ダウナー女神のアクア様   作:全智一皆

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第七話 窃盗は犯罪ですよね?

■  ■

「こほん。では改めて、今から汝にスキルを授けよう!」

「いぇーい!」

「そんなにテンション上がるものかしら……」

 

 ギルドを出てから片道数分。アクセルの街の開けた場所に出たカズマ、クリス、アクアの三人―――盛り上がっているのは二人だけ―――は、いざいざとスキル学習にテンション爆アゲ躍りまくりだった。一方でアクアはいつもの通りダウナーだった。

 異世界らしい事出来るやったー!でカズマがテンション高めなのはさもありなん。か、たかが情報一つ手に入るだけなのに異様にテンションが高いこの虚乳盗賊人間擬き―――「なんかすっごい言葉キツくない!? 天の声もしかしてあの人(神父)だったりしない!?」―――は何なのだろうかという疑問はさておくとして。

 スキル学習に心が躍る気持ちは、確かに分からんでもない。いざゲームスタートとなって、最初のボスだったりNPC会話を進めた後に解禁されるスキル覚えのパターンは、確かに高揚を覚えてしまうものだろう。

 けどだからって流石にテンション高すぎない? というのはアクアの意見である。

 

「カズマくんは冒険者始めたてにしては、結構レベルあるからね。色々なスキル覚えられる筈だよ」

「そうなのか? まだ12くらいだぞ?」

「冒険者始めたてなら早い方よ。大抵の冒険者はこの時期なら最高でも8か9くらいだもの。一部例外はあるけど」

「もしかして俺って世界最速兎(レコードホルダー)だったりする?」

「驕りが過ぎるから現実を見なさい」

「うぇんめっちゃ辛辣ぅ……」

 

 ダウナー女神の毒舌(無自覚)が今日も今日とてカズマの心を抉っていく。高かったテンションも、これを受けてはがくりと急降下せざるを得ないと言った所だろう。

 某懐怪獣よろしく、仲間がモンスターを倒してもその経験値はその当人にのみ蓄積され、他の仲間に経験値が分配される事はない。

 故に、無貌の神が力を授けたジャイアントトードを倒したアクアは経験値とスキルポイントを蓄積しているが、カズマにはそれがないのだ。

 それにも関わらず、カズマは冒険者を始めてから間もないというのに、既に12までレベルを上げている。アクアの支援魔法があるとは言え、スキル無し且つ最弱職の『冒険者』でここまでレベルを上げているのは、アクセルの街全体で見てもかなりの事だった。

 だがそれはそれとして、ダンジョンに出会いを求めたら一目惚れして、その一目惚れの相手の為なら神様との喧嘩にだって勝ってしまう様な英雄兎と一緒にするのは流石にダメらしい。

 

「というか、貴方の境遇(転生者)の事を考えたら遅いくらいよ。貴方と同じ境遇の人は、普通ならとっくに王都に行ってるわ」

「今日はやけに深々と突き刺してくるねアクアさん。カズマさんのライフはとっくにゼロだよ???」

「あ、ごめんなさい…その、要は油断しない様にって事なのよ。冒険者の死因はその大半が油断だから」

「うっす……いやでも、それを考慮したって早いは早くない? だって俺特典(チート)無いんだぞ? それでこれは早くない?」

「あの子のおじいさんは一日で頂点に立ったわよ」

「なにそれバケモノですか?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()かの猟犬は、瞬く間に大陸全土へとその所業と名誉を轟かせた。

 魔王軍前線部隊の徹底的壊滅、魔王軍の結界の完全破壊、魔王軍幹部ウォルバクの永続的戦線離脱、同じく魔王軍幹部バニルの残機半数減少……挙げても挙げてもキリがないその功績は、恐ろしい事に半分は特典(チート)を使わずして成し遂げられている。

 かの猟犬はこう嘯く―――

 

『俺が化け物ぉ…? 違う、俺は悪魔だ……いぇい☆!』

 

 と。いつまで若気の至りに浸ってんだよあのクソジジイとは神父の言葉である。

 

「せんっん゛んっ! アクアさん、流石にあの人のおじいさんと比べるのは、カズマくんが可哀想ですよ」

「……それもそうね。色々と規格外だもの、アレとカズマを比べるのは確かに可哀想だわ」

「なんだろうね、普通に心にクるね? もうこれ以上続けられるとカズマさん泣いちゃうからさ、早くスキル教えてくれない?」

「そ、そうだね! じゃあ気を取り直してスキル教えようか!」

 

 分かりやすい咳払いの後、クリスはカズマに向き直る。

 クリスの職業は盗賊(シーフ)。直接的な攻撃スキルは無いものの、その真価は主にダンジョン攻略や対人戦などで発揮される。

 アクセルの街に限らず、この大陸の冒険者達に『ダンジョンを攻略する時に必ず持っていくものは?』という問いを投げれば、その殆どが『盗賊職業の冒険者』と答えるだろう。

 それ程までに盗賊職業の冒険者はダンジョン攻略に必須であり、そのスキルの有用性を示している。

 

「じゃあ最初に教えるのはこれ―――『窃盗(スティール)』!」

「うおっ!?」

 

 クリスが手を翳した瞬間、カズマの視界を淡く眩い光が覆い尽くした。

 反射的に目を隠し、チカチカとする視界を細めながらその光が収まるのを待つ事数秒―――ふと、カズマは自分の肩がやけに軽くなっていることに気が付いた。

 

「ふふーん、どう? これが『窃盗(スティール)』。相手の視界を潰すだけじゃなく、相手が身に付けてるものをランダムで取る事が出来るんだよ! 成功率は幸運値で偏るけど、カズマくんは運高いし、ほぼ確実に効果を発揮出来る筈だよ」

「おぉー!!!」

 

 カズマは目に見えて興奮し出した。これがスキル、これこそ異世界!

 自分が思い描く異世界転生のそれに比べれば些か派手さに欠けるしカッコよくはないが、それでもスキルというだけでも十分にテンションが上がるというもの。

 成功率は幸運値に偏るとは言うが、カズマの幸運値はかなりのものだ。基本的に失敗する事は殆ど無いと断言出来る。

 自分の特定ステータスによって効果を発揮するスキル―――そんなの、男の子が盛り上がらない訳がなかった。

 

「これは確かに有用だわ! 人型のモンスターとかにも役立ちそう!」

「例を挙げるなら首無し騎士(デュラハン)とかかしら……確かに有用ね」

「盗賊のスキルは攻撃的なのは殆ど無いのがネックだけど、相手を弱くしたり邪魔したり、ダンジョン攻略に役立つものが多いんだよ」

 

 敵から逃げる事が出来る『逃走』、魔力によって縄を生成しトラップを仕掛ける『バインド』、気配を殺し切って物陰に隠れる『潜伏』など、盗賊のスキルはただひたすらに『有用』という一点に特化している。

 ダンジョン攻略に限らず、日常生活においてもそれら全てが便利に扱えるものが多い。まぁ、これに関しては盗賊のスキルに限らずと言った所ではあるけれど。

 

「じゃあ、さっそく習得してみようか! ポイントは冒険者カードに記載されてるから、そこから習得出来るよ!」

「よっしゃあ! 待ってろよアクア、()()()()()()を見せてやるからな!」

「いい加減にしないと殴るわよ」

「はいすいません調子乗りました」

 

 目を細めて拳を握るアクアを見れば、調子に乗った男子高校生は手のひら返して頭を下げた。

 まぁ、さもありなん。だってカズマは知っているのだ、あの拳で『解錠(バースト)』使われたら体が内側から破裂するって事を。

 血肉すら浄化されて骨も残らないとか洒落にならない。せめて墓に花くらいは供えてほしいのに葬られる事もないとか嫌過ぎる。

 まぁこの人に殺されるならそれはそれで……なんて考えが一瞬過ぎったりもしたが、それはすぐに無くなった。やっぱり生きていたい、せっかくのセカンドライフは円満に終わらせたい!

 

「全く…そういうのは、逸らず慣れてからにしなさい。怪我したら元も子もないんだから。分かった?」

「うっす……」

「なら良いわ。……ほら、見ててあげるからやってみなさい」

「うっす!」

「ほんとになにをみせられてるんだろうなぁ……」

 

 死んだ目を浮かべるクリスを他所に、カズマはいざ実践! と意気込んで、

 

「『窃盗(スティール)』―――!!!!」

 

 人生初のスキルを発動させた。

 

 

 

 

「いや違うんです別にわざとなんかじゃないんですよ決して絶対に心に誓いますだからやめて蔑まないでくださいお願いします」

「謝るなら、せめてその手に握ったモノ離しなさい。今の所、説得力も誠意も欠片も感じられないわよ」

 

 具体的に現在何が起こっているのかを説明すると、地面に座り込んで右手に白いレースの何かを握り締めながら、深々と全身を地面とキスさせてぶつぶつと謝罪を垂れ流すカズマに対して、呆れ半分と驚き半分のアクアが見下ろしているという状況である。

 はて、あの一瞬で何が起きたというのだろうか? なんて質問は野暮も良い所だろう。残念ながらここら辺はまんま原作の通りであった。

 カズマの幸運はかなりのものだ。それこそ、じゃんけんにおいては無敗を誇るくらいには。まぁ、何処ぞの『 』はじゃんけんは運ゲーではないと言っているけれども、そこはご愛嬌だ。

 とにかく幸運という、その一点においてはカズマは類稀な強者である。使用者の幸運によって盗む対象物が変わる性質を持った『窃盗(スティール)』は、これ以上にないまでにカズマとの相性が良かったのだ。

 結果として手に入れたのは―――クリスの下着である。

 もう隠さず言えばパンツである。パンツ、パンツです! それは下界に降りて人間のフリしてるけど実は憧れの先輩の事が気になって様子見に来たけど一瞬で看破されちゃった虚乳女神のパンツなのである!!!!

 白いレースのパンツはまさに神器の如し。なんかこう、ブンブンと振り回してしまえば武器として扱える様な気がしないでもない。もしかしなくても神器(アーティファクト)だろうか? 或いは頭から被る? それではまるで神秘の様。メイベル最高、メイベル最高! お前もBLACKSOULSは最高と言いなさい!

 ……失礼、内なる作家が出てしまいました。

 

「なにかしら、あたしは今凄く悪寒が走ったわ。こう、頭の中の歯車が抉られた様な」

「なにそのイメージ怖いから止めてくれない?」

「そんな事より早くソレ返してぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 赤一色に顔を染め上げたクリスは、やはりと言うべきか内股になっていた。普通に違和感が凄いのだろう、なんせいきなり自分の下着が消え去ったのだから。スースーする感覚が落ち着かないのはさもありなん。

 本来ならここでブンブン振り回して高笑いするカズマさんならぬクズマさんな訳だが、しかしここではダウナー女神に恋する(まだ完璧に自覚していない)男子高校生である。

 

「マジすんません本当にごめんない生きていてすいません生き返って申し訳ないですどうぞお納めください」

「土下座しながら近寄らないで!? 返してくれるのはありがたいけどその移動方法は流石に気持ち悪い!」

「カズマ、顔を上げなさい。あとその移動も止めなさい。顔が傷だらけになっちゃうわよ」

「いや無理だって。顔上げらんないって。世が世なら極刑もんだろこれ。え、死ぬ? 俺もう首括られる?」

 

 原作を知っている人達からすれば、ここまで動揺しまくっているカズマは実に珍しいだろう。だが待って欲しい、今のこの状況をよーく考えてほしい。

 まず前提としてカズマは自分の癖をぶち壊されている。ダウナー女神アクア様のクーデレギャップによって、彼の女性観はバキバキである。

 つまりだ―――今の状況を分かり易く例えるならば、惚れている女の子の前で他の女の子のパンツを奪い取って、それを謝りながら返しているという、非常にカオスここに極まれりと言って差し支えのない状況な訳である。

 そんな状況になったら、こうならずにはいられないだろう。というか、こうならない方が無理なまである。それくらいには、カズマにとって致命的にヤバい場面だった。

 

「カズマ」

「はい」

 

 一言だった。たった一言、零れたソレに対して、カズマは直ぐさま向き直った。

 勿論、正座はしたままだ。が、ぐんっと頭を上げて綺麗に直線を描く姿勢はあまりにも綺麗で、彼がつい最近まで引き篭もりであった事を忘れさせる程だった。

 一方で。

 アクアの表情は、真剣なものに変わっていた。

 

「よく見なさい」

「え?」

 

 添える様な手つきだった。

 頬に触れて、じぃっと。

 

「あたしの目を、よーく見て。……これが、貴方を蔑んでる様に見える?」

「いや……」

「つまり、そういう事よ」

 

 もう、半年になるのだ。

 カズマから無茶苦茶な提案をされて、それに笑って、受け入れて、一緒に異世界に来て。それから、半年になる。

 アクアは神だ。半年なんて時間はあまりにも一瞬で、それはもはや秒に満たないものである。本人がそれをどう思うかどうかは関係なく、これは神が神であるが故の時間感覚だ。

 だが、それでも―――佐藤和真という人間は、少なくとも女神アクアが今まで見てきた人間の中でも、一層好ましく、信頼に足る人物であった。

 

「その…あたしはこんな口調だから、よく誤解させてしまっているかもしれないけど……あたしなりに貴方を信頼してるわ。だから、そこはしっかり自信を持ちなさい」

「……うす」

「……分かったなら、良いわ。あぁ、もう。あんな移動するから、ちょっと擦りむいてるじゃない。やっぱりバカね」

「うん酷くない? あと温度差激しくない?」

「自業自得よ、ばーか」

「う゛っ!!!!!!」

 

 なんか二人が胸打たれた。どうやらクリティカルヒットだったらしい。カズマはともかく、何故クリスまで無い胸を打たれているのか―――「怒りますよ!?」―――甚だ疑問である。

 ダウナー女子がひらがなを使うのは素晴らしい。普段がクールな女の子からひらがなで罵倒されるのは最高なのだ。これは世の理、即ち摂理であり絶対である。いいね?

 

「いやもう、本当にごめんなさい。マジで」

「い、いや、そんな気にしなくても……とは言えないけど…別に悪気があった訳じゃないしさ! それにほら、成功率は幸運に偏るって言ったじゃん! だから仕方ないって!」

「そう言ってもらえるのはすごく嬉しいんだけどなぁ……カズマさん結構メンタルに来たよ。割と」

「うんそれは私もだね???」

 

 だって実際に被害者だよ? いきなりパンツ盗られたんだよ?

 いくら正体が女神であるとは言っても、神にだって羞恥心くらいある。彼女とて決して冷酷無情な女神という訳ではないし、寧ろ信徒に寄り添い、人を慈しむ心を持った、如何にもらしい女神である。

 まぁ、それはあくまでも人に限った話であり、それがアンデッドやらゴーストやら悪魔やらになれば、後悔とか無念とかそういうの全部纏めてガン無視して浄化する畜生に成り下がる訳だが。

 こういう所が気色悪いんだよ。不真面目神父もこれにはうんざり顔である。

 

 まぁ、閑話休題。

 

「はぁ……ほら、いつまでも気にしてないで、早く次に進む。クリス本人が良いって言ってるんだから、カズマも深く気にしなくていいわ」

「おっけー、アクアがそう言うなら気にしないわ。じゃクリス、次のスキル頼むわ!」

「おかしくない? ねぇおかしいよね? カズマくん? ちょっとカズマくん????」

 

 これが信頼の差である。所詮、盗賊は盗賊という事だろうか。スキルを教えているというのにこの扱いは、流石にどうしたものだろうか。哀れさに拍車が掛かってしまうクリスであった。




「んー、こりゃ間違いなく出て来てんな。幸いなのは、出てきたのは一匹だけって所だな」
「何が幸いだよ。普通なら出てこねぇ筈だろ。()()()()()()()()()()。アイツらの縄張りから離れてるどころの話じゃない」
「まぁ、十中八九あの邪神サマだろうなぁ。アレでも出力だけなら白痴の魔王(アザ=トース)サマと同等だ、これくらいの事はやってのけるさ。一匹に収めてるのは、俺とかお前、後は()()を警戒してるからだな」
「……あのじいさん、まだ生きてんのか?」」
「普通にピンピンしとるな。しかし、千の貌を持つ邪神に警戒されるとは……くぅー! これもまたアニメっぽいな! TRPGでも中々にない設定だ!」
「言ってる場合じゃねぇだろうがクソジジイ。どうすんだよ。同じ猟犬だろ、なんか話し合えねぇのか?」
「俺のは異名であって種族じゃねぇだろうがよ。そうだなぁ…うん、この場合は放置で問題ねぇよ。あの女神サマが居るんだ、何とかなるだろ」
「そうかよ。で、それなら俺達はどうすんだ? 俺としては、さっさと顔面無価値のクソ野郎を撃ち殺してやりたいんだが。あいつらに何かあるかもしれねぇんだろ」
「何だかんだ言ってやっぱ教え子大好きじゃん、お前。ひゅーひゅー、俺の孫は教え子想いで良い子だねぇい」
「やっぱテメェから殺すわ」
「お、久々にやるか? 良いぜ、じいちゃんがまた昔みたいに転がしてやる」
「言ってろ、世界錯誤の老害が」

―――とある祖父と孫の会話(或いは喧嘩)
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