ウルトラワールド:Scramble Engage 作:おろさん
一方その頃。
セラの言葉に従い、イリヤは蓮子とメリーを連れて近くの図書館を訪れていた。
机の上には、新聞や専門書といった難解そうな資料が、次から次へと積み上げられていく。
「ごめんなさい……たった一日で、結構迷惑かけちゃって……」
申し訳なさそうに言うメリーに、イリヤは首を振る。
「いえ、大丈夫ですよ。いろんなことに興味を持つ気持ち、分かりますから」
その後。記憶喪失の影響なのか、それとも元々の性格なのか。蓮子とメリーは、調べものにかなり没頭していた。
日曜日ということもあり、それなりに人がいる図書館で、二人は最近のニュースから十年以上前の記事、ついでにPCでオカルトサイト等を漁りながら、手当たり次第に目を通していく。
「冬木市って、昔ガス事故が異常に多かったのね……でも、数年前から急に減ってる」
「『346プロ』……有名な芸能事務所? え、2年で190人もアイドルを輩出!?」
「これ、イリヤちゃんが言ってたメダロットの大会……主催者が警察に連行? 何か隠してる感じがするわね……」
「『聖霊』が見える聖女に……それを保護する聖霊庁……」
「モビルスーツ……ガンダムを中心に繰り広げられた……『革命戦争』……」
そのほかにも、カルト教団の壊滅事件、過激な愛護団体による暴動など、物騒で不自然な情報が目についた。
「知らないことばっかりね……怪しい話も多いし」
不穏な内容含めた記事に目を通す蓮子の口元には、隠しきれない笑みが浮かんでいた。メリーの表情もどこか弾んでいる。
「やっぱり、楽しそうですね」
そんな声を弾ませながら、イリヤが戻ってきた。返却したライトノベルの続巻を抱えている。
「まあね。不思議な出来事って、嫌いじゃないし」
「知らない世界だからこそ、興味が湧くのよね」
ふと、メリーはイリヤの手元に視線を向けた。
「それ……ライトノベル?」
「はい。最近観てるアニメの原作で、異世界ものなんです。魔法少女が主人公で――」
イリヤは簡単に内容を説明する。
「へぇ……そんな作品があるのね。私も読んでみようかな」
「あ、それならもっかい取ってきます!」
そう言って、イリヤは棚の方へ戻っていった。
***
「ええと……あった……あれ?」
戻って早々本を手に取ったイリヤは、棚の奥に見慣れないものを見つける。
「こんな本、あったっけ……?」
小さな本が二冊。一冊は広大な世界を歩く二人の戦士。もう一冊は、喫茶店で働く少女の表紙。
タイトルはそれぞれ、『ワンダークロスワールド』と『ブレンドハーツ・エレメンタル』と書かれている。
「不思議な感じ……でも、とりあえず一緒に――」
「ヴヴヴ……」
背後に気配。
「……え?」
振り向いた瞬間、そこにいた。
車のような、人型の怪物。
「ヴヴヴ……
「いやあああああああああああああ!!?」
黒い排気ガスと炎が噴き出し、図書館が一瞬で混乱に包まれた。
「イリヤちゃん!?」
悲鳴を聞いたメリーと蓮子が振り向く。
次の瞬間、怪物が猛スピードで突っ込んできた。間一髪で避ける二人を素通りし、ソレは障害物を粉砕しながら走り、黒いガスを撒き散らす。
奇妙なガスを吸い込んだ人々は次々と糸が切れたように崩れ落ち、怪物の身体へと煙のように吸い込まれていった。
「ヴヴヴ……」
怪物の視線が、蓮子とメリーに向いた。
「……えっと、これ、かなりヤバくない?」
「ねぇ、あれもどこかで見たことがある気が……」
「えっ!?」
「
後ろに後ずさる二人に視線を向け、怪物が突進してくる。
「急に私たち狙ってない!?」
「逃げるわよ、蓮子!」
背を向けて駆け出した瞬間、怪物の体は幻のように揺らぎ、まるで最初から目の前にいたかのように回り込んできた。
「えっ!?」
「ヴァルアアア!!」
攻撃が振り下ろされる、その瞬間。
「はぁぁぁっ!!」
横から飛び込んだ蹴りが、怪物を吹き飛ばした。
「まさかと思って来てみたけど……本当に、こんな所で出くわすなんてね。それで、大丈夫だったかしら?」
赤を基調とした服装に、黒髪のツインテールの少女『遠坂凛』が、二人に声をかけた。
「は、はい……どうも……」
「ヴヴヴ……ヴァルアアア!!」
「――ッ!」
戸惑い気味に返事をした直後。体勢を立て直したエンジン世怪が咆哮する。
そうすると、図書館内の壁掛け時計を介し、戦闘兵のような怪人が十数体ほど出現した。
「時計の……え、なにあれ」
「なんか……これもこれでどこかで見たことあるような……?」
「とりあえず下がってなさい!」
その瞬間、時計のようなヘルメットの人型兵士『ウォークロック』たちが、一斉に凛へ襲いかかる。
「ジキキキキキキキキキキキキキ!!」
「……てやぁっ!!」
凛はすかさず宝石を投げ、炸裂する魔力で敵を容赦なく吹き飛ばしていった。
「い、一体何がどうなってるのこれ……」
安全そうな位置まで移動した二人のもとへ、息を切らしたイリヤが駆け寄ってきた。
「はぁ……はぁ……れ、蓮子さん、メリーさん……大丈夫ですか……?」
「イリヤちゃん! こっちは平気だけど……そっちは?さっきはすごい悲鳴だったけど……」
「す、すぐ逃げられたから大丈夫……あれ?」
イリヤが視線を向けた先では、凛が怪物たちと戦っていた。
「あ、あれ……凛さん!?」
「え、知り合いなの?」
「うん……お兄ちゃんの同級生なんだけど……」
「ふんっ!!」
凛はウォークロックをどうにか片付けたものの、肝心のエンジン世怪には苦戦していた。
攻撃がまったく通らない。拳も蹴りも、宝石を使った魔術さえも、すり抜けるように空を切る。
「話には聞いてたけど……本当に幽体化して攻撃を透かすなんて……!」
「ヴァルアアア!!」
エンジン世怪は排気ガスを撒き散らし、さらにどこからともなく取り出した剣で斬りかかってくる。
「っ……せいっ!!」
何度も反撃を試みるが、そのたびに空振りに終わってしまう。
「ヴヴヴヴヴヴ……」
やがて業を煮やしたのか、エンジン世怪は完全に幽体化。凛の身体をすり抜けて直進した。
「ちょ、どこ行くのよ!?――って!?」
その進行方向には、蓮子とメリー、そしてイリヤの姿があった。
「うそ……!」
「危ないっ!!」
イリヤが咄嗟に飛びつき、三人は敵の突進を紙一重で回避した。
「ぎ、ギリギリ……大丈夫?」
「あ、ありがとう……」
立ち上がった三人の周囲には、暴れ回ったせいで完全に荒れ果てた図書館が広がっていた。
「ゴオオオオ……」
エンジン世怪は、間髪入れずに再び迫ってくる。
「ど、どうしよう……」
状況を把握しきれないまま、イリヤは立ち尽くす。
逃げ切るのは不可能。それは、足の速さに自信のある彼女にも分かっていた。
「……イリヤちゃん。ここは、私たちに任せて逃げて」
その時。蓮子が覚悟を決めた表情でメリーを見る。震える膝を必死に抑えながら、メリーも頷いた。
「えっ!? 急にそんな――」
「年上なのに、さっきから助けられてばっかりだから。それに、あなたに何かあったら、家族が悲しむでしょ」
「それに……どうやら、あいつの狙いは私たちみたいだし。意識をこっちに集中させた方がいい」
「で、でも……」
「大丈夫。これくらい……私たちなら、なんとかなる気がするから!」
「ヴァルアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
咆哮と共に、剣を振り上げて突進してくるエンジン世怪。
「っ!!」
二人は左右に跳び、攻撃をかわす。
「ヴヴヴ……!!!」
狙いは、間違いなく自分たちだった。
「こっちよ!!」
瓦礫と崩れた本で埋め尽くされた図書館内。二人は距離を取り、二手に分かれて陽動を始める。
「ヴヴヴヴ……!!ゴオオオオ……オン!!」
一瞬迷うような動きを見せたエンジン世怪。しかしその身体が三つの車両のような形状に分離し、 それぞれが綺麗なカーブを描いて回り込んできた。
「え……」
「う、嘘でしょ……」
あまりの無茶苦茶さに、三人は言葉を失う。
「ゴーゴーゴー!!!」
分離したまま、エンジン世怪は同時にエネルギー弾を放つ。直撃は免れたものの、二人は吹き飛ばされてしまった。
「ヴァルアアアアーッハハハハハ!!」
再び合体し、休む間もなく迫るエンジン世怪。
「あんな害悪の塊みたいなの……どうすれば……」
「でも……このまま、訳も分からずに……!」
互いの手を掴み、立ち上がるメリーと蓮子。怪物は意に介さず、ただゆっくりと二人の間合いを詰めてくる。
まさに、その時だった。
「ヴァル――ガァッ!!!?」
右斜め上。その方向から突然、何かが飛来した。
手のようでもあり、剣のようでもある武器。それはエンジン世怪を弾き飛ばしてすぐ、一直線に二人の元へ飛び込んだ。
「え……ま、また何……でも何か……」
「これも……見覚えがあるような、ないような……あら?」
次の瞬間、その武器が光を放つ。同時に、メリーのポケットの中からも、淡い光が漏れ始めた。
「……!」
ずっとポケットに入れていた、不思議な指輪を取り出す。
「これ……手に取れってこと……よね?」
「もしかしなくても、絶対そうだね。
この状況を打破するなら……やるしかないでしょ!」
蓮子が武器に手を伸ばした、その刹那。
『新たなる守護者よ……今、ひとつに……!!!』
「わっ!?」
どこからともなく謎の声が響き渡り、武器と指輪の光がさらに強まった。
「ヴッ!?」
「ひゃっ!?……あれ?」
エンジン世怪とイリヤは、あまりの眩しさに、思わずギュッと目を閉じた。
その瞬間、イリヤが持っていた、小さな二冊の本のうちの一冊『ワンダークロスワールド』が、光の中心へとフワっと吸い寄せられていく。
そして。光の中から伸びた手が、その本を掴み取った。
「い、今のって……え? えええっ!?」
イリヤが恐る恐る目を開くと、そこには一人の少女が立っていた。
右目は蓮子の色、左目はメリーの色。長めのツートンカラーの髪に、神官を思わせる服装。
『二人』であり、『一人』の少女。
少女は、手にした武器の手甲のようなスロットに、小型の本を装填させる。
【ワンダークロスワールド】
【神秘を追いかける二人の探求者が、繋がる世界を旅していく】
「変身《エンゲージ》!!!」
続いて、右手の人差し指にはめていた指輪を、中指にあたるくぼみへとはめ込む。
【CLAP YOUR HANDS!!!】
8bit音、ギター、ピアノが混ざり合った軽快な音楽。それに合わせて手を叩く。
本が開き、光が身体を包み込む。
鳥と猫を混ぜたような意匠の仮面。中華風の装甲をまとったその姿。
【UNCOVER THE SECRETS:GUARDIAN『メモリア』!!!】
少女は、守護者《メモリア》へと変身した。
「……」
メモリアは無言のまま、右手で持った手の武器を、エンジン世怪へ向ける。
「ヴヴヴ……!!!?」
「だ、大丈夫――って……!!?」
エンジン世怪の後を追っていた凛が、ようやく合流する。その視界に映ったのは、既に戦場に立つメモリアの姿だった。
「あれは……新たな守護者……!?
でも、一体誰が……」
「ヴ……ヴァルアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
エンジン世怪は動揺しつつも、猛スピードで突進してくる。
「……ハッ!!」
メモリアは紙一重で回避し、すれ違いざまに背後を斬り裂こうとする。
「ヴッ……ガッ!!?」
とっさに体を幽体化させ、攻撃をかわそうとしたエンジン世怪。だがオーラを纏った一撃は容赦なく直撃した。
強烈なダメージに耐えきれず、彼は慌てて幽体化を解いてしまう。
「せいっ! やっ! たりゃあああああっ!!」
蹴り、二連斬撃、そして上空からの叩き込み。エンジン世怪は大きく吹き飛ばされた。
「ガッ……ゴオオオオン!!」
なおも抵抗するように、身体を三つに分離する。
「遅いっ!!」
一つを蹴り上げ、跳躍。空中で叩き落とし、残り二つへとぶつける。
「ガアアアッ!!!?」
合体し損ねたまま地面に転がり落ちるエンジン世怪。完全に隙だらけだった。
「う、嘘……あんなに面倒だったのを、こんなにあっさり……」
「い、行けーっ!!もう何が何だかだけど、やっちゃってーっ!!」
凛は驚愕し、イリヤは半ばヤケ気味に声援を送る。
「……じゃあ、終わらせる」
立ち上がろうとするエンジン世怪の目前に、いつの間にかメモリアが立っていた。
【『メモリア』CROSS FINISH!!!!】
エネルギーを纏った一閃。腹部を、斜め下から切り上げる。
「ガッ……アアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
エンジン世怪は爆散し、完全に消滅。
するとその足元に、腕時計のような形状の指輪が一つ転がり落ちた。
変身を解除した少女は、それを拾い上げる。『炎神戦隊ゴーオンジャー』をモチーフにした指輪だった。
「や……やった……!!やったやった!! すごいよ!!えーと……」
「色々分からないことだらけだけど……とりあえず、何とかなったわね、メリー。イリヤちゃんも無事だし……まあ、周りはひどい有様だけど」
「ん?あ、あれ……?蓮子さんとメリーさん……だよね? 流れ的に」
駆け寄ったイリヤは、少女の異変に気づく。
「え? 急にどうしたの、イリヤちゃん。私とメリーだけど……ん?」
当人も違和感に気づき、自分の身体に触れる。
「え……?なにこれ……え、ちょっと……うそでしょ、合体してる!!?なんで!!?」
自分が『蓮子とメリーが融合した姿』だと理解し、完全にパニック。
「えっ!? なにこれ、柔らか――ちょっと、どこ触ってるの蓮子!!?いやそれよりというかこれどうやって元に戻――」
――ポンッ。
小さな爆発音とともに煙が体をふんわりと包み込むと、その奇妙な融合体はスッと消え去る。
煙が晴れた次の瞬間。そこには、宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンの二人がきょとんとした顔で立っている。
ふと手元を見ると、蓮子の手には先ほどの剣が、メリーの人差し指には指輪が、何事もなかったかのように戻っていた。
「も、戻った……よかった……」
「お、おおう……」
安堵してそのままもたれかかるメリーを、蓮子が慌てて支えた。
「でも……これ、一体なんなの?今メリーの指にはまってる指輪もそうだけど……」
二人がそれぞれの持ち物を見つめていると――
「まさか……
凛が、静かに近づいてきた。
「あ、さっきの……ええと……」
「遠坂凛。『魔術師』よ」
名乗った凛は、二人を見据えてこう告げた。
「分からないことだらけでしょうけど……私が順を追って説明するわ。よろしくね、新たな『守護者』さん?」
「……へ?」
=NEXT(台本形式注意)=
蓮子「記憶を失った私達を待っていたのは、指輪を巡る大規模な戦い……
その裏で動く者達、残り2人の守護者、そしてイリヤスフィールの覚悟……この不思議な世界で、新たな物語を紡ぐ!そしてその想いが、伝説の巨人を喚ぶ!
次回、第2話『目覚めし伝説とワンダフル・ガールズ』!レディーゴー!」
・今サブタイトルの元ネタ:炎神戦隊ゴーオンジャー
***
=クロスタルリングカセット=
『炎神戦隊ゴーオンジャー』
イラスト:チェッカーフラッグ→ゴーオンレッド
固定絵:炎神スピードル
獲得者:蓮子&メリー
=
『エンジン
使用指輪:炎神戦隊ゴーオンジャー
憑り付いた人物:無し
侵蝕スキル:『爆速・幽体化・分離』の害悪の極み3点セット