Fate/Scramble U World ~秘封トラベラー・メモリアル~   作:おろさん

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美遊「私達の前に現れた狩人アイズ……クレイジークロックに関わる彼女が、私達に襲い掛かってきた。

それだけじゃない。出現した侵蝕世怪人は、パトレボルシオンなる少女達によって、無理やり奇妙な宝石で暴走させられた……尾張長人その人。

その事実を知って放心状態になったイリヤの前に、不気味な人が現れて……撃たれたイリヤは、苦しそうで……

私は……私は……」



第10話:カレイドスコープ・エール
カレイドスコープ・エール 01


 

 

 

 夜中。アインツベルン邸にて。

 

「……」

 

 あの後、イリヤは屋敷へ運び込まれた。今は、自室のベッドの中で静かに横になっている。

 

 身体に異常があるわけではない。目立った外傷もなく、医療的には問題ない。

 

 それでも、起き上がる気にはなれなかった。

 

 あの時。奇妙な女性に撃たれた瞬間から、胸の奥に残り続けている違和感。

 

 何かが入り込んだような、ざわつくような気持ち悪さ。

 

 だが、本当にイリヤを縛りつけているのは、それではない。

 

 心を反転させられ、暴走した尾張長人。彼は侵蝕世怪人となり、理性を失ったまま暴れ続けていた。

 

 その光景を、イリヤは目の前で見た。そして自分は……ほとんど何も出来なかった。

 

 強烈な恐怖。それに加えて、胸の奥に残る不快な感覚。その両方が絡み合い、イリヤの心を重く沈めていた。

 

 結果として蓮子やメリー、そして美遊たちと顔を合わせることさえ、どこか気まずく感じてしまっている。

 

「イリヤちゃん……」

 

 部屋の外。少しだけ開いた扉の隙間から、蓮子とメリーがそっと様子を覗いていた。

 

 セラ達には「身体に問題はない」と伝えておいたものの、心配は消えない。

 

「あの子は今……迷ってる……」

 

 そして二人は気づいていた。イリヤの心に生まれた変化に。

 

 守護者として戦うことへの、迷いに。

 

「……どうすれば、いいんだろう……」

 

 イリヤは、ぽつりと呟く。

 

 今までイリヤが戦ってきた相手は、どこか『分かりやすい敵』だった。

 

 明確な悪意を持つ存在。倒すべきだと、迷わず判断できる相手。だからこそ、大きな恐怖に飲まれることなく、戦う理由を保てていた。

 

 だとしても、自分のモチベーションが長く続かないことは、イリヤ自身も自覚していた。

 

 上級ウォークロックの個性の強さ。そして、一部の侵蝕世怪人が、元々危険思想を持つ者だったこと。そうした要素から、いずれは迷うかもしれないと、どこかで覚悟はしていた。

 

 だが、ソルジャー世怪や、アース世怪のような存在は違う。彼らは、『無理やり怪物にされた人間』。

 

 その事実を突きつけられた瞬間、イリヤの思考は、真っ白になった。

 

 目の前で繰り広げられる過激な攻撃。暴走する力。それらを何度も見せつけられて、とても平常心ではいられなかった。

 

 自分が想定していなかった敵。凶暴な操り人形にされた被害者。それを前にして、何も出来なかった。

 

 そして、みんなに心配をかけてしまった。その事実だけは、はっきりと覚えている。

 

「……私は……」

 

 呟きは、そこで止まる。恐怖はまだ消えていない。むしろ、胸の奥に重く残り続けている。

 

 気持ち悪さも、完全には消えていない。その結果、イリヤの心は大きく沈み込んでいた。

 

 だからこそ、自分に戦う資格があるのかどうか、迷いはじめている。

 

 何かの為に戦う守護者たち。特に、どんな状況でもアース世怪を止めようとした美遊。

 

 それに比べて、自分は、あの時戦うことすら出来なかった。判断が出来ず、尾張長人を助けられる確信が持てなかった。

 

 そのせいで躊躇い、結果はこの通りだった。

 

 それを含めた数々のの事実が、イリヤの中に、強い恐怖を刻み込んでいた。

 

 そして同時に……胸の奥に残る不快感を、さらに増幅させていた。

 

 

***

 

 

 その頃。

 

 √BACK-DOORS。鈴夜に呼び出され、奏海と美遊、そして彼らの関係者が数名、この場に集められていた。

 

 その中でも美遊だけは、明らかに沈んだ、深刻な表情をしている。

 

「……遠坂凛たちは呼ばないのか?」

 

 空間内を見回した奏海が、凛、ルヴィア、桜の姿がないことに気づき、そう問いかける。

 

「……そんな気になれない」

 

 間を置かず、被せるように返された言葉。

 

「……そうか。」

 

 短く、それだけを奏海は返す。

 

 その空気の重さに、わずかな沈黙が落ちる。

 

「鈴夜さん……?」

 

「……鈴にぃ。早いところ説明を始めるのです」

 

 首を傾げるツクモの隣で、センリツが淡々と促した。

 

「……そうだね。今回も、どさくさに紛れて情報収集させてもらったんだけど……」

 

 鈴夜はそう言いながら、パソコンを操作する。

 

 画面には、あの戦闘の最中、センリツが回収していたデータをもとにまとめられた資料が表示されていた。

 

「前に出てきたソルジャー世怪、そして昼間に現れた長人さん……アース世怪。そして、イリヤに植え付けられた何か。それらのエネルギー反応が、完全に一致した」

 

「マスターの野郎……」

 

 その説明を聞いたモードレッドが、低く唸るように呟く。

 

 悔しさと怒りを抑えきれていない様子だった。

 

「クレイジークロックの別動隊……『パトレボルシオン』だとかが言ってたよね。人の性格を無理やり反転させるって。どうやらその通りみたいだ。善人の心を、強引に邪悪へと捻じ曲げる……そうやって、無理やり侵蝕世怪人を作り出している」

 

 画面を切り替えながら続ける、鈴夜の淡々とした口調はどこか重い。

 

「このやり方だと……変貌した本人に、相当な負荷がかかる。だから暴走する……そして、このまま放置すれば、最悪中の人間が耐えきれずに命を落とす。その上で、侵蝕世怪人の肉体だけが残り、さらに大規模な暴走に移行する……そんなところかな」

 

 静かに、しかしはっきりとした分析だった。

 

「……やっぱそんな感じか……となりゃ、さっさと倒さないとならない所だが……」

 

 考え込むように視線を落とした奏海は低く呟き、顔を上げる。

 

「鍵になるのは、イリヤだって言いたいんだろ?……ガッチャードの件で出てきた侵蝕世怪人……なんとなくだが、そいつを倒したのはイリヤなんだろうな。戻った時にぐったり倒れてたし。」

 

「……そうだね」

 

 記憶を探るように言う彼の言葉に、鈴夜も頷く。

 

「見たことのないノベルを手にしたイリヤちゃんが、その力で……侵蝕世怪人にされていた人を元に戻した。だとすれば、そこに何か手掛かりが――」

 

「そんな必要は無い。」

 

 と、言葉を遮ったのは、美遊だった。

 

 それまで沈黙を貫いていた彼女が、ゆっくりと立ち上がる。

 

「……苦戦しておいて、また一人でやる気か?」

 

 奏海の問い。

 

「……何かあるなら、流石に貴方達に伝える。だけど……これ以上、イリヤを巻き込む必要なんてない。」

 

 はっきりと言い切ると、美遊はそのまま背を向ける。

 

 引き止める間もなく、彼女は√BACK-DOORSを出ていった。

 

「今は何言っても響かねぇか……だが、このままだと、イリヤ以外に尾張長人を助け出せるやつがいないって事になるんだろ?」

 

 小さくため息をつく奏海の一言に、場の空気が揺れる。

 

 何人かが、はっきりと動揺を見せた。

 

「んだと……?おい、さっきからどう言う事だ……!」

 

 モードレッドも、思わず声を荒げる。

 

「……流石、奏海さん。いっつも察しが早い。これも最近、ようやく分かったことなんだけど」

 

 鈴夜は苦笑するでもなく、ただ静かに資料を操作する。その画面には、新たなデータが表示される。

 

「侵蝕世怪人は、ある一定条件から発生するエネルギーを燃料にして動いている」

 

 説明を続けながら、鈴夜は指で数値を示す。

 

「それを撃破すると、そのエネルギーは一気に消失する……簡単に言えば、元となっていた悪意が大きく薄れるってことかな。だけど……パトレボルシオンが植え付けた、人格反転の宝石。あれは、無理やり悪意を生み出している『外付けの装置』。」

 

 一度言葉を区切り、

 

「だから……侵蝕世怪人を倒しただけだと、本人は元に戻らない。つまり……普通に倒しても、多分また……」

 

 言葉は、そこで途切れた。

 

 

*****

 

 

「……。」

 

 数分後。美遊は、ルヴィアの屋敷を後にしていた。

 

 目の前に見えるのは、アインツベルン邸。だがそこへ向かう足は、動かない。

 

 彼女ははその場に立ち尽くし、黙り込んでいた。拳をぎゅっと握り締め、どこか思い詰めた表情を浮かべている。

 

「心配か?」

 

 その時。背後から、不意に声がかかった。聞き覚えのある声。

 

 振り向くと、そこに立っていたのはコロモだった。

 

「心配だろうな、私もだ。」

 

 彼女は手にしたタイムブラスターの銃口を静かに地面へ向けると、そのまま引き金を引く。

 

「っ……!!?」

 

 足元から光が弾ける。視界が白く塗り潰され、美遊は思わず目を覆う。

 

 

―――――

 

 

「ここは……!?」

 

 光が収まった後、周囲を見回すと、そこは裏山の開けた場所だった。

 

 どうやら、強制的に転送されたらしい。

 

「……また会ったな。」

 

 正面には、コロモが立っている。

 

「……どの口で出てきたの……イリヤをあんな目に遭わせておいて……!!」

 

 美遊は怒りを押し殺しきれず、言葉をぶつける。

 

「……これでも私も兄者も、申し訳ないと思っている。最近発足した別動隊が、余計なマネをしているとは思っていた。まあ、実際に目にすると、かなり不愉快だな」

 

 コロモは淡々と答えている。

 

 だが、その内容にはわずかに本音が滲んでいた。

 

「そう言う問題じゃない……!!」

 

「……落ち着いたらどうだ。」

 

「……さっきから、どの立場で言っているの……?そもそも、貴方達の目的は何なの……!?クロスタルリングを奪って怪人を作ったり、人を無理やり暴走させたり……」

 

 怒りを抑えきれず、美遊は問い詰める。

 

 だが、コロモは動じない。

 

「……後者に関しては、別動隊の連中が、個人的な目的でこちらの技術を使っている。要するに、我々からすれば余計なマネをしているに過ぎん」

 

「……言い訳のつもり?」

 

「敢えてそういう風に言った。」

 

 あくまで冷静に返す。

 

 その態度が、かえって美遊の神経を逆撫でする。

 

「言っておくが、クレイジークロックの内部事情は複雑でな。少なくとも、破壊活動そのものを目的にしているわけではない」

 

「……ウォークロックや侵蝕世怪人を暴れさせてたのは?」

 

 即座に返される問い。

 

「あんなものは序の口に過ぎない」

 

 あっさりとした答え。

 

「もう少しすれば、様々な思惑と思想が入り混じる……そんな面白くもあり、面倒でもある組織になるだろうな……」

 

 まるで他人事のように語るその様子に、美遊は言葉を失いかける。

 

「で。」

 

 コロモが話を切り替える。

 

「ここに転送させた私が言うのも何だが……問答をしている暇などあるのか?」

 

 一歩、距離を詰める。

 

「守護者プリズマ……イリヤとやらが、心配なのだろう?」

 

「だからどの立場で……!!」

 

「落ち着けと言っただろう。最初に言ったはずだ。これでも心配していると」

 

「だから……!!」

 

「敵が心配をして悪いか?そんな決まりなど無いというのに」

 

「心配をさせる状態にした貴方たちが……!!」

 

「それを私に言われてもな。」

 

 コロモはため息をつく。

 

 表情はほとんど変わらない。

 

「そもそも聞かせてもらうが……お前は何のために戦っているのだ?」

 

「それは……」

 

 その問いに、美遊は言葉を詰まらせる。

 

「なぜそこで黙る?指輪の戦士ならば、誰しも何かしらの理由があって戦っている。たとえそれが、くだらない願いであろうとも。私が倒してきたパラレルファイター共は、大体そうだった。守護者の者共も同じだろう……しかし、お前は何だ?」

 

 静かに、且つ鋭くコロモは言い放つ。

 

「こうして対面して分かったが……お前には、何か決定的なものが欠けているように見える」

 

「っ……!!」

 

 美遊の表情が揺れる。

 

「自分にだけ負担を押し付けようとしている、と言うべきか……自分の内側に芽生えた何かを――」

 

「いい加減にして……さっきから何なの……!?責任転嫁というか、論点をずらしてるというか……!!それに、私の何が分かるって――」

 

 堪えきれず、美遊が叫ぶ。

 

「分かるさ。」

 

 だが、コロモは即答した。

 

「そういう風に()()()()からな、私は。」

 

「……!?」

 

 一瞬、空気が凍る。

 

「……詭弁や御託を並べるのも、この辺にしておこう。」

 

 そう言うと、コロモは右手の人差し指にはめていた指輪を外す。

 

 そして、タイムブラスターを構えた。

 

変身(エンゲージ)。」

 

【HUNTER SYSTEM『EYES』】

 

 指輪を装着し、銃身を鳴らす。

 

 コロモの姿が、狩人アイズへと変わる。

 

「っ……!!」

 

【COMPASSION THE SILENCE:GUARDIAN『サファイア』!!!】

 

 美遊もまた、クロステライザーに指輪を装着。

 

 守護者サファイアへと変身。

 

 互いに一歩も引かないまま、戦闘が、始まった。

 

 

*****

 

 

「はぁ……」

 

 その頃、アインツベルン邸。

 

 イリヤは気分転換のつもりで風呂に入り、体を温めていた。

 

「夜、だなぁ……普通の夜……」

 

 湯船に浸かりながら、ぽつりと呟く。

 

 気分が晴れる様子はない。むしろ静かな夜だからこそ、考えが頭の中を巡り続けていた。

 

「……。」

 

 湯気の中で、イリヤはただ黙り込む。

 

 

***

 

 

「たっだいまー!」

 

 その時。

 

 玄関から、場違いなほど明るい声が響いた。

 

 入ってきたのは、長い銀髪をなびかせた、大人の女性。

 

「え、あ……」

 

 扉の音に気づき、セラがリビングから出てくる。だが、女性はそれに構わず、そのまま一直線に屋敷の奥へと進んでいった。

 

「お久しぶりです。」

 

 その後ろから、もう一人。どこか騎士……もしくは王のような雰囲気を持つ女性が、丁寧にセラへと挨拶する。

 

 

***

 

 

「(あれ……どこかで聞き覚えのある声が……)」

 

 風呂場の中で、イリヤがふと顔を上げる。さっき聞こえた声に、微かな違和感を覚えていた。

 

 その瞬間。

 

「やっほーイリヤちゃん!お・ひ・さー!」

 

 勢いよく扉が開く。そこに立っていたのは、先ほどの銀髪の女性。

 

「えっ……ママ!!!?」

 

 驚きの声が、思わず漏れる。

 

「……ただいま☆」

 

 にこりと笑うその人物。彼女こそ、イリヤの母親。『アイリスフィール・フォン・アインツベルン』だった。

 

 

 

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