・神父
世界観を共通させている、作者のもう一つの作品である『アクシズ教の不真面目神父』の主人公。アクセルにアクシズ教の教会を構えている、飲酒も喫煙も朝昼夜続けてやり続けてる文字通りの不真面目神父。祖父の隔世遺伝で『銃に関する全てを創る力』を持っているだけでなく、銃撃戦や武術、神聖魔法などにおいても、このすば世界でも上位に位置する実力者。
・ウィンチェスターの猟犬
神父の祖父であり転生者。本編で言及されていた『銃に関する全てを創る力』を特典として貰い受け、人間離れした技術と身体能力で自由気儘に遊び回る老人にして、魔王軍から単独で恐れられている唯一無二の冒険者。アニメやゲーム、映画やドラマの知識が豊富であり、かなりのオタク。神父の技は、基本的に彼が教えたもの。神父本編の方では隠居しているが、この世界では隠居しておらず、自由に世界を渡り歩いている。
■ ■
「そろそろパーティメンバーを増やすべきじゃないか」
「珍しくマトモな意見を出したわね」
「それは酷くない?」
クリスからスキルを教えられてから暫くして、カズマは再びギルドの集会所で突拍子もなく、そんな事を言い出した。
しかし今回は珍しく、アクアの反応も好印象だった。それは確かにそうね、と首を縦に振って。
「取り敢えず募集は掛けてみたんだ。後衛と前衛を募集してますって」
「ちょっとアバウトじゃないかしら? もうちょっと役職名で絞らないと、ごちゃごちゃになるわよ。パーティがしっかり揃ってないと、魔王の討伐なんて出来ないわよ」
「そういやあったな、そんな目的……」
色々あって忘れかけではあったが、この異世界には魔王の討伐という果たすべき目的がある。一部の例外を除き、だいたいの転生者達はこれを目指している。
それはカズマとて例外ではない。女神アクアというチートを携えて異世界に降臨した転生者カズマは、しかしこのままでは魔王討伐など夢のまた夢である。
いや、この場合だとそれは正確ではないか。なんせ彼が持ってきたのは正真正銘、本物の女神。『全能の可能性』を秘めた、地球と生物の歴史の全てを収束する『水』を司る女神である。
要するに、神格の出力があまりにもかけ離れ過ぎているのだ。出力が三分の一に落ちていながら、今こうして降臨している彼女は、地獄の公爵を滅ぼせる程の能力を誇っている。
だが―――しかし。それは彼女が、その権能を使えばの話。
自分も他神も尽く、失望に近い嫌悪を持っているアクアにしてみれば、神としての権能を使うというのはまかりならない事である。
というか、カズマがそれを望んでいない。自分の好きな人に嫌なことを無理強いさせる男が、何処に存在すると言うのだろうか。そんな男が存在するならそれは即刻別れるか、ぶち殺す事をオススメする。多分、というか絶対にろくな奴ではない。
そして無論のこと、カズマはそんな男にはなりたくない訳である。なので普通にパーティとして魔王討伐を目指すつもりであり、それ故に仲間はもっと必要であった。
「でも、後衛は欲しいよな。
「そうね。あたし達の場合だと、魔法使いと壁役が良いかしら。弓兵はどうしても物理型になるから」
「物理が効かないモンスター相手に不利取っちまうもんなぁ……ん? となると俺いよいよ出番なくね?」
大した魔法が使えません、攻撃力もゴミカスです、身体能力も平均です。そんな職業が冒険者です。何ができると言うんですか?
カズマはへこたれた。やっぱ『冒険者』の自分にできる事ってマジ少ねぇ……と。
色んなスキルや魔法を取れるのは確かに便利だが、しかし、まぁ、カズマ本人の能力があまりにも低過ぎて、それがプラスになるのかと言われると、ぶっちゃけ首を頷き難いのが現実である。
魔力が豊富ではないので、上級魔法も連発は出来ない。そもそもの耐久力が低いので、バフを付けても専用職程の硬さには追い付かない。
パーティが揃えば揃う程、自分に出来ない事がどんどん増えていく事を自覚するというのは、何とか皮肉な話である。
「何言ってんのよ。カズマが居ないと纏まらないじゃない」
「えぇ? いや、そんな人を纏め上げる力無いぞ俺。学級委員になった事もねぇし」
「そこは関係ないわよ。はぁ……自分の事も把握出来てないのね」
「なんかすいません……」
「……ごめんなさい。また言い方が悪くなったわ。その、なんて言えば良いかしら…別に、悪い意味じゃないのよ」
「?…あ、自分の凄みを理解出来てないって事か?」
「そう、それよ」
本当は自分で気付かないとダメなんだけどね、と付け足して、アクアは説明を始めた。
「確かに、カズマは所謂『アタッカー』にはなれないわ。これは職業とかそういうのではなく、単純にカズマの性質の問題。カズマは、簡単に言えば司令塔なのよ。『今はこうしろ』とか、『ここでこうしろ』とか、そういう指示を飛ばす方が強いと思うの。後は、その指示をこなす為のサポートもね」
「ほう……そんな要素あったか? 我ながら殆どアクア頼みだった気がするんだけど」
「バフ出しのタイミングは、いつも貴方が出してたじゃない」
全然覚えてねぇ……と、カズマは頭を絞って何とか思い出そうとするが、頭の引き出しには何一つ見当たらない。
アクアからのバフ―――或いはお褒めのなでなで―――があるとは言え、やはり戦闘というのは緊張に溢れているものだ。どんな相手であれ、カズマが学生であった事に変わりはなく、その緊張は今でも若干の残りがある。
「今はアタッカーが貴方しか居ないから、戦いながらの指示出しになっているけど、パーティが増えればそれも変わるわ。そうね、現代で言う所のタワーディフェンスゲームだと考えれば分かりやすいかしら?」
「……アークナイツ的な?」
「まぁ、そんな所ね。それで例えるなら、貴方はドクターになるわ。あたしは補助か医療って所かしら。候補を絞るなら術師、あと重装を兼ね備えた前衛ね」
なんとも難しい候補だ。幸いなのは、カズマとアクアが無名ではないという所だろうか。
突如として草原に出現した、謎の黒いジャイアント・トード―――周辺を探索しても、他の個体は発見出来ず、また、その個体もアクアが浄化してしまった為、ろくな手当たりもない。
だが、冒険者カードの記録にはしっかりとそれが刻まれており、ギルドから謝礼と共に報酬が支払われた事で、一応それなりの名が広がっている。
応募しても誰も来ない、なんて事にはならないだろうが……
「んー……こっちで言う所の『
「どうでしょうね。そこの所は、募集してみないと分からないわ。まぁ、やるだけやってみましょう。もしかしたら、アークウィザードとかクルセイダーが来てくれたりするかもしれないわよ」
カズマの運は良いのだ、彼がやれば悪くない結果が出せるかもしれない。
まぁ、その一方でアクアの運はアクセルでもずば抜けた最低値を叩き出しているので、ぶっちゃけプラマイゼロになるどころか、マイナスに傾く様な気がしないでもないが。
ちなみに、作者にはガチャ運など存在しない。具体的には、某ガールズバンドゲームで推しの赤メッシュ少女のピックアップをいくら回しても一度も出た事がないくらいには運が存在しない。
まぁ、閑話休題。
「モスティマみたいなの来てくんねぇかな……」
「それは流石に高望みし過ぎでしょ……残念だけど、こっちの世界で時間操作が可能な人類は存在しないわよ。というか、もうとっくに死んでるわ」
「いきなり爆弾発言が……てか死んだのか? そんなチート持ってたのに?」
「どんなに強力な能力を持っていても、生物である以上、油断すれば死ぬわ。世界が変わっても現実は何処までもシビアなのよ」
カズマとアクアが最初に出会った時に少し零した様に、転生者は決してカズマ一人ではない。
なんでも切れる剣を選んだ青年―――カズマより少し先にこの世界に来た高校生、御剣響夜。
自分の知るものを創り出す能力を選んだ青年―――移動要塞デストロイヤーの設計者。
竜の力を選んだ青年―――黙示録の赤い竜の力を手にして、自壊した愚者。
銃に関する全てを創る力を選んだ大人―――魔王軍が恐れる数少ない冒険者、ウィンチェスターの猟犬。
先程言った『時間操作』の特典を貰った青年は、冒険者として活動している最中に魔王軍の手に掛かり、死んだ。
魔王軍を指揮する魔王よりも上の実力を持った魔王の娘と、魔王軍幹部のダークプリースト、セレナによってだ。
どんなに強大な力を持っていようが、少しの油断で簡単に命を奪われる―――それが現実だ。例え
何故ならそれは、『人』という存在が扱い切るにはあまりにも多過ぎて、溢れて落ちてしまいそうな程に『大きい』からだ。
人は所詮、人に過ぎない。かの大英雄ヘラクレスの物語ですら、人々が創り出した偶像の産物であるのだ。
とどのつまり―――『チート』とは結局、人には過ぎたる力であり、それを過信していれば呆気なく命は終わる。それはカズマも、御剣も、ウィンチェスターも、例外ではないのだ。
「だから、カズマもしっかり気を付けなさい。勿論、あたしもサポートはするけど……その、あたしは」
「あーあー! はい、ちょっとタンマ!」
「あ、えっ?」
びー! と、カズマはアクアの言葉を強引に制した。
きょとんとした顔を浮かべるアクア。どうやらいきなりの大声と制しに、彼女にしては珍しく意表を突かれたらしい。
「ソレ、禁止にしようぜ」
「そ、それって何よ」
「その、自分の力使わないのを申し訳なくするやつだよ! 俺の心が居た堪れない!」
「は、はぁ…? なんでカズマが……」
「俺だって別に、アクアの全部を知ってる訳じゃないけどさ。でも、アクアが俺のこと分かってくれていってるのと同じで、俺も少しずつアクアの事は理解してきてるつもりだ」
アクアは神が嫌いで、それは自分だって例外ではない。
他ならぬ自分が、多くの転生者を送ってきたのだから。
神である自分が、多くの子供を死地へと送ってきたのだ。
エリスがこの世界を管理し、転生者を送り続けてからもう随分と長い年月が経っている。その年月で、いったいどれだけの転生者が命を散らしたか。
ただ、それを黙認した。選択したのは彼等なのだと、目を背けようとした。だが―――それでも、頭に焼き付いて離れない。
ある者は、心を踊らせていて。
ある者は、不安に駆られていて。
それら全てから、目を逸らす?
その選択を無理矢理に迫らせたのは、自分なのに?
人から信じられなければ、生きる事すらままならない癖に―――何故、人を磨り潰す様な真似をしなければ、ならないの……?
「嫌なんだろ? 自分の……えっと、女神としての力使うの」
「……えぇ。でも、サポートするって言ったのはあたしなのに…自分の都合で、それを」
「あー、もうっ! こんな事言いたかねぇけど、お前ちょっと考え方めんどくせぇな!!」
「なっ―――」
遂にぶっちゃけやがった、この男。女神相手にめんどくせぇとか宣いやがった、この男。
流石にめんどくさいなんて言われたら、彼女だって黙ってはいられない。何故ならちょっと自覚があったから!
「だ、誰がめんどくさいよ! 仕方ないでしょ、だって」
「うるさいうるさーい!!! この口か!? この口なのか重たい事ばっか出てくんのはー!?」
「ひゅふっ!?」
頬に手を伸ばし、ぐにーっと引っ張る。女神相手に、しかも惚れてる相手によくもまぁここまでやれるなという意見は、全く以てその通りだろう。
だが、そこはカズマさんである。確かに彼はアクアに惚れている―――完全に自覚出来ている訳ではない―――が、この行動はそれ故に出来るものだった。
惚れた人には、笑っていてほしいから。重たく考えないでほしいから。
カズマは決して出来た男ではない。現に今だって、こんな方法でしか紛らわす事が出来ていないのだ。
けど、だからって―――放ったらかしにする訳にも、彼女のこの意見を肯定する訳にも、いかないだろう。
確かに、今の生活に恐怖が無いかと言われると嘘にはなる。だが、それでも―――楽しいのも、事実である。
「ちょ、いはいっ! やめへ、ひっはらないれ!! わはっは、わはひがわるはっらはら!!」
「……ならよし」
手を離せば、またもやアクアにしては珍しく、涙目であった。
女神であるからというのもあるが、やはり女性なのもあって、痛みというのに慣れていないのだろう。彼女にとって、これが人間から与えられた初めての痛みであった。
「うぅ……頬を引っ張られるなんて、初めてよ…こんなに痛いものなのね」
「言っとくけど謝らねぇからな、今回は。お前が言ったんだぞ、仲間だって。仲間扱いしろって。だからこうやるんだ―――そういう、仲間の欠点とか能力とか、そういうのを把握して使うのが俺の強みなんだろ?」
「―――」
―――なんと、言うか。
やっぱり、ダメだ。分かったつもり、なんて言っていたのに……全然、分かっていなかった。
カズマは―――この子は、あたしが思っているより、ずっと……強い子、なのね。
「……そうね。そう、よね。あたしが言ったのに、肝心のあたしが出来てないんじゃ、確かに意味無いわね。ごめ―――いや、違うわね。
「別に礼なんて……いや、まぁ、おう」
「ふふっ…何照れてるのよ。さっきまであたしの頬引っ張ってたくせに」
「いや、あれは勢いだったと言いますか、なんと言いますか……」
「結構痛かったわ」
「うっ……」
「あたしもやり返そうかしら?」
「いや、ちょ、マジで勘弁してください。アクアの力でそれやられると洒落ならない。ちょ、アクア? アクアさん?? やめて、手寄せてこないでぇ!? いやぁぁぁぁぁ!!!!!! 誰か助けて!!! 俺のほっぺちぎれちゃうーーーー!!!!!!」
(まーたやってるよあの二人……)
(見せられるこっちの身にもなれっての)
(やっぱ処すか? 処しちゃうか???)
(カズアクキテル……)
(キテルゥ…)
ギャラリーの目がどんどん集まっている中、
「タイミングを見失ってしまいました……」
とんがり帽子を被った、頭のおかしい紅魔の娘―――「おい、誰が頭のおかしい紅魔の娘ですか? 文句があるなら話を聞こうじゃないか」―――は、完全に出番を見失っていた。
◆
さて、カズマとアクアのシリアスは一旦終わらせておくとして。
「ふっふっふ……ようやく見付けました。このパーティメンバー募集、貴方達が出したものですよね?」
「お、おう。確かにそうだけど……えっと、その言い方的に、君が参加者?」
「えぇ。おっと、名乗りが遅れましたね。こほん」
わざとらしく咳払いをして―――いざ。
「―――我が名はめぐみん! 『アークウィザード』を生業とし、最強の攻撃魔法《爆裂魔法》を操りし者!」
バッ! と、なんかよく分からん厨二病ポーズと共に赤き眼光を光らせる少女―――めぐみんこそ、紛うことなき紅魔族のアークウィザードである。
なんと言う事だろうか。カズマとアクアの運は、どうやらカズマのプラスによって勝敗が決したらしい。女神なのに人間に能力の差で負けるとは、これはこれで如何なものだろうか?
まぁ、閑話休題。
「なんだその巫山戯た名前は。バカにしてんのか」
「はぁぁぁぁぁぁぁ???????」
カズマは正直に口走った。めぐみんは普通にキレそうだった。
だがまぁ、こればかりはカズマに同意せざるを得ないだろう。だっていきなりこんな名乗りされたら、普通にイカれてんのか?としか思えない。
「カズマ、気持ちは分かるけど止めなさい。これはちゃんとした彼女の名前よ」
「フォローしてくれてる様でしてませんよね? 今しっかりちゃっかり同意してましたよね???」
「まぁ、流石にこればかりは否定のしようがないから……ごめんなさいね」
「やめてください、謝らないでください。なんか謝られると逆に虚しくなります」
「それは普通に分かる。まぁ、それはそれとして。えっと……アクア、解説頼む」
「きっと彼女は紅魔族ね。紅魔族は魔法に優れた特殊な人間よ。それもあって、その殆どが魔法使いで、王都よりもアークウィザードの数が多いわ」
紅魔族。それはこの世界に存在する、他の人間とは些か出自の異なる人類種。
根本的な部分は他の人間と何ら変わりはないが、彼等は常人よりも魔力が多く、その尽くが魔法使いとしての適正に溢れている。
紅魔の里と呼ばれている住処を活動拠点として独自の生計を立てており、彼等自体が独立した魔法職団体とも言える者達だ。
「おぉ……スゲェな。そんな奴が俺たちの所に来てくれたのか」
「ふっ、驚くのも無理はありません。なんせ私は紅魔の里でも特に優秀なアークウィザードですから。この眼帯こそ、その証。この瞳には邪神の封印が施されています……」
「な、なんだと……」
「まぁ、嘘ですが」
「………………」
行動は一瞬だった。
ぐいぃぃぃ、と、カズマはめぐみんの片目の眼帯を思いっきり引っ張った。
「あぁ!? 痛い、痛いですっ! やめてください引っ張らないでください! や、やめっ、ヤメロー!!!!!」
「なぁ、紅魔族って皆こうなのか?」
「えぇ。だいたいが厨二病よ。能力は優秀なんだけど、やけに名乗りとか演出に拘るのよね……」
「そら損な事で……」
「ゆ、ゆっくり、ゆっくりですよ? ゆっくり奥の方に」
「あぁ、あとだいたい変な名前をしてるわ」
「ふーん」
そこまで聞いて、カズマはパッと眼帯を手放した。
力に引っ張られていた眼帯は、突如として抑圧から解放され―――その物理法則に従って、スパァンッッッ!!!!!!!! と、凄まじい音と衝撃をめぐみんへと殴りつけた。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!!!!!!!!!!!! イッタイメガー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「まぁいいや。来てくれた事に変わりはないし。取り敢えず座ってくれよ。なんか食べるなら好きに頼め」
「くぅ……いきなりこんな仕打ちをしといて、よくもまぁそんな口が利けますねっ! まぁ、その好意にはありがたく乗らせていただきますが……もう暫く何も食べてなかったので、正直助かります」
「何も食べてないって……貴方、他のパーティに雇われたりしなかったの? アークウィザードなら、アクセルだと喉から手が出る程に欲しい人材の筈だけど」
おかしいわね、とアクアは首を傾げた。
アークウィザードは魔法職としては最上位に位置する職業だ。ましてや紅魔族ともなれば、その魔法の威力は、このアクセルでは簡単に無双出来る程の筈。
にも関わらず、何故めぐみんは無一文なのだろうか?
「私の主義と合わない人達にばかり巡り会うもので……1回組んだら終わりだったり、そもそも話を聞いた時点で解散だったりと、散々でした。あ、すいません。このステーキをお願いします」
「ふーん。そういや、さっき《爆裂魔法》がどうのって言ってたな。折角だし教えてくれよ」
「おぉ、おぉ、おぉ!!!!! 《爆裂魔法》に興味があるのですかっ!?」
あれ、もしかして要らんスイッチ押したか? カズマは早速後悔の念が出始めた。
明らさまに目を輝かせる姿は、まさしく子供のそれである。こんな子供でも自分より強いのだと考えると、またもや弱さに対する溜息が出掛けるが、まぁ、それは一旦後回しだ。
「良いでしょう良いでしょう、この私が教えて差し上げます!!!」
「なんかうぜぇ……」
「そう? あたしは可愛いと思うけど」
「こほん。《爆裂魔法》とは、先程も言った様に最強の攻撃魔法です! 魔法は基本的に五属性から光や闇といった他の属性を合わせ、基本的な『属性』の概念に収まります。しかし! 《爆裂魔法》は唯一無二の無属性魔法! この魔法はモンスターには勿論、アンデッドといった霊的存在はおろか、神にすら届きうる威力を秘めた魔法なのです!!!」
(との事ですが、どうなんですかアクアさん)
(別に間違ってはいないわよ。《爆裂魔法》を使えば、神にダメージを与えられるのは確かだわ。あたしも、あれをモロには喰らいたくないわ。とは言っても、これはあくまで、今のあたしみたいに出力が落ちている場合の話。有名な神だったり、権能を万全に備えている神には無意味よ)
(そりゃそうか……)
爆裂魔法は、この世界の魔法において最も威力の高い攻撃魔法である。
その威力たるや、神に一撃を喰らわせる程。出力が落ちているとは言え、『全能の可能性』を秘めた女神であるアクアが、モロに喰らいたくないと言っているその意味の重さは、深く考えればその凄まじさを実感出来るだろう。
「でも、それは普通に強そうだな。で、他には何が使えるんだ?」
「これだけですが」
「は?」
「いえ、ですから私が使えるのは
「………………ごめん、ちょっとなにいってるかわからない」
「口上はその通りって事ね……何となくそんな気はしてたけど、実際に当たるとは思わなかったわ…」
カズマは思考が停止し掛け、アクアは頭を抱えてしまう。
しかし、めぐみんはお構いなく続けていく。その爆裂魔法の愛を、強く語り出す。
「私は爆裂魔法をこよなく愛するアークウィザード。爆発系統の魔法が好きなんじゃないんです。もちろん、他の魔法も覚えれば楽に冒険ができるでしょう。でもダメなのです! 私は爆裂魔法しか愛せない! たとえ1日一発が限度でも、魔法を使った後に倒れるとしても、それでも私は爆裂魔法しか愛せない! だって私は―――爆裂魔法を使うためだけに、アークウィザードの道を選んだのですから!」
(やべぇマジで癖強いのが来た。なんだコイツは!? ゲームで言う所の魔法極振りの玄人向けキャラクターじゃねぇか!?!?!?)
一応合ってはいる例だが、少し下方修正をば。
このめぐみんをゲームキャラとして扱うならば、玄人向けというよりは浪漫好きの変態向きのキャラクターである。
何故ならば、さっきも言った様に―――
「待て、待て待て待て。1日1発??? お前さっきそう言ったか?」
「言いました。それが爆裂魔法です」
「お願いアクアさん、現実逃避していい?」
「ダメよ、しっかり目を向けなさい。確かに爆裂魔法は強力よ、そこは否定しないわ。けれど……その威力の代償として、使用すれば魔力は殆ど消し飛んで動けなくなるわ。しかも威力が高過ぎるからモブ相手にはオーバーキルで土地にも被害が出る。近距離では使えないし、ダンジョンで使えば死が確定する……世間では『ネタ魔法』と呼ばれているわ」
爆裂魔法は、そのあまりにも多過ぎる魔力消費によって使い勝手が悪い。
どんなにレベルの高いアークウィザードであろうが1日1発が限度。しかも威力が高過ぎてモブは肉片一つ残らないので、素材が出ずに換金が行えない。それだけに飽き足らず近距離で使えば味方や近くの村や町を巻き込みかねないし、ダンジョンで使えば崩落に巻き込まれてお陀仏である。
威力に見合わないデメリットが積み重なり、爆裂魔法は『ネタ魔法』と呼ばれて認知されているのだ。
そして―――この女めぐみんは、高レベルのアークウィザードでありながら、その爆裂魔法しか使えないし使うつもりがないのである!!!!
そんな魔法使いに対して、カズマが下す結論は即ち―――
「ちぇぇぇぇぇんじっっっっっっ!!!!!!!!!!!!」
勿論チェンジである。実に妥当な判断である。
が、しかし。
「……えぇ、分かっていましたとも。分かっていたからこそ、私にも考えがあります。きっと断られると予知していたからこそ、私は―――」
めぐみんは素早くカズマに急接近し、その襟元に泣き付いた。普通にボロ泣きであった。
「もう! どこのパーティも拾ってくれないのです! !! 魔法使いとしては役たたずですが荷物持ちでもなんっでもしますからお願いします!!!! 私を捨てないでください見捨てないでください!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「出来るかぁ!!!! そんな使い勝手の悪い魔法しか使えねぇやつ誰が欲しがるってんだ、おぉん!? なんなら俺ら荷物って言える程のもんねぇよ! つか離せぇ!」
「いいえ絶対に離しません! 貴方が私のパーティ加入を認めてくれるまで絶対に、ぜぇぇぇぇっっっったいに離しませんんんんんんんんん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
なんだこのカオスな状況は。ちょっと前のクリスのパンツスティール事件よりカオスだぞコレ。
全力で少女相手にアイアンクローをぶち込ますカズマと、レベル差の暴力で負けじとしがみつくめぐみん。本当になんだこのシュールな光景は。ちょっとした酒の肴になりそうな絵面であった。
「……ぷっ、ふふっ…」
「ん?」
「ふふ、ふふふふっっっ……」
「え…わ、笑ってる?」
「ふ、だ、だって……ふふ、あははははっっっっ!!!!!!!!!!!」
だからだろうか。
いつぞやのカズマの時みたく、
「あははははははははははっっっっっ!!!!!!!!!! カズマはさっきまで凄くカッコ良かったのに、急に、子供みたいに、はしゃいじゃってるのが、ふっふふふ!!!! めぐみんは、すごく必死で、なんかかわいくて……ごめんなさい、ちょっと……ふふっ」
「…………なんでしょうか。こう、笑われてるのに……不快ではないのですが」
「奇遇だな、俺もだ。寧ろこの笑顔を見たかったまである」
「何故か私もわかる気がします……あの、カズマでしたか」
「おう。……なんか、あれだ。アクアが笑ってるし、どうでもいいや」
ダウナー女神の爆笑は、どうやら喧嘩の仲裁すら可能らしい。カズマとめぐみんの様子がそんなにおかしかったのか、或いはお気に召したのか、アクアはこれまでにないくらいツボっていた。
「はぁ……仕方ねぇなぁ。分かったよ、入れてやるよ。取り敢えず後で実際に見せてくれよ、爆裂魔法。そっから色々考えるから」
「…!!!! ありがとうございます、カズマ!」
「ただし、入るからにはしっかり働いてもらうぞ。色々指示するから、ちゃんと聞けよ」
「爆裂魔法が撃てるのであれば、なんでもしますよ!」
「はぁ……ままならないな、人生」
「ふふ、ふふふふふふ…………」
「いや、いつまでツボってんだよ。あと笑い方かわいいかよ」
アクアはあと数十分くらい、ツボに入ったままであった。