来の自分の力を補助するそれに慣れてしまえば、普段の自分を誤認する様になってしまう。それではダメだ、根の部分が整って居なければ強さにも意味はない。

 アクアとしても、それは望ましい事ではない。この世界で彼をサポートすると決めたのだ、そこはしっかりと区別させて、彼に正しく強くなってもらわねば。

 

「じゃあ、取り敢えず明日は無しでやってみるか。まだ怖いけど」

「初日に五体も倒せたんだから大丈夫よ。自信持ちなさい」

「またアレしてくれたらもっと自信持てる気がする」

「別に構わないけど…そんなに良かったかしら?」

「男の子はチョロい生き物なんです」

「そ、そうなのね……」

 

 ただの元気付けに、としか思っていなかったものが、思ったより効果を発揮してしまったらしい。別にやるのは構わないのだが、周りに同業が居た場合は流石に恥ずかしさが出そうだ。

 だって男の子を撫でるとかアレが初めてなのだから。女神と言えども、彼女も一人の女である。もし周りに見られていたらと思うと、流石に恥ずかしい。

 とは言え、当の本人が気に入ってしまったからには、今更無理と言うのも申し訳がない。

 困ったものね、と少し悩んで、ふと気付く。

 

(何かに悩む、なんて……いつぶりかしら)

 

 ―――優れた者には仕事が回ってくる。それは神も人も変わらない。

 が、それが()()()()()()である場合は、少しばかり話が異なる。

 神の世界は平和な様でいて、その実、かなり忙しない。人々の信仰によって成り立つ神々は、時代が経つに連れて薄れゆく信仰をどうしたものかと悩む者達が殆どだ。

 それに、力があるが故に仕事も多い。死者の管理は勿論の事、転生の後処理なども回される。この場合だと、彼女の後輩である幸運の女神エリスがそれに当たっている最中だろう。

 だが、アクアの様な『全能の可能性』を秘めた神は例外だ。そういった神は、基本的に一つしか仕事が回ってこない。所謂『高待遇』というやつだ。

 アクアはカズマに『神界はブラック企業の様なもの』と言った。それは決して間違いではないが、しかしアクアがそうであったかと言うと、それは違う。

 彼女は寧ろ楽な方だった。どちらかと言えば、仕事をするというよりは仕事を回す役割に就く事の方が多かった立場にあった。

 だからこそ、何かに悩む、という行為自体があまりにも離れていた。そもそもが『全能の可能性』を秘めた女神だ、そこらの仕事は一日も経てずに終わらせるくらいには優秀だったのだ。

 

 それが、今ではこうして何かに悩んでいる。しかもそれが、仕事の事ではなく、一人の人間について、だ。

 思い返してみて、ふっと笑みが零れた。天界に居た頃ならば、こんな悩みを抱える事は決して無かっただろう。それを今、こうして経験出来ている―――それだけで、アクアにとっては新鮮なものだった。

 

 まぁ、閑話休題(それはともかく)

 

「しっかし、なんであんなに多く出てきたんだろうな。ああいうのってよくあるのか?」

「あたしも詳しい訳じゃないから、確証は出来ないけど……少なくとも、よくある事ではないと思うわ。ジャイアントトードの繁殖期には、まだ少し早い筈だから。自然環境の変化とか、そういう問題じゃないかしら?」

「だとしたら、どうしようもねぇなぁ…ん?」

 

 ―――揺れた。

 ずん、と。僅かに、されど力強く、草原が揺れた。

 地震? それにしては揺れが短い。前触れにしても、もう少し長い筈だ。地震という現象の都合上、そんな一瞬で収まる様なものではない筈。

 なら、さっきの揺れはなんだ? そう思考して、辺りを見渡すものの、カズマの目にもアクアの目にも、何も映らない。

 だが―――揺れる。ずん、ずん、ずん、と。揺れはどんどんと大きくなり、近くなり、強くなっていく。

 まるで、こちらの不安をわざと煽っているかの様にすら感じられるその揺れに、カズマは恐怖を抱き初めて―――

 

『げこっ』

 

 空気が揺れた様な気がした。

 背後から鳴り響いた、あまりにも大き過ぎる鳴き声。ついさっきまで聞いていたものとは比べ物にならない程のそれを、まるで壊れた玩具の様にぎちぎちとしながら、カズマは振り返ってそれを直視する。

 

 一言で表すならば、黒。

 まるで深淵の底から這い出てきたかの様な漆黒の皮に覆われた、巨大なカエルだった。

 

「え。なにあれ? え、なにあれ???」

「…なるほど。道理で数が多い訳だわ」

「いや何が道理? カズマさんにも分かるように説明してください?」

「キング・ジャイアントトード。その名前の通り、ジャイアントードのボス個体よ」

「ヤバい奴じゃん!!!」

 

 キング・ジャイアントトード。

 ジャイアントトードの雄個体におけるボスであり、その全長は30mにも及ぶとされているモンスターである。

 基本的な生態はジャイアントトードと大して変わらないが、他のジャイアントトードと違う唯一の点は、その食性が『雑食』であるという事。

 人間も動物もモンスターも、兎に角なんでも食べる。過去にキング・ジャイアントトードを解剖した結果、大人に成り切る前のドラゴンの骨が見つかったという報告すらある程だ。

 モンスターであれ何であれ、それが曲がりなりにも『動物』という種別に基づいたものであるならば、基本的には自分より強力な存在には近付かない。それこそが本能だからだ。

 だが、キング・ジャイアントトードはその限りではない。ボスであるという事もあってか、この個体は相手が強大であろうと、『お、餌やん。いただきまーす』の精神がデフォルトなのだ。

 

 要するに―――今、この二人は結構ヤバい状況にあります。

 

「無理無理マジ無理ほんとに無理もう俺帰る!!!!!」

「つまらないわよ」

「つまらないって言うなよつかギャグじゃないんだよねぇ!? あんなん勝てる訳ねーじゃん!!!! カズマさんパクリと食べられてお終いですけど!?」

「まぁ……それはそうね」

 

 否定なんて無かった。当然である。

 変に希望を持たせて犬死させる訳にもいかないのだ、ここは正直に話さねば。というか嘘をつく理由もないし。

 

「そうなの!?」

「さっき自分で言ったじゃない…実際、アレと敵対するのは無謀も良い所よ。王都の冒険者だって、単独で相手取ろうとはしないわ。付近に出たら討伐隊が結成されるくらいの相手よ」

「尚のこと逃げますぅぅぅぅ!!!!!!」

「無理よ―――()()()()()()()()

 

 蛇に睨まれた蛙、という言葉がある。

 蛇はその生態から、基本的にはどんなものも丸呑みする事ができる。軟体によって大きな音を立てず、ひっそりと獲物に近付いては丸呑みで仕留めるのだ。

 それ故に、大抵の小動物は蛇に本能的な恐怖を抱く。自分が強者に捕食される側であると、嫌でも自覚させられる。

 古来より蛙は蛇に弱いものだが、しかしてこの世界ではどうやらその限りではないらしい。

 寧ろ、その蛙によって人間が睨まれ、体が硬直してしまっている始末である。まぁ、あの巨体が自分を獲物として認識していると分かれば、カズマの反応も仕方ないと言えばそれまでなのだが。

 

「逃げればアクセルが消えてなくなるわ。あたし達で対処するしかないわよ」

「いやだから無理だって! 俺達まだクソ弱なんだぞ!? たかがレベル1か2のプレイヤーがいきなり裏ボスみたいなやつと戦っても勝てる訳ねぇだろ!?」

「弱音を吐いてる暇はないわよ。腰に力入れなさい」

「嫌だァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 号泣だった。なんと情けない事か、と罵倒したい所ではあるが、しかしまぁ、今回ばかりは致し方ないと言った所だろうか。

 そりゃ、初陣でいきなり自分より数百倍デカイ上にドラゴンすら食べるモンスターが出てきたら、誰だってビビるというものだろう。これでビビらないのは、こっちでもヒャッハーして伝説になったウィンチェスターの猟犬くらいである。

 

「マジで無理ほんとに無理! 俺まだ死にたくねぇよせっかく転生したのに初手から詰みゲーとかクソすぎる!!!!!!!!!!!!!」

「そ、そんなに泣かなくても……いや、そりゃそうよね。流石にこれは無理が過ぎるか…」

 

 ああは言ったものの、アクアとしても気持ちは分かる。

 相手はあまりにも大きい。正直に言えば、アクアでさえもアークプリーストとして戦えば勝ち目などゼロに等しい相手なのだ。

 どれだけプリーストとして優秀であろうとも、しかしプリーストは結局のところ支援職。攻撃的なスキルも魔法もなく、あったとしてもそれはアンデッドといった存在にこそ有効であって、ただのモンスターには大した効果を発揮しない。

 詰み、というのも間違いではないだろう。

 

「あの人は!? アクアが言ってた神父! あの人ならどうにか出来ねぇの!?」

 

 思い付いた様に、カズマは叫んだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この世界にも、あの不真面目な神父は存在しているのだ。

 向こうと違って、カズマもアクアも異世界に来てから一度も会ってはいないが、アクアから話だけは少し伝え聞いている。

 朝っぱらから夜まで飲酒も喫煙も当たり前、機嫌が悪いと銃をぶっぱなす、それなのにアクセルの住民達から人気がある不真面目な神父が居る―――と。

 

「残念だけど、今は王都に出払ってるの。元教え子のお手伝いに行ってるわ」

「なんでだよその人神父じゃねぇのかよ!? なんだよ教え子って!?」

「色々とあったのよ。詳しい話は本人に聞きなさい。まぁ、あの子の事だから答えないとは思うけど」

「意味ねぇじゃんそれっ! ねぇマジどうすんの!? マジで戦うの!?」

「……仕方ない、か」

 

 ―――決断は早かった。

 正直、好ましい選択ではない。勿論それは周囲、ひいてはカズマやアクセルの人間達にとって、という意味ではなく、自分にとって、という意味で。

 神は嫌いだ。その在り方から、全てに至るまで嫌気が差す。そして、その神である自分もまた、気に食わない。

 だから、その力を行使するのだって気が滅入る。だってそれは、自分が神である事を、人とは決して隣を歩けない存在である事を、嫌でも自覚させられるから。

 けれど、今はそうも言っていられない。自分がサポートすると言った少年が、本気で恐怖を抱いているのだから―――四の五のは言っていられない。

 

「少し待ってなさい、カズマ」

「へ? ちょ、アクアさん?」

「嫌だけど……本当に、心底から嫌ではあるけれど―――他ならぬ、貴方を守る為だもの。文句は言ってられないわ」

 

 一歩、踏み出す。

 ぐっ、と拳を握り締めれば―――全能の可能性を秘めし女神の神気が、この平凡たる現世に解き放たれる。

 

「――――――」

 

 二歩を踏み出し―――疾走は始まった。

 相手は動かなかった。まるでそれ自体を理解していないのか、或いは恐怖していないからなのかは定かではないが、標的は依然として不動だった。

 徐々に距離が縮まる。巨体がさらに大きく映るが、しかし女神(アクア)には大した感情など存在しない。

 神気を纏った拳が振り翳され、握られた拳が開かれ手刀を形作り。

 

 ずぶっ、と。その皮膚に入り込んだ。

 鮮血はない。女神の手刀はキング・ジャイアントトードの皮膚の表面をほんの僅かに切り裂いただけで、決してその内臓にまで行き届きはしなかった。

 

「―――解錠(バースト)

 

 かきり、と何かが外れた。

 それは、鍵であり枷の一時的な解放。『スキル』や『魔法』という概念としてこの世界に刻み込まれ、『現象』として発生する『力』そのものに作用を働かせる技術。

 全能の可能性を秘める女神たる彼女だからこそ、持ち得るスキル―――『解錠(バースト)』。

 その本質こそ『力の覚醒』。要するに女神の権能を応用した超強力なバフであり、これを掛けられたスキルや魔法は、文字通り爆発的な強化を得られる。

 そう―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 本来ならば、『ゴッドブロー』と叫んではジャイアントトードに無効化されてばくりと食べられる筈のそれは、しかしその権能によって、女神のそれとは思えぬ苛烈さを得る。

 

『ぎゅぐ――――――――――――――――――――――――――――――』

 

 体内の水分が炸裂し、それに追撃する様に神気が稲妻の如くに迸る。みるみると巨体は膨れ上がり、もはや王都そのものを呑み込めるのではないかと錯覚する程の風船と化して。

 

 ぱぁん、と。柔らかに、破裂した。

 だが、鮮血はない。臓物も肉塊もない。

 女神の力によって、内なる穢れの一切は浄化される。ましてそれが、一時的であるとは言えども覚醒されたものであるならば、血液ですらも即座に清浄な空気、酸素へと変換されてしまう。

 

「―――」

 

 どうして、とカズマは思った。

 目の前で起きたのは、あまりにも凄惨なものだった。前世でも一度だって目にした事がない、それこそ正気を失ってもおかしくはない光景だった筈なのに。

 けれど。

 だけれど。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……」

 

 浄化され、きらきらと細かな飛沫の中で悲しそうにする一人の女神(しょうじょ)に、カズマは目を奪われていた。




「ウッソだろオイ、もう殺られたん? ()(の化身の内の一人くらいだけど)が干渉したのに? ■■■■■■!!!!! やっぱアイツ面白いですねぇ! これぞまさしくやりますねぇ!ってか!? ん? おっと、いけねぇいけねぇ、カメラ回ってんじゃねぇですの。これはこれは皆様方、そんなに見られてどうしたんですのよ? あらいけない、すっぴんとかいやん恥ずかしいんだけど☆ こりゃさっさと逃げねば。あ、エリスにはチクんなよ? あと火の玉野郎にもな!」

―――匿名N
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