ウルトラワールド:Scramble Engage 作:おろさん
その頃。
「(出てくれるかな……)」
ベッドの上に座り、取扱説明書とにらめっこしながら、イリヤはクロスタルプロテクターを操作していた。
新造されたばかりの端末。
凛の手紙によれば、電話機能も搭載されているらしい。
試しにその機能を起動し、少し迷った末に――一人の名前を選ぶ。
呼び出し音。
「えーっと……もしもし……?」
少し緊張しながら声を出す。
『その声……イリヤ……?』
繋がった。
相手は、美遊だった。
「ど、ども、いきなりごめんね。」
『いえ……そう言えば、新造したプロテクターを茅森奏海が送った話を聞いてたけど……何か用?』
「あー、うん、用ってわけじゃないけど……今何してるのかなって……」
正直に言えば、“ただ暇だったから”である。
『今は家にいる。ルヴィアさんが今日は、大事をとって家にいなさいって……』
「そうなんだ。私と同じ、だね。何もする事が無くて、凄く暇で……」
『そう……』
短い沈黙。
受話越しに、微妙な間が流れる。
続いて、美遊が少し声を落として聞いた。
『体は、なんともない?力を使い過ぎて、調子が悪いとか……』
「それだと、熱は出たけど、今は何ともないかな……」
『そう……良かった……』
「うん……」
互いを気遣ってはいる。
けれど、どうしても会話がぎこちない。
――その時だった。
『だああああああああもう!!!なーに不器用な会話してるのですか!!じれったい!!』
突然、イリヤのプロテクターから場違いな声が響いた。
「こ、この声、センリツさん!?」
『ど、どうして声が……もしかしてイリヤのところに……?』
美遊も動揺している。
『つまりはこういうことなのです!』
次の瞬間。
プロテクターの表面が光り、小さな立体映像が飛び出す。
現れたのは――佐鳥羽センリツ。
ただし、頭身は低めのSD体型。妙に丸っこい。
『どうなのです?驚いたのです?もしものために、身体の一部を利用して作ったこの分身が1つ!鈴にぃ頼まれて、サポートAIが如くこうしてプロテクターの中に潜ませてもらったのです。』
「そ、そうなんだ……すごいね……」
イリヤは素直に感心する。
『そうでしょうそうでしょう?『ナラタケ』という某町工場職員が作った超高性能AIの機能、それををまるっと拝借して、こうしてボク独自でネットワークを形成したThis 新要素!ようやく実現できたのですよー!あ、ちなみに美遊さん側にも分身が潜んでるのですよ実は。』
自慢げに腕を組むSDセンリツ。
センリツの身体構造が特殊であることを思えば、こうした“分身体の実装”も不可能ではないのだろう。
『つかそれはそうと!!なんなのですこの謎に気まずい空間は!?電話でやってるくせにうおい!!』
ビシッとイリヤを指差す。
「え、いや、そう言われましても……」
『……んー、それならば、ビデオ通話で話すのです!お互いの顔を見ればそれはそれは会話は弾むに決まっているのですそうに違いないのです!』
そう言うなり、SDセンリツは勝手にプロテクターを操作。
機体がふわりと浮き上がり、壁に光を投射する。
「て、テレビ電話……このプロテクター、無駄にすっごい多機能だね……」
『てなわけでスタートなのですー!』
『えっ……テレビ電話!?あ、ちょっ、何!?何なの!?何でプロテクターが浮いて……え、あっ、ちょっと待っ――』
向こう側で、美遊が明らかに慌てている。
カウントダウンが表示される。
5。
4。
3。
2。
1。
0。
映像が切り替わる。
『あっ……』
映し出された美遊の姿。
黒や紺などのダークトーンの長袖ワンピース。
その上に重ねられた、フリル付きの白いエプロン。
頭には白いヘッドドレス。
清潔感と清楚さを兼ね備えた――
……所謂、メイド服だった。
「(○□○)」←*イリヤ
『え、あ、あの……』
画面の向こうで、美遊は顔を真っ赤にしている。
どうやら、“家にいる”というのは、そういう状況だったらしい。
非常に、恥ずかしそうである。
「め……メイド服ゥ!!!?」
『ほほぉ、何とも良き趣味をお持ちのようなのです。』
『ええっ!?』
画面越しに映ったその姿に、イリヤは素っ頓狂な声を上げた。
一方で、SDセンリツは面白がるように目を細めている。
『い、いや、こ、これは違くて、その、私の趣味とかじゃなくて、毎回こうしてルヴィアさんに無理やり着させられて――』
美遊は慌てて両手を振り、必死に弁解する。だがその言葉選びが、かえって火に油を注いだ。
「無理やり……」
その単語が、イリヤの中で妙な方向に変換された。
カチリ、と。
頭の奥で、明らかに良くないスイッチが入る音がした。
「美遊……今すぐあなたに会いたいの……」
『は!?な、何を――』
「うん!すごく会いたい!!なんていうか生で会いたい!!」
『(わあ力つんよい)(by SDセンリツ』
イリヤは通信越しの映像に手を伸ばすような勢いで、プロテクターをがっしり掴み、ぐいっと顔を寄せる。目が完全に本気だ。
『え、あ、いや……;;』
「今すぐ来て!!!そのまんまの恰好でね!!!家は向かいでしょ!!駆け足イイイイイイイ!!!」
『え、あっ、はいいいいっ!!?』
勢いに押し切られた美遊は、頬を真っ赤に染めたまま、反射的に承諾してしまうのだった。
***
数分後。
「お、おじゃましま――」
「いらっしゃああああああああい!!!」
アインツベルン邸の玄関をくぐり、イリヤの部屋へ案内された美遊。その瞬間、待ち構えていたイリヤが目を輝かせて突撃してきた。
「すっごーい!ホントにメイド服じゃん!なんかいい生地使ってるっぽいし構成もしっかりしてるしぃー!」
抱きつきながら、まるで検品でもするかのようにじろじろ観察する。
「あ、あの……」
「本物!?本物の小学生メイド!?ウサミンより遥かに年下のモノホン小学生メイド!!?ねぇちょっとご主人様って言ってみて!?」
「えっ、せめてそこ普通お嬢様じゃ――」
「おん?いいから言ってみて!!リピート・アフター・ミー!ご主人様ってェェ!!!」
「ごっ、ご主人様あああああ!!?」
顔から湯気が出そうな勢いで叫ぶ美遊。
……なんてことがありつつ、また数分後。
「ご、ごゆっくり……」
セラがお茶菓子を用意し、苦笑いしつつ静かに退室したあと。
ようやく部屋には、落ち着いた空気が戻っていた。
「えーっと……何か、ごめんね?何か変なテンションになっちゃって……」
さすがに冷静になったイリヤが、しおらしく謝る。
「い、いえ、別に……それよりも、家の方に変な目でじろじろ見られたのが……」
「そ、それもごめん、その辺の事も考えなしでした……」
向かいの家からメイド服の少女が駆け込んでくる光景。誤解を招かないはずがない。
ふたりは揃って小さくため息をついた。
『ま、あんまり恥ずべきことじゃないと思うのですよ?その様子じゃあソレ、キミの正式な仕事着じゃないのですか?』
プロテクター内から、SDセンリツが口を挟む。
「正式……じゃあやっぱり本当にメイドさんなんだね。」
「うん……一応、レディースメイド扱いで、ルヴィアさんと桜さんの身の回りのお世話を少し……」
美遊はそう言って、少し視線を落とした。
「守護者の指輪を手に入れた時……頼れる人がいなかった私を、あの2人が引き取ってくれて……生活の保護をしてもらう分、メイドや、指輪回収とかの手伝いを……」
淡々とした口調だが、その言葉の裏にある事情は軽くない。
「(た、頼れる人がいない……?)」
イリヤの胸がざわつく。
家庭の事情。過去。色々と聞きたいことは浮かぶ。だが――今ここで踏み込むべきではないと、本能が告げていた。
「そ、そうなんだ……」
結局、イリヤはそれだけを返した。
少しの沈黙。
「……それはそれとして……その、大丈夫だった?昨日の事……」
美遊が静かに問いかける。
「えっ……あー……」
イリヤの表情が曇る。
あの時の侵蝕世怪人。
明らかに様子がおかしかった。疲弊していたはずなのに、あの異常な猛攻。まるで理性を失ったかのような戦い方。
自分の身の回りへの被害を止めたくて戦い始めた。
それが、クレイジークロックと向き合った理由だった。
けれど――
あの時の敵は違った。
『無理矢理戦わされたような敵』。
想定していなかった存在。
その事実が、イリヤの心に小さな揺らぎを残していた。
「……それなりに、覚悟を決めてた……ハズなんだけどね。」
自嘲気味に笑うイリヤ。
美遊はまっすぐに彼女を見つめ、はっきりと言う。
「……イリヤ。前も言ったと思うけど、あまり無理はしないで。貴方が壊れたら、知りたいも守るもなにもなくなるから。」
守ることも、真実を知ることも。
イリヤ自身が無事でなければ、何も始まらない。
「……うん、そう、だよね。私は1人じゃないもん。」
その言葉に、イリヤの瞳に少し光が戻る。
けれど――
「何だかんだあったけど……あの時の侵蝕世怪人も、最終的に美遊や鈴夜さんが倒してくれたんでしょ?あんな猛攻に立ち向かえるなんて、凄いと思う。」
「えっ……?」
美遊の動きが止まった。
カップを持つ手が、わずかに震える。
あの時。
あの侵蝕世怪人を倒したのは――
本当は、イリヤ自身のはずなのだ。
けれど。
どうして、イリヤは――そんな風に思っているのか。
*****
「……解析してみたが……何がどうなっているんだこれは……?」
その頃、√BACK-DOORS。
薄暗いモニタールームの中央で、無数のホログラム画面が浮かび上がる。その中心に立つ鈴夜は、腕を組みながら一つの映像を見つめていた。
隣では漆黒の闇が、淡々とデータ解析を続けている。
解析対象――それは、昨日の戦闘記録。
侵蝕世怪人を、イリヤが撃破するまでの一部始終だった。
あの時。
イリヤは突如飛来した謎のクロステラノベルを手にし、巫女のような装束をイメージした、不思議な装甲を纏った姿へと変身した。
そしてその力で、暴走していたソルジャー世怪を圧倒。撃破するだけでなく、内部に取り込まれていた一般人までも救出してみせた。
常識外れの出来事だった。
鈴夜は戦闘中にその光景を撮影していたため、こうして漆黒の闇に解析を依頼している、というわけだ。
「こっちが保有しているエネルギーデータと、何一つ一致しない……」
闇の声は低く、重い。
「イリヤスフィールの魔力反応も同様だ。既存の魔術体系に当てはまらない。見た事のない魔力エネルギーじゃないか……」
「そう、だよねぇ……」
鈴夜は困ったように首を傾げる。
未知の力。未知の変身。
それが味方側から出てきたという事実は、頼もしくもあり、不安でもあった。
「……ねぇ、ちょっといい?」
声を掛けてきたのはツクモだった。
現在√BACK-DOORSにいる守護者関係者は、鈴夜と闇の他に、ツクモ、アンとメアリー、あすみ、エジソン、バベッジ、そしてセンリツ本体。いずれも鈴夜の信頼する面々だ。
「何でこの事を私達に?茅森さん達が別件でいないのは分かるけど、少なくとも凛さんやルヴィアさんにも伝えたほうが良いんじゃ……」
もっともな疑問だった。
だが鈴夜は、少し考え込むような顔をしてから答える。
「まあ、最初はアタシもそう思ったんだけどさー。でもさ……何か違う気がして。」
「違う……?」
「今このタイミングでイリヤちゃんの事を魔術師側に出すのは、ちょっと危ないかなって。魔術師ってさ、力の出所とか血筋とか、そういうのにすっごい敏感らしいの。で、下手に騒ぎになったら、イリヤちゃんが面倒な立場になるかもって。」
「だから、身近な拙者達に先に知ってもらおう……という事でござるか?」
あすみの確認に、鈴夜は頷いた。
「ま、そう言う事。一応、あの時のおじさんの事情聴取も進めてもらってるけど……センリツ、どう?」
鈴夜は隣のセンリツを見る。
どうやらイリヤ達のプロテクターに潜ませたSD分身と同様に、凛達のプロテクターにも分身を潜ませているらしい。そこから共有される情報を通して、現在行われている事情聴取を盗み聞きしているのだ。
「んー……かいつまんで説明すると、あの男の人、何も覚えてないみたいなのです。夜中にプラモデル買いに行こうとした時から記憶が抜けているとのことなのです。」
「前のケースみたいな、元から荒っぽい人間って訳ではないようですね。」
「でも、それこそ進展は無くない?ノベルの事もそうだけど……」
アンとメアリーの言葉に、場の空気が少し重くなる。
実際、ソウクレイザー撃破時に入手したクロステラノベルに何らかの秘密がある事は分かっていた。
イリヤがあのようなフォームチェンジを果たした以上、鈴夜達も同様の変化が可能ではないか――そう考えた。
だが、試しても何も起きなかった。
五人それぞれが手に入れた、不思議なクロステラノベル。
共通点は、いずれも表紙に幻想的な少女が描かれているという点のみ。
「条件付き……って感じなんだろうね。」
鈴夜は小さく呟く。
すると、それまで黙っていたバベッジが言葉を発する。
「しかし……よくあの状況で、撮影ができたものだな。相手は途轍もない猛攻を繰り返していたと聞く。咄嗟に穴を掘って回避したのだろう?」
「ん……」
その言葉に、鈴夜は一瞬だけ固まった。
――穴を掘った。
確かに、そうだ。強力な波動攻撃を避けるため、地面に潜ったはず。
だが。
(……どうやって?)
その瞬間の記憶が、妙に曖昧だった。
掘った“はず”なのに、具体的な動作や感触が思い出せない。
「……」
鈴夜の沈黙を見て、エジソンがわずかに眉をひそめる。
「……と、ところで。この件をイリヤ君本人は憶えているのかね?」
話題を変えるように、エジソンがセンリツへ問う。
「ん、あー。あっちも昨日の事は憶えてないみたいなのです。むしろ美遊ちゃんや鈴にぃが倒したって思ってる様子なのです。」
「そっか……ところで。」
返答を聞きながら、鈴夜はセンリツの様子に気づいた。
なぜか、口元からよだれが垂れている。
「……センリツ、今何見てんの?」
「んえー……」
イリヤたち側のSDセンリツを経由し、現在の様子を覗き見しているらしい。
その視界に映る映像には――
なぜかイリヤが美遊をベッドに押し倒し、やたらテンション高く迫っている場面が映っていた。
センリツはにっこりと微笑む。
「……お楽しみ……なのです。」
「・・・。
ニワトぉーリぃー……な・の・だぁっ!!!」
「メポォッ!!!?」
鈴夜の豪快なアッパーカットが炸裂する。
説教代わりの一撃だった。
「何をやっているんだか……」
闇は呆れ半分、諦め半分の表情でその光景を見ていた。
その時。
鈴夜の携帯が鳴る。
「ん? あ……もしもし?」
相手は奏海だった。
用事で冬木に向かったとは聞いていたが、急な連絡だ。
「うん、うん……え、ホント? 分かった。こっちも丁度終わったし、すぐ行くよ。」
通話を終え、鈴夜は携帯を閉じる。
「え、何かあったの?」
ツクモが問う。
鈴夜は一瞬だけ間を置いてから、口を開いた。
「それなんだけど……どーやら、新しいパラレルファイターが、アタシ達やサーヴァントに用があるんだと。」
「え……?」
そう言われて、その場にいた全員が顔を見合わせた。
03へ続く。
―――――
*注釈:本作品は、自著の文章をAI(ChatGPT等)で推敲・校正して投稿しています。ストーリーや台詞はすべて作者が作成したものですが、読みやすさ向上のために文章の整理を行っています。