Fate/Scramble U World ~秘封トラベラー・メモリアル~   作:おろさん

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カレイドスコープ・エール 02

 

 

 十数分後。アインツベルン邸・浴場。

 

 湯気の立ち込める中、イリヤはどこか落ち着かない様子で肩をすくめていた。

 

「……あのー、どうして一緒に……」

 

 視線だけで背後をうかがう。

 

 そのすぐ後ろには、ぴったりと密着するようにして湯船に浸かる女性……イリヤの母、アイリスフィールの姿があった。

 

 夫と共に海外を転々としていたはずの彼女が、予告もなくひょっこりと戻ってきたので、イリヤは少し困惑する。

 

「長旅で疲れちゃったもの。こうすればすぐにお風呂に入れるし……それに、可愛い愛娘とのスキンシップも出来て一石二鳥でしょ?」

 

 くすっと微笑みながら、イリヤの頬を指で軽くつつく、アイリののんびりとした口調。だがその距離感はやけに近い。

 

「そ、それにしてもママ、随分急な帰宅だね……」

 

 イリヤは苦笑しつつも、少しだけ体を離そうとする。だが逃がさないとばかりに、アイリはさらに寄ってくる。

 

「んん?私が急に帰ってきたら、何かマズい事でもあるのかしら?」

 

「そ、そういうわけじゃないけど……」

 

 思わず視線が泳ぐ。

 

 実際、この短い期間で起きた出来事は多すぎた。

 

 クロスタルリングのことを抜きにしても、突然現れた記憶喪失の二人組。さらに、サーヴァントやらアイドルやら……普通では考えられない非日常が一気に押し寄せている。

 

 どう説明すればいいのか、自分でも整理がついていない。

 

 そんなイリヤの様子を見ながら、アイリはふっと口を開いた。

 

「仕事が一段落したから、アルちゃんを連れて帰ってきたの。あ、切嗣はまだ海外にいるから、私はすぐ戻らなきゃいけないんだけどね」

 

「そ、そうなんだ……」

 

***

 

 一方、リビング。テーブルの上には、所狭しと積み上げられた土産品の山。しかもその内容はどこか独特で、用途の分からない物も多い。

 

「……えっと、これは……何だ……?」

 

 士郎は一つ手に取りながら、困惑した表情を隠せない。

 

「おかわりです!」

 

 その横で、そんな空気をまるで気にせず元気よく声を上げるのは、黒いスーツに身を包んだ、『アル』と呼ばれる金髪の少女。アイリと共に海外へ同行していた使用人だ。

 

 彼女は遠慮という言葉を知らないかのように、次々と料理を平らげている。

 

 その結果、テーブルには空になった皿が山のように積み上がっていた。

 

「(食費が……;;;)」

 

 それを見たセラは、静かに頭を抱えた。

 

***

 

 再び、浴場。

 

「だから今はこうして、娘の成長を確認……じゃなくて、スキンシップを~♪」

 

 わざとらしく言い直しながら、アイリはさらに体を寄せる。

 

 その密着具合に、イリヤは思わず身を固くした。

 

「ねぇ……私が留守の間、何か変わった事はある?」

 

 突然、問いかける。変わらない笑顔だが、その奥にほんのわずかな鋭さが混じる。

 

「え?べ、別に……」

 

「またまたー。あったでしょ?そもそも、不思議な記憶喪失の2人組がどうとかっていうのは聞いてるのよ?セラが緊急連絡で言ってきたでしょ?」

 

「あ、そっか……」

 

「……実際、あの2人はどんな感じ?」

 

「……うん、蓮子もメリーも、良い人だよ。皆ともけっこう親しくやってる。」

 

「そう。随分仲良くなったのね。」

 

 アイリは小さく頷き、安心したように微笑む。

 

 だが、そのまま言葉を続けた。

 

「だけど……まだ他にあるんでしょ?すっごーく、変わったことが……ね?」

 

「……!」

 

 イリヤは思わず振り返る。

 

 湯気の向こうで、アイリの瞳がじっとこちらを見ていた。

 

 そしてそのまま、彼女は何気ない口調で言った。

 

「ほら、ウチの目の前にある豪邸!ちょっと見ないうちに、あんなのが建っちゃうなんてねぇ。一瞬、帰り道を間違えたのかと思ったわ」

 

 ルヴィアが建てた、あの異様に目立つ屋敷に対し、アイリはくすくすと笑う。

 

 イリヤも小さく頷くしかない。

 

「……セラから聞いたんだけど、あそこにクラスメイトが住んでいるんですってね」

 

「……」

 

 その言葉に、イリヤは少しだけ視線を落とす。

 

「……なんていう子なの?」

 

 距離を詰め、アイリは優しく問いかける。

 

「……美遊。」

 

「美遊ちゃん、ね。転校生なんでしょ?友達になれた?」

 

「うん……」

 

 小さく頷く。

 

「ねぇイリヤ……その美遊ちゃんって、どんな子?」

 

「どんな子って……えっと……」

 

 一度、言葉を探すように口を閉じる。

 

 けれど。一瞬だけ考えて、ゆっくりと顔を上げた。

 

「美遊は――」

 

 

*****

 

 

「はぁっ……!!」

 

 その頃。鋭く息を吐きながら、サファイアに変身した美遊は地を蹴った。狩人アイズとの距離を一気に詰める。手にするのは槍型武器『サファイアドリルランサーU』。その切っ先が一直線にアイズを狙う。

 

「遅い」

 

 だが、アイズは一歩も動かない。ただ静かにタイムブラスターを構え、その銃身で槍撃を受け止めると、流れるような動作で薙ぎ払った。

 

「だったら……!!」

 

 サファイアはすぐさま距離を取り直し、掌に魔力を集中させる。次の瞬間、蝶の形をした魔法弾が複数生成され、アイズへと一斉に放たれた。

 

「遅いと言った。」

 

 乾いた銃声が連続する。放たれた弾丸は、蝶の魔法弾を正確に撃ち抜き、一つ残らず空中で消し飛ばした。

 

「っ……!!」

 

 歯を食いしばるサファイア。その表情には、明確な焦りが浮かんでいた。

 

「美遊ちゃん!!」

 

 その時、聞き覚えのある声が響く。振り向かずとも分かる。鈴夜の声だ。彼の後ろには、奏海とモードレッドもいる。

 

「……守護者が2人と、あのパラレルファイターのサーヴァントか。他はともかく、あの2人組と魔術師が見当たらないな。配置したウォークロックに足止めされてるか……」

 

 アイズは視線を外すことなく、淡々と呟く。まるで、戦況を盤面のように俯瞰しているかのようだ。

 

「昼間の時点で見覚えがあったが……アイツ、今まで素手でパラレルファイターを倒しまくってたやつか……!!」

 

「早い段階で駆けつけて正解だった……!ちゃちゃっと加勢に――」

 

 奏海と鈴夜は同時に構え、守護者へ変身しようとする。

 

「VAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

 だが、その瞬間。空気を裂くような咆哮と共に、上空から巨大な影……アース世怪が急降下してきた。

 

 それは二人のすぐ近くの地面へと叩きつけられ、轟音と共に爆発を巻き起こす。

 

「どわぉっ……!?」

 

「このタイミングでかよ……!!」

 

 吹き飛ばされかけながら、なんとか体勢を保つ二人。

 

 その爆炎の向こうに現れた姿を見て、モードレッドは言葉を失った。

 

「(マスター……!)」

 

 暴走させられた、自身のマスター。無理やり侵蝕世怪人へと変えられたというその姿に、怒りとも悲しみともつかない感情が胸を締め付ける。

 

「FEEEEEEEEEEFEFEEDEEFEFEFEFFEFEFE!!!」

 

 アース世怪は三人の姿を認識すると、間髪入れずに襲いかかった。

 

「変身させないつもりかよ……だが問題は無い……!!」

 

 奏海は叫び、黒い刃を構える。変身せずとも、その動きは鋭い。

 

 振るわれる攻撃を迎え撃ち、真正面から斬り、鈴夜もまた、紙一重で攻撃を回避し続けていた。

 

***

 

 サファイアはなおもアイズへと攻め込む。死角を突くように回り込み、ランサーを突き出した……が。

 

「……甘い」

 

 その一撃は、あっさりと止められた。アイズは片手で槍を掴み、そのままサファイアごと軽々と放り投げる。

 

「……はああああああっ!!!」

 

 空中で体勢を立て直し、受け身を取り、着地と同時にランサーへと魔力を集中させる。

 

 蝶の羽ばたきを思わせるエネルギーが、極細のレーザーとなって高速で放たれた。

 

「遅いと言った。」

 

 しかし、アイズは一発だけ発砲。タイムブラスターをまるで指揮棒のように振るうと、撃ち出されたレーザーが変形。

 

 空間を縦横無尽に走り、網のように展開。サファイアの放ったエネルギーはその網に触れた瞬間、全て焼き尽くされた。

 

「なっ……!!?」

 

 驚愕に目を見開くサファイア。その視線の先で、アイズはゆっくりと三つのクロスタルリングを取り出した。

 

『踊るバトルジャパンのシルエットとバトルフィーバーロボ』→『バトルジャパン』

『BF隊のイニシャルのアクセサリー』

 

『神ノ木高校チアリーディング部』→『鳩谷こはね』

『チアのポンポン』

 

『ピックルン』→『キュアピーチ』

『リンクルン』

 

「……そろそろ、身の程を知ろうか」

 

 静かな声で告げると、アイズはそれぞれの指輪をタイムブラスターにはめ込む。

 

【『Battle Fever(バトルフィーバー)』】

 

【『Anima Yell(アニマエール)』】

 

【『Fresh Pretty Cure(フレッシュプリキュア)』】

 

 引き金が引かれ、光が弾ける。その中から現れたのは『バトルジャパン』『鳩谷こはね』『キュアピーチ』。

 

 もちろん本物ではない。力だけを再現したレプリカだ。

 

 次の瞬間、三体は一斉に地を蹴り、サファイアへと襲いかかった。

 

 

*****

 

 

「美遊はね、何ていうか……静かな子。」

 

 一方、アインツベルン邸。

 

 イリヤは湯船に浸かりながら、アイリに美遊のことをぽつりぽつりと語っていた。

 

「基本的に、必要な事しか喋らないし……喋るの、あんまり得意じゃないのかも……。あ、でもね、勉強も運動もすごいんだよ。一気にクラスで一番になっちゃったし」

 

「……何でもできる子なのね。」

 

「何でも、か……」

 

 その言葉に、イリヤは少しだけ視線を落とす。

 

 何でもできる。確かにそう見える。実際、ほとんどのことはそつなくこなしてしまう。

 

 けれど出会って間もない頃、美遊が言った言葉が、ふと頭をよぎる。

 

『無理はしないで』

 

 あの時の、少しだけ強い口調と、どこか気遣うような視線。それを思い出しながら、イリヤはゆっくりと言葉を続けた。

 

「何でもやろうとしちゃう……って感じでもあるのかな……?」

 

「……どういう事?」

 

「……その、蓮子とメリーと出会ってから、ちょっと不思議な事が何回かあってさ。色んな人達と出会って、ちょっとだけでも仲良くなったりして……それで今日、ちょっと大事な事があったんだけど……私、何も出来なくて。それで結局、美遊が一人でやろうとして……」

 

 自分の手元と足元を見る。

 

 暴走した尾張長人を見て、足がすくんでしまった。何も出来なかった。その感覚を思い出すように。

 

「最初から……そうだったのかな。今考えてみると、私の事、アテにしてるのか……よく分からなくて……なんていうか……1人でいるのが当たり前、みたいな顔してて……」

 

「……」

 

 アイリは何も言わず、ただ静かに聞いている。

 

「美遊は、凄いよ。美遊はきっと……一人だとしても、大丈夫で……」

 

「本当にそう思う?」

 

 その言葉を遮るように、アイリが静かに問いかけた。

 

「えっ……?」

 

 思わず顔を上げるイリヤ。

 

 けれどアイリは、それ以上は何も言わず、

 

「……続きは、上がってからにしましょうか。このままだとのぼせちゃうわよ。」

 

 そう返して、先に湯船から立ち上がる。

 

「(本当に……そうなのかな)」

 

 イリヤは小さく息をつきながら、はもう一度だけ考え込んだ。

 

 

*****

 

 

「っ……はぁっ……!!!」

 

 荒く息を吐きながら、サファイアは踏みとどまる。

 

 相手はアイズに加え、召喚されたパラレルファイターのレプリカ三体。

 

 合計四人を、たった一人で相手にしていた。

 

 鈴夜たちはというと、暴走を続けるアース世怪に足止めされている。あの様子では、すぐにこちらへ加勢できる状況ではない。

 

 ルヴィアたちの姿も見えない。別の場所で同じように足止めされている可能性が高い。

 

「(……なら、やるしかない)」

 

 サファイアは歯を食いしばり、ランサーを構え直す。

 

 だが踏み込んだ瞬間、その一撃はあっさりといなされた。

 

 バトルジャパン(レプリカ)の鋭い空手の受け。

 

 キュアピーチ(レプリカ)の華麗なステップによる回避。

 

 さらに、鳩谷こはね(レプリカ)が軽やかに動き、チアリーディングのような動作を見せる。それに呼応するように、他のレプリカたちの動きが一段と鋭くなる。

 

 応援による能力上昇。そう理解した瞬間には、もう次の攻撃が迫っていた。

 

「……敵が複数で一人を攻める……というのは、定番の展開だったりするのだろうな。しかしまあ、妙な状況だな。一応、お前にも味方はいるというのに」

 

 アイズは銃撃を放ちながら、淡々と呟き、サファイアへと視線を向けたまま続ける。

 

「足止めを喰らっている連中は……まあ、目前の相手が悪すぎる故、仕方ないが……それでもどうしてここまで孤立している?」

 

 首を傾げる彼女の声音は、本当に不思議がっているようだった。

 

「また好き勝手……!!!」

 

 サファイアは叫ぶと、即座にクロスタルリングを取り出す。

 

『富士山とアカニンジャー』→『アカニンジャー』

『シノビマル』

 

再変身(エンゲージ)!!」

 

【『ニンニンジャー』!!!】

 

 サファイアはアカニンジャーへと再変身。

 

「手裏剣忍法『水の術』!!」

 

【じゃぶじゃぶじゃー!】

 

 忍者一番刀と五トン忍シュリケンを構え、水を噴射。

 

 勢いよく噴き出した水流に乗り、サーフボードのように滑走しながら一気に上空へと駆け上がる。

 

「……はっ!!!」

 

 上空から、大量の水流を叩きつけるように放った。

 

「……だろうな」

 

 だがアイズは、まるで予想していたかのように動じない。

 

 キュアピーチ(レプリカ)へとレーザーを放つと、それがピーチロッドへと変化。

 

 すぐさま手に持ち、『プリキュア・ラブサンシャイン・フレッシュ』。

 

 巨大なハート型エネルギー弾が放たれ、水流を正面から押し返した。

 

「……ふっ!!」

 

 その直後、アイズの姿が消える。

 

 アカニンジャー(サファイア)振り向くと、目の前にいる。タイムブラスターの銃身が、斬撃として振るわれた。

 

「っ……!!!」

 

 だが、それは空を切った。

 

 斬られたのは分身『変わり身の術』。

 

 本体はすでにレプリカたちの背後へ回り込んでいる。

 

「これで――」

 

「知ってた」

 

 必殺技を放とうとしたのに対し、アイズはバトルジャパン(レプリカ)へ向けてレーザーを放つ。

 

 それは五つの『コマンドバット』へと変化し、アカニンジャー(サファイア)の周囲を高速で飛び回る。

 

 更に槍へと変形。四方から一斉に突き刺さり、完全に包囲する。

 

「……ふっ!!!」

 

 アイズはタイムスナイパーを指揮棒のように振るうとコマンドバットが合体し、ブーメラン型の『ペンタフォース』へと変形。

 

 それを手にした鳩谷こはね(レプリカ)が、軽やかに宙へ投げる。

 

 さらにアイズのレーザーにより、ペンタフォースは一つから十へと倍増。それらが次々とアカニンジャー(サファイア)へと直撃した。

 

「ああっ……!!!!」

 

 連続する強烈な衝撃。耐えきれず、サファイアは大きく吹き飛ばされる。

 

 地面に叩きつけられ、再変身が解けた。

 

「……ニンニンジャー指輪……再度回収」

 

 転がったクロスタルリングを、アイズは何の躊躇もなく拾い上げる。

 

「っ……っ……!!!」

 

 サファイアは、震える足で立ち上がる。全身に走るダメージを押し殺しながら、それでも前を向く。

 

「……諦めないのは悪い事では無いが……そうやって無理をしているのは、見ていてモヤモヤする」

 

 感情の薄いはずのアイズの声に、はっきりとした苛立ちが滲んでいた。

 

 

 

 






=クロスタルリングカセット=
『バトルフィーバーJ』
イラスト:踊るバトルジャパンのシルエットとバトルフィーバーロボ→バトルジャパン
固定絵:BF隊のイニシャルのアクセサリー
所有者:コロモ

『アニマエール!』
イラスト:神ノ木高校チアリーディング部→鳩谷こはね
固定絵:チアのポンポン
指輪能力:チアリーディングによる強化
所有者:コロモ

『フレッシュプリキュア!』
イラスト:ピックルン→キュアピーチ
固定絵:リンクルン
所有者:コロモ


・指輪所有者状況
『手裏剣戦隊ニンニンジャー』
所有者:美遊→コロモ

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