夜語りの屋敷   作:死して尚、彼女は何を思うのか。

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2話目ですー!


第二夜 おすそわけ

 

 

これ、俺のばあちゃんの家で起きた話なんだけどさ。

今思えば、あれって本当に"そういう"ことだったんだと思う。

 

当時、俺は中学2年で、夏休みの間だけ田舎に預けられてたんだよね。

山に囲まれた小さな集落で、電車もバスも通ってない。携帯も圏外。夜なんて月が出てなきゃ、冗談抜きで自分の手すら見えないくらい真っ暗。

周りに家なんかほとんどなくて、隣の家まで徒歩で5分以上かかるような場所。

 

ある夜のこと、ばあちゃんが急に言ってきた。

 

「おすそわけ、持っていってくれんかね?」

 

味噌汁かなにかが入った小さな鍋を、タオルでくるんで玄関に置いてた。

俺が「どこに?」って聞いたら、ばあちゃんは少しだけ黙ってから、

 

「川の向こうの、小屋んとこに」

 

って言った。

 

そんな場所、聞いたこともなかった。

ばあちゃんの家の裏山には行ったことがなかったし、小屋なんか見た記憶もない。

ばあちゃんいわく、昔は山仕事の人が使ってた小屋があって、今は誰も使ってないけど、年に何度か“おすそわけ”を持っていくことになってるんだそうだ。

 

なんか嫌な予感がした。

「こんな暗い中、一人で山道?」って思ったけど、ばあちゃんは「冷めると悪くなるけん」と言って、俺に鍋を押し付けた。

 

しぶしぶ懐中電灯を持って、裏の獣道を登った。

道は細くて草が生い茂ってて、しかも湿ってて滑る。

10分くらい歩いて川を渡ると、言ってた通り、ぽつんと木造の小屋があった。

 

誰も住んでるような気配はなかった。

ただ、扉はわずかに開いていて、中が見えそうで見えない。

風もないのに、ガタ…ガタ…って、木が軋むような音がしてた。

 

俺は怖くなって、声だけかけた。

 

「置いときます」

 

鍋はタオルごと、扉の脇にそっと置いて、すぐに踵を返した。

 

それで終わりだと思った。

けど、翌朝、ばあちゃんに言われた。

 

「おすそわけ、ちゃんと“戻して”きたか?」

 

「え? 戻す?」

 

「鍋のフタ、ちゃんと閉めてきたかね?」

 

俺はハッとした。

タオルのまま置いただけで、中なんて見てもいないし、フタがどうなってたかなんて意識してなかった。

 

ばあちゃんは、さっと顔をこわばらせて、

 

「……フタ開けたら、目ェ合うけんね。開けとったら、見られるよ」

 

それが、なんていうか、冗談じゃなくて、真剣そのものの言い方だった。

ゾッとしたよ。背筋がひんやりして、何も言い返せなかった。

 

それから3日くらい経った夜のこと。

寝てたら、玄関の戸が、ギィ…って音を立てて開いた気がして、目が覚めた。

 

見に行ったら、玄関の土間に、あの鍋が戻ってた。

 

ちゃんとタオルに包まれて、置かれてる。

でも中は空っぽだった。

 

ただ、鍋の内側に、泥のついた手形みたいな跡が、五本分、くっきりと残ってた。

 

俺はフタなんて開けてない。

けど、あれは確かに“誰か”が開けて、食べた跡だった。

 

ばあちゃんはそれを見ても何も言わず、ただその日の夕飯時に、

 

「お味噌、もう使えんね」

 

って言って、味噌を全部土に埋めた。

 

それ以来、その鍋は一度も見ていない。

ばあちゃんも、“おすそわけ”の話は二度としなかった。

 

でも今もたまに思い出す。

あの小屋の中に、何がいたのか。

あの鍋の中から、もし俺がフタを開けて中を見ていたら――

 

“目が合ってた”んだろうなって。

 

 

 




最後まで読んでくれてありがとうございます。

一応、答え合わせ?みたいなものもあるので聞きたかったら感想欄で聞いてね!

次回もお楽しみに。
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