俺が大学2年の夏休みに体験した話をする。
あのときのことは、今でも夢か幻だったんじゃないかと疑う瞬間がある。でも、手元にある“アレ”を見るたび、現実だったとしか思えなくなる。
話の発端は、友人のユウタのひと言だった。
「さ、行こうか。地元で一番ヤバいって噂の心霊スポット」
俺とユウタ、ノボル、カズ、アイカの5人で、地元の心霊スポット巡りをすることになった。
地元と言っても、山に囲まれたド田舎で、民家もろくにないような場所。夜になると、電灯ひとつ見えないような真っ暗な山道に入ることになる。
目的地は、地元では「封じ場(ふうじば)」と呼ばれている場所。
看板も標識もないが、林道を登っていくと、突然道が広がり、ぽっかりと空いた空間の奥に**三角形の石碑**が立っている。
周囲には古びた木札が何本も打ち込まれていて、「入るな」「戻れ」「封印中」などの文字が風化しかけた墨で書かれていた。
空気が明らかに違った。
湿っていて重く、蝉の鳴き声も、風の音も、まるでそこだけ消えてしまっているような沈黙があった。
「やべえ、マジで出るやつじゃんこれ」
ノボルがスマホを取り出し、石碑をバシャバシャと撮り始めた。
「……変なもん映るなよ」
俺はそう言いながら、石碑には近づかなかった。なんというか、直感的に「触れたら終わる」って感じがしたんだ。
その時だった。
ユウタが小声で言った。
「……道、あるな」
石碑の左側、雑木林の茂みに小さな踏み跡が続いていた。
誰かが通ったような、けれど自然にはできない不自然な形の獣道だった。
「ちょっと見てくる」
そう言って、ユウタは石碑の脇に足を踏み入れた。
その瞬間、**カチャン**という音がした。
まるで、石の鍵が開いたような――あるいは、**何かを外したような音**だった。
石碑の中央にあった小さな割れ目が、少しだけ、ほんのわずかに、広がっていた。
「……おい、それ、まずくね?」
「なにが?」
「それ……封印だったんじゃねえのかよ」
空気が変わった。
急に冷たい風が吹き抜けて、俺たちは無言でその場を離れた。
けれど、それで終わりではなかった。
翌日、ノボルが事故に遭った。ブレーキが効かなくなったと言っていたが、助手席のスマホは石碑の写真を映したまま、画面ごと割れていた。
さらに数日後、カズが突然、いなくなった。
部屋には争った跡もなく、ただ、玄関の靴が片方だけ残っていた。
アイカは精神的に不安定になり、「夜中に誰かが部屋のカーテンを開ける」と怯え続け、大学を休学した。
ユウタは毎晩、同じ夢を見るようになったという。
石碑の亀裂から、何かが這い出してくる夢。真っ黒で、ぬめった皮膚の、ヒトのようでヒトでない何かが――。
俺は、何もなかった。
ただし、ある日、ポストに何かが入っていた。
「封印中」と書かれた木札。
見覚えがあった。あのとき、石碑の前に立てられていた札のうちの一本だった。
墨の文字は、まだ乾いていなかった。
それ以来、俺は夜中に絶対窓を開けないし、知らない道には決して踏み込まないようにしている。
ユウタは、連絡がつかなくなった。
最後のLINEには、たった一言、こう書いてあった。
「あの音、また聞こえた」
最後まで読んでくれてありがとうございます!!
次もお楽しみに!