ウルトラワールド:Scramble Engage   作:おろさん

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第1話:救世主リブートとゴーオン・メモリー
救世主リブートとゴーオン・メモリー 01


 

 

 

――その日。

一つの時空の歴史が、静かに終わりを告げた。

 

 元からそうであったのか、それとも誰かの身勝手な拒絶が引き金となったのか。突如として生まれた無数の『可能性』。

 

 それらが束ねられ、一つ以上の世界へと成り立ったもの。その呼び名の一つが『時空』。

 

 数多の世界を形作り、幾重もの歴史を刻むそれは、本質的に不安定な存在だ。何の前触れもなく終焉を迎えても、決して不思議ではない。

 

 そんな時空の一つが、また新たに滅びの運命を辿ろうとしていた。

 

 鋼の身体を持つ巨人たちを動かす戦士たちの戦いの記録。『ユニバース大戦』と呼ばれるその戦争に、想定外の事態が発生した。

 

 邪悪なる厄災は、いつしか勢力を拡大し、やがて多くの世界を巻き込んでいったのだ。

 

 悪しきものに抗う仮面の戦士たち。

 

 邪悪を浄化する少女の戦士たち。

 

 数多の出会いと別れを繰り返し、集結していく戦士たち。

 

 さらには、本来であれば戦いとは無縁でありながら、集結した可能性を取り込み、戦う力を得た者たち。

 

 数々の歴史を築いてきた英雄たちが、巨人たちに協力し、厄災へと立ち向かった。

 

 だが、それでも敵の勢力は凄まじかった。その圧倒的な力を振るい、無情にも数多くの世界を飲み込んでいく。

 

 そして、また一つの時空が滅びる。

 

 無数に存在する『時空』においては、それなりにありふれた運命――そのはずだった。

 

 人々の願いによって生まれた最後の巨人。その名は――■ガ■■ド。

 

 厄災を撃ち滅ぼすため、戦士たちは自らの力のすべてを彼に託し……そして、眠りについた。

 

 数多の力によって新たな姿へと生まれ変わった巨人は、その力をもって五人の守護者を創り出した。

 

 守護者たちは巨人と共に戦い、ついに厄災を完全に打ち払った。

 

 時空を造り出した『起源』。それの力を上回った巨人と守護者たちは、余剰となった膨大な力を解放した。

 

 その結果、多くの滅びた並行世界(パラレルワールド)から可能性が掻き集められ、その時空は新たな姿へと再構築されていく。

 

 やがて後に『Uの起源』と呼ばれるようになった巨人。彼が解き放った力と、守護者の力は、『指輪』という形を取り時空全域へと散らばっていった。

 

 数多の英雄が眠る墓場(ハザマ)で、巨人は待ち続ける。救世主の到来と、新たなる守護者の誕生を。

 

―――――

 

「ん……?」

 

 そんな内容の、突飛で異様で、そして現実味を伴った夢。少女は、ゆっくりと目を覚ました。

 

 見覚えのない天井。設置された家具からして、客室。

 

 隣のベッドを見ると、見知った友人の姿があった。

 

「んん……? あれ、メリー……?」

 

 そう呟いた直後、少女ははっとして起き上がる。

 

「あっ。セラ!! 二人が起きたよー!」

 

 二人が目覚めた事に気づくやいなや、見守っていた銀髪の幼い少女が、慌てて部屋を飛び出していった。

 

「ここは……ええと……あれ……? ねぇ、私たち、何があったんだっけ?」

 

「え? それは……ええと……ん? おかしいわね……」

 

 二人は顔を見合わせ、しばし沈黙する。

 

「……ええと、貴方は宇佐見蓮子。」

 

「うん。それで、貴方がマエリベリー・ハーン。で――」

 

「「私たちは秘封倶楽部。」」

 

 まるで暗号を確認するように、二人は声を揃えた。

 

「それで、大丈夫でした?よく分からないけど、急に家に落ちて来て――ん……?」

 

 銀髪の少女が部屋に戻ると、二人は随分と戸惑った様子な事に首を傾げる。

 

「お互いの目のことは?」

 

「分かる。……じゃあ、秘封倶楽部の活動内容は……」

 

「分からない……しゅ、出身地は? 出身校は……」

 

「全然分からない……というか……」

 

「う……うん……」

 

「メリーのこと以外……」

 

「蓮子のこと以外……」

 

「「ほとんど何も思い出せない……」」

 

 

***

 

「……それで、本当に何も思い出せない、と」

 

 落ち着いた声でそう問いかけられ、蓮子とメリーは顔を見合わせた。

 

「はい……」

 

 そう答えたのはメリーだった。

 

 同じく銀髪で、身長の高い女性。名前は『セラ』。この家で働くお手伝いさんの一人。

 

 銀髪の少女に呼ばれて部屋に入ってきた彼女に、宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンは、まずここがどこなのかを問いかけた。

 

 そして、この場所が『冬木市』という街の住宅街、その『深山町』にある『アインツベルン邸』だと、必要最低限の情報を簡潔に教えてくれる。

 

 一通りの説明が終わると、セラは顎をなぞりながら思案に暮れる。

 

 先程から事情聴取を行っていたが、肝心の二人の記憶はすっぽりと抜け落ちていた。ここに至るまでの道のりで何が起きたのかも、まるで思い出せずにいた。

 

 それどころか、自分自身の名前や互いの関係を除いた、ほぼ全ての記憶がほとんど失われているという状態だった。

 

「倒れていた状況から見て、不法侵入や事故ではなく、本当に『いつの間にかここにいた』みたいですが……記憶そのものが無い、というのは……流石に想定外ですね」

 

 あまりにも予想外の事態だったのか、彼女はこめかみに手を当て、少し頭を抱える仕草を見せた。

 

「気になる点は多々ありますが……嘘をついているようにも見えませんし、何も覚えていないのであれば、帰る場所すら分からない、ということになりますが……どちらにせよ、少し時間をいただけますか?」

 

 そう言われ、蓮子とメリーはとりあえず頷いた。それを確認すると、セラは一旦部屋を後にする。

 

「うー……まさか、よりにもよって記憶喪失だなんて……」

 

 セラが去った後、蓮子は力なく声を漏らした。

 

「自分で言うのも変だけど……ずいぶんピンポイントというか、出来すぎてる気がするよね」

 

 メリーも同意するように、肩をすくめる。

 

 こうして二人は、自分たちが置かれている状況に改めて困り果てていた。

 

 自分自身と互いの存在だけは覚えているが、それ以外のほとんどを失っているという、かなり特殊な記憶喪失状態。

 

「それで……あとは、この『指輪』だけど……」

 

 そう言って、蓮子は変わった形の指輪を手に取った。セラたちの話では、二人が倒れていた場所の近くに落ちていたものらしい。

 

 それを眺めていると、何だか不思議な力のようなものを感じる。

 

「何か関係があるのかもしれないけど……それにしては、まったく身に覚えが――」

 

「大丈夫、でしたか?」

 

 考え込んでいたその時、部屋の扉がノックされ、先ほどの銀髪の少女が顔を出した。

 

「あっ、さっきの子……えっと……」

 

「あ、私は、『イリヤスフィール・フォン・アインツベルン』です。イリヤって呼んでください」

 

 蓮子が言葉に詰まると、少女イリヤスフィールは小さく微笑んだ。

 

 

*****

 

 

 一方、アインツベルン邸から少し離れた場所で。

 

「一体どこにいるのよ……」

 

 黒髪のツインテールを揺らしながら、一人の少女が閑静な住宅街を進んでいく。

 

 その鋭い視線はあちこちへとせわしなく注がれている。何かを探している様子だった。

 

「あの女がわざわざ連絡してきたから探してみるのはいいけど……本当に、例の指輪を持つ人間がいるのかしら……」

 

 その少女『遠坂凛』は、小さくため息をついた。

 

「指輪を持つ者のもとに、その……ゲーム機?だか何だかの機械が飛んでくる、なんて話だけど……それらしいものも全然見当たらないし……とはいえ、誰かが指輪を手に入れたのは間違いないはずだけど……」

 

 苛立ちを隠さず、彼女は一枚の紙を取り出した。

 

 その紙には、かつて魔術的な紋章が描かれていた形跡がある。しかし今は、何も残っていない。

 

 この紙には『一定の条件が満たされると、描かれた紋章が消える』という魔術が施されていた。

 

 つまり、条件はすでに達成されている。

 

「あーもう!! 何で、いくら重要なこととはいえ、あの女経由でこんな面倒な役回りを押し付けられなきゃならないのよっ!大体、指輪なんて普通に売ってるものもあるのに、それをノーヒントで見つけろってどういう――」

 

「遠坂? 一体何やってるんだ?」

 

 思わず声を荒げていると、不意に背後から声をかけられる。

 

「し、士郎!? ちょっと、驚かさないでよ……」

 

 振り返ると、そこには赤髪の青年『衛宮士郎』が立っていた。

 

「え? ああ、悪い。さっきからやけに苛立ってるみたいだったから、気になってさ」

 

 そう言いつつ、彼は肩に食材の入った袋を提げている。

 

「別に、大したことじゃないわ……それより、士郎こそ買い物? こういうのって、あなたじゃなくてお手伝いさんが行ってる印象だけど、珍しいわね」

 

「ああ。ちょっと家の方が立て込んでてさ。セラに『仕方ないから代わりに行ってくれ』って頼まれたんだ」

 

 苦笑しながら答える士郎。そんな彼は、アインツベルン邸に養子として住んでおり、イリヤの義兄でもある。

 

「へぇ……それもそれで珍しいわね」

 

「それでさ……実は、家の前で倒れてた人がいて」

 

「倒れてた?」

 

「うん。しかも二人。大学生くらいの女の人で、かなり変わったタイプの記憶喪失みたいなんだ。イリヤが言うには、流れ星みたいに空から落ちてきたらしい」

 

「……それ、道端で話す内容じゃないでしょ」

 

 あまり深刻さを意識せずに話す彼に、凛は呆れたようにため息をつきながらも、続けて問いかける。

 

「それで、その二人は何者なの?」

 

「それは今、セラが話を聞いてるところなんだけど……あ、そうだ。()()()()()()()()()()()()

 

「……えっ!?」

 

 思い出したようにそう言った士郎のその一言に、凛は目を見開いた。

 

 

*****

 

 

 その頃、アインツベルン邸の客室で。

 

「奥様に連絡を取り、事情を説明した結果ですが……とりあえず、あなた方には、しばらくこの家で生活していただくことになりました」

 

「……本当ですか?」

 

 淡々と告げるセラに対して、メリーは思わず声を上げた。

 

 曰く、現在イリヤの母は夫と共に海外を飛び回っており、直接の対応は難しい状況だったという。

 

 そのため、暫定的な措置として蓮子とメリーをアインツベルン邸に居候させる、という判断が下された。

 

「ただし、です」

 

 セラは表情を引き締める。

 

「素性がはっきりしていない以上、無条件で住まわせるわけにはいきません。家事の手伝いをしていただくこと。それから、知り合いを通じてアルバイト先を紹介しますので、そこで働き、家賃を支払っていただきます」

 

「それでも、十分すぎるほどです……」

 

 メリーは深く頭を下げた。

 

「いえ。こちらにも事情がありますから。では、とりあえず――」

 

***

 

「……じゃあ、あの二人、本当に何も覚えてないんだね」

 

 リビングでソファに座りながら、『リーゼリット』、通称リズがぽつりと口を開いた。

 

「うん。ニュースでよく見る有名なことも知らなかったし、流行ってるアイドルのことも初耳みたいだった」

 

 イリヤは少し困ったように答える。

 

「メダロットの話をしたら、すごく興味津々だったよ」

 

「メダロット? ああ、人並みに賢いって言われてるロボットの。それなりに知名度はあると思ってたけど……珍しい」

 

「だよね……何も覚えてない、っていうより、『知らないこと』自体が多い感じがして……」

 

 そんな会話をしていると、セラがリビングへと入ってきた。

 

「リズ、少しいいですか?あなたのパソコンを、少しの間だけ、あの二人に貸してもらいたいのですが……」

 

「ええ?……ああ、最近のニュースとか、社会情勢を調べさせるってこと?」

 

「ええ。新聞や図書館の資料も見せる予定ですが、あまりにも知識が欠落しすぎているので……」

 

 

***

 

 

 数十分後。

 

「……なんか、すごい盛り上がってネットサーフィンしてるけど、大丈夫?」

 

 リズが指差した先では、蓮子とメリーがPCにかじりついていた。

 

「メダロットにロボトル……それに、えっ、1年前に大規模戦争?何か凄いハードな事が……」

 

「聖霊と絆を結ぶ聖女……そんなのもあるのね。え、何このブログ……ええと、『いつの間にか、全時空殺し屋ランキング83位になってた』……?ええと、一旦スルーしよう」

 

「ええと、他には――」

 

「……あの、そろそろ止めていただけますか」

 

 セラは、はしゃぎすぎている彼女らの肩に、軽く手を触れた。

 

「近所迷惑になりますし、それに、だいぶ脱線しています」

 

「……すみません……」

 

 二人は揃って、しょんぼりと頭を下げた。

 

 

*****

 

 

「ヴヴ……ヴヴヴヴ……」

 

 冬木市のどこかで、奇妙な唸り声が響いていた。

 

「ヴヴヴヴヴヴヴヴ……8()……v@()……0()……」

 

 その姿は、まだ誰の目にも映らない。

 

 車のようでありながら、人型でもある……そんな怪物が、闇の中に潜んでいる。

 

「ヴァルアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 次の瞬間、轟音とともに怪物は走り出す。目指す先は、深山町だった。

 

 

*****

 

 

「ただいまー」

 

 しばらくして、衛宮士郎が買い物から戻ってきた。

 

「おかえりなさい、士郎さん」

 

「……あれ? イリヤは? それに、あの二人も」

 

 玄関で迎えてくれたセラに、辺りを見回して士郎が問いかける。

 

「イリヤさんなら、蓮子さんとマエリベリーさんを連れて、近所の図書館へ行きましたよ。読み終えたライトノベルという本を返すついでだそうです」

 

「そうなのか……あ、そうそう。実は帰り道で出会ってさ、ちょっと用事があるって――あれ?」

 

 士郎は、凛が同行していたことを思い出して振り返る。しかし、その姿が見当たらない。

 

「あれ? おかしいな……さっきまで後ろにいたはずなのに……」

 

「あら、どなたかお客さんですか?」

 

「ああ、同級生でさ。遠坂凛って言うんだけど……蓮子さんとハーンさんの話をしたら、『二人に聞きたいことがある』ってついて来てたはずなんだけど……」

 

 

 

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